食品の話題

定年まで食品会社の技術者として生きてきました.食品科学や食品の法律,食品事件など.

2021年10月 3日 (日)

素材の味を台無しにする酸味料という添加物

 アフロ頭の稲垣えみ子さんが,食品添加物過敏症になってしまったという話を書いている.
 東洋経済ONLINE《「添加物と無縁な生活」は許されないという現実 「普通のサンドイッチ」で胃腸がパニック?》[掲載日 2021年10月3日 06:30] から引用する.
 
始まりは、数年前のある朝のこと。とある大手コーヒーチェーン店で何気なくヘルシーな野菜サンドとコーヒーを食べながら仕事をしていると、どうも胸のあたりがムカムカしてきた。全身もだるい。
 あれ、なんか体調悪い? お腹でも冷やしたのかしらと思ってやり過ごしたんだが、その後もその店に行くたびに、同じ症状に見舞われるのであった。
(中略)
 いや……これはどう考えても、添加物に体が過剰反応しているのではないだろうか。
 
私、いつの間にやらめちゃくちゃピュアな食生活! うっかりすると、添加物など1ミリも摂取せぬまま何日も過ごしているのであった。狙っているわけでも意識しているわけでもないのに、そうなっちゃっているんである。
 
「ピュアな食生活」は自然食品店に通わずとも、質素な暮らしをしていればものすごくフツーに手に入る。つまりはまったくお金などかからない。具体的には一食150~200円程度である。
 その2。現代では「ピュアな食生活」を送っていると、社会生活に支障が生じる。友達と楽しく食事に出かけた後で、倒れて寝込むということにもなりかねない。
 ……ということで、うっかり安くピュアな食生活を送っている私としては、普通の社会生活を送る必要上、定期的、意識的に、添加物入りのものを少しずつ摂取するよう心がけることとなった(個人的には「服毒」と呼んでいる)。どうにもこうにも妙な話だが、それが現代社会のミもフタもない現実なのである。
 
 ありそうな話である.
 調理済食品,加工食品の世界で,添加物まみれの食品は数あるが,サンドイッチもその一つだ.味付けに塗ってあるソースがもう無茶苦茶なのである.
 あまりにソースの添加物まみれが酷いので,コンビニなんかは公式サイトに載せるべきサンドイッチの原材料表示を隠している.消費者が必要とすることが全く書かれていない無意味な商品情報欄になっている.(例;ローソンのシャキシャキレタスサンド)
 カフェのサンドイッチを食べると体調を崩すので,仕方なく時々「服毒」しているというのだが,それはもったいない.せっかく「ピュアな食生活」をおくれるのだから,調理済食品を買って食べるのはやめたほうがいい.
 サンドイッチなんか,自作すれば添加物を無視できるくらいに減らせる.食パンではなくフランスパンに,マヨネーズを塗って,チーズと洗っただけのレタスをはさめばいい.これを弁当にして外出時の弁当にするのだ.これ,カフェのサンドイッチより遥かに安上がりだし.
 
 さて私はカフェやコンビニのサンドイッチで体調を崩したことはないのであるが,スーパーで売られている漬物は買わない.
 浅漬け風の漬物 (本来の漬物ではなく調味液に浸して作る即席食品だ) はまだマシだが,高菜とか野沢菜を漬けたもので,ポリ袋に包装されて売られているものの多くは,サンドイッチよりも酷いからだ.
 しかもまずい.
 まずい漬物に必ず入っているのが酸味料というやつだ.口に入れると感じるいやーな味のもとは酸味料であることが多い.
 私が忌避する添加物は,合成着色料とソルビン酸塩はもちろんだが,酸味料と加工デンプンも避けている.
 のであるのに,先日大失敗をした.
 あるスーパーの野菜コーナーを見て歩いていたら,皮を剥き下茹でして真空パックになっているサトイモがあった.
 こういうものを買うのは初めてだったのだが,何気なく手に取ってカゴに放り込んで買ってしまった.
 帰宅して翌日,ざっと水洗いして,醤油味で煮ころがしにした.
 そして口に入れて咀嚼して,私は腰を抜かした.
 思わず吐き出したほど異様な酸味だったのである.
 包装容器のポリ袋はゴミに出してしまったあとで,仕方なくスーパーまで出かけて同じ商品の原材料表示を確かめたら,酸味料が表示されていた.
 生のサトイモを料理するのはかなり手間がかかるし,サトイモには旬があるので,冷凍食品のサトイモを使うこともある.
 その冷凍サトイモとの連想で,真空パックのサトイモを買ってしまったのであるが,自分の迂闊さを歯噛みするほど後悔した.
 世の中にカット野菜や蒸した豆など,野菜を加工した食材は色々あるが,下茹でしたサトイモは,それらと一線を画する.
 なにしろ食い物とは思えぬ味がするのだ.他山の石とはこのこと.料理をする老人諸兄におかれては,くれぐれも真空パックのサトイモは購入されぬようご注意申し上げる次第だ.
 
 余談だが,稲垣えみ子さんのアフロ頭であるが,日本人の頭髪をあのようなスタイルにするには,薬物の作用を用いるのだろう.
 稲垣さんの食生活はピュアだというのであるが,頭髪は薬物まみれでもいいのだろうか.

|

2021年9月27日 (月)

久助

 久助という言葉がある.人名ではない.
 Wikipedia【久助】から記述を引用する.
 
訳あり商品のひとつ。米菓業界でよく使われている業界用語のひとつであるが、包装された袋に表記されることもあるため、消費者の一部にも知られている。米菓以外では、小麦粉の甘煎餅、洋菓子のラスクなどでも同様に使用される例がある。
 割れていて、形状が不完全でも味覚的には正規品と比べて遜色なく、大きな煎餅の場合は、食べる際にわざわざ割ることもあるため、自分で食べるためには気にしない消費者も多い。また、たいてい複数の製品が混合されていて、大きめの包装となっているために、安価にいろいろな味を楽しむことができる。
 ただ、煎餅などでは、形状は完全でも、少し加熱しすぎたものなどが入れられる場合もあり、その場合は風味が正規品よりも劣る。
 正規の販売ルートでは流通せず、製造直売店や、菓子や食品の安売り専門店、道の駅、ネット通販などで限定販売されることが多い。》(文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 着色文字部分は,現在は事実と異なる.
 確かに昭和の昔は,上の説明の通り「久助」とは「割れていて形状が不完全」あるいは「加熱し過ぎて焦げた」米菓製品であったが,私の記憶では,平成の頃から「久助」の語義に変化が生じた.
 
 今,私の手元に根本製菓 (茨城県) の「やっぱり日本のお米 醤油ミックス煎 久助」がある.Wikipediaは《正規の販売ルートでは流通せず、製造直売店や、菓子や食品の安売り専門店、道の駅、ネット通販》としているが,私が買ったのは製造直売ではなく上野アメ横でもなく,スーパーで購入したものである.
 
20210927a
 
 包装のラベルに書かれたキャプションは以下の通りである.
 
昔ながらのたまり醤油で仕上げた醤油煎、黒胡麻煎、青のり煎のお徳用サイズ
 
 中身の煎餅は,全く欠けていない.味も焦げてはおらず,普通の煎餅である.
 つまり根本製菓は,久助を「お徳用サイズの煎餅詰め合わせ」だと定義している.
 しかしこの定義は米菓製造業者によってさまざまである.
 ざっと分類すると,
(1) 正常品質の煎餅を数種詰め合わせた徳用品
(2) 割れた形に成形して焼き上げた煎餅を包装した徳用品.割れた断面のフチが丸くなっているのですぐわかる.わざとらしい「断面」にも醤油がしみている.
(3) 正常な形状に焼いた仕掛品の煎餅を,わざと割り,これを醤油等で調味したもの.割れた断面にも醤油がしみているのですぐわかる.
(4) 正常な品質の煎餅をわざと割り,特売用にしたもの.断面に醤油はしみていない.
(5) 正真正銘の久助.Wikipediaの説明通りの訳ありレア品である.当然だが本来の久助は,スーパーに出荷できるほどの量は製造工程で発生しない.零細な手焼き煎餅屋で売られていたり,中小の米菓製造業者の工場に併設の売店で販売されている.
 
