冥途の旅の一里塚

引退老人がトボトボと散歩したり旅します.

2016年12月14日 (水)

鎌倉のパエリア (十三)

 料理店の商品は料理である.従って料理店は,店に来て食事をする客に料理の品質を保証しなければいけない.
 料理店が行なわねばならない最低限度の品質保証とは,食品衛生だ.いくら美味でも食中毒のおそれがあっては端から論外なのだ.食べて安全安心な食事であってこその,うまいまずいに違いない.
 Brasserie 雪乃下のなんちゃってバーニャカウダのことだが,何が目的で「食べられない煎り大豆」に生野菜のスティックを挿して鉢植えの花に見立てるという盛り付けをしたのか,その必然性が不明だ.厨房の人間の基本姿勢に問題がある.
 また同レストランの雪乃下パエリアは,レシピを作った本人が試食していないのではなかろうか.
 税込み千八百五十円なら,もっとずっとまともな料理が作れるはずだ.例えば大手のファミレスが「スペイン料理フェア」を企画したら,もっとコスパの良い料理を提供できると思う.
 小町通りや若宮大路の飲食店にはこんな店が多いのだが,なぜこんな店がはびこるか.
 つまるところ鎌倉の繁華街は観光地であって,顧客満足度が低くても,一見客だけでやっていけるからだろう.

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〈レストランへの階段〉

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〈バーニャソースをテイクアウトしたのは,容器に表示が適切に書かれているかどうかを確認するためである.結果は全然ダメだった (笑)〉

 ちなみにフランス料理店を名乗りながら釜揚げシラス丼だのハヤシライスだのをメニューに載せている料理人がどんな人物かと興味が湧いたので,同店公式サイトの料理人紹介を見てみたら次のように書かれていた.

料理専門学校卒業後、単身スイスへ渡り5年間の修業を経て帰国。その後、神奈川・東京を中心に11年間料理人を務めた後、現在の【Brasserie雪乃下】に料理長として就任。

 フランス料理を勉強するならフランスに行くだろうから,スイスで修業したことがフランス料理店 Brasserie 雪乃下の無国籍化に大いに寄与したのであろう.なるほど.
 余談だが,藤沢駅の近くに「イタリアン居酒屋」と称する居酒屋「トラットリア ピラータ~TRATTORIA PIRATA~」がある.
 いかにもわざとらしくイタリアっぽい名の店のシェフの経歴は,同店のサイトにこう書かれている.

高校卒業後、飲食店でバイトを始め、その後磯料理屋にて修行!

 磯料理屋でイタリア料理を覚えたという非常に興味深い経歴である.おもしろそうなので出かけてみようかと思ったが,公式サイトは「女子会向き」の店だとアピールしていて,爺さんには敷居が高そうなので諦めた.(笑)

 ま,そんなこんなでこの日の昼飯は大変に不満足なものであったと長々と書いてみたが,この日鎌倉に出かけたそもそもの目的は「松本竣介 創造の原点」展だったのだ.書いているうちに忘れそうになった (笑) が,こちらはとても良い絵画展であった.会期残すところ十日.まだのかたは是非.

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2016年12月11日 (日)

鎌倉のパエリア (十二)

 私のテーブルに置かれた Brasserie 雪乃下の雪乃下パエリアを見て驚いたことは,二点ある.
 一つは同レストラン公式サイトに掲載されている料理画像とかけ離れた外観であったこと,もう一つは既に述べたように,これが注文後たった十五分で運ばれてきたことである.

 前稿に載せた画像を再掲載し,この画像と実際の料理実物との比較を以下に記す.

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 上の料理の画像を見ると,パエリア鍋の左奥にムール貝がある.その手前に殻付きアサリがあり,またムール貝の右側に有頭エビの頭と思われるものがある.

 料理画像はそのようになっているが,私の目の前の雪乃下パエリアには殻付きアサリではなく,剥き身のアサリが使われていた.指の爪ほどの大きさのかなり小粒の,おそらく業務用の水煮であろう.
 パエリアという料理はスペインの伝統食で,本来の作り方はほぼ決まっている.すなわち種々の具材からでる出汁で米を炊くのである.私たちが国内のスペイン料理店 (地中海料理店などのジャンルも含め) で魚介のパエリアを食べるとき,ほとんどの場合は有頭エビが用いられている.この有頭エビの頭胸部の旨味が大変においしいからである.
 家庭で魚介のパエリアを作る場合の材料は,何でもいいようなものであるが,有頭エビや殻付きアサリ,特に有頭エビを使わず,冷凍食品のシーフードミックスなんぞを使おうもんなら一気にパエリアらしさはなくなり,それは単なる洋風炊き込み御飯とでもいうべきものとなる.剥き身の冷凍エビや水煮アサリからはほとんど旨味がでないからである.パエリア的雰囲気を醸そうとして,大いに奮発してサフランを使ったとしても何の意味もなくなってしまうのである.

