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2025年6月26日 (木)

発言内容を勝手にすり替える

 TBS NEWS DIG《横浜市でベンツが逆走し車3台を巻き込み事故 歩行者の女性など3人けが 警察は運転手の男を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕 男の呼気からは基準値超えのアルコール》[掲載日 2025年6月26日] から下に引用する.
 
きょう午前、横浜市で高級車ベンツが逆走し、覆面パトカーやトラックなど3台を巻き込む事故があり、歩行者など3人がけがをしました。ベンツを運転していた20代の男からは基準値を超えるアルコールが検出されていて、警察は過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕し、事故の詳しい経緯を調べています。
 きょう午前10時45分ごろ、横浜市戸塚区で「乗用車の事故でけが人が複数いそうだ」と110番通報がありました。
 警察によりますと、現場手前の交差点からベンツが逆走し、警戒中だった覆面パトカーや軽自動車やトラックとぶつかり、路肩に突っ込んで止まったということです。
 この事故で、軽自動車を運転していた70代の女性と歩行者の20代と70代の女性がけがをして病院に搬送されましたが、全員軽傷です。
 また、20代の女性は保育士で当時は園児を連れて散歩をしていたということですが、園児にけがはありませんでした。
 警察はベンツを運転していた20代の男を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕しています。
 調べに対し男は「私は悪くありません」と容疑を否認しているということです。
 男の呼気からは基準値を超えるアルコールも検出されていて、警察は事故の詳しい経緯を調べています。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 カギ括弧「 」は普通,発言をそのままの形で示す時に使われる.
 上の事件に関しては,現行犯逮捕された男は警察の取り調べに《私は悪くありません》と答えたことになる.
 しかし,朝ッぱらから酔っぱらってクルマを運転して逮捕された頭がカラの馬鹿野郎が丁寧な言葉で《私は悪くありません》と言うだろうか.
 きっと「酔っちゃーいねーよ」「おれがなにしたってんだよバーロー」とか言ったに違いない.
 ならばこのような場合,報道記者は直接話法を用いずに「<私は悪くありません>という趣旨の供述をして容疑を否認している」と間接話法で書くべきである.
 このように一部のメディアの無知蒙昧な記者は,直接話法と間接話法を正しく使い分けしないことが多いので,読者は騙されぬように注意が必要だ.
 
 余談だが,昭和の昔に「角界のプリンス」と呼ばれた大関がいた.
 高齢者諸兄は強く記憶に残しているであろう貴ノ花利彰,のちの藤島親方である.
 この貴ノ花が引退を決めた時,すぐにNHKは《NHK特集 さよなら大関貴ノ花》(初回放送は1981年1月26日) を放送した.
 それくらい国民的人気があった貴ノ花が背中を見せて去っていくラストシーンはとても感動的であった.
 
 さて貴ノ花は普段,自分のことを「ボク」とか「私」と言い,「ワシ」という言葉は使わなかった.
 テレビ中継される本場所などで取り組みを終えて控室に戻って来ると,NHKのアナウンサーがインタビューをする.
 その質疑の中で貴ノ花は「ワシ」と言ったことは一度もないのだが,翌日のスポーツ紙では「ワシが土俵際で…」などと「ワシ」を使って書かれているのが常だった.
 一人称の「ワシ」は西日本の言葉である.(多くの資料があるが,国立国語研究所の『方言文法全国地図』が有名)
 貴ノ花は北海道室蘭市で昭和二十五年二月に生まれた.私と少ししか誕生日が違わない,ほぼ同い年である.
 彼は五歳の時に家族共々東京に引っ越して初代若乃花の下で成長した.つまりほぼ東京人である.
 こういう生い立ちの貴ノ花が「ワシ」と言うはずがないのである.
 貴ノ花は若くして亡くなったが,今は後期高齢者となった私も,これまで一度も自分の事を「ワシ」と言ったことはない.
 団塊世代の私の友人知人たちにも一人として自分を「ワシ」と言う者はいない.
 しかるに一部のメディアは,本人がどう言おうと,相撲取りなら一人称は「ワシ」だと決めつける.
 こういう捏造はスポーツ紙の得意とするところである.例えば土俵から花道を引き揚げてきたばかりで息が荒い力士に,NHKのアナウンサーが次のようにインタビューするとしよう.
 
アナ「今日の立ち合いはいかがでしたか?」
力士「はあはあ」(スポーツ紙では「ワシは勝てるとは思ってなかったす」)
アナ「立ち上がってすぐに右上手を差しましたが,あれは予定通りでしたか?」
力士「はあはあ」(スポーツ紙では「ワシはぶちかます作戦でしたが仕切り中に作戦を変えたっす」)
アナ「がっぷり四つになってから,動きが止まりましたが,相手の力で封じられたのですか?」
力士「はあはあ」(スポーツ紙では「いやあれはワシの予想通りでしたっす」)
アナ「それから土俵を半周して大一番になりました」
力士「はあはあ」(スポーツ紙では「そおっすね」)
アナ「最後は押し出しましたが,会心の一番でしたね」
力士「はあはあ」(スポーツ紙では「ワシは一番一番ワシの相撲を取るだけっす」)
アナ「どうもありがとうございました」
 
 スポーツ紙は「相撲取り語翻訳アプリ」を使用しているとみえる.力士は「ワシ」と言うものと決めつけているのだ.
 直接話法と間接話法の正しい用法どころか,捏造の域に達している.
 
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