 似非「久助」は,米菓メーカーが販売者の求めに応じて特売品を製造する際に,正規品の価格を維持するために作るものだ.
 無理矢理に作った割れ煎餅だから,不良品なのではなく,消費者としては現在の「久助」はお値段安めで歓迎だ.
 しかし店頭で,手で割るのが難儀なくらい堅い厚焼き煎餅の「久助」を見かけると,これはちゃんと作った製品を割っているわけだから,ご苦労なことですなあと苦笑する.

|

2021年9月 5日 (日)

品質事故を起こしたチョコレートは珍しい /工事中

 珍しいものを見た.
 下の写真は,森永製菓のカレ・ド・ショコラ【カカオ70】である.
 外観で歴然としているが,完全に「ブルーム現象」を起こしている.割ってみると,表面だけでなく,中まで白っぽくなっている.またこのチョコレートは,本来の形はきちんと四角いのであるが,写真に見られるように形が崩れている.
 このチョコレートを購入したのは先月末で,店はダイエー藤沢店である.
 
20210904a
 
 上述の「ブルーム現象」とは,板チョコなどの成形されたチョコレートの表面が艶を失って白っぽくなる劣化現象のことをいう.
 この「ブルーム現象」は,食品科学の重要な用語なのだが,Wikipediaに項目が独立して立てられておらず,Wikipedia【チョコレート】の中で簡単に説明されている.
 そこで以下にその箇所を引用して説明に代える.
 
固形チョコレートは油分に粉乳や砂糖などの粉末が分散している状態であり、水に不溶である。固形チョコレートを水分と乳化させた物は、ガナッシュ、生チョコレートと呼ばれる。
 固形チョコレートは一般的に、熱に弱く溶けやすい。過度に冷却したもの、融解・再結晶化したもの、長期間保存したものなどには白い色がつくことがある。この白い部分をブルームといい、このような現象をブルーミング現象という。ブルームが生じたものを食べても問題はないが、風味や味は落ちる。ファットブルーム(fat bloom)は、チョコレートの油脂成分のうち融点の低い部分が融解して表面に浮出し、再結晶化したものである。シュガーブルーム(sugar bloom)は、冷却時などにチョコレートの表面に水分が付着した際チョコレートの砂糖が水分に溶解し、その水分が蒸発した時に砂糖が析出したものである。
 保存は、15℃ - 17℃、湿度50%以下が好ましく、香りを吸収するのを防ぐために他の食べ物から遠ざけたりラップに包むなどする。
 
 市販されているチョコレートに関しては,消費者がシュガーブルームを目にすることはまずない.チョコレート表面に水分が付くような状態と環境で流通することはないからである.(市販品チョコレートを買ってきて融解して固めた「手作りチョコレート」は,品質を云々するようなものではないので,以下の話からは除外する)
 これに対してファットブルームは,消費者がチョコレートを購入したあと高い室温の部屋に放置したりすると容易に生じる.
 製菓会社のチョコレート製造技術はかなり成熟していて,工場出荷後の商品温度管理が適正に行われていれば,ファットブルームが発生する可能性はほとんどない.
 しかし言い換えると,出荷後の温度管理に問題があるとファットブルームが生じる可能性はある.
 私が森永のチョコレートを買ったのはスーパーダイエーだから,店内の温度管理は厳格になされているはずで,店頭陳列後に融解した可能性はゼロだ.万が一店内の空調が故障すれば,チョコレートが融けてファットブルームができてしまったどころの騒ぎではない.生鮮商品が全滅だ.
 こう考えてくると,工場出荷後,店頭陳列までの物流過程で商品の温度管理に何らかの事故があったということになる.
 実をいうと,これは割と起こりやすいことなのだ.
 私が知っている例では,あるチルド食品が工場から出荷されたあと,トラックの業者が荷物の積み替えをしたために起きた事故がある.
 例えば,A市にある工場から,C市のスーパーマーケットに商品を納入するとする.
 A市からC市へ同じトラックで運べば問題はないが,トラックの手配など物流上の理由で,A市とC市の途中にあるB市の倉庫で荷物を積み替えることがあるのだ.
 このとき,チルド商品なのに,冷蔵庫ではないところに荷物を下ろしてそのままにするドライバーがたまにいる.
 荷を降ろすまではオレの仕事で,あとのことは知らないよという態度である.
 この例では,B市からC市へ運ぶドライバーの手違いで,冷蔵車に積み込むまでに夏の日中の二時間,放置されてしまった.
 結局,
 
********************************
 筆者の私見だが,日本のチョコレート製造技術が成熟したのは昭和の中頃である.
 昭和三十年代の明治製菓や森永製菓の板チョコにはブルーム現象がよく見られたのであるが,原因は,(1) 製造技術が未熟だったこと,(2) 物流と販売の環境がチョコレートに適していなかったこと,の二つがあった.
 

|

2021年8月30日 (月)

食中毒一歩手前の肉ワンタン

 珍しい物を見た.以下はその話.
 
 もう何年も前になるが,現在は年金暮らしの私がまだ食品企業の現役会社員であった時のこと.
 その会社の子会社の中に,マーガリンを製造している会社と,焼売などの惣菜を製造している会社があった.
 私は親会社の品質保証部門の長で,その両子会社の食品衛生を指導していたのだが,幸いなことにいずれも食中毒事故を起こしたことはなかった.
 そのため,重大な食中毒事故を起こす可能性が高い商品の実物をこの目で見たことはなかった.
 
 およそ食中毒は,飲食店や家庭で発生することが多い.工場で製造された製品が原因で起きた食中毒はあまりないと言っていい.
 工場製品は大抵の場合,包装されているが,食中毒菌に汚染された食品は,その包装状態が異常を呈することがあり,そのため喫食に至らずに済むことが多い.これが飲食店や家庭で作られた料理・食品に比較して,工場製品を原因とする食中毒の少ない理由である.
 その「異常」とは,保存しているうちに包装が膨らむことである.
 この「膨らむこと」は,包装の内部で発酵が生じていることを示している.
 必ずしもすべての場合に,この発酵の原因菌が食中毒菌であるとは限らないのだが,喫食したときの発病リスクはかなり高い.
 
 さて先日,私は藤沢駅北口のスーパーダイエーで,紀文の肉ワンタンを購入した.
 下の画像がその商品の写真だが,冷蔵庫で保存しているうちに,トレーにかけたラップが異常に膨らんできた.
 この記事をアップするのは八月三十日だが,賞味期限は九月二日であり,まだ賞味期限前である.
 
20210830a
 
 下の写真は包装された商品を横から撮影したものだが,指でラップの表面を叩くと,パンパンに膨らんでおり,そのうちに破裂しそうな勢いである.
 
20210830b
 
 ポリスチレン製のトレーにラップをかけると,ラップに張力がかかるので,表面は平らになる.
 ところが八月二十八日頃から,この商品は表面がプックリと膨らんできたのである.つまり明らかに中でガスが発生している.
 