Valencianpaella

サフランはスペインのバレンシア風パエリアを構成する3つの主材料1つであり、その鮮やかな黄色の元でもある。
(画像とキャプションは Wikipedia【サフランの取引と利用】から引用.
画像<File:ValencianPaella.jpg> はパブリック・ドメイン [出典:ウィキメディア・コモンズ <Wikimedia Commons> ])

 もしもある日,貴兄のご家族が「今日の夕ご飯はパエリアですよ」と言ったとしよう.そして出てきたものをみたら具材がシーフードミックスだったとする.そうしたら「この炊き込み御飯はおいしいね」と言ってほめてあげよう.それを決してパエリアと呼んではならぬ.
 では,Brasserie 雪乃下の雪乃下パエリアに使用されていたエビは何だったか.
 驚くべきことに,冷凍のシュリンプだったのである.冷凍食品の安価なシーフードミックスに入っているアレだ.大きさは米菓の柿の種ほど.
 ムール貝については,生の冷凍品だったか水煮の業務用食材だったか,流通しているムール貝に関する知識が私にはないので,よくわからなかったので言及しない.
 しかし,このムール貝の身が,干からびて固くなっていたことは指摘せねばならぬ.
 また剥き身アサリも縮んでゴムのような食感になっていた.
 炊かれた米の上には,切手二枚ほどの大きさにスライスした根菜 (たぶん鎌倉野菜なのであろう) が少し載せてあり,この野菜もあわれにしなびていた.
 この状態を見るに,パエリア鍋ごとオーブンで焼いたのではなかろうかと思われた.
 さらに,パエリアを炊くと普通はオコゲができるのであるが,雪乃下パエリアにはオコゲがなかった.
 Brasserie 雪乃下の厨房を実見したわけではないから何とも言えないが,料理に要した時間が十五分程度だったこととあわせて考察し,後日に再現を試みた.
 まず,具なしのサフランライスをフライパンで炊く.この時に水はコンソメスープの素を用いた.
 これが冷めてから小さな耐熱鍋に移し,上に大根の薄切りを載せ,その上に amazon で購入した冷凍ムール貝を解凍したものとアサリ水煮缶詰を載せてオーブンで焼いた.冷凍シュリンプは少量包装が入手できなかったので省略した.
 首尾はどうであったか.要するに作り置きを再加熱するわけであるから短時間でできること,炊かれた米と耐熱鍋とのあいだにオコゲがなかったこと,ムール貝とアサリが乾燥してしまったことなど,似たようなものが再現できたと満足いく結果であった.よかったよかった.ヾ(- -);
 もう一度言うが私は Brasserie 雪乃下の厨房を実見したわけではないから何とも言えないが,作り置きを再加熱するやり方で雪乃下パエリアと似たようなものを作ることが可能である.
 私が食べた雪乃下パエリアの料理としての出来栄えは,これはもうパエリアとは言いにくいものであった.藤沢の人気スペイン料理店のパエリアよりも高い値段で,しかもファミレス以下の味だと私は思った.
 こんなものがパエリアか? 食べながら私はそう呆れた.しかしよく考えるとこれはパエリアではなく雪乃下パエリアという創作料理だと考えられ,だとすると優良誤認のおそれはあるものの,“同レストランのメニューにバーニャカウダと書いてある料理が実はバーニャフレッダである”という明らかな詐称と比較すれば,まだましなレベルのダメさかげんであると思われる.よかったよかった.あーよくない.
(話は余談だが,出てきた料理を見て「公式サイトの料理画像と実物が違うじゃん」なんてことが,すぐその場で確認できるとは,ほんとによい時代になったものだ)
(続く)

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2016年12月 8日 (木)

鎌倉のパエリア (十一)

「食べられない煎り大豆」の入った器に野菜を盛り付けた自称バーニャカウダ (実はバーニャフレッダ) を見て私は困惑した.
 血の気の多い人間なら「食えないものと野菜を一緒に盛り付けてるけど,これって衛生的にどうなの?」とクレームを付けるところだが,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんに凄んでみせるのは気が進まなかった.
 そこで一応,目視で煎り大豆に異物が混入していないか観察して,明らかな異常はないようなので,千円以上する料理なんだから我慢して食べることにした.
 料理としては大いに問題があるものの,食べてみたら食材の鎌倉野菜はなかなかうまかった.この辺りの野菜生産者はいい仕事をしているのだろう.

