続・晴耕雨読

本や映画などについて.

2017年9月17日 (日)

糖質制限食本・補遺(十二)

 前回の記事《2017年9月11日 糖質制限食本・補遺(十一) 》の末尾を再掲する.

「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を世間に広めた張本人はインチキ医者の他にもいて,それは食品業界である.とりわけ健康志向の商品やサプリメントを製造販売している会社が酷い.
 現在では一般向け百科事典にも《以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている》と書かれているにもかかわらず,未だにこんな嘘八百を書きまくっている食品会社がある.元食品企業にいた者として,平然と消費者をたぶらかすこの会社には恥を知れと言いたい.

 昭和の終わり頃,低密度リポタンパク質すなわち LDL を「悪玉コレステロール」,高密度リポタンパク質すなわち HDL を「善玉コレステロール」と呼んで,私たちの体の血漿 (血液を遠心分離した上澄の液体;この上澄にリポタンパク質が含まれている) 中の各種リポタンパク質を二種類に単純化して分類し,このうちの「悪玉コレステロール」が動脈硬化の原因であるという虚説を似非医者や無責任な食品企業が広めた.

 そもそもリポタンパク質は,コレステロールを構成成分として含んでいるだけであり,コレステロールとは別物なのである.
 しかるに似非医者や悪質無責任な食品企業は無知無学であるから,リポタンパク質とコレステロールを混同してしまった.
 さらにその上に彼らは,LDL が動脈硬化の原因だなどとしたものだから,リポタンパク質と健康に関する私たちの理解は大きく混乱したのであった.

 この混乱は現在でも尾を引いていて,勉強不足の開業医や,知ったかぶりな一般人のブログに「コレステロールは生体を構成する大切な成分ですから,善玉も悪玉もありません」などと一見するともっともらしいことが書かれているのを目にすることが多いが,しかしこの文章自体が,彼らが細胞 (の膜構造) に含まれているコレステロールと,血漿リポタンパク質を混同していることを示しているのだ.この混同はかなり根深く浸透しており,もはや取り返しがつかないかも知れないと思われる.

 さてコレステロールとリポタンパク質とを混同する誤りの主たる原因は,測定法に対する無理解にあったと思われる.
 血漿リポタンパク質の測定法 (分析法) は,臨床検査技師にとっては基礎知識中の基礎知識であるが,その一方で,医師でも理解していない人がいる.間違った健康知識を書きまくっている一般人のブログなんかは言うまでもない.

 リポタンパク質の測定法の原理は大雑把に言うと,表面に親水性タンパク質が存在する球状構造をしているリポタンパク質 (表面には親水性タンパク質の他にコレステロールの持つ水酸基も露出しているが,内部には,脂肪酸とエステル結合した"コレステロールエステル"と,トリアシルグリセロール <つまり脂肪> がある) に,ある種の界面活性剤を作用させると,リポタンパク質の構造が破壊されて,中に含まれているコレステロールおよびコレステロールエステルが酵素反応を受ける状態になる (この状態を一般にミセル化コレステロールと呼んでいる) ことを応用する分析方法である.

 ミセル化コレステロール状態のコレステロールエステルは,これを分解する酵素であるコレステロールエステラーゼと反応させて脂肪酸を分解除去し,コレステロールにする.
 このコレステロールと,リポタンパク質中に元から存在したコレステロールに対して,コレステロールを酸化する酵素であるコレステロールオキシダーゼを作用させる.
 この酵素反応により過酸化水素が生じるので,この過酸化水素に発色試薬を加えて呈色反応を起こし,吸光度を測定して定量する.(過酸化水素の定量法は種々あるので詳しい説明は省略する)
 これが血漿中リポタンパク質の測定原理であるが,つまり,血漿中のリポタンパク質の量 (実際には濃度;例えば HDL の濃度) をコレステロールの量 (実際には濃度;例えば HDL-コレステロールの濃度) で表現しているわけだ.

 では,実際の血漿中のリポタンパク質は HDL 他の混合物であるから,これをどうやって区別して測定するかが次に問題となる.
 これまたブログのレベルでは詳しい説明を省略せざるを得ないが,種々の分離手段 (超遠心法,電気泳動法,ゲルろ過HPLC法など) で各リポタンパク質を分離し,それぞれに含まれるコレステロールを分析すればよい.しかし簡便性と費用の点から,実際には上に述べたコレステロール分析の際に,複数の界面活性剤を巧妙に用いて HDL と LDL を区別して測定する方法が開発されて測定キットが販売されている.

 以上が血漿リポタンパク質の測定方法であるが,これにより測定される HDL-コレステロール と LDL-コレステロールの意味はよしとして,では総コレステロールとは何か.
 次にそれを説明する.
(続く)

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2017年9月11日 (月)

糖質制限食本・補遺(十一)

 前回の記事《糖質制限食本・補遺(十) 》の末尾を再掲する.

そういう強面の一般老人の目から見て,東京都健康長寿医療センター研究所で指導的立場の地位に就いている新開省二氏のコレステロールに関する知識レベルは,実にお粗末の一言に尽きる.
 そのお粗末振りを示すためには,そもそもの話から始めねばならない.
 そもそも総コレステロールとは何か.