 私はかつて静岡県の依頼で,中小食品会社に勤務している社員や,静岡県立大学の学生を対象にして,毎年夏に食品衛生の講義をしていた.
 その講義で「缶詰,レトルトパウチ,真空包装食品,トレー&ラップ食品などが膨らんだ場合,食品中で食中毒菌が増殖して発酵あるいは腐敗し,その結果発生したガスで内圧が高くなったことによるものである可能性が高い」と述べてきたが,実はその種の微生物汚染された製品の実物は初めて見る.
 それほど包装内部での発酵はレアな現象なのだが,実物を見て「ほお,なるほど」と感心した.
 たぶんこの肉ワンタンは,製造ラインの異常により,加熱が不充分であったと考えられる.加熱不充分な食肉加工食品は,食べれば食中毒になる可能性が高い.
 私が購入したのと同一ロットの紀文の肉ワンタンを,誰も食べていないことを祈る.

|

2021年1月 1日 (金)

年の初めの違法とて /工事中

 昔,どぶろく裁判と呼ばれる訴訟があった.日本国民には自分の飲用のために酒を造る権利はないことが最高裁で確定した裁判であった.
 この権利を認めると,国の重要な財政収入である酒税の徴収確保に支障を生じる,というのが権利制限の理由であった.
 ただしこの理由から,酒税収入に影響しない場合に例外が認められている.簡単に言うとアルコールの製造にあたらないことが必要で,梅等の果実を二十度以上の酒 (ほぼ焼酎に相当する) に浸漬して梅酒等の酒を自家消費用途に造る場合である.
 ところがここに一つ問題が生じる.二十度以下の酒に浸漬した場合は合法か違法かという問題である.これが実は,現状では違法 (酒税法違反) となることがあるのだ.
 このことについて,オトナンサー《梅酒は違法 正月に飲む「おとそ」、自宅で造ったら法的に問題ある?》[掲載日 2020年12月31日 6:10] が指摘している.
 
正月に一年の健康を祈って飲むお酒「おとそ」は大みそかの夜、サンショウやキキョウなど体によいとされる生薬を合わせた「屠蘇散(とそさん)」を日本酒やみりんに漬け、翌朝、つまり、元旦に飲むものといわれています。日本の伝統行事である正月の定番の一つではありますが、以前、自家製梅酒について国税庁に取材した際、「日本酒に梅を漬けて自家製梅酒を造ると、一部例外を除いて酒税法違反」とのことでした。

担当者「酒税法上、お酒に他のものを混ぜると新たにお酒を造ることになり、原則としては製造のための免許が必要です。無免許製造は違法となります。ただし、消費者が自ら消費するため、消費の直前、つまり、飲む直前にお酒に他の物品を混和する場合は、例外として認められています(酒税法43条10項)。
 清酒(日本酒)やみりん(アルコールのみりん)に別のもの、例えば、屠蘇散を入れるのは消費の直前であれば認められることになります。問題は一晩漬けておくのが『消費の直前』といえるかというところですね…。『消費の直前』について、法律や通達では『何時間前』という決まりは示していません。『社会通念で判断してください』としか言えません。
 
Q.どのようにすれば、おとその法的問題をクリアできるのでしょうか。
 担当者「繰り返しになりますが『直前に造る』か『20度以上のお酒を使う』ことです」
 
「お屠蘇」が違法であるかについての国税庁の見解は,従前から以下の通りである.
1. 屠蘇散を入れるのが消費の直前であれば認められる.
2 「直前」の意味は社会通念に従う.
 さあここで (社会通念上の意味の「直前」) という曖昧な,かつ国税当局が恣意的に運用できる言葉が用いられている.
 行政法には時々このような曖昧な規定がある.訴訟になった場合は裁判所が「直前」の意味するところを明らかにしてしまうが,国税当局としてはこれを裁量の範囲,つまり曖昧な状態にしておきたいのである.
 では国民の側が「直前」をどう認識しているか.ネット上に多数のレシピがあり,以下に代表例を少し紹介する.
  
[エスビー食品の公式サイト《スパイス&ハーブお屠蘇》から引用]
作り方
【1】お茶パックにスパイスを入れ、日本酒とみりんを合わせたものに5-6時間漬け込みます。
(以下略)
  
[日本名門酒会の公式サイト《折々の酒 お酒の歳時記 お屠蘇》から引用]
市販の屠蘇散を浸します。
放置すること7、8時間
薬効成分が溶け出すのを待ち、袋を取り出します。
*日本酒&みりんの量が多い場合は、屠蘇散を長めに浸してください。
*あまり長時間浸しすぎると濁ったり沈殿物ができる場合があります。
(以下略)
 
[cookpadの《準備3分。お屠蘇(おとそ)を作る》から引用]
日本酒とみりんをマグカップ等に入れ、屠蘇散を入れて一晩寝かせる(説明では、みりんは2~3割とあります)
 
 ざっと見たところ浸漬時間は,最短の五時間から最長の一晩まで色々である.
 では,五時間は「直前」と言えるか.社会通念としては直前とは言い難いだろう.
 これは場合によりけりだ.例えば東京オリンピックのように何年もかけて行うものであれば,開催式の二ヶ月前に中止を決めたとすると,これは「直前になって中止した」と言える.
 これが小学校の運動会なら,二ヶ月前に中止を決めても「直前になって中止した」とは言わない.三日前に中止と決めたら,これは「直前」だろう.
 このように考えると,「お屠蘇を飲む」という行為について,どれくらい前が「直前」なのかを考えやすい.
 私たちは日常,料理にかける時間はそれほど長くない.せいぜい一時間くらいか,いわゆる時短料理なら十五分とか三十分だ.
 だから料理というプロセスにおける「直前」は分単位である.お屠蘇を飲む二分前に,日本酒に屠蘇散を加えたら,それは

|

2020年11月27日 (金)

うまけりゃ嘘も許されるのか

 本橋隆司というフリーのライターがいる.『立ち食いそば図鑑 東京編』の筆者として知られる.
 この本橋が東洋経済Onlineに《「つなぎが多いそばはダメ」という大きな勘違い つなぎにはいろいろな役割があった》を書いている.
 この記事で本橋が書いている嘘八百をいちいち批判することは避けるが,善良な消費者を欺く点は指摘しておかねばなるまい.
 本橋の記事は,この夏に閉店した人形町 (東京) の「誠や」という蕎麦屋の意見を紹介する形で書かれているが,まず本橋は次のように書きだす.(文字の着色強調はこのブログの筆者が行った)
 
そば好きの中には、十割そば以外はそばと認めないという人が、少なからずいる。確かにいいそば粉を使い、腕のいい職人が打った十割そばは、誰が食べてもおいしいと感じるだろう。「そばは十割に限る」という意見ももっともだ。
 その一方で、町の一般的なそば店や立ち食いそば店ではつなぎを使ったそばが主流で、そば粉の割合は多くて7割。少ないと3割といったものもある。それらを指して「そばではない」と否定する意見もある。
 確かに大衆的な価格を維持するため、水増しでつなぎを使う場合もあるのだが、そうというばかりでもない。コスト以外にもそばにつなぎを使う、“積極的”な理由があるのだ。
 