 さて,以上が本稿「鎌倉のパエリア」の長い前置きだ.ここから本文に入る.
 Brasserie 雪乃下の自称バーニャカウダ (しつこいが,これは詐称であり,実はバーニャカウダではなくバーニャフレッダである) を半分食べたところで,メインの雪乃下パエリアが私のテーブルに届けられた.
 注文してからおよそ十五分であった.
 これはどうしたことだ.私は心の底から驚いた.
 これでは,パエリアができ上るまでバーニャカウダ (ほんとにしつこいが,バーニャカウダを注文したのに,出てきたのはバーニャフレッダだった) をゆっくりと食べながら昼飯を楽しもうとした私の深謀遠慮が台無しではないか.
 鎌倉野菜をゆっくり楽しんでいたら,パエリアが冷めてしまう.どうしてくれるんだ.責任者は出てきなさい.

 さてネット上でパエリアのレシピをいくら検索参照しても,十五分ででき上るパエリアはみつからない.
 例えば標準的なパエリア調理例として《スペイン人に教えてもらった究極の「シーフードパエリア」が激ウマ 》では,四十分ほどかかる.
 また「時短」を謳っている《ホットプレートで冷凍食品を使った時短パエリア 》を読むと,冷凍食品を使っているのでお手軽ではあるが,時間的には劇的に時間短縮というわけではなく,やはり作るのに三十分以上はかかる.
 しかるに Brasserie 雪乃下のパエリアは注文後十五分でテーブルにやったきたのである.これが驚かずにいられようか.

 もう一つ驚いたことがあった.
 次に示す画像は,Brasserie 雪乃下の公式サイトをブラウザで表示し,そのスクリーンショットをトリミングしたもので,同レストラン謹製雪乃下パエリアの画像である.

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 これが,(異常にしつこいがこれは詐称で〈以下省略〉) 私に届けられた料理と全く見た目が違っていたのである.
(続く)

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2016年12月 6日 (火)

鎌倉のパエリア (十)

 目の前の料理を見て「あのー,これって…,」と言いかけた私に,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんはこう言った.
「あ,バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません.それからソースはお代わり自由ですので遠慮なく仰ってくださいね

 Brasserie 雪乃下の公式サイトから,同レストラン謹製バーニャカウダの画像を再掲する.

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 上の画像で野菜が入っている器は白い磁器と思われるが,私のテーブルに供されたそれは黒っぽい陶器の鉢であった.この料理にはこれ,というやり方ではなく色々な器を使用しているのだろう.
 それはそれとして,このバーニャカウダで野菜スティックを器にどのように盛り付けているのかというと,中に煎り大豆が入っているのである.この煎り大豆に野菜スティックを挿してあるのだ.
 そしてこの画像を見ると,バーニャカウダを鉢植えの花に見立てて盛り付けられていることがよくわかる.
 まあ実際に私のテーブルに運ばれてきた鉢には,画像よりも色の白っぽい冴えない根菜が挿してあり,蕪のような形の根菜のスライスと葉物が二種類煎り大豆の上に載っていて,公式サイトの見本画像に比較するとかなり貧弱な見栄えであったが,それはその日の仕入れの具合によるのだから文句はいわない.
 問題は料理の実物が見本より劣るなどということではなく,「バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません」ということなのだ.

 私たちの日常の食生活の中で,きれいに飾り付けした料理を目にすることは多い.
 例えばそこら辺の普通の料理屋さんでも,刺身の皿は,大根やニンジンあるいは胡瓜などで拵えた各種の「けん」や,あるいは大葉,花穂,茗荷,小菊などをあしらって盛り付ける.
 これらの例は,見た目も美しく食欲を起こさせる「飾り」ではあるが,ちゃんとした食材でもあって実際に食べられる.食べ終わったときの皿の様子が見苦しくならぬよう少しだけ食べて残すのが普通だが,いっそ豪快に全部食べてしまっても差し支えない.
 ところが Brasserie 雪乃下のバーニャカウダで野菜スティックが挿されている煎り大豆は,歴とした食品であるのに,食べられないのだという.
 なぜだ.
 考えられる理由はただ一つ.その煎り大豆は食べ物ではなく「使い回しする飾り」だということである.

