「消えた21万トン」は嘘かも知れない
FNNプライムオンライン《「コメの流通市場は動き出した」江藤農水相が認識示す…政府による備蓄米放出決定受け 卸売業者から大手スーパーに販売申し出の動きも》[掲載日 2025年2月18日] から下に引用する.
《政府の備蓄米放出の決定で、「コメの流通市場が動き出した」との認識を示しました。
江藤農水相:
流通市場は動いていると、動き出したと受け止めていいのではないかと。
農林水産省が先週、21万トンの備蓄米放出を決定したことを受け、江