「蕎麦につなぎを使うのはコスト以外の理由がある」というのは本橋の言う通りである.
 そもそも「蕎麦切り」が考案された江戸時代初期 (もう少し早い時期だとの説もある) は,蕎麦粉が十割で打った蕎麦は茹でて加熱することができなかった.切れてしまうからである.そこで当時は打った生の麺帯を蒸籠に載せて蒸した.これが今でも「蒸籠蕎麦」という名称となって残っている.つまり,茹でた蕎麦を蒸籠に似た器に盛って「蒸籠蕎麦」と称している店があるが,これは昔からある詐称である.とはいえ「見立て」と言えなくもないから,誰も文句はつけない.
 閑話休題.蕎麦 (蕎麦切り) の話だ.
 羊頭狗肉という言葉がある.本橋は《町の一般的なそば店や立ち食いそば店ではつなぎを使ったそばが主流で、そば粉の割合は多くて7割。少ないと3割》と言うが,これは普通の蕎麦屋と立ち食い蕎麦屋を一緒くたにする無茶苦茶な話である.
 街中の普通の蕎麦屋では,「盛り蕎麦」は五百円以上の価格設定が普通だ.この値段で蕎麦粉が三割という蕎麦を食わせる店は,おそらく存在しない.蕎麦粉三割の麺は蕎麦粉入りの細いうどんであり,食えばうどんであるとすぐ知れる.だからそういう店があったとしても,客に見抜かれて潰れる.
 その一方で,「かけ蕎麦」一杯が三百円前後である零細な立ち食い店では,製麺業者からの仕入れコストの関係で蕎麦粉は三割くらいだといわれる.これに対して機械打ちの自家製麺している大手の蕎麦チェーン店はもう少し蕎麦粉の割合が高いらしい.中には「二八そば」ラインアップにいれている店もある.
 現在の消費者感覚でいえば蕎麦粉五割以下は羊頭狗肉の蕎麦粉入りのうどんであるが,食うほうもこれを正真正銘の蕎麦だとは思っていないので,今更改めて食品偽装だと指弾する人はいないのが実際のところだ.
 話をまとめると,蕎麦切りのつなぎは,小麦粉を使う場合は二割で充分である.これ以上小麦粉を加えるのは,コストダウンを目的とする増量・水増し以外の何物でもない.そして原材料の七割が小麦粉である場合,もはやこの小麦粉は,つなぎではない.何を「つないでいる」のか全くわからないからだ.
 だが本橋は,つなぎ入りの蕎麦と,蕎麦粉入りのうどんを一括りに蕎麦と呼ぶ.これは,実は江戸時代から続く伝統食「蕎麦切り」の性格を変えてしまうことなのである.
 話は横に逸れるが,江戸時代の昔から各地で地粉とよばれた小麦粉は,それぞれの土地に特徴あるうどんを生み出した.
 というのは,うどんには「コシ」という性質があって,これは小麦のタンパク質であるグリアジンとグルテニンを加水して捏ねると生じるグルテンが本体であるが,この小麦タンパク質の量 (すなわちグルテンの量) が小麦の品種で異なるために,それがうどんの性質に影響したのだった.
 グルテンは,捏ねる時間や方法,加水量,塩分の有無によって粘度と弾性 (これを合わせて粘弾性と呼ぶ) が変化する.博多や大阪で好まれるふんわりとしたうどんから,ゴツゴツと堅い吉田うどんまで,郷土の伝統食たるうどんの食感は幅広い.
 ところが,昭和になっても製粉技術の機械化が進まず,製麺工業では後進県であった香川県が,昭和五十年代になると観光資源としての讃岐うどんに力を入れ,官民こぞってのマーケティングの成功で全国的ブームとなり,いつの間にか消費者のあいだに「うどんは (讃岐うどんのように) コシのあるほうがおいしい」という認識が定着してしまった.かつての「うどん後進県」が「うどん県」になったのである.
 本来の「蕎麦切り」は,蕎麦粉のタンパク質はグルテンを生じないために「コシ」とは無縁で,前歯でサクッとかみ切れる食感を有するものであるが,讃岐うどんのブームが影響して「コシのある蕎麦がおいしい」とされるようになってしまった.そしてこれが小麦粉による増量に拍車をかけた.小麦粉を増量して,強く捏ねてグルテンに強い粘弾性を発揮させる.こうすると「コシの強い蕎麦」ができるからである.
 テレビタレントが食レポで「この蕎麦はコシがあっておいしい」と言うとき,それは実は「蕎麦切り」本来の食感ではなく,うどんの食感を味わっているのである.
 こうして「蕎麦切り」の「讃岐うどん化」が進行した.下の画像は,奈良屋 (福島県南会津郡南会津町田島字田島柳6番地1) という製麺業者が製造販売している商品名「裁ちそば」の説明である.同社の公式サイトからスクリーン・ショットを作成した.
20201130b
 原材料名を見ると蕎麦粉よりも小麦粉が多く,これは蕎麦粉入りのうどんである.奈良屋は乾麺「裁ちそば」の蕎麦粉使用率を公表していて,四割である.
 こういう「蕎麦」ではないインチキな乾麺でも,消費者を欺いて名称を「干しそば」と表示することが可能なのは,日本の食品表示の欠陥である.
 しかも南会津の名物「裁ち蕎麦」は十割蕎麦であるはずなのに,奈良屋製「裁ちそば」は四割蕎麦だ.甚だしい食品偽装である.
 その上さらに,この乾麺には食塩が配合されている.上に述べたように,食塩の添加は,グルテンの粘弾性を強くして「コシ」生じさせるための,うどん製麺テクニックである.すなわち原材料の使用割合だけでなく,この乾麺はうどんの製麺方法で作られているのである.
商品説明に《そば独特の歯切れ そば本来の風味をご賞味下さいませ》と書かれているが,この乾麺の歯切れはうどんのそれである.よくまあ《そば本来の風味》などとまっかな嘘を書けるものである.この業者は,商道徳をどこに置き忘れてきたのか.
 もう一つ,奈良屋の製品を紹介する.
20201130a
 この乾麺の商品名は「挽きたて二八」で,蕎麦粉使用割合が八割である「二八蕎麦」を連想させる.奈良屋もこれが八割蕎麦であると商品説明で述べている.
 ところが本来の「二八蕎麦」は「コシ」がないので消費者受けが悪い.そこで奈良屋が工夫したのが,小麦タンパク質 (上の表では「小麦蛋白」と表記している) を配合することだ.
 小麦タンパク質とは,グルテンの粉末である.これを配合すると,小麦粉を大増量することと同じ効果が生じる.
 つまりこの「挽きたて二八」は,八割蕎麦を実質的に「讃岐うどん化」したものなのである.
 一消費者である私は,「蕎麦切り」をなんとしてでも「うどん化」したいという奈良屋の暗い情熱が理解できない.「蕎麦」は「蕎麦」でいいじゃないか.なんで「蕎麦」を「うどん化」しなくちゃいけないのか.そんなにうどんが好きなのならば,うどん屋をやればいいじゃないかと思う.
 
 で,香川県の「うどん県」作戦の成功が,つまり爆発的に増加した「讃岐うどん」需要が何をもたらしたかについて触れる.
 元々,うどんを打てる人が少なかった香川県は,爆発的に増加した需要を満たすためにどうしたか.
 昨日までうどんを打ったことのない素人でも,今日から簡単に「コシのある讃岐うどん」を作れる方法が香川県で普及したのである.それは,食品添加物「加工デンプン」の使用である.
 通販されている商品の例を挙げよう.
* 石丸製麺「技の極み 讃岐うどん包丁切り」
 原材料:小麦粉(国内製造)、食塩/加工でんぷん
* 亀城庵「半生讃岐うどん」
 原材料:小麦粉、澱粉、食塩、醸造酢、加工澱粉、粗製海水塩化マグネシウム
* 讃州「讃岐香ばし醤油焼きうどん」
 小麦粉、食塩、加工澱粉、酸味料
* 日清食品「謹製讃岐うどん」
 原材料:小麦粉、食塩/加工でん粉
* テーブルマーク(カトキチ)「讃岐麺一番 きつねうどん」 
 原材料名:小麦粉、食塩、加工デンプン
 