 基本的に料理の一皿には非可食物を載せないのが食品衛生の基礎である.
 しかるにこの店では本末を転倒し,自称バーニャカウダ (実はバーニャフレッダ) を鉢植えの花に見立てて飾りたいがためにこれが料理であることを忘れ,「非衛生的な食べられない煎り大豆」に野菜スティックを挿して客に提供している.
 なにか根本的なところでこの店の料理人は心得違いをしていると思われた.
(続く)

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2016年12月 3日 (土)

鎌倉のパエリア (九)

 前稿の終わりに私は《ドドーンとバーニャカウダが登場した》と書いた.

 余談だが,このブログでは資料から引用をする際に,当該引用箇所を《斜体フォント》で示すと共に,ネット上の資料である場合はその資料への参照をリンクで示すことにしている.
 しかし元の資料が引用後に編集されたためにリンク切れが生じることも間々ある.
 そこで,やむを得ない場合には引用方法としてリンクではなく,当該サイトをブラウザで表示してそのスクリーンショットを使用することもある.
 この記事で,Brasserie 雪乃下のバーニャカウダについて書くにあたっては,言葉で書き表すのでは不十分であると考え,上述の二番目の引用方法を用いることにした.
 すなわち,公式サイトに掲載されている Brasserie 雪乃下のバーニャカウダは,次に示す画像のごときものである (2016年12月3日現在) が,私の席に運ばれてきたバーニャカウダは,その画像と少し異なるものであった.それについて以下書く.

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 まず料理の外観について.
 Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダの本体というか野菜は,画像ではボウルに大変彩り豊かに野菜スティックが盛り付けられているが,私のバーニャカウダは彩り少なく地味なものであった.画像の料理を春のお花畑に譬えるとすれば,私のバーニャカウダは,そろそろ収穫期も過ぎようかという季節の大根畑の,夕暮れのしみじみとした風情なのであった.
 しかしこれについては,野菜には端境期というものがある上に,さらに当日に限って仕入れであまり彩りよいものが多種類手に入らなかったかも知れないので,それは酌量すべきであろう.そんな日に昼飯を食いに来た私が不運だったと諦めれば済む話だ.
 次に画像では,キャセロール用の鍋を模した小さな蓋付の容器にソースが入っているが,私のテーブルに置かれたのは,ごく普通のふた無しの白いココット皿に入っていた.
 しかしながら食器でソースの味が決まるわけではない.私はそんなことに文句をつけるような尻の穴の小さい男ではないのだ.(尻の穴が大きいと大人物であるということになっているが,それはなぜなのか.大問題ではあるが,いずれ稿を改めて触れることにして先を急ぐ)
 Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダについて指摘すべき重大な問題は外観ではない.
 イタリア料理の初歩知識があれば誰でもすぐ気が付くことであるが,これはバーニャカウダではないのだ.
 Wikipedia【バーニャ・カウダ】には次のようにある.

バーニャ・カウダ(ピエモンテ語:Bagna càuda)はイタリア・ピエモンテ州を代表する冬の鍋料理である。ピエモンテ語で「バーニャ」は「ソース」、「カウダ」は「熱い」を意味する。
冷たいソースを使う場合はバーニャ・フレッダ、もしくはバーニャ・フレイダ(Bagna Freida.Freidaはピエモンテ語で「冷たい」を意味する)と呼ばれる。

 しかしわざわざWikipedia【バーニャ・カウダ】を調べるほどのことはない.どこのイタリア料理店でも,バーニャカウダはソースを温める専用鍋と共に供されるものだと私たちは知っている.
 つまり,Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダは,実はバーニャカウダではなく,冷たいディップソースで食べるバーニャフレッダだったのである.
 これは何かの間違いに違いない.私はそう思った.
 ところが,目の前の料理を見て「あのー,これって…,」と言いかけた私に,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんが言った一言は,どんなに尻の穴が大きくてまるでビール瓶のような大便を放出する大人物でも腰を抜かすほどのものであった.
(続く)

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2016年12月 1日 (木)

鎌倉のパエリア (八)