 そもそも総コレステロールとは何か.
 自然学の専門家 (研究者,技術者,文筆家など) が学術用語を一般の人に対して用いる際に,不正確な言い換えを行うことがある.
 日常語「コレステロール」はその身近な一例である.「体脂肪を燃焼 (この「燃焼」は比喩であって,科学の言葉ではない) させる」などもそうだ.
 正しい意味の「コレステロール」は化学の学術用語であり,ステロイドと称される大きな化合物群の,その中のステロールと呼ばれるサブグループに属する有機化合物の一種である.
 ステロールには多数の種類があるが,ステロールの基本的な骨格を下の図に示す.学生時代に有機化学を学んだ人には忘れられない構造だ.

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 次にコレステロールの構造を立体化学 (ここでは特に説明の必要はないので省略) も含めて示す.これをすらすらと描けるのは大学とか企業で現在も化学に携わっている人だろう.
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(上の二つの図はいずれも Wikipedia【ステロール】,同【コレステロール】 から引用したパブリックドメインの画像である)

 コレステロールという有機化合物についての説明はここまでとする.なぜなら,医師や私たち一般人が日常語でコレステロールと呼んでいるものは,実は別の物質だからである.
 その別の物質とは,リポタンパク質という.
 Wikipedia【リポタンパク質】から,まずリポタンパク質の概略説明を引用する.

リポタンパク質(リポたんぱくしつ、英語: Lipoprotein)は、脂質が血漿中に存在する様態で、脂質とアポタンパク質が結合したものである。
脂肪酸のような分極した分子を除き(遊離脂肪酸)、脂質を血漿中に安定に存在させるには、タンパク質(アポタンパク質と呼ぶ)と結合させる必要がある。リポタンパク質は、トリアシルグリセロール(トリグリセリド、中性脂肪)および、細胞の生命維持に不可欠なコレステロールを多く含む球状粒子である。カイロミクロン(キロミクロン)、超低密度リポタンパク質(英語版) (VLDL)、中間密度リポタンパク質(英語版) (IDL)、低密度リポタンパク質(英語版) (LDL) 、高密度リポタンパク質(英語版) (HDL) の各種類があり、比重が大きいほどアポリポタンパク質の割合が高く、逆に脂質の割合が低い。

 上の引用箇所にあるように,リポタンパク質には幾つかの種類があるが,その中でも私たちの疾病と健康に関して重要な意味を持つ低密度リポタンパク質 (LDL) について,同 Wikipedia【リポタンパク質】から引用する.
 下の引用部分では,重要なところを原文の文字色を変えて強調した.

低密度リポタンパク質(LDL)
1.019 - 1.063 g/mL のリポタンパク質で、直径は 22 nm 程度。
リポタンパク質の中でコレステロール含有量が最も多く、末梢組織にコレステロールを供給する。以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている。最新のACC/AHAガイドラインでは家族性高コレステロール血症の患者以外ではLDLの目標値を設定するエビデンスはないとされている。apo B-100やapo Eを認識するLDL受容体を介して主に肝臓に取り込まれ異化される。
LDL受容体欠損症は家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)とよばれ、特にホモ欠損症では総コレステロール値が600mg以上にもなり思春期にも虚血性心疾患など重篤な動脈硬化症に至る。
LDLが酸化・変性・糖化することによってLDL受容体への親和性を失う(酸化LDL)。その場合、スカベンジャー受容体などを経てマクロファージに取り込まれ、マクロファージの機能を変化させることにより動脈硬化症を発症すると考えられている。
最近ではスモールデンス(sd-LDL)と呼ばれるLDL受容体への親和性を失い、小粒子ゆえに血管壁に浸透しやすい種類のLDLが虚血性心疾患に関与していることもわかってきた。粒子径は25.5nm以下である。比重で分画した場合1.040 - 1.063のLDLに相当する。

 昔から開業医の中には,自分で何か研究したわけでもないのに,他人が発表した学術論文を読み,あちこちからかき集めたネタで大衆向けの健康ハウツー本を出版して金儲けを企む不心得者がいた.今でもテレビのエンタメ系情報番組には,その種の単なる開業医が「名医」とか「権威」などと肩書で登場してもっともらしい蘊蓄を垂れている.
 そういう連中が流行らせたのが「悪玉コレステロール」であった.
 私はもうすぐ四十歳になろうかという頃,高度不飽和脂肪酸を含む植物由来の複合脂質が血中脂質に与える影響を調べていたことがあって,当時読んだ専門書には,既に「悪玉コレステロール」という呼び方が不適切であると書かれていた.二十年以上前の話である.
 当時の最新知見では既に,動脈硬化の主因は LDL そのものではなく,《LDLが酸化・変性・糖化することによってLDL受容体への親和性を失う(酸化LDL)。その場合、スカベンジャー受容体などを経てマクロファージに取り込まれ、マクロファージの機能を変化させることにより動脈硬化症を発症する》とされていたのである.
 だから,テレビや大衆向けの本で「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を滔々と垂れ流すインチキ医者を,研究者たちは苦々しく思っていたのである.
 「悪玉コレステロール→動脈硬化」説を世間に広めた張本人はインチキ医者の他にもいて,それは食品業界である.とりわけ健康志向の商品やサプリメントを製造販売している会社が酷い.
 現在では一般向け百科事典にも《以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている》と書かれているにもかかわらず,未だにこんな嘘八百を書きまくっている食品会社がある.元食品企業にいた者として,平然と消費者をたぶらかすこの会社には恥を知れと言いたい.
(続く)

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2017年9月 7日 (木)

糖質制限食本・補遺(十)

 前回の記事《糖質制限食本・補遺(九) 》の末尾を再掲する.

