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2025年8月10日 (日)

「遺憾である」はリップサービス

 赤澤経済再生担当大臣がアメリカの関税措置と協議したあと「合意した」とメディアに断言し,石破首相にその旨報告した.
 これに対してすぐ疑問を呈したのがNHKだった.
 NHKのインタビューに対して赤澤大臣は,「合意」の根拠を全く示さなかったからである.
 そして文書がなくてもいいのか?という問いに「信じてもらいたい」と述べた.
 NHK《NHKスペシャル 政界大変動》のオンデマンド配信環境を持っているかたは観て頂くとわかるが,赤澤大臣はエスカレートするトランプの要求に対して「一つ,いいですか?」という質問はしたが「ノー」は言っていないのである.
 トランプはディールの達人でオーラがあって畳みかけてくるので,「一つ,いいですか?」という会話をするのが精一杯だったと赤澤大臣自身が吐露している.
 トランプは,日米の事務方が作成したシナリオを全く無視して,赤澤大臣が初めて聞く要求を次々に突き付けた.
 アメリカ産米の輸入増,毎年数十億ドルの防衛装備品の新たな購入,ボーイング機百機の新規購入 etc.
 米の輸入は何とかなるが,防衛装備品の購入費大幅増額は衆院で過半数割れしている石破政権には不可能である.またJALとANAはこれから必要になるボーイング製航空機の購入契約は既に済んでおり,絶対にこの二社は購入しない (これはNHKが二社他に確認済) 
 突然これらの要求を突き付けられた赤澤大臣は「一つ,いいですか?」と要求内容に関して質問するのが精一杯だった.
 そして次々に質問を続けたが,それが途切れたら交渉は終わりになってしまう (これは赤澤大臣が上記の番組の中で述べている) という瀬戸際で,赤澤大臣の「一つ,いいですか?」が途切れ,トランプが立ち上がり,右手を差し出して (交渉はおわったという意思表示の) 握手を求めてきた.
 すなわち赤澤大臣は,トランプに質問ばかりして一言も「ノー」を言えずに関税協議を終えてしまったのである.
 それが下の写真である.(「格下」を自称する日本代表 (;_;) を睨みつける世界最強のネゴシエイター)
 
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日テレNEWS《【関税協議合意】米側がトランプ大統領と赤沢経済再生相の面会写真公開》から引用.
 
 赤澤大臣はトランプの要求を丸呑みして帰国したが,もちろんそんなことは口外できるわけがない.
 帰国後にアメリカ側が公表したファクトシートや官報の内容が事実なのだが,交渉に惨敗した赤澤大臣としては「日米間で合意の解釈で齟齬が生じている」と言わざるを得ない.
 そこで予算委員会のあと,現状を何とか取り繕うために「大統領令を修正してもらう」と言って,ただちにまた渡米した.日本国内にいては,「いずれ発動する大統領令が合意内容として正しい」という秘密を守る上で危険だからである.嘘がバレてしまうのは絶対避けたい.
 その後の報道が下の記事である.
   
 NHK《米関税措置 “大統領令 適時修正と説明” 赤澤経済再生相》[掲載日 2025年8月8日] から下に引用する.
 
赤澤経済再生担当大臣は訪問先のワシントンで先の日米合意の内容が反映されずに一律15%の関税が上乗せされる状況になっていることについて、アメリカの閣僚と会談した結果、アメリカ側から、大統領令を適時修正する措置をとると説明があったと明らかにしました。
 また同じタイミングで自動車などの関税を下げるための大統領令を発出することも確認したと説明しました。
 赤澤経済再生担当大臣は訪問先のワシントンで「相互関税に関するアメリカ側の内部の事務処理で日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発出され、適用が開始されたことは極めて遺憾だ」と述べました。
 また、「アメリカ側の閣僚からも今回のアメリカ側の手続きは遺憾だったという認識の表明があった」と話しました。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 赤澤大臣は頻繁に渡米するが,驚いたことにアポなし突撃なんだという.
 向こうの政権内では「また赤澤が来たぜw」とネタにされているらしい.(FRIDAY DIGITALの記事)
 ヒマで赤澤大臣の相手をしてくれるのはラトニック商務長官だけなので,赤澤大臣は長官の部屋に入り浸り,SNSに「ラトちゃんに有名な人を紹介してもらった」などとたわけたことを嬉々として投稿する体たらく.(有名なひと,どころか世界的超有名人ティム・クックだった)
 