 私が接客係の娘さんに雪乃下パエリアとバーニャカウダを注文し,さてとばかりに周りのテーブルに目をやると,既にあらかたの席はうまっており,そして私の席から見える限りそのすべての席に老若の女性客が着いていた.つまり爺さんの私が本日たった一人の男性客のようだった.
 まあ平日の小町通りのレストランは婦人客で満員になるものなんだろうなあ.そのあいだ男たちは外回りの営業に出たり,工場で機械の整備なんぞを忙しく立ち働いているわけだが.
 てな感慨にひたる間もなく,雪乃下パエリアの前菜が運ばれてきた.ランチの献立はすべて前菜とセットになっているとメニューに書かれているのだ.
 その前菜は,木製のトレイに小鉢が二つと,コーヒーカップよりもかなり小さなカップが載せられていた.
 そして笑顔が素敵な接客係のお嬢さんは「前菜のサラダとピクルスとスープになります」と言った.
 「スープ」はポタージュで,量は五十ミリリットルほどであった.まるでおままごとのようで,幼少時に隣家のさっちゃんとおままごとをして遊んだ記憶が脳裏に浮かんで懐かしい思いがした.
 小鉢の「ピクルス」はサイコロくらいの大きさにカットした大根が三つで,食べてみると,私には大根を調味液に漬けた浅漬けとしか思えなかった.
 ピクルスというのは,根菜などを乳酸発酵させたもので,風味はこの前菜の「ピクルス」とは全く異なるものだ.何かの間違いで,賄い用の大根の浅漬けとピクルスとを間違って出してしまったのだろう.きっとそうに違いない.
「サラダ」の小鉢には,ニンジンの「敷きづま」が一つまみ入っていたが,それだけで他に何も見当たらない.これはいったいなんだ.
 ちなみに「敷きづま」とは,大根またはニンジンを極細に切ったもので,刺身の下に置くものをいう.スーパーで売っている刺身のパックは,発泡スチロールトレイに大根やニンジンの「敷きづま」を並べ,その上に大葉を載せ,刺身を大葉の上に置いたら,菊の花や海藻をあしらって包装してあるのが普通だが,アレが敷きづまである.
 詳しくはこのサイトを参照頂きたい.
 
 そのニンジンの敷きづまが私の前の小鉢にあるのだが,よく見るとドレッシングがかかっている.ということは,これがこの店では前菜の「サラダ」なのかも知れない.
 余談だが,大根やニンジンの敷きづまは,安価な専用の道具が販売されているので簡単に作れる.一例として千葉工業所製の「回転つまきり君」を紹介する.これは実に見事に刺身のつまが作れる道具だが,しかし刺身のつましか作れないという大きな問題があるので,家庭で購入するのは控えたほうがいいだろう.

 で,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんは「前菜のサラダとピクルスとスープになります」と言ったが,いつまで待ってもこの「サラダ」はサラダになりそうもなかったので,仕方なく,刺身を食べ終わったあとの皿に残った敷きづまを名残惜しくつまんでいるような寂寥感漂う「サラダ」を食べた.名古屋の「モーニング」のサラダみたいなものを出せとは言わぬが,しかしもう少しなんとかならなかったものか.
 そして大根の浅漬け風「ピクルス」とおままごと風「スープ」も食べたところで,ドドーンとバーニャカウダが登場した.
(続く)

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2016年11月30日 (水)

鎌倉のパエリア (七)

 さてフランス料理店で,店側が客にスペイン料理であるパエリアを勧めるのは多分滅多にないことで,なかなか楽しい趣向ではあるが,前稿に書いた問題はどうしよう.つまりパエリアが出来上がるまでの待ち時間のことだ.
 ところが店のほうもそこは心得ていて,定番メニューの冊子の他に,紙一枚に書かれた「サイドメニュー」が用意されているのであった.
 そのラインアップを店の公式サイトから引用して紹介しよう.

玉ネギの丸ごとロースト          500円
 オリーブの盛合せ             800円
 本日の野菜のマリネ            700円
 鮮魚のエスカベッシュ           550円
 自家製スモークサーモン          800円
 鎌倉野菜のバーニャカウダ        1050円
 スペイン産ハモンセラーノと
  イベリコ豚“ベジョータ”のチョリソー 1100円
 豚肉のリエット              550円
 チーズの三点盛合せ           1200円
 本日のオードブル            1200円

 言わずもがなだが,チョリソーはイベリア半島の豚肉の腸詰ソーセージである.
 エスカベッシュもスペインやポルトガルでは一般的な料理だ.
 バーニャカウダは歴としたイタリア料理で,イタリア料理店では定番の料理である.