なぜ新開氏だけが不正解なのか.(爆)
 たぶん新開氏の学力が中学生以下なのではない.
 氏は「朝からテレビを見ているような視聴者には何を言ってもわかるまい」とナメているのである.
 ところが,朝からテレビを見ているような老人
σ(^_^;) でも騙すのは簡単ではないのである.

 問題がコレステロールのことだから,健康診断の血液検査についての話から始める.
 下の画像は,私の血液検査 (血液以外の検査も含めて,一般には生化学検査という) 結果の一部をトリミングしたものである.

Kensa_results

 検査結果が基準値を外れていると,各検査項目の結果数値の横に"H"あるいは"L"と印字されたり,基準値範囲にあるか,あるいは基準値よりも低いか高いかが結果欄に"*"などで印字される様式が普通だ.
 私の例では,中性脂肪が基準値からわずかに高くて"H"が打たれていますなあ.しかしあとは基準値範囲内だ.(基準範囲内にあることと,正常であることとは別の話だが)

 二十代の若い男性は,健康診断の血液検査で何か問題を指摘されるなんてことはあまりないだろうから,コレステロールに関する医学知識はほとんどないだろう.
 しかしこれが中年期に差し掛かると,夜討ち朝駆けの仕事の疲労が貯まって運動どころではなくなり,連日連夜の飲酒喫煙カラオケの結果,血液検査結果の基準範囲外欄に"*"が一つ増え,二つ増え,痛風の発作に怯えつつ遂には十数キログラムの内臓脂肪を蓄積して立派なメタボおやじとなるのだ.

 しかし会社員という種類の人間は転んでもただでは起きぬ.二十四時間戦える (死語) 会社員として必須のスキルである自己啓発の徹底教育を受けているから,ただ茫然と事態の悪化を眺めているわけではない.
 生活習慣病とは何かについてきちんと勉強し,コレステロールについての正確な知識を身に着けるのである.
 その結果,そこら辺の開業医と対等に議論できるほどの知識レベルに到達した者も少なくない.ただし,生活習慣病について深く学んでも,自分の生活習慣の立て直しがまた別の話であることは言うまでもない.

 そういうわけで,現役の頃は歩く生活習慣病とまでいわれた団塊爺さんたちをコレステロールに関して騙すのはかなり大変なのである.
 そういう強面の一般老人の目から見て,東京都健康長寿医療センター研究所で指導的立場の地位に就いている新開省二氏のコレステロールに関する知識レベルは,実にお粗末の一言に尽きる.
 そのお粗末振りを示すためには,そもそもの話から始めねばならない.
 そもそも総コレステロールとは何か.
(続く)

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2017年9月 6日 (水)

糖質制限食本・補遺(九)

 前回の記事《糖質制限食本・補遺(八) 》では,「高齢者はコレステロール値が高いほうが健康長寿である」という新開氏の主張の根拠として,同氏が示したデータ『総コレステロールと寿命の関係』は,(1) 「寿命」として生存率を用いているが,生存率は健康とは無関係であるから,健康長寿に関する調査データとしてはそもそも不適当であること,(2) さらに,観察期間がわずか八年しかなく,健康長寿を云々するデータとしては余りにも短期間の調査資料であること,を挙げて批判した.
 次に,新開氏の医師として研究者としての不誠実さを指摘する.

[C]
 再度,《常識が変わる!シニア世代の食生活 あなたの親は大丈夫? 》にある《総コレステロール値と寿命の関係》というグラフを見てみよう.
 既に述べたように,このデータは六十五歳以上の観察対象者を総コレステロール値が「高い人 (男 209以上;女 230以上)」「やや高い人 (男 185~208;女 207~229)」「やや低い人 (男 157~184;女 183~206)」「低い人 (男 156以下;女 182以下)」の四グループに分けて八年間追跡観察し,縦軸を累積生存率,横軸を追跡年数としてプロットしたものである.
 下に《総コレステロール値と寿命の関係》を撮影した映像を再掲する.鮮明なグラフは《常識が変わる!シニア世代の食生活 あなたの親は大丈夫?》中の図を参照して頂きたい.

20170902a

 中学受験塾で有名な日能研が,電車内広告で私立中学の受験問題を紹介 (例えばこんな広告) しているが,それを模して書くと↓のような問題になる.

[問]
 グラフ《総コレステロール値と寿命の関係》を見て,グラフに示されている内容として正しいものは次のいずれですか.
<A>
 総コレステロールが「高い人」のグループは,観察開始後八年後の生存率が,「やや高い人」「やや低い人」「低い人」の三グループよりも高い.すなわち高齢者は総コレステロール値が高いほうが長寿である.
<B>
 総コレステロールが「低い人」のグループは観察開始後八年間,七十三歳までに生存率の低下が見られるが,総コレステロールが「高い人」「やや高い人」「やや低い人」の三グループ間では,生存率の差はない.

 新開氏の主張は<A>だが,もちろん正解は<B>である.これほど明解なデータであれば,有意差検定を行うまでもなく,総コレステロールが「高い人」「やや高い人」「やや低い人」の三グループ間で生存率の差はないとしてよい.
 偏差値の高い中学を受験する生徒なら全員が正解するだろう.新開氏は,自分のデータを使った問題を間違ってどうする.(笑)

 なぜ新開氏だけが不正解なのか.(爆)
 たぶん新開氏の学力が中学生以下なのではない.
 氏は「朝からテレビを見ているような視聴者には何を言ってもわかるまい」とナメているのである.
 ところが,朝からテレビを見ているような老人 σ(^_^;) でも騙すのは簡単ではないのである.
(続く)

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2017年9月 3日 (日)

糖質制限食本・補遺(八)

 前回の記事《糖質制限食本・補遺(七) 》の末尾を再掲する.