 以上に限らず,加工デンプン使用している讃岐うどんの例は枚挙に暇がない.また麺に加工デンプンを使うのは,讃岐うどんだけではなく,今では一般的である.例えばこれ
 上の例は包装された加工食品であるから食品添加物を表示する義務があるのだが,街中やロードサイドのうどん屋で提供されている讃岐うどんには食品添加物の表示義務がない.このことを讃岐うどん好きな消費者は知っておいたほうがいい.
 加工デンプンを使う讃岐うどんは,もはや伝統食品の「うどん」ではない.いわば工業製品である.そしてたぶん日本国内で食品添加物摂取量が最も多いのは香川県民であろう.加工デンプンは,他の食品添加物に比較して,添加量が桁違いに多いからである.
 昔,私は香川県に仕事で訪れる度に,讃岐うどんの店に行ったのであるが,厨房を覗くとそこに置かれた加工デンプンの袋を何度も見た.これが「うどん県」の実態なんだなあと思った.
 秋田の稲庭うどん,群馬の水沢うどん,名古屋のきしめん等々,古い伝統を持つ各地のうどんは,それぞれの製法を守って現在に至っている.これに対して香川のうどん店や製麺業者が加工デンプンを使うことに抵抗がなかったのは,うどん文化が発達しなかった土地柄だからであろう.郷土の伝統食に誇りを持っていれば,こんなことはできない.「三大うどん」の筆頭に讃岐うどんを挙げる人が多いが,他の伝統的うどんの生産者からすれば,讃岐うどんと同列に見られては大きな迷惑に違いない.
 
 さて讃岐うどんの商業的成功は,加工デンプンが様々な麺類に使用される事態を招いた.
 例えばコンビニの弁当コーナーに置かれている「そば」類は,必ず加工デンプンが使用されている.加工デンプンを使用すると,茹でた「そば」が何時間経ってもノビないからである.この「茹で置きしてもノビない」という不思議な性質は,実際に口に入れたときに如何にも人工的な食感として感じられて,蕎麦はこれでいいのかと問いたくなる.
 だが記事の筆者の本橋隆司と「誠や」の主人は次のように主張する.(以下の引用中,文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
そばにとって、つなぎはけっして悪いものではなく、むしろ必要なものだ。コンビニエンスストアで売られているレンジ調理麺のそばは、近年、その風味や喉越しが高く評価されている。しかし、それも一回調理したそばを、レンジで再加熱してもだれないよう、つなぎを工夫した結果である。
 また、最近、若い世代を中心に人気となっているラー油の入ったつゆで食べるつけそばも、濃厚なツユに負けないよう、つなぎに加工でんぷんを使ったしっかりしたそばにしている。どちらも、よりおいしいそばを食べてもらえるよう、新しいつなぎを研究開発した結果なのである。
「もちろん十割そばはそばの完成形だと思いますし、それはそれでいいと思います。何を使おうと、結局、おいしいそばができればいいと思いますよ」
 職人が手打ちした十割のそばはおいしい。しかし、町そばの機械製麺した7割のそばも、茹で置きしてもだれないよう作られた立ち食いそば店の4割そばも、でんぷんを使った歯ごたえのあるつけそばも、それぞれが違うおいしさを持っている。そば粉の割合は気にせず、おいしいそばを楽しんでもらいたいと、1人のそば好きとして強く思う。
 
《レンジで再加熱してもだれないよう、つなぎを工夫した》と本橋は言うが,加工デンプンのメーカーが「これを使うと再加熱しても大丈夫です」とレンジ加熱調理麺の製造業者に持ち込んだのだ.調理麺の業者がつなぎを工夫したわけではない.
 蕎麦のつなぎには小麦粉の他に各地で山芋が使われてきた.蕎麦は栽培できるが小麦の栽培には不向きな山間地では,つなぎに山芋を用いることが行われてきた.あるいは新潟名物として名高い「へぎそば」には布海苔をつなぎに使うが,これは大正時代に魚沼郡 (雪深い土地で小麦作に適していない) の小林重太郎が考案した蕎麦の打ち方で,日本海が近いことから身近な食材である布海苔を思いついたものらしい.この二例のように,種々研究し試すことを「工夫」というのである.
 これに対してレンジ加熱調理麺に加工デンプンを添加するのは,加工デンプンのメーカーが「麺質改良剤」として開発した食品添加物を,技術説明書の通りに使っているに過ぎない.
 また本橋は《濃厚なツユに負けないよう、つなぎに加工でんぷんを使ったしっかりしたそばにしている》とも言っているが,コンビニの「ざるそば」も,蕎麦つゆは特に濃厚というわけでもないのに加工デンプンが添加されている事実と矛盾する.本橋は何ら調査をせずに思い込みで辻褄の合わぬことを書いているのだ.(ちなみにコンビニの「ざるそば」は笊とは無関係で,なぜ「ざるそば」と称するのか不思議である)
 さらに言うと,加工デンプンは「麺質改良剤」という食品添加物であり,これを「つなぎ」であるとするのは,本橋隆司の独自研究である.本橋以外にそのように主張する者を私は知らない.
 讃岐うどんといい,コンビニの「ざるそば」といい,《何を使おうと、結局、おいしいそばができればいい》わけがない.本橋隆司の論理で行けば,蕎麦粉三割,二割,一割,あるいは蕎麦粉5%でも《おいしいそばができればいい》ことになるが,そうするとかつて社会問題となった食品偽装を無制限に許すことになる.
 蕎麦粉四割の麺を製造販売しても一向に構わぬが,蕎麦粉よりつなぎの小麦粉が多いものは例えば「蕎麦粉入りうどん」と表示するように,消費者保護の立場に立って法を定めるべきである.原材料表示義務のない立ち食い蕎麦屋の場合はどうするか.蕎麦粉五割以下ならば店名に「立ち食いうどん○○屋」と書かせるようにすればいい.
 また消費者保護とは別のこととして,化学的合成品である加工デンプンを添加した麺を製造販売しても一向に構わぬが,嘘はいけない.それは「蕎麦切り」の文化的伝統に反する.このようなまがい物には,例えば「蕎麦粉入りうどん (加工デンプン使用)」との表示を義務付けることが,食文化を大切にするということなのである.

|

2020年9月 4日 (金)

加工でんぷん入りうどん /工事中

 知人から讃岐うどんを頂戴した.株式会社讃匠が製造している「さぬきうどんの亀城庵」というブランドの「半生うどん」で,常温保存できる製品だ.
「日本三大うどん」は,一に讃岐,二に稲庭,三に水沢 (五島うどんを推すひとも多い) が通り相場だが,稲庭うどん,水沢うどん,五島うどんは日本の伝統食の名に恥じないものだ.それぞれに味わい深い.
 ところが讃岐うどんだけは,歴史が非常に浅い.いやもちろん讃岐でも昔からうどんはよく食べられていたのだが,食文化的に,現在のいわゆる「讃岐うどん」(「さぬきうどん」などの表記の違いは無視する) と昔から「讃岐で食べられていたうどんは」は別物なのである.
 Wikipedia【讃岐うどん】に簡単に紹介されているが,1980年代に香川県は官民こぞって強力なマーケティングを行い,観光客を呼び寄せてブームを作った.私たちのような高齢者は,香川県の田舎で,製麺作業場のごとき粗末な路面店に観光客が長蛇の列を為し,あれよあれよと言っているうちに香川県が「うどん県」と宣言するに至ったのをテレビ,雑誌,単行本書籍で見せられてきた.本来は空腹を満たし,栄養と健康の基礎であるはずの食物が,お祭り騒ぎと娯楽の道具として使われるようになったのである.
 この讃岐うどんブームで注目すべきは,香川県の観光戦略が成功する過程で「讃岐うどんのコシ」信仰が生まれたことである.
 讃岐うどん的なコシのあるうどんがおいしいのだとメディアが持ち上げた結果,昔から大阪や福岡などで人々に好まれてきたフンワリとしたテクスチャのうどんは「弱腰うどん」などと呼ばれるようになり,讃岐うどんよりも格下であるとされるに至った.そして歴史も変哲もない地方のうどんに過ぎなかった讃岐うどんが「日本三大うどん」の一位であるとされるようになった.
 