 とまあ,こうしてみると,メイン・メニューもサイド・メニューも,Brasserie 雪乃下の料理は欧州多国籍軍の陣容であることがわかった.
 ちなみに私がバーニャカウダを初めて食べたのは古い話ではない.八年ほど前,うちの犬がまだほんの子犬だったときに,富士五湖へ犬連れで遊びに行ったのだが,その夜の泊りは河口湖に近い森の中にある犬同伴で泊まれるペンションで,夕食に出されたバーニャカウダを食べたのが最初であった.
 そのペンションは料理がなかなかおいしくて,愛犬家の間では評判のよいペンションだった.季節は晩秋だったから,固形燃料 (日本旅館の食事で一人前の鍋を煮るときにつかうアレだ) を入れたポット (下の画像) で熱くしたソースに,生野菜をディップして食べるバーニャカウダはおいしくて,気がつくと驚くほどたくさんの野菜を食べてしまった.生野菜なのに鍋料理という面白い料理だと思う.

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バーニャ・カウダ専用のポット。下の空洞部に
ろうそくや固形燃料をセットし、上部にソースを
注いで熱する。

(画像とキャプションは Wikipedia【バーニャ・カウダ】から引用;画像はパブリック・ドメイン)

 もともと Brasserie 雪乃下で昼飯を食おうと決めたのは,鎌倉野菜の直売所の前をバスで通りかかって,それで鎌倉野菜を食べようと思ったからであるから,サイドメニューはもうこのバーニャカウダ一択だ.
 笑顔がとても感じの良い接客係の女性従業員に私は「えーとこの雪乃下パエリアってのと,それとバーニャカウダを」と告げた.
(続く)

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2016年11月28日 (月)

鎌倉のパエリア (六)

 私がこの日,駅前の喫茶店ルノアールを出て小町通りを北に歩き始めたのは,昼前の十一時をわずかに過ぎた頃.
 八幡宮に向かって歩いていくと,小町通りの中程に飲食店が立ち並んだ狭い小路があり,ここを左に入って,Brasserie 雪乃下への階段を二階に上がるとすぐドアがあった.全五十席という店内にはまだ客が数人しかいないようだった.
 笑顔がとても感じの良い接客係の女性従業員に私が「一人です」と告げると,お好きな席にどうぞとのことだった.
 そこで私は,店の公式サイトに《テーブル席 // 解放感のある窓側のお席 //窓側のお席は解放感があり明るい雰囲気です。外に目を向けると少し遠くに小町通りが見えます。 》と書かれている窓際の二人席に着いた.
 ざっと見渡すと,その他の《テーブル席 // 落ち着いた雰囲気のお席 //落ち着いた雰囲気の店内にイス・ソファの並んだお席です。》と書いてある席は暗くて窮屈な印象だったからである. その窓際の席の画像はこちら
 前稿に書いたテレビ東京「歴史の道歩き旅」で,撮影の際にタレントの佐藤弘道さんが着いたのは,この窓際のテーブルのうちの四人掛けのテーブルである.私が選んだ席はこの画像の左隣の二人用テーブルであった.
 注文を済ませてから気が付いたのだが,実はこの窓際の二人席は,窓から外が見えるとはいうものの,レジカウンターのすぐ横の通路に置かれたテーブルであり,客や従業員が横を通るようになっていた.つまり通路際の,あまりよくない席なのであったが,お好きな席にどうぞと言われた私が選んだのだから,文句を言ってはいけない.