柴田「でも今まで,(私たちが) 若い頃は,コレステロールが高いと健康長寿じゃないって言われたわけでしょ? なんでそう急に変わるんですか?」
 新開「あ,そういう長い期間の追跡調査ってないんですよ実は」

 この新開氏の発言を聞いて柴田理恵さんは,しばし茫然とした.
 従来,学者や身の回りの医師たちが私たちに「コレステロール値が高いと健康長寿になれない」と説明してきたことが,実は全く何の根拠のないことだったと,新開氏が悪びれもせず平然と言い切ったからである.
 医師という職業に信頼感を持っている一般人であれば,誰だって新開氏の鉄面皮に茫然とするだろう.しかし医師にも色々ある.言うまでもなくほとんどの医師は誠実であるが,健康に係る研究分野には,ほとんどペテン師に近い者たちがいるのである.

 私は新開氏が「ほとんどペテン師」だと上に書いたが,それはどういうことか.
 《常識が変わる!シニア世代の食生活 あなたの親は大丈夫? 》の概要を載せているページの中に,《総コレステロール値と寿命の関係》というグラフがある.六十五歳以上の観察対象者を総コレステロール値が「高い人」「やや高い人」「やや低い人」「低い人」の四グループに分けて八年間追跡観察し,縦軸を累積生存率,横軸を追跡年数としてプロットしたものである.これは東京都健康長寿医療センター研究所が発行した『健康長寿新ガイドライン・エビデンスブック』(2017年) の p.4 にある図5を引用したものである.
 細かいところは上述のリンク先を見て頂きたいが,当日の放送画面を撮影してトリミングしたものを下に示す.

20170902a

 さて,新開氏が柴田理恵さんに,これまで医師や学者たちが「コレステロール値が高いと健康長寿になれない」と説明してきたことが,実は全く何の根拠のないことだったと語り,柴田さんが驚いて二の句を継げずにいると,慌てた若い局アナが場を取り繕うようにして次のように発言した.

局アナ「ただですね,新開さんが研究されたデータで,コレステロール値が高いというものが,高いほうがいいと証明されるものがあるんです.それがこの『総コレステロールと寿命の関係』なんです」

 この若い局アナは台本を読んでも,かわいそうに何のグラフやら理解ができなかったと見えて,説明がシドロモドロで《コレステロール値が高いというものが,高いほうがいいと証明されるものがあるんです》はまるで日本語になっていないが,それは生放送だから不問に付す.
 が,問題はそのグラフ『総コレステロールと寿命の関係』だ.
 新開氏は番組中で『総コレステロールと寿命の関係』を示しながら,高齢者はコレステロール値が高いほうが健康長寿なんですと語ったのだが,これは大嘘である.これを逐次解説しながら新開氏の詐欺師ぶりを明らかにしていく.

[A]
 まず,新開氏は,健康長寿の指標として累積生存率を用いているのだが,頭がおかしいのではないか.(生存率曲線については Wikipedia【生存率曲線】を参照のこと)
 つまり生存率が表現しているのは「まだ生きているかもう死んだか」だけである.健康という概念が入り込む余地はない.すなわち,認知症が進行していようが,末期のガンであろうが,生きている観察対象者は,生存しているほうにカウントされるのである.
 であるから,健康長寿の指標としては,生存率ではなく,「自立して生活している健康な人の割合」でなければならない.
 しかるに何故に新開氏は,健康とは無関係な生存率を指標にしておきながら,これが恰も健康長寿の指標であるかのように話をでっちあげたのか.
 実は『健康長寿新ガイドライン・エビデンスブック』は一般書店では入手できない書籍である.また購入する価値があるとは思えないので入手して子細に検討はしていないが,生存率を指標にした理由は,健康人の割合を指標にすると何か都合の悪い事実があきらかになってしまうからという理由が考えられる.

[B]
 次に,追跡観察期間の短さに関する疑問だ.
 『総コレステロールと寿命の関係』における観察開始は,対象者が六十五歳の時であるから,観察終了の八年後でもまだ七十三歳である.
 先月発表された2016年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳であるが,この数字も健康状態と無関係だという問題はあるものの,一般国民の感覚からすると,男は八十歳まで生きられれば人並みである.
 そして,長寿とは何歳のことですかと質問されれば,おそらくほとんどの男は九十歳と答えるだろう.百歳はとても叶わぬ望外のこととして,まためでたい長寿の九十歳は無理かも知れぬが,しかしせめて八十五までは生きたいなあ,生きられればいいなあと皆思っているだろう.
 しかるに新開氏の調査研究は,呆れたことに七十三歳までの観察しかしていないのである.七十三歳では,長寿を云々する以前の,入口にも達していないのである.
 柴田理恵さんには,これまで健康長寿と総コレステロールの関係に関する長期間にわたるデータはない (実はこれが大嘘.後述する) と言っておきながら,自分の研究はわずか八年しかやっていないのである.ペテン師の面目躍如とはこのことだ.
(続く)

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2017年9月 1日 (金)

Goodbye Brother

 先月,《2017年8月11日 一粒の理想を握りしめて 》の末尾に次のように書いた.

誰が言ったか忘れたが,映画批評というものは「読んだ人を映画館に出かけさせてナンボのもの」なんだそうだ.
 その意味で桜庭一樹はなかなかよい映画批評家であるかも知れない.これまでアメコミ映画をバカにしてきた私を,『ワンダーウーマン』を観に行く気にさせたからである.