 この「讃岐うどんのコシ」信仰が生まれたのには,加工でんぷん業界の寄与が大きかった.その経緯を以下に略述しよう.
 私が就職した食品会社は農産物加工を本業とする古い企業で,メインの事業の他にトウモロコシのでんぷんを製造販売していた.トウモロコシに限らないが,農産加工というのは付加価値の低い産業で,トウモロコシでんぷんはスナック菓子やビールの原料にすぎなかった.そこででんぷん製造業界が開発に注力したのが,主にタピオカでんぷんを原料とはするが,これに種々の化学薬品を加えて化学反応を起こす方法で製造する各種の加工でんぷんであった.
 この加工でんぷんが登場する以前,行政当局 (主に農林省/農水省,厚生省/厚労省,ならびにその他関係官庁) は,農産物を加工するに際して物理的方法 (粉砕して粉にするとか,加熱して物性を変化させる等) を用いたものは天然物とみなし,制限なく食品原料に使用できるとしていた.
 また農産物加工において,精製された酵素 (アミラーゼ等) を用いる方法も,微生物そのものを資材として使用する醸造や発酵食品製造の延長線上にあるものとみなし,これまた制限なく食品原料とすることが許されていた.
 ところがでんぷん業界は,加工でんぷんは明らかに化学合成品であるにもかかわらず,原料に農産加工品であるでんぷんを使うことだけの理由で,これはでんぷんの一種である,食品あるいは食品原料であると主張し,日本の行政当局もなぜかこれを認めた.
 その根拠を挙げておく.1979年9月20日に厚生省 (現厚生労働省) が発令した「米国大使館農務参事官宛の通知(環食化第46号)」である.これをもって加工でんぷんは食品としての流通が認められた.
 加工でんぷんが,でんぷんの一種であるとすれば,食品の原材料表示において「でんぷん」とだけ表示すればよい.そのため,日本の消費者の目から加工でんぷんの存在は覆い隠された.日本人の多くは長い間,化学合成品をそれと知らずに食わされていたのである.
 このことについて,加工でんぷんは安全性に問題があるわけではないからいいではないか,との意見を述べる者が今でもいる.
 しかし,人為的に合成した物質は安全性に問題があろうとなかろうと,食品添加物に指定して法の規制下に置くべきなのである.
 なぜなら,食品製造業者の一部に,消費者国民の健康よりも企業利益を優先する悪質な企業が存在するからである.
 食品の製造販売については食品衛生法は簡略な規範しか示していないが,添加物製造業には施設の基準等に詳しい規制がある.
 一般の食品と添加物とでは,取り締まりのレベルが全く違うのだが,これは昭和三十年に発生した森永ヒ素ミルク中毒事件が原点であり,現代に引き継がれているものである.Wikipedia【森永ヒ素ミルク中毒事件】の冒頭に次の通りに書かれている.
 
森永ヒ素ミルク中毒事件とは、1955年6月頃から主に西日本を中心として起きた、ヒ素の混入した森永乳業製の粉ミルクを飲用した乳幼児に多数の死者・中毒患者を出した毒物混入事件である。森永ヒ素ミルク事件(森永砒素ミルク事件、もりながヒそミルクじけん)とも呼ばれる。
 日本では食品添加物の安全性や粉ミルクの是非などの問題で、2017年現在でも消費者の権利として引き合いに出される事例となっている。また、食の安全性が問われた日本で起きた事件の第1号としてもしばしば言及されている。
 
 この事件のあと,食品衛生法の第九次改正 (昭和三十二年六月公布) や食品添加物公定書の作成等々,国民消費者の保護の立場を明確にした改革が行われ,現在の食品安全行政の基礎が築かれた.事件以前にはほとんど野放しであった添加物は定義が改められ (「添加物とは,食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法によって使用するものをいう」),化学合成品の定義 (「化学的合成品とは,化学的手段により元素又は化合物に分解反応以外の化学反応を起こさせてえられた物質をいう」) が新たに定められた.そして添加物はこの定義以後,厳しく取り締まられるようになったのである.
 ところが厚生省は昭和五十四年 (1979年) に突然,添加物と化学合成品の定義からすれば添加物以外の何物でもない加工でんぷんを,添加物としての規制の外に置いたのである.
 この当時,私は既に食品企業に就職して研究開発部門にいたのだが,化学的合成品 (化学的手段により元素又は化合物に分解反応以外の化学反応を起こさせてえられた物質) に他ならない加工でんぷんが,食品として堂々と製造販売されていることに疑問を持っていた.化学的合成品は食品ではなく添加物である.従って,加工でんぷんを製造している会社以外の技術者は,間違いなく全員が「これはおかしい」と思っていたはずだ.これには政治的な背景がある,と皆が思っていた.
 加工でんぷん業界は,加工でんぷんが添加物扱いになると大きな打撃を蒙る.食品の原材料表示に添加物として表示されることになると,食品の製造者は使用を躊躇するからだ.食品製造業者がなぜ加工でんぷんの使用を躊躇するかというと,もちろん消費者の反発を受けるからである.
 昭和五十四年はもう昔のことになった.今となっては,加工でんぷんを食品扱いにするということを厚生省 (当時) に呑ませた政治的な力が何であったか,調べようがない.日本の食品安全行政の黒歴史として残っているだけだ.
 
 しかし結局,こんな無茶苦茶なことが道義的に許されるはずがなかった.加工でんぷんが,化学合成品でありながら原材料表示には「でんぷん」と書かれて,あたかも天然の農産物であるかのように使用されている実態が社会に広く知られるにつれ,「これは化学的合成品であるから,食品添加物として法と行政の規制下におくべきだ」と考える消費者と食品研究者が増えた.
 またこれとは別に (実は食品だけのことではないが) 日本の食品産業が世界標準に足並みを合わせる必要が生じるようになった.わかりやすいのは貿易の面で生じる不都合であった.例えば米国は加工でんぷんを添加物に指定しており,米国から日本へ輸入される食品のラベルには加工でんぷんは添加物として表示されていた.しかし,同じ食品でも日本製は,加工でんぷんは添加物としての表示を免除されていた.
 当然,米国は日本に対して,これは非関税障壁の一つであるとして,加工でんぷんを日本製食品でも添加物として表示するように迫った.加工でんぷんを食品扱いとすることには正当性がないのであるから,当の加工でんぷん業界以外の食品産業界ではこの「外圧」を正当なものと受け止めた.
 この外圧に日本政府は耐えられず,加工でんぷんは食品添加物に指定されることになった.(全面的に屈したのではなく,添加物指定を免れたものもあった)
 結果オーライなら良しとすればいいのかも知れないが,かつて日本人は化学的合成品である加工でんぷんを,添加物だと知らずに食べていた事実は記録されるべきだろう.ここにそのことを記しておく.
 
 さて加工でんぷんは,でんぷんと反応させる薬品のタイプによって分類されている.Wikipedia【加工デンプン】から引用すれば以下の通りである.
 