 さてその注文だが,公式サイトに「売れ筋」と書かれているパエリアに惹かれるものがあって,それに決めた.自称フランス料理店 Brasserie 雪乃下が「売れ筋」と自賛するスペイン料理ってどんなものなんだろう,という興味からである.
 パエリアは米飯料理だということもあって,私たち日本人によく知られたスペイン (東部バレンシア地方) の料理である.
 実は藤沢にはスペイン出身のかたがシェフである人気のスペイン料理店がある.「エラルテ」という店で,料理はうまいしシェフは陽気な感じのいい人だ.私の娘がお気に入りで,時々娘夫婦はここで食事しに行っているらしい.
 パエリアはおいしいが,注文してから出てくるまでに時間がかかる.ざっと三十分はみておいたほうがいいから,時間に余裕のあるときでないといけない.
 それに,パエリアは料理の性質上,二人以上でシェアするのがよい.私の経験では,パエリアは二人前以上で注文するもんだと思う.そしてパエリアの他に前菜などの料理を頼んで,それを食べながら,家族とか友人,恋人あるいは愛人または後妻業とかと会話を楽しみながらパエリアの出来上がりを待つわけだ.どんな状況だよ.つまり,言い換えれば,お一人様客はなかなかパエリアを食べる機会がないのである.
 ところが Brasserie 雪乃下のメニューには「二人前以上でご注文ください」と書かれていない.おお,これはよい店をみつけたと私は嬉しくなった.
(続く)

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2016年11月25日 (金)

鎌倉のパエリア (五)

 前稿の末尾に《「松本竣介 創造の原点」展を鑑賞する前に,早めの昼飯は「鎌倉野菜を食べられる」を店の売り文句にしている Brasserie 雪乃下にしようと思いついた》と書いたのは,私がこの店を贔屓にしているからではない.それどころか私はこれまで一度もこの店で食事をしたことはない.
 ただしかし,テレビの食べ歩き番組で鎌倉というと大抵,小町通りの一等地にあるこの店が登場するらしい.
 ネットを調べればなんでも情報が出てくるもので, Brasserie 雪乃下がテレビで紹介された回数はこれまでに驚くなかれ十五回もあり,そのうち最新の十回は以下の通りなんである.(出典は“ぐるなび”で,「テレビに出たお店」で検索すればよろしい)

歴史の道歩き旅 (2016年9月30日/テレビ東京)
サタデープラス (2016年3月12日/TBS)
ヒルナンデス! (2015年3月27日/日本テレビ)
大人の極上ゆるり旅 (再) (2014年03月18日/テレビ東京)
昼めし散歩 (2014年02月27日/テレビ東京)
出没!アド街ック天国~お正月行きたい!鎌倉SP~ (2013年12月28日/テレビ東京)
キラ☆キラGirlymama (2013年09月21日/テレビ朝日)
元気です!ニッポンの商店街 (2013年09月14日/テレビ東京)
もしもツアーズ (2013年08月31日/フジテレビ)
大人の極上ゆるり旅 (2012年05月02日/テレビ東京)

 私がみたのは今年の九月に放送された「歴史の道歩き旅」である.タレントの佐藤弘道という人が出演し,夕食を Brasserie 雪乃下で摂るという内容だった.
 バスが鎌倉駅に到着したのは店の開店前の十時半だったので,駅前の喫茶店ルノアールに入り, Brasserie 雪乃下の公式サイトで下調べした.店舗紹介を引用すれば以下の通りである.

穏やかな時間を感じられる店内 大きな窓があり解放感のある店内で、喧騒から逃れてゆったりとお過ごしください。
 ランチメニューが充実しています 雪乃下名物の鎌倉野菜の庭園風、洋食風しらす丼など当店オリジナルメニューをご用意。
 厳選したワインお楽しみください ヨーロッパを中心に取り揃えたワインはお好みやお料理に合わせてお選び頂けます。

旬薫る露地ものの鎌倉野菜。三崎直送の新鮮魚介。腰越漁港直送の釜揚げしらす。鎌倉ならではの食材をふんだんに使用しつくるフレンチ。
赤・茶を基調とした統一感のある落ち着いた店内は小町通りから少し奥へ入るため、喧騒から逃れてゆったりとしたお時間をお過ごし頂けます。
鎌倉散策のご休憩に、特別な日のディナーに是非ご利用ください。

 ここで少し気になったのは,公式サイトには《鎌倉ならではの食材をふんだんに使用しつくるフレンチ》とあるのに,《おすすめメニュー》に「雪乃下特製パエリア」なるものが掲載されていることだった.パエリアってフレンチだっけ?
 さらにメニューの詳細を読むと,「売れ筋」と書かれている献立に次のようなものがあった.

海の幸と鎌倉野菜たっぷり 雪乃下パエリア
 釜揚げしらすパエリア
 釜揚げシラス丼
 三崎マグロの漬け丼
 雪乃下特製ハヤシライス

 マグロの漬け丼かー.なんというか Brasserie 雪乃下はフランス料理店と自称しているけれど,むしろ多国籍料理店とか無国籍料理店とかいうジャンルのレストランではなかろうかと思われた.
 でもまあ多国籍でも無国籍でもおいしければいいのである.