 このように書いた通り,昨日,『ワンダーウーマン』を観てきた.
 私がシートを予約したこの日の最初の上映は 12:10 からで,満席のシアター内部には子供の姿は見当たらず,割と観客の年齢層は高めかなという印象だった.
 公開前には Wikipedia【ワンダーウーマン】に詳細な解説は書かれていなかったと思う.『ワンダーウーマン』は,目を皿のようにしてスクリーンを見つめなけりゃならぬ作品ではない娯楽映画だということもあって,私は予備知識なしで映画館に出かけたのだが,現在は,鑑賞後に作品を振り返るのに必要十分な記述がなされているので,あとでレビューを書くのにありがたい.

 さて桜庭一樹は,週刊文春に連載している映画評欄で

王女が成長して女王になる物語に必要なシーンとは、なんだ?
それは純粋だった主人公に「手を汚させる」ことなのだ。嫌悪していた悪に自ら染まり、血濡れてしまった手に、それでも残った一粒の理想を握りしめ、あなたも、わたしも、かつて王国を継いだ。


とレビューを書いた.
 だがこの桜庭一樹のレビューに感心して劇場に足を運んできた私は,映画のほんの導入部で,腰が抜けるほど驚き,二千五百円のエグゼクティブシートから転げ落ちたのであった.

 物語の始まりは神話世界である.
 神々の王ゼウスは,自らの姿に似せて,地上に人間を創造した.
 だが,ゼウスと最高位の女神たるヘラとの間の子である戦いと狂乱の神アレスは,人間を世界を穢すものとして憎み,これを滅ぼさんとしてゼウスに戦いを挑んだ.
 その最終決戦でゼウスは倒れ,アレスは何処かに姿を消した.
 今際の際にゼウスは,アレスの復活に備えてアマゾン族の女王ヒッポリタに「ゴッドキラー (神殺し)」を託した.そして来るべき戦いのその時まで,太平洋上の孤島セミッシラにバリアを施し,一族を島に秘匿温存した.(ただしギリシア神話においてアマゾン族は戦神アレスを祖にする一族であるから,これは映画独自の設定である)
 映画『ワンダーウーマン』第一作は,この「ゴッドキラー」を巡る物語である.

Amazonbattle

武装したアマゾン像
(
Wikipedia【アマゾーン】から引用;著作権料フリー画像である)

 さてセミッシラで王女として育てられた女王ヒッポリタの娘,ダイアナ・プリンス (かつてバリアを通り抜けてセミッシラを訪れ,アマゾン族を守るために命を落とした女性がいた.この女性の名,ダイアナ・トレバーを称えて王女はダイアナと名付けられた) は,ある日,たまたまバリアを飛行機で潜り抜け,不時着したアメリカ陸軍航空部のキャプテン,スティーブ・トレバーを救助し,彼から外部世界で起きている戦争すなわち第一次世界大戦のことを聞く.奇しくもスティーブ・トレバーはダイアナ・トレバーの息子であった.

 スティーブの語る世界大戦の話から,この戦争がアレスの仕業であると直感したダイアナは,人間世界を守るために,スティーブに同行して島を出ることにする.人間世界を守ること.それがゼウスから託されたアマゾン族の使命だからである.
 だが小さな船で島を出ようとしたダイアナは母ヒッポリタに見つかってしまう.
 外の世界へ旅立つダイアナに女王は言う.

母「行けば戻れなくなる」
ダイアナ「それでも世界を守りたいの」

 娘ダイアナが我が手元を去ることは神話時代からの定めであること,アレスとの決戦の時が来たことを承知していた女王は,静かに娘を見送る.

 ここまでがプロローグであるが,ここでダイアナはアマゾンの女王にはならないことが明示される.(「行けば戻れなくなる」)
 いやほんとに驚いた.桜庭一樹は『ワンダーウーマン』を《王女が成長して女王になる物語》と書いたが,ダイアナはアマゾンの女王にならないと物語の冒頭で明示されたのであるから,シートから転げ落ちずにいられようか.
 ではダイアナは成長して何者になるのか.
 それは作品を観て頂くのがよろしいからここには書かない.
 ただし物語のクライマックスで,アレスに勝利したダイアナの台詞が "Goodbye Brother" だったとだけ書いておこう.

 いずれにせよ,桜庭一樹がレビューに《それは純粋だった主人公に「手を汚させる」ことなのだ。嫌悪していた悪に自ら染まり、血濡れてしまった手に、それでも残った一粒の理想を握りしめ》とかなんとか,もっともらしく書いたのは,呆れたことに『ワンダーウーマン』のストーリーとは大違いの,全くの大嘘だったのである.
 桜庭は一体全体,試写室のスクリーンで何を見ていたのだ.居眠りこいていたのか.それとも頭が悪くて物語の進行が理解できなかったのか.
 頭が悪くてストーリーがわからなかったとすると,桜庭の小説が実につまらぬことと符合するから,たぶんそうなのであろう.にしてもだ.でっち上げの原稿を書いて原稿料を文春からせしめても,嘘でたらめであることはすぐにばれる.そういうやり方で世渡りするのは,物書きとして恥ずかしくはないのか.