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 で,結局のところラトニック長官は大統領令修正については権限外だから,修正は「適時」だとテキトーなことを赤澤大臣にリップサービスした.
 赤澤大臣も「ラトニック長官がそう言った」と日本のメディアに説明すると「ラトニック長官は権限外だ」とツッこまれるから,ラトニックの名を出さずに曖昧にして《アメリカの閣僚と会談した結果》と述べた.
 しかし私たち国民は知っているが赤澤大臣が《アメリカの閣僚》と呼ぶのはこの件では権限外のラトニック長官しかいないのである.
 アメリカ政府に関する専門家がテレビで語ったことによると《相互関税に関するアメリカ側の内部の事務処理で日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発出され、適用が開始された》ことに対して抗議して修正を求めるならば,相手はジェミソン・グリア通商代表部代表のはずだという.
 しかし赤澤大臣はグリア氏に会う伝手はないし,そもそもアポなし突撃だからグリア氏が会ってくれるわけもない.
 ベッセント財務長官は赤澤大臣と面識があるからアポなし突撃でも一応は会ってくれたが,しかし三十分しか会ってくれなかった.
 それで赤澤大臣は止む無くラトニック長官室で三時間も雑談した挙句,ティム・クックを紹介してもらっただけで成果なく帰国した.
 帰国直後はすぐにでも大統領令は修正されるようなことを大臣は言っていたが,昨日の段階では,何ヶ月も先になると言い訳を始めた.
 国民は情けなくて泣きたい.
 赤澤大臣ではなく林官房長官あるいは加藤財務大臣が日本政府代表ならこんなことにはならなかったと思うが,しかし林,加藤の二人は石破首相のライバルだから,この二人に関税交渉を担当させて手柄を上げられたら,石破首相の座があぶない.
 関税交渉が失敗しても赤澤大臣にやらせるしかなかったのである.泣.
(以上の記述はフィクションであり,実在の人物,団体,事件とは関係ありません)
 
 ところで赤澤大臣は今回の件で今まで何度も「遺憾」という言葉を使っている.
 他の政治家も記者会見などで頻繁に「遺憾」を使う.
 だが,私たち一般人は日常生活で「遺憾」を使うことはほとんどない.
 なぜなら「遺憾」は意味の揺らぎが非常に大きく,曖昧だからである.
 例えば会社で,管理職が部下に「君の仕事は杜撰すぎて,上司としては遺憾だと言わざるを得ない」と言ったとすると,これは叱責だ.(現実にはこんな回りくどいことを言う上司はいないが,そこはまあ例文だということで乞ご容赦)
 次に例えば,仕事のできない会社員が上司に「今回,私が大口顧客の契約を取り損ねたことは,まことに遺憾であります」と言えば,これは謝罪である.
「遺憾」が,相手を叱責する場合にも,相手に謝罪する場合にも使えるということは,どうでもいい意味のない言葉だということである.
 では日本語よりも論理性の高い英語ではどうなんだろう.
 赤澤大臣の発言《相互関税に関するアメリカ側の内部の事務処理で日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発出され、適用が開始されたことは極めて遺憾だ》だが,トランプ自身が大統領令の記載を肯定しているのだから《事務処理で日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発出され》は明らかな誤りである.
 ならば誰が《アメリカ側の内部の事務処理》のせいだと言ったのか.
 日本のメディアは「その閣僚は英語で何と言ったのですか?」と追及すべきだ.
 アメリカの政府要人が,勝手に日本の無名の政治家に「謝罪」するわけがないからである.
アメリカ側の閣僚からも今回のアメリカ側の手続きは遺憾だったという認識の表明があった》は赤澤大臣の作り話としか思えない.
 周知のように,作り話は確とした事実に基づかないから,曖昧にならざるを得ない.
遺憾だったという認識の表明があった》と赤澤大臣は言った.この「遺憾だったという認識表明」という回りくどい言い回しが,作り話であることの証左である.事実であるなら英語では「遺憾だ」の一言で表現するからである.
 
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