 店は小町通りから小路に入るとすぐに二階に上がる階段があって,そこが店のドアである.その店構えはさすが鎌倉小町通りで,とてもいい.高田純次なら「シャレオツですねー雰囲気があります」と言うだろう.どんな料理が食べられるのかなと私は期待した.
(続く)

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2016年11月22日 (火)

鎌倉のパエリア (四)

 藤沢駅―鎌倉駅のバスは,高徳院の脇を過ぎたあと長谷観音前丁字路を左折し,鎌倉文学館の前を通過してずっと道なりに行き,下馬交差点で若宮大路に入る.
 この交差点でまた左折してJR横須賀線高架線路の下をくぐると,この辺りではよく知られた焼鳥屋「秀吉」が右に見える.この「秀吉」は駅からちょっと歩かねばならないところにあるのだが,観光客に人気がある.しかしまあ内容的にはただの焼鳥屋である.店内は狭いので,焼いてあるのを買って外で立食いする人が多い.腰かけて食べたければ十一時の開店と同時に入るとよろしい.もちろん朝酒という具合になる.

 焼鳥の「秀吉」はどうでもいいとして,その隣にある鎌倉市農協連即売所がこれまた観光客に知られたところである.何がよく知られているかというと,ここは「鎌倉野菜」の直売所なのである.観光客向けサイトを一つ紹介しておく.
 テレビの食べ歩き番組なんかを見ていると,割と頻繁に「鎌倉野菜」なる言葉を聞く.
 私の知る限り,○○野菜なる言葉の始まりは京都府下で古くから栽培されてきた一群の伝統野菜である「京野菜」である.ただこの京野菜とは何かというのは漠然としているのだが,Wikipedia【京野菜】に一般的な解釈が載っているので引用してみよう.

特徴
京野菜の定義は曖昧で、明確には定められていない。京都で品種が確立したもの、または京都独自の生産技術によって生み出された品目などを総称するが、場合によっては京都府内でほとんど生産されないユリ根なども含まれる。一般的には明治時代後半以降に日本に導入された野菜は含まれず、5世紀 - 12世紀頃までに中国や朝鮮半島から日本に伝わったサトイモやダイコンなどの野菜などが京野菜の対象とされるが、20世紀になってから海外品種との交配で作出された万願寺とうがらしが含まれるような場合もある。その一方で、伝統野菜だけでなく、広義には京都で作られる野菜全てを京野菜とみなせる、という京都市の見解もある。
京野菜は現代の交雑品種などに比べて、生産性や形状の規格など広域流通の便が高くないため、20世紀半ばには生産が減少したが、京都府や京都市による品種の調査・保存やブランド京野菜の推進などにより、1990年代以降は生産・消費が拡大している。1990年の調査によれば、一般的な改良品種に比べて京野菜はビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含むという。なお、京都府農林水産部では毎月15日を京野菜の日とし、PR活動を行っている。また、2008年から京野菜検定が開催されている。他にこのような伝統野菜として、大阪府のなにわ野菜、奈良県の大和野菜、石川県の加賀野菜などがあり、各地で保存伝承の試みが行なわれている。

 上の引用中,《一般的には明治時代後半以降に日本に導入された野菜は含まれず、5世紀 - 12世紀頃までに中国や朝鮮半島から日本に伝わったサトイモやダイコンなどの野菜などが京野菜の対象とされる》が妥当な見解だろうが,農業における見境ない商業主義が流行し,栽培者が何でもかんでも「京野菜」と言い始め,「京野菜」は食文化史的な意味を失った単なるブランドと化した.
 このデタラメな (つまり消費者が認めた価値ではなく生産者が自称したに過ぎない) ブランド崇拝が各地に普及し,鎌倉市周辺で栽培される野菜を鎌倉野菜というブランドに仕立てたのである.もちろん日本の伝統野菜ではない.
 ではあるが,まずい野菜かというとそんなこともない.フツーにおいしいから,鎌倉市農協連即売所に出かけて珍しい栽培品種を探してみるのも一興だと思う.

 とまあそんなことを考えたので,「松本竣介 創造の原点」展を鑑賞する前に,早めの昼飯は「鎌倉野菜を食べられる」を店の売り文句にしている Brasserie 雪乃下 にしようと思いついた.
(続く)

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