 ま,三流作家のでたらめな映画レビューに騙されて私は『ワンダーウーマン』を観たのであるが,怪我の功名というか瓢箪から駒というか,結果論として映画『ワンダーウーマン』自体は一級の娯楽映画であると言っていいだろう.よかったよかった.
 ついでに言うと,主演のガル・ガドットがとてもいい.でもこの『ワンダーウーマン』で女優として色が着いてしまうとこれから大変かなと思う.エマ・ワトソンはハリポタでは少女だったから,成長した姿を違和感なく『美女と野獣』で見せてくれたけれどね.

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2017年8月30日 (水)

糖質制限食本・補遺(七)

 前回の記事《2017年8月12日 糖質制限食本・補遺(六) 》の末尾を再掲する.

要するに「エビデンス」とは,誤解している人が多いと思われるが,《効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果》ではなく,効果に関する《確率的な情報》すなわち状況証拠なのである.
 医療以外の分野において,ある命題の正しさは,数学でも物理でも化学でも論理を用いて証明される.基礎医学を含む生命科学全般も同じである.
 だからこれらの分野の研究者は「エビデンス」がどうのとは言わない.
 証拠と言わずに「エビデンス」という語を多用するのは臨床の医師と栄養学者だ.
 医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.

 この連載の前回記事から少し間が開いた.
 実はこの間に《2017年8月27日 筋トレを詐称するウォーキング 》と《2017年8月29日 健康商売人 》を挟んだのは理由がある.健康長寿業界の学者たちが私たちに示す「エビデンス」なるもののいい加減さを例示したかったのである.
 信州大学大学院の能勢博教授は,私のような一般人が持っている程度の基礎知識がない上に,単に運動強度が高いに過ぎない有酸素運動を「筋トレ」と詐称し,同工異曲の著書を書きまくる商売人だし,東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利・運動科学研究室長は,能勢教授を上回る商売上手だが,そもそも人間観が歪んでいる.人間を機械のように見做す者に,私たちの健康を論じることができるのか甚だ疑わしい.

 さてここで,上に挙げた二人の他に,もう一人インチキ学者に登場願う.上の二人のうち,青栁幸利氏が東京都健康長寿医療センター研究所の所属であることに注目して頂きたい.

 先月 (7/12),NHKのろくでなし番組『あさイチ』で《常識が変わる!シニア世代の食生活 あなたの親は大丈夫?》と題した放送が行われた.
 実際には番組ホストである有働アナらとゲストたちとの会話で番組は進行したのだが,進行をまとめた概要記事が『あさイチ』サイトの《これまでの放送 》に掲載されているのでご覧頂きたい.
 さて私がテレビをオンにしたのは,東京都健康長寿医療センター研究所 (!) の新開省二氏が,六十五歳を超えたらコレステロール値が高めのほうが長生きすることがわかってきた,という独自研究を開陳したところであった.
 まーたこんなことを言ってるよと呆れつつ録画を開始した時点で,有働アナが次のように質問した.(以下の番組の様子は,私が録画した映像の音声から文字に起こした.発言者名の「柴田」は女優の柴田理恵さん,「柳澤」は柳澤秀夫NHK解説委員;また以下の発言が理解しやすいように()で註記を入れた)

有働「新開さん,本当にコレステロール値は高いほうがいいんですか?」
新開「コレステロール基準値の上のほうの数値は中年期までの基準なんです.六十五歳以上になりますと基準値を変える必要があるんですね.健康長寿を指標にするとコレステロールは高いほうがいいんです.高齢期は高めがいいんです」
柴田「でも今まで,(私たちが) 若い頃は,コレステロールが高いと健康長寿じゃないって言われたわけでしょ? なんでそう急に変わるんですか?」
新開「あ,そういう長い期間の追跡調査ってないんですよ実は」

 この新開氏の発言を聞いて柴田理恵さんは,しばし茫然とした.
 従来,学者や身の回りの医師たちが私たちに「コレステロール値が高いと健康長寿になれない」と説明してきたことが,実は全く何の根拠のないことだったと,新開氏が悪びれもせず平然と言い切ったからである.
 医師という職業に信頼感を持っている一般人であれば,誰だって新開氏の鉄面皮に茫然とするだろう.しかし医師にも色々ある.言うまでもなくほとんどの医師は誠実であるが,健康に係る研究分野には,ほとんどペテン師に近い者たちがいるのである.
(続く)

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2017年8月23日 (水)

魑魅魍魎の本

 夏風邪で寝込む前のことだが,藤沢駅南口にある有隣堂書店の二階の入口近くに,新刊で売れ行き好調な書籍の棚があり,そこで何気なく森拓郎著『ヤセたければ走るな、食べろ! - みるみる腹が凹むズルい食べグセ』(ワニブックスPLUS新書) を手に取って立ち読みした.帯に《デブリーマン必見!》とある.
 ダイエット業界というのは百鬼夜行の有様のようで,こんな日本語の不自由な若造が何冊も本 (二十四冊も書きなぐっている) を書いてしこたま儲けているのだなあと,しみじみと日本の出版状況を情けなく思ったのであるが,問題は若造の金儲けのことではない.
 呆れたことに,ざっと流し読みした箇所だけでもデタラメが満載なのである.誤植ではない,こいつは嘘吐きなのである.
 この野郎の嘘吐き本は他にも陳列してあり,その一冊は『森拓郎の 読むだけでやせる言葉 キレイになりたい人のためのパーフェクトダイエット』という書名である.
 読むだけでキレイになるわけがない.こういう男に騙される女性は,後を絶たないのだろうなあ.

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2017年8月13日 (日)

状況証拠

 昨日の記事《2017年8月12日 糖質制限食本・補遺(六) 》の末尾に次のように書いた.

医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.

