十把ひとからげに税と社会保険を論じてはいけない
スポニチアネックス《玉川徹氏「庶民といわれる人にとっては増税をして保険料を下げる方がよっぽどいいんだよっていうことを」》[掲載日 2026年6月18日] から下に引用する.
《元テレビ朝日社員の玉川徹氏が17日、コメンテーターを務める同局「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜前8・00)に出演。増額されたものの実質目減りとなっている国民年金に関連して、日本の財政について言及した。
15日に26年度に入ってから初めての国民年金が支給され、賃金上昇によって、全員が共通してもらうことができる基礎年金(国民年金)が満額の場合に初めて月7万円を超え、7万608円。25年度と比べて1・9%、金額にして1300円増えた。年金財政を安定させるための抑制策を4年連続で発動するため、増額幅は物価や賃金の伸びよりは小さくなり、実質、目減りとなっている。
一方、賃上げを受けて、国民年金の保険料も26年度に上がった。月額で1万7920円となり、前の年度から410円増えている。
玉川氏は、今後も物価は上がっていく可能性が高いとし、「僕はこの際、言いたいのは、それほどお金を持っていない人も、持っている人も等しく恩恵を受けようという減税というものを求めているんですよ、日本では。だけど本当はいっぱいお金を持っている人には減税はいらないんですね。だから消費税を減税するということになると、いっぱい使っている人も減税することになるんですよ。そうではないんじゃないかと思う」と持論を展開。
「むしろ減税よりも給付だとか、それから給付付き税額控除という仕組みだとか、こういうものでお金がないという人になるべく再分配がいくような制度をちゃんとつくることだったり、それから若い人たちも大変なんですよね、今回1%上がると20代、30代の人の負担が大きいということなので。こういう方々は保険料を下げるということをやった方がいいんです、減税より。じゃあそういうことをして財源がなんだって言ったら、僕はあえて増税しかないと思う」と自身の考えを述べた。
そして、「日本人が増税を受け入れるかどうかというのは今後にかかっているところだと思います。保険料を下げる代わりに増税を受け入れる。税金は保険料と何が違うかと言ったら、いっぱい所得がある人はいっぱい払うようになっている。でも社会保険料は違う。だから、ちゃんと応能負担になるのが税金なので、どうも増税というと物凄くアレルギーがあって反対するんだけれど、冷静に考えると実は庶民といわれる人にとっては増税をして保険料を下げる方がよっぽどいいんだよっていうことをもう1回考え直した方がいいと思う」と話した。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
テレビ番組のように限られた時間で意見を述べる場合,論理性に欠けることがあってもやむを得ないだろう.
上に引用したのは,コメンテーターの玉川氏が税と社会保険について番組中で述べた意見である.
「みんなが減税を望んでいる」という出だしはいいのだが,そのあと諸々多数の税金と諸々の社会保険料を,とんでもなく大雑把に「税金」と「保険料」に一緒くたにしたあたりから支離滅裂な発言になってしまっている.
そもそも税金と社会保険料は本質的には同じものだという説がある.
しかし一般的には税と社会保険は異なるシステムだとされている.
どこが違うか.
「税は取られっぱなしであるが,社会保険は反対給付がある点が異なる」と解説されることがある.
つまり健康保険なら保険料を払えば反対給付である医療を受けることができるし,失業保険も然り.
厚生年金保険も国民年金も同じ.
しかし仕組みを細かく見るとそうでもない.
例えば若くて健康な人は健康保険料を払い続けても全く病気をしなければ医療という給付がない.
これでは健康保険は税金とどこが違うのかわからない.
そのため勤労者の生活実感としては社会保険は税と同じだと言っていい.
社会保険の保険料計算の仕組みも複雑で簡単には論じられない.
所得に連動する部分があったりしかしそれに上限があったりするから《税金は保険料と何が違うかと言ったら、いっぱい所得がある人はいっぱい払うようになっている。でも社会保険料は違う》とするのは乱暴すぎる.玉川氏は《でも社会保険料は違う》と決めつけているが,社会保険料の額は全員一律均等ではないのである.
一方の税金はどうかというと,社会保険とは比較にならぬほど種類が多い.
