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2026年3月14日 (土)

細菌感染部にとどまる抗菌剤

 高齢者および後期高齢者諸兄は「8020」という標語をご存じであろう.
 日本歯科医師会《「8020(ハチマルニイマル)運動」とは?》から下に引用する.

《いつまでもおいしいものを食べ続けるための元気な歯は、日々の手入れから。
 1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。そのため、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めてこの運動が始まりました。楽しく充実した食生活を送り続けるためには、妊産婦を含めて生まれてから亡くなるまでの全てのライフステージで健康な歯を保つことが大切です。ぜひ「8020」を目指してください。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
《80歳になっても20本以上自分の歯を保とう》が標語になったのは,昔の年寄りは歯が抜けて食事が儘ならぬものだったからである.
 
 しかし近年ではこの運動 (歯科に行くと大抵この標語のポスターが貼られている) の甲斐あってか,ほぼ半分の年寄りは自前の歯が20本残っている状態らしい.
 まあ,八十一歳を越すと男の半分は死んじゃっていて,さらにその五年後の八十五,六歳には爺さんたちはほぼ全員が死に絶え,世の中の年寄りは婆さんだけになる (平均余命の表をご覧あれ) わけで,この標語は実際上は女性に対して「生涯,自分の歯で食べる楽しみを味わいましょう」と呼び掛けているようなものだ.
 
 さて私の場合,親知らずを除く永久歯は全部まだ残っているのだが,一本を除いてすべて虫歯の治療がなされている.
 しかも奥歯二本の歯根には嚢胞ができていて,現在治療中である.
 そしてもし治療がうまく行かなければ,抜歯せざるを得ないと掛かりつけの歯科医さんに言われている.
 なぜ抜歯かというと,じつは昔,この二本の奥歯は歯根に嚢胞ができたために口腔外科で手術し,歯根を半分切除してあるのだ.
 それが三十年後に再発した (まれにあることらしい) というわけなのだが,再発嚢胞を完全に除去するには抜歯が選択肢となるという.
 掛かりつけの歯科医の先生によると,まずは残っている歯根の中をきれいにして薬剤を詰める再治療を行い,歯根の嚢胞が退縮するかどうかを見てみましょうとのことである.
 
 という状況なのだが,一昨日から奥歯二本の歯茎が腫れて痛くなった.
 たぶん歯根の嚢胞の影響なんだろうが,応急に歯科で薬を出してもらった (普通の歯科医院では,鎮痛剤と抗菌薬は院内処方が多いようだ).
 薬は二種類で,抗菌薬のジスロマックと鎮痛剤ロキソニンである.
 ロキソニンはお馴染みだが,私はジスロマックは初めて目にした.
 名称も初めて聞いたのだが,後で調べたらそれほど最近の医薬品ではなく,広く使われている薬だ.
 開発はファイザー社で,成分名はアジスロマイシンである.
 歯科の窓口で受けた指示は「一日一回,二錠を食後に服用し,翌日翌々日も同じ時刻に服用すること」というものだった.つまり服用の間隔は二十四時間を守りなさいということ.
 こうして合計六錠を服用すると,一般的な抗生剤を七日間服用したのと同じ効果があると歯科医院窓口の女性は言った.
 三日飲めば七日の効果があるのだが,どうしてこんなことが起きるかというと,アジスロマイシンの性質に関係している.
 Wikipedia【アジスロマイシン】から下に引用する.
 
《
アジスロマイシン (INN:azithromycin、略号:AZM) とは、15員環マクロライド系抗菌薬である。
 
 特徴
 アジスロマイシンは15員環マクロライド系抗菌薬で分子量こそ785.02と、14員環マクロライド系抗菌薬と大差無いものの、一般的な14員環マクロライド系抗菌薬とは異なり、ヒトにおいて半減期が長く、長時間体内に留まる特徴がある。ヒトに500 mgを投与した場合には、半減期は68.1時間であった。これは15員環に窒素原子が入っているという構造に由来すると言われる。エリスロマイシンの14員環に、窒素を導入して15員環に変えた化合物であり、窒素が入ったためアザライド(azalide)などと呼ぶ場合もある。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 大学で有機化学の講義を受講する学生は,二十世紀最大の有機化学者であるロバート・バーンズ・ウッドワードの名を知ることになる.
 ビタミンB12などの合成法により1965年のノーベル化学賞を受賞したウッドワードが最後に手掛けていたのが,放線菌が生産する14員環マクロライドであるエリスロマイシンだ.
 マクロライドとは12以上の原子から構成される大環状のラクトンを有する有機化合物の総称であるが,そもそも「大環状ラクトンをアグリコンとする配糖体」をマクロライドと命名したのがウッドワードである.
 ウッドワード自身はエリスロマイシンの全合成完成を待たずに死去したが,彼のチームが後にこれを達成した.
 その構造式をWikipedia【エリスロマイシン】から引用する.

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 ファイザー社の研究者たちは,このエリスロマイシンの大環状ラクトン部分に改変をする研究を行い,生み出されたのがアジスロマイシンである.
 すなわちエリスロマイシンは天然物であるが,アジスロマイシンは合成抗菌剤である.
 その構造式をWikipedia【アジスロマイシン】から引用する.大環状14員環ラクトンに窒素原子が一つ導入されて15員環になっている.
 
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 ファイザー社が公表している資料によると,アジスロマイシンは血中だけでなく細菌感染部位に長く留まり,半減期間が長いという性質が臨床研究で見いだされた.
 抗菌性だけなら他にも優れた抗菌薬は多いが,服用回数が少なくても長時間有効だというのは確かにメリットなのだろう.
 適応症を調べると,歯周組織炎,歯冠周囲炎が
示されている.
 この記事の上のほうに《一昨日から奥歯二本の歯茎歯周組織炎 が腫れて痛くなった》と書いたが,これが奥歯の歯根嚢胞に存在している細菌による日和見感染と思われる歯周組織炎だ.
 さてこのジスロマックの用法について,調べてもよくわからない点が一つある.
 ウェブ上の薬剤師系あるいはクリニック系のサイトに「食後2時間以上の空腹時に服用する.服用後は次の食事を2時間以上控えること」との解説記事と「食後服用でよい」とする解説が混在しているのである.
 言い換えると「ジスロマックの吸収は食事の影響を受けない」と「ジスロマックの吸収は食事の影響を受ける (効果が低下する)」という対立見解があるのだ.
 どっちかわからぬので,私は食後二時間をおいて,空腹時に服用した.
 それでいいのか自信がない.
 
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