早苗ちゃんはチコちゃんに叱られるかも
先月末のNHK《チコちゃんに叱られる!》で,私たちが相手を「君」と呼ぶことの来歴が解説された.
簡単に紹介すると,「君」付けは吉田松陰の松下村塾で始められたことだという.
松陰は塾生たちがそれぞれの身分によらず対等に議論することができるよう,塾内では「様」や「殿」などを使わず,武士だろうが農民だろうが相手はすべて「君」付けで呼ぶことにした.
それがのちに,塾出身者だけでなく明治期に活躍した人々のあいだで広まり使われるようになった.
またやがて一般人にも使われるようになったのは,明治期の小説や学校の教科書を参照するとわかる.
さらには帝国議会でも議長が議員を「君」付けで呼ぶようになったことにより,敬称「君」は社会で完全に定着したといっていい.
以上のことは概ね事実として一般に知られていることらしい.
ただ,この《チコちゃんに叱られる!》の放送内容を紹介しているいくつかの個人ブログに「これは参院先例集に書かれている」と記されているのが気になった.参議院には「参議院先例録」は存在するが「参議院先例集」はないからである.
これは例によって例の如く,伝言ゲーム的に情報拡散が行われていくうちに間違いが生じ,これがコピペで拡散してしまったようだ.
というわけで,この間違いが発生した過程を調べていくと,あっと驚くタメゴロー (死語),高市早苗議員のサイトにたどり着いた.
高市議員のコラム《「君」か「さん」か》[掲載日 2001年4月4日] からテキストとスクリーン・ショットの両方で下に引用する.スクリーン・ショットは,原文が訂正されてしまった時のための証拠である.
《(前略)
「早苗ちゃんは委員長とやらになったそうだけど、貴女にとっては殆どの議員が年上なんでしょうから、偉そうに『君』なんて呼んではダメよ!」
確かに、現代の社会では一般的に「君」は目下の人に使われます。
しかし、国会という場には帝国議会以来の政治的伝統を踏まえた儀式の要素が多々残っています。
閉会式に天皇陛下がお越しになるのは、衆議院の議場ではなくて、貴族院の流れをくむ参議院の議場だけですし、総理と言えども議員バッジを忘れたら本会議場に入れません。ベレー帽がトレードマークだった女性議員が着帽のまま本会議場に入ることは許されませんでしたし、「ぎちょ~っ」と声を張り上げる呼び出し係の存在も未だ健在です。
私は、衆議院規則と先例集を調べてみました。
衆議院規則第212条
「議員は、互いに敬称を用いなければならない」
参議院先例集433
「議員は、議場又は委員会議室においては互いに敬称を用いる・議員は、議場又は委員会議室においては互いに敬称として「君」を用いる」
中国では、「君」というのは重臣、王、諸候などの称だったそうで、日本でも明治末までは、一般的にも同輩以上の人に用いた敬称だったということです。
国会では、明治23年11月25日の第1回帝国議会の「議会事始め」から「君」が議員の敬称として使われています。
もちろん私も一旦議場を離れると、現代の世間の常識通り、目上の方を「君」と呼んだりは致しません。
でも、私は「議員の年令や性別や身分の上下に関係なく国民の代表として対等に議論をする」「公私の区別を示す」という意味合いが込められた儀式的伝統を敢えて踏襲してみようと考えたのです。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
高市議員は衆議院議員だが,参議院についてはデタラメを書いてもいいというわけにはまいらぬ.
彼女が《参議院先例集》なんて書くもんだから,これが今でも拡散されたままになっている.責任は感じて欲しい.
さて周知 (私ら後期高齢者は中学校の教科書で学んだ) のように,衆参両議院で用いられる用語には少し違いがある.
参考までにそのことを記している吉川さおり立憲民主党参議院議員のコラム《衆参のちょっとした違い (先例冊子等の呼称)》[掲載日 2016年2月28日] から下に引用する.
《(前略)
ここで、衆参のちょっとした違いを紹介すると、主要な先例を項目ごとに分けて説明した冊子についての呼称が違います。
衆議院:衆議院先例集、衆議院委員会先例集
参議院:参議院先例録、参議院委員会先例録
衆議院は先例「集」で、参議院は先例「録」です。
ついでに、意味するものは同じ、かつ衆参で呼称がちょっとだけ違うものを、以下に幾つか挙げてみます。
衆議院:委員室、委員会議録、議席表
参議院:委員会室、委員会会議録、議席図
一見しただけではその違いを分かりづらいのですが、委員室と委員「会」室、委員会議録と委員「会」会議録、違うもんなんですよね。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
「衆議院規則」と「参議院規則」は国会法の細則に相当するもので両院のサイトに掲載されているが,「参議院先例録」は参議院の「先例」である.(「参議院先例録」は公開されているが「衆議院先例集」は公開されていない)
両院の「規則」を遵守しない者は懲罰されるが,「先例録」は慣例をまとめたものであるためいわゆる規則ではなく,違反しても懲罰はない.
これについてはWikipedia【先例】の記述も下に示しておく.
《先例は特に公務の執行や公的行事などにおいて、明文化されていない事柄についての重要な判断基準となってきた。日本の国会では議院規則に次いで国会組織運営の法源とされており、衆議院では「先例集」参議院では「先例録」が各議院事務局によって編まれており、議事関係法規に規定のない事柄について有力な法的根拠となっている。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
高市議員は今でも「参議院先例録」を「参議院先例集」だと中学生レベルの間違いを覚えたままなんだろうか.若いのに認知 心配だ.
で,話を本題に戻して,「参議院先例録」のどこに「君」付けのことが書かれているかをテキストとスクリーン・ショットで下に示す.
《第二十章 紀律、警察及び傍聴
第一節 紀律
四五〇 議員は、議場又は委員会議室においては互いに敬称を用いる
議員は、議場又は委員会議室においては互いに敬称として「君」を用いる。》

補足すると,「先例」の附番は改正によって変更になる.
また,衆参本会議では議員を「君」付けで呼ぶことがほとんどだが,「さん」付けで呼んでも懲罰されるわけではない.
実例としては,かつて女性最初の衆議院議長に就いた土井たか子氏が議員を「さん」付けで呼んだのは良く知られている.
また委員会では,本会議よりも敬称をどうするかは自由のようで,実際に一昨日の予算委員会で,中西祐介委員長 (自民) は,質問に立った徳永エリ委員 (立憲) を「徳永エリさん」と呼んだ.
SNSには,国会では敬称は「君」を使うと勘違いした記事が投稿されているが,そんなことはない.
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