食品衛生上、日本や欧州連合は、加工デンプンのうち物理的および酵素的処理によるものを食品、化学的処理によるものを食品添加物として取り扱っている。アメリカ合衆国は、すべての加工デンプンを食品添加物とみなしている。
 化学的処理による加工デンプンには以下のような化合物がある。
アセチル化アジピン酸架橋デンプン
アセチル化リン酸架橋デンプン
アセチル化酸化デンプン
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
酢酸デンプン
酸化デンプン
ヒドロキシプロピルデンプン
ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン
リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
リン酸化デンプン
リン酸架橋デンプン
デンプングリコール酸ナトリウム
 
 上の引用文中に《日本や欧州連合は、加工デンプンのうち物理的および酵素的処理によるものを食品》として取り扱っている,とある.
 酵素的処理というのは実際上,でんぷん分解酵素を作用させることであり,これは本質的にでんぷんの消化と同じプロセスであることから,特に安全性には問題ないとするのが一般的見解だった.
 ところが「物理的処理」には問題がある.加工でんぷんの一つに「油脂加工でんぷん」というものがある.技術書や特許明細書等によると「でんぷんに油脂を添加して熟成させて製造する」などと書かれている.問題とはこの「熟成」のことで,製造では,まず油脂を添加したでんぷんを加温して,油脂を酸化させる.こうして油脂の酸化によって生成した過酸化物がでんぷんと化学反応し,でんぷんの性質が変化することを「熟成」と称している.つまり「熟成」とは文学的表現であり,実際には化学反応が起きている.化学反応によって得られるものなら化学的合成品であるはずだと私は思うが,なぜか油脂加工でんぷんは現在も食品であるとされている.食品業界の暗部の一つである.
 以上に述べたように,かつて加工でんぷんは,事実は化学的合成品であるにもかかわらず「食品」であるとされた.そして加工でんぷんを原料に用いた食品の原材料表示において,添加物として表示はされず,消費者は何も知らされずに加工でんぷん入りの食品を食べていた.
 その加工でんぷんの主な用途の一つが麺,特にうどんであった.
 
 
木下製粉株式会社 でん粉の性質その8……加工でん粉
https://www.flour.co.jp/news/article/279/
 讃岐うどんに加工でんぷんが混入されていることの実態 業者自身の告白
 
冷凍日清謹製讃岐うどん5食入り
原材料名
めん (小麦粉、食塩/加工でん粉)
https://www.nissin.com/jp/products/items/8912
 
カトキチ「国産小麦 さぬきうどん」
原材料名 めん〔小麦粉(国内製造)、食塩〕
https://www.tablemark.co.jp/products/frozen/udon/detail/7115997.html
 
でん粉の麺用途における最近の動向
2010年5月
松谷化学工業株式会社研究所 第二部2Gグループリーダー 横山 公一
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho07_000031.html
  讃岐うどんへの加工でんぷん混入の実態
 
加工でん粉の基礎知識と現状について
2010年3月
松谷化学工業株式会社 研究所 第二部 部長 菅野祥三
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho07_000055.html






|

2020年5月20日 (水)

香川県民の80%は讃岐うどんが体質に合わないはずだと女医星子尚美は言う

 ZUU onlineに載っていた《日本人と小麦は相性は…健康になるための理想的な食事法》[掲載日 2020年5月19日 17:10] という実に下らない記事を読んだ.
 
 ZUU onlineとは何かというと,同メディアの公式サイトに《ZUU onlineは、”個人が人生を経営する時代”において、人生経営に必要な「お金と時間」という資本をコントロールするために必要な情報を提供するオンラインメディアプラットフォームです。開設4年で月間430万人が訪問するプラットフォームに成長し、ユーザーの7割がスマートフォン経由で記事を閲覧し利用しています 》と書いてある.さらには産経新聞と提携しているとも書かれているが,株式会社ZUUは,二流新聞と提携しているのを恥ずかしいとは思わないらしい.
 
 で,実に下らない記事というのは,星子尚美という馬鹿女医が筆者である.記事の冒頭は次の通り.
 
現代の日本人の80〜90%は小麦が合わない体質だと言われています。それは小麦に含まれている主なたんぱく質のグルテンが原因です。
グルテンを摂取すると免疫細胞がグルテンを異物や有害なものとみなして攻撃し、さまざまなアレルギー症状を引き起こすのです。そのうち代表的な3つの症状を次にまとめてみました。
 
 星子尚美によると,その三つの症状は以下の通り.《 》は原文からの引用である.
 
* 小麦アレルギー
 症状は《皮膚のかゆみ、蕁麻疹(じんましん)、くしゃみ、鼻水、腹痛、下痢、喉の違和感、呼吸困難
* グルテン過敏症
 症状は《頭痛、めまい、うつ病、倦怠感(けんたいかん)、情緒不安定、アトピー、喘息
* セリアック病
 症状は《慢性の下痢、腹部膨満感と痛み、体重減少、慢性疲労、過敏性腸症候群
 
 星子は,日本人の80~90%は,小麦アレルギー,グルテン過敏症,セリアック病のいずれかであるという.
 だとすると,毎日かならず讃岐うどんを食べる香川県民の80~90%は,《 》に挙げた諸症状を,日々発症していることになる.w
 
 普通の人は,自分が《現代の日本人の80~90%は小麦が合わない体質だと言われています。それは小麦に含まれている主なたんぱく質のグルテンが原因です 》と,事実と異なることを書いてしまったとしても,即座に「それなら香川県の人はどうなるんじゃ」と自らツッこむことができる.このように誤りを瞬間的直感的に見抜く力を知性というが,自分の誤りを正すことは特に大切だ.
 ところが真正のバカは,それができない.書き出しでそもそも間違った前提を立てたのに,気づかずにそのあと長々と阿呆なことを書き連ねることになる.星子尚美はその典型例である.
 
[追記]
 星子尚美が自著『腸のことだけ考える』に載せた略歴から以下に引用.《全人的医療を目指した自由診療のみの代替医療のクリニックを開業 》あたりは怪しさ満載である.
 
昭和31年生まれ、星子クリニック院長・医学博士。昭和57年、東京女子医科大学医学部卒業。昭和63年、熊本大学医学部大学院修了。医学博士号取得。放射線科専門医取得。平成5年、産業医取得。平成11年、健康スポーツ医取得。平成18年、日本臨床抗老化医学会認定医取得。アロマコーディネーターライセンス取得。米国ISNF公式認定サプリメントアドバイザー取得。平成21年、キレーション点滴専門医取得。ビタミンミネラルアドバイザー取得。高濃度ビタミンC点滴療法専門医取得。アンチエイジング統合医療認定医取得。平成26年、東久迩宮国際文化褒賞授賞(予防医学に貢献した等)。アーユルヴェーダハーブ専門医取得。大病を患い2回も九死に一生を得たことから、医師として自分が知り得た知識を伝えることが使命と考え、正しい医療とは何かを探求する。全人的医療を目指した自由診療のみの代替医療のクリニックを開業。がん、生活習慣病などの難病に苦しむ患者の治療と予防医療を行っている。食事療法をはじめとし、腸内洗浄や便移植などの最先端医療を駆使し、患者に優しい、カラダに優しい検査治療を行う。一般的な病院やクリニックとは一線を画すスタイルで治療を行っている

|

2020年4月 5日 (日)

塩はかけないで芋を味わうのよ

 現下の日本は「高齢社会」だが,三十年くらい前には,やがて来る「高齢化社会」を見据えて,これからどうしようかというのが食品業界の商品開発のテーマだった.
 そこで「ナトリウムがだめならカリウムがある!」ということで,加工食品に原料として使用する食塩の一部を,塩化カリウムで代替するアイデアが色々生み出されたのであるが,結論からいうと,これは不発だった.
 というのは,腎臓に何らかの不具合がある人は余剰のカリウムを体外に排出することができず,カリウム摂取が時として命に関わるようなリスクをもたらすからである.減塩商品の一部にカリウムは使用されているが,私見としてはお勧めできない.野菜や果物は元々カリウム含有量が大きいので,これを日常普通の食生活の中で食べることにより摂取されるカリウム量に抑えておくのがよいだろうと思う.
 塩化カリウムの使用はうまくいかなかったが,食事における減塩が注目され始めた当時から有望と思われたのは,「旨味」を強化することで食品中の塩分を減らそうという試みだった.
 これは「出汁」を基本的な柱としている日本の料理にジャストフィットして,現在ではこれが減塩食生活の基本となった.
 