 この文章を掲載したあとで,何というか胸騒ぎがしたので,念のために「状況証拠」の語義を確認してみた.
 まず,Wikipedia【間接証拠】にこう書かれている.

間接証拠(かんせつしょうこ)とは証明の対象となる事実を間接的に証明する証拠のこと。情況証拠、状況証拠とも。
犯罪事実を間接的に推測させることになるが、直接証拠と比較して犯罪事実の証明としては弱くなる。
世間の注目を集める事件において被疑者が否認したまま直接証拠がなく間接証拠だけで立件された場合は、裁判がより注目を集める要因にもなる。

 この Wikipedia の記述は,一般的に理解されている「状況証拠」の語義だ.

 ところが検索結果のトップに出てくる《弁護士三浦義隆のブログ 》にある次の記述を読んで私は驚いた.(以下の引用箇所において,文章を読みやすくするため,文中の過剰な改行は省略する)

情況証拠とは、直接証拠に対立する概念だ。
直接証拠と情況証拠は、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る必要があるか否かで区別される。
すなわち、直接証拠とは、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経ない証拠 一方、情況証拠とは、立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る証拠という区別になる。
これだけだとわかりにくいかもしれない。
直接証拠において、事実認定のために推認の過程を経る必要がないのは、「その証拠が真実である」ということと「犯罪事実があった」ということが論理的にイコールの関係にあるからだ。
直接証拠の代表は自白。「私が甲氏を包丁で刺し殺しました。」との被告人の自白は、その自白が真実である限り、被告人が犯人であるということを直接示す。
だから裁判においては、その自白の任意性や信用性が争点になる。自白に任意性も信用性もあるなら有罪判決を出すことができる。
自白のほかには、犯行を直接目撃したという内容の目撃者証言や、被告人と一緒に犯行をしたという内容の共犯者供述も、その供述が正しいなら直ちに被告人が犯人だといえるから、直接証拠だ。
このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ。

 私が驚いたのは《このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ》という記述である.

 ここで,Wikipedia【証拠】から以下を引用する.

実質証拠
 次の直接証拠と間接証拠を併せて実質証拠という。
 直接証拠
  主要事実を直接的に証明する証拠を、直接証拠という。例えば、民事訴訟において、契約書や、契約を締結した旨の当事者本人の供述は、契約の存在についての直接証拠となる。また、刑事訴訟において、被害者・目撃者の犯行目撃証言や、被告人の自白は、犯行の事実についての直接証拠に当たる。直接証拠が信用できるものであれば、その要証事実は認定できることになる。

 この記述によれば,契約書そのものは《契約の存在についての直接証拠となる》.
当然のことである.
 だが契約書は,物的証拠以外の何物でもない.
 同じく Wikipedia【証拠】に次のようにある.

人的証拠と物的証拠
証拠方法が人(証人や鑑定人)であるものを人的証拠、物(書証物)であるものを物的証拠という。

供述証拠と非供述証拠
人の供述(ある事実について言葉で述べること)を内容とする証拠を供述証拠、そうでない証拠を非供述証拠という。

 弁護士三浦義隆氏は,《直接証拠というのは基本的に全て供述証拠》でありかつ《物証は基本的に全て情況証拠だ》と主張しているのだが,氏の主張に従えば Wikipedia【証拠】に解説されていることは誤りであり,契約書は《立証の対象である事実を認定するために、推認の過程を経る》必要がある「状況証拠」だということになる.

 だがしかし当該契約書が,改竄が不可能なように注意深く製本され,末尾に契約当事者の自筆による署名があり,実印が捺印され,かつその実印の印鑑登録証明書が添付されていれば,この契約書は契約の存在そのものであり,全く推認の過程を必要としない直接証拠であり,かつ物証である.
 従って弁護士三浦義隆氏の《このように、直接証拠というのは基本的に全て供述証拠だ。反対に、物証は基本的に全て情況証拠だ》との主張は完全に破綻しており,事実に反する.

 次に法律用語の範疇外の例を示す.
 胃の進行がんであった患者AさんがB医師の執刀で全摘手術を受けたとする.
 そしてこの全摘の是非を巡って,Aさんの胃がんが進行がんだったか否かがトラブルになったとする.
 このときB医師による「Aさんは確かに胃の進行がんでした」との証言は,間接証拠であり,かつ供述証拠であるから事実であるかの推認を必要とする.
 しかし摘出された胃が保存されていれば,これは事実であるかの推認を必要としない直接証拠であり,かつ物的証拠である.

 このように法律用語の範疇においても,それ以外の場合においても,弁護士三浦義隆氏の主張は誤りである.
 三浦氏がなぜ間違った主張をしているかというと,《人的証拠と物的証拠》の対比と《供述証拠と非供述証拠》の対比を同じものだと,混同,誤解しているからである.
 どうしてこんな馬鹿な誤解をしたかというと,頭の構造が中学生並だからとしか考えられ
 こんな知力の人物がよくぞまあ司法試験に合格したもんだと呆れたが,考えてみたら年甲斐もなく網タイツと伊達メガネをして世間に恥をさらした防衛大臣も弁護士であった.

 結論.私の「状況証拠」の用法は正しいので,訂正を要しない.よかったよかった.

 話は横に逸れるが,ただの思い付きの三浦つながりで Wikipedia【三浦和義】を読んでみたら,次の記述があった.

