優先席の風景
昨日,藤沢駅の周辺で食料品などを買い求めて,その帰路のこと.
駅北口に,藤沢駅からあちこちへ向かうバス路線の停留所が集まっているバスセンターがあり,私は戸塚駅方面行のバス停に行った.
バス停には既に十数人の人たちが列を作っていた.
私が列の一番後ろに並ぶとすぐにバスがやってきた.
並んでいた乗客たちはバスの中扉から乗り込み,バスの後ろ半分にある二人掛けシートに着席していった.
二人掛けシートがうまると乗客たちは,バス前半分にある「優先席」に順序よく着席していった.
左側の「優先席」には,前のほうから若い女性,学生風の若い男,まだアラフォーくらいの中年女が座り,右側「優先席」には髪に白いものが目立つ年配女性,男子小学生,それに続いて見た感じでは五十代の男性,八十は過ぎていそうな老女性が腰かけて,それで「優先席」は満席になり,私は荷物を手に提げて立つことになった.
五十代の男性は左脚の膝が不自由らしく,バスに乗り込むときにも辛そうな様子だった.
老女性も元気いっぱいという印象ではなかった.
私は白髪でよぼよぼの老人だが,それでも立ってバスに乗ることは苦にならない.
だから,いかにも「優先席」を必要としている風の脚が不自由な男性と,あまり元気とはいいがたい老いた女性の二人が席に着くことができたのはよかったと思った.
だが,それからすぐにバス運転士が脚の不自由な男性と老女の席にやってきて「申し訳ありませんが車椅子の人が乗りますので席をお譲りください」と言った.
その二人が着席していたのは車椅子用のシートだったのである.
開いたままになっている中扉の外を見ると,車椅子に乗った若い女性がいた.
運転士は車椅子用「優先席」二つを跳ね上げて固定し,スロープを使って車椅子を車内に入れてベルトで固定した.
それはいいのだが,そのおかげでいったんは「優先席」に着くことができていた老女性と脚の悪い男性は席を立つことになってしまったのである.
この状況を見て,左側「優先席」の一番前に着いていた若い女性が立ち上がり,老女性に「ここにどうぞ」と言った.
すると老女は「わたしは大丈夫ですよ」と答え,脚の悪い男性に「あなたがお座りになって」と言った.
脚の悪い男性は,ずっと歳上の女性に席を譲られることに少しためらいをみせたが「ありがとうございます,それじゃあ遠慮なく」と,ホッとした表情で着席した.
こうして結局,バスには爺さんの私と八十過ぎと思われる老女,それから「優先席」を譲った優しい若い女性の三人が立って乗車することになった.
席を譲りあった彼ら三人のやり取りを,既に「優先席」に着席していた学生風の男,アラフォー女,髪の白い年輩女性,小学生の四人は無関心の態で眺め,誰も老女に席を譲ろうとはしなかった.それどころか男子小学生はゲーム機を取り出し,足をバタつかせながら遊び始めた.
しかしこの状況で「最近の若い連中は高齢者や体の不自由な人に対する優しさがない」と怒ってはいけない.
見た目ではわからないけれども実際には「優先席」を必要とする乗客がいることはよく指摘されるところだからである.
例えばアラフォー女と髪の白い年輩女性は超高齢妊娠の妊婦かも知れないし,学生風の男は心臓にペースメーカーを埋めているかも知れない.
「優先席」に座ってゲーム機で嬉々として遊んでいる男子小学生は,実は頭の中がとても不自由なのかも知れないのだ.というか「知れない」ではなく確実に.
交通機関の「優先席」をめぐる以上のような光景は日常茶飯事であるから,私たち爺いは怒ってはいけない.静かに受け入れることが必要だ.
| 固定リンク
「新・雑事雑感」カテゴリの記事
- グーグルAIは質問者に迎合する卑屈な嘘つきである(2026.09.15)
- コキア盛衰記(2026.09.09)
- 田舎者 /工事中(2026.09.12)
- 推敲しないライターはクズだ /工事中(2026.09.06)

最近のコメント