 さて最近のテレビCMで笑ったのは,湖池屋のプライドポテトだ.プライドポテトのラインアップは〈神のり塩,感激うす塩味,衝撃のコンソメ,芋まるごと〉だが,このうちの〈芋まるごと〉が食塩無添加なので,買って食べてみた.味付けは昆布味である.
 するとこれがなかなか旨いのだ.ポテトチップスも,旨味を強化すれば塩味なしで充分にイケルことがわかった.
 従前のポテトチップスを,減塩のために敬遠していた向きにはお勧めである.
 
 ちなみにテレビCMは《芋の讃歌「芋まるごと」篇》と《芋の讃歌「神のり塩」篇》がある.

|

2020年2月27日 (木)

白糸の滝

 Wikipedia【コンニャク】には次の記述がある.
 
しらたき・糸こんにゃく
関東では材料を細い穴から押し出してから凝固させて作る細い糸状のこんにゃくを「しらたき(白滝)」と呼んでいた。これに対して、関西では板こんにゃくを細く切って糸状にした物を糸こんにゃくと呼んでおり、製法の違いもあって両者は別物と言われていたが、現在は糸こんにゃくも細い穴を通す製法になったために両者を区別する方法はなくなったとされる。このように細い糸状のこんにゃくを、主に関東地方ではしらたき、関西地方では糸こんにゃくと呼んでいる。なお、近年は東西問わず、白い「しらたき」や、おでん用に機械で巻かれた(結ばれた)ものが普及しているため、白いものを「しらたき」、こんにゃく色のものを「糸こんにゃく」と呼ぶことが一般的である。》(引用文中の文字の着色は当ブログの筆者が行った)
 
「こんにゃく色」ってなんだよ.w
 昔は,コンニャクは生のコンニャク芋を摺り下ろして作ったのであるが,この方法では,大雑把に作ると芋の皮が混入するので,出来上がりの色が暗灰色になる.農家が自家用に作るコンニャクがこれである.しかし売り物にするために丁寧に皮を剥いて作ると,摺り下ろした芋は白くなる.これを細い穴から押し出して凝固させたものが「しらたき」であった.従って「しらたき」は元から白い色をしていたのである.Wikipediaは《白い「しらたき」が普及している 》と書いているが,これを書いたやつは物事を知らぬとみえる.そもそも「しらたき」は,色が白いから全国各地の白糸の滝に見立てて「白滝」と呼んだのである.
 近代になってコンニャク製造が家内工業からもう少し食品工業として発達すると,原料にコンニャク粉 (精粉;精製マンナン) を用いるようになった.コンニャク粉は白いので,「しらたき」はこの製法で作っても問題ないのだが,板コンニャクは困る.コンニャク粉で作った白い板コンニャクは,昔ながらの暗灰色のコンニャクと全くイメージが異なるため,消費者に著しく不評だった.
 そこでコンニャク製造業者は,コンニャクを凝固させる際にヒジキの粉を加えて,板コンニャクを暗灰色にした.これが現在も作られている板コンニャクである.余談だが,白いコンニャクや,凝固させるときにアオノリやアオサの粉末などを加えて着色してスライスしたものは「刺身コンニャク」呼ばれている.
 ヒジキで着色してから普通の「しらたき」と同じように細い糸状 (冷麦くらいの太さ) にしたものもあるが,これは「しらたき」と呼ぶわけにはいかないので「糸コンニャク」という.しかしこれはあまり普及しなかった.糸コンニャクには,トコロテンくらいの太さのものもあり,これも「糸コンニャク」と呼ばれていて,こちらは店頭にあることが多い.
 
 さて色々と無駄知識を披露したが,話は白くて細い糸状の「しらたき」のことだ.
「しらたき」は主菜の材料にはなりにくい.料理本でもテレビの料理番組でも.必ず副菜の材料として扱われる.そんな副菜のレシピを,いくつかのレシピサイトから拾って,「しらたき」の下拵えのところを抜き書きしてみる.以下の引用文中の文字の着色は,当ブログの筆者が行った.
 
〈オレンジページnet〉
* しらたきとにんじんのいり煮
鍋にしらたきをほぐして入れ、かぶるくらいの水を加え、中火で6~7分ゆで、水にとって臭みを抜く。水けを絞り、食べやすいざく切りにする。にんじんは皮をむいて長さ4cmの細切りにする。
* しらたきチャンプルー
しらたきは食べやすい長さに切る。鍋に湯を沸かし、しらたきを入れて3~4分ゆでる。ざるに上げて水で洗い、水けをきる。玉ねぎは縦に幅7~8mmに切る。にらは長さ5cmに切る。
* しらたきの明太子煮
しらたきは袋の水をきり、水からゆでる。沸騰後2~3分したら水にとり、ざっと洗ってざく切りにする。しし唐辛子は細切りにする。
 
〈クックパッド〉
* ヘルシーしらたきと小松菜としめじの炒め物
ザルにしらたきを入れ、臭いがなくなるまで洗って、水分をきり、カットし、フライパンに移し、火にかける
* 手軽な和のおかず 白滝とネギの金平風
シラタキは5cm程度の長さになるように切る。熱湯で2〜3分茹で、ザルにあげて水気をきっておく。
 
〈クラシル〉
* 簡単ヘルシー!しらたきのピリ辛炒め
しらたきを食べやすい長さにカットします。
 
〈レタスクラブニュース〉
* しらたきフォー
三つ葉は3~4cm長さに切る。しらたきはざく切りにし、熱湯でさっとゆでてざるにあける。スープの材料のにんにくは包丁の腹で潰す。
 
〈キッコーマン「ホームクッキング」〉
* さやいんげんとしらたき、豚肉の煮物
しらたきは熱湯で1~2分ゆでて水気をきり、食べやすく切る
 
〈味の素「レシピ大百科」〉
* 糸こんにゃくのきんぴら
しらたきは塩もみしてくさみを取ってから洗い流し、食べやすい長さに切る
(余談だが,このレシピはたぶん社員が書いたものだ.タイトルには「糸こんにゃく」としておきながら本文には「しらたき」としている.こういういい加減なところがいかにも味の素という会社らしい)
 
 以上に御覧の通り,「しらたき」は料理するときに必ず「食べやすい長さに」切ってから使う.言い換えれば,「しらたき」は,わざわざ「食べにくい長さ」に製造されている.
 私が生まれるはるか前のことだから「いつ」とは明記できないが,たぶんコンニャク製造が食品中小企業として成立して以来ずっと「しらたき」は「食べにくい長さ」に製造されてきたのである.
 私見では,「しらたき」の適切な長さは5~10cmくらいであるが,「しらたき」を袋から取り出して決まった長さに切り揃えるのは至難のわざである.
 必ず,短いものと長いものが混在してしまう.
 ざく切りにしようものなら,5mmとか1cmとか,クズみたいなものができてしまう.
 このことは,料理する者であればみんな知っているのであるが,それでもなぜかコンニャク製造会社は「しらたき」をわざと無駄に長くしているのである.
 私はこのことを,我が国の食品産業における最大の謎というか,食品会社の怠慢として指摘しておきたい.
「十センチしらたき」とか「ざく切りしらたき」をなぜ作ろうと思わないのか.なぜ消費者の声に耳を傾けてユーザー・フレンドリーの商品を開発しようとしないのか.
 まことにもって不思議でならぬのであります.おわり.

|

より以前の記事一覧