一定の税率が課せられる税,累進課税が課せられる税に大別されるが,例えば消費税は一定税率ではあるが,富裕層は消費額が大きいので税の額は庶民よりも大きくなる.
また所得税は累進課税のため富裕層に厳しいようにみえて,富裕層には様々な節税手段が用意されている.
そういう具体的なことを抜きにして単純にして抽象的に税金は《いっぱい所得がある人はいっぱい払うようになっている》とはいくら何でも乱暴すぎる.
上の引用文中で玉川氏が「税金」としているのは「所得税」というべきだからである.
玉川氏の頭の中では税金は所得税のことしかないと見える.
それも問題だが,所得税を課税するためには税務署が納税対象者の収入を把握する必要があるが,これが事実上困難であるということを玉川氏は無視している.これはいけない.
Wikipedia【クロヨン】から下に引用する.
《クロヨン(9・6・4、九六四)とは、税務署による課税所得の捕捉率に関する業種間格差に対する不公平感を表す語である[1]。トーゴーサン(10・5・3、十五三)、トーゴーサンピン(10・5・3・1、十五三一)、トーゴーサンピンゼロ(10・5・3・1・0)と呼称することもある。1960年代後半から使われ始めた。
クロヨン
勤労者が手にする所得の内、課税の対象となるのは必要経費を除いた残額である。本来課税対象とされるべき所得の内、税務署がどの程度の割合を把握しているかを示す数値を捕捉率と呼ぶ。この捕捉率は業種によって異なり、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林業、水産業従事者は約4割であると言われる。このことを指して「クロヨン」と称する。
給与所得者の所得は、源泉徴収されているため遺漏が発生する可能性はない。これに対し、必要経費を自ら算出して自己申告する者、例えば自営業者の場合、家屋の一部分を店舗や事務所として用いる、事業用の車を自家用車としても用いるなど収支における公私の境界線が曖昧にならざるを得ない。このグレーゾーンについては事業者の自主計算により、事業用と私的利用の使用割合を面積や使用時間割合などの根拠を基に合理的に按分計算して申告する以外に手立てがないのであって、税務署がこれらをすべて検証することは事実上不可能である。
この事に着目し、家屋の内装工事にかかった費用を事務所の維持費として、あるいは私的な食事を交際費として計上するといったケースがみられる[注釈 1]。その結果、自営業者や農業所得者の所得捕捉率は給与所得者のそれに比して一般に低くなっていると言われる。
なお、給与所得者は自営業者のような必要経費が認められていない訳ではない。あらかじめ所得税を天引きされた額が支給されるため、個別に必要経費を算出するのが困難であることから給与所得に応じて概算した経費を控除する方法(給与所得控除)が一般に行われている。給与所得控除は低所得層になればなるほど控除率が大きい仕組みとなっており、年間65万円以内の収入ならば所得ゼロ、給与収入500万円の場合で30.8%(154万円)、1000万円の場合で22%(220万円)の控除率(概算経費)が認められており、上限額は245万円となっている(かつては最低5%の控除が上限額なしで認められていた)。しかし給与所得者の多くはスーツなどの衣装代や交際費以外は会社から支給されているケースが多い。このため、実費経費がほとんど無いのが実情であること、さらに社会保険に関しては自営業者よりも格段に恵まれていることなど、「クロヨン」問題における格差に対する補償として控除率が過大に取られているという考え方もある。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
上のWikipedia【クロヨン】に《本来課税対象とされるべき所得の内、税務署がどの程度の割合を把握しているかを示す数値を捕捉率と呼ぶ。この捕捉率は業種によって異なり、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林業、水産業従事者は約4割であると言われる》と解説されているように,所得税は応能負担ではない.給与所得者は自営業者や農業所得者よりも厳しく所得税を取り立てられているのだ.
しかるに玉川氏は《ちゃんと応能負担になるのが税金》であると,事実と異なる主張をしている.
そもそも所得を税務署が把握できない国民階層が存在し,正当な所得税を免れているのだから,《いっぱい所得がある人はいっぱい払うようになっている》はデマである.
だがしかし玉川氏は悪意のデマを撒き散らす人ではない.
もしかすると,玉川氏は税や社会保険の仕組みの実際を知らぬのではなかろうか.それはコメンテーターの資質として非常に問題があることになる.
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