アメリカ捜査当局は、1979年に腐乱死体で発見された三浦の交際相手であったD子の殺人容疑(ジェーン・ドゥ・88事件)で訴追、再逮捕する方針を固めていたことを現地日時2009年1月10日に元捜査官が明らかにした。
元捜査担当者によると、死因や殺害の状況の詳細は不明だが、被害者の銀行口座から426万円が引き出された状況証拠に基づき、三浦による単独犯行と断定。三浦が死亡する直前の段階で死刑求刑が可能な第1級殺人と窃盗容疑で近く逮捕状を請求する方針を固めており、捜査トップにも報告していた。三浦の弁護側はロサンゼルス・タイムズ紙に「死人に鞭打つとは滅多にない話だ」とコメントしている。

 おお,偶然にもこんなところに「状況証拠」の用例があるではないか.
 だから何なんだと言われると,何でもないです.ではまた.

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2017年8月12日 (土)

糖質制限食本・補遺(六)

(前回の記事の末尾)
その一方,研究資金に事欠かない医学部は,栄養学に興味関心がないのであった.
 必要があれば諸外国での研究成果を紹介し,それで事足れりとしていた.その一例が,糖尿病の治療における臨床栄養だった.

 週刊文春,週刊新潮や週刊現代などのいわゆる総合週刊誌において,医療や健康に関する情報記事の掲載頻度はかなり高い.
 週刊文春を例に取ると,先々週号 (8/3号) では《「歯の寿命」は10年延ばせる!》,先週号 (8/10号) では《オバマが絶賛「夢のがん免疫治療法」》 《肉を食べて「熱中症」を防ごう!》の二本,今週号 (8/17,8/24特大号) では《ライバルが認める「がん手術の達人」58人》が載っている.
 これはつまり国民の健康に対する関心の高さを反映しているわけである.医療・健康と不倫芸能人が,日本国民の二大関心事であると言ってよい.いいのかよ.
 テレビも事情はほぼ同じで,報道系情報番組は北朝鮮と不倫が二本柱であるが,バラエティ系情報番組 (NHK『あさイチ!』,同『ためしてガッテン』,日本テレビ『世界一受けたい授業』,テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』,テレビ東京『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』) は健康情報を取り上げる頻度が高い.
 ただし,テレビ番組ではNHK『総合診療医ドクターG』が大変に高いレベルにあるので,それと比較すると,『ためしてガッテン』の放送内容はまだ何とか我慢できるとして,『世界一受けたい授業』『林修の今でしょ!講座』『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』が取り上げる健康情報のお粗末さ加減は,視聴していて腰から脱力してしまうほどのものである.

 余談だが,週刊誌記事でもテレビ番組でもネットコンテンツでも,『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』のように「!?」が付いているのはロクなものではない.自ら「?」で信憑性に疑問符を付けてどうするのだ.
『ソレダメ !~あなたの常識は非常識 !?~』には自称名医の町医者やインチキ本を書き殴った管理栄養士が登場するが,彼らの知的レベルは準レギュラー出演者のギャル曽根 (実は私,この頭のいい女性のファンであるし,他にも,家事研究家の美しい女性たちが出演するので『ソレダメ !』は欠かさず観ている ヾ(--;) ) 以下なので,お笑い番組として観ているほうがいい.
 中でも『ソレダメ!』で頻繁に登場する管理栄養士,伊達友美の言うことはほとんどトンデモの水準に達している.それに,彼女のダイエット本のタイトルにはやたらと「キレイ」が入っているのだが,テレビで本人を見ると「キレイ」のエビデンスが疑われると言わざるを得ず,果たしてこれはいかがなものかと思う.

 閑話休題.
 週刊誌記事やテレビに出てくる医師が用いる言葉に「エビデンス」がある.
 Wikipedia【エビデンス】に次のように書かれている.

医学・保健医療の用語
一般には、医学および保健医療の分野では、ある治療法がある病気・怪我・症状に対して、効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果を指す。エビデンスは、医療行為において治療法を選択する際「確率的な情報」として、少しでも多くの患者にとって安全で効果のある治療方法を選ぶ際に指針として利用される。
つまり、「この患者はAという病気である確率がoo%。このAという病気をoo%でもつ患者にB治療法はXX%の確率で効果がある」として、他の治療法と比べて最も効果のある治療法を選択する際の基準選に利用される。言いかえれば、患者の治療に際して、効果の確率(効果量effect size)を知るための手段がエビデンスであり、この効果量がどの程度の確率で正しいかを知るための手段の客観的な基準がエビデンスである。高いエビデンスを求める方法として、ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究が挙げられる。ただし、生物には個体によるゆらぎがあるため、これらの一般的な確率は個々の患者の状態によって適切に修正されなければならない。
この分野において、「エビデンスがある」と言えば、一般的には「科学的根拠」という意味であり、「エビデンス・レベル」は、個々の修正が適切であれば、確率の「信頼度」と言い換えることができる。

 回りくどくて部分的に誤っている記述だ.
 要するに「エビデンス」とは,誤解している人が多いと思われるが,《効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果》ではなく,効果に関する《確率的な情報》すなわち状況証拠なのである.
 医療以外の分野において,ある命題の正しさは,数学でも物理でも化学でも論理を用いて証明される.基礎医学を含む生命科学全般も同じである.
 だからこれらの分野の研究者は「エビデンス」がどうのとは言わない.
 証拠と言わずに「エビデンス」という語を多用するのは臨床の医師と栄養学者だ.
 医療と栄養学という分野は,状況証拠に基づく推測が大手を振ってまかり通る世界なのである.そしてこれが糖尿病の治療に混乱をもたらした原因である.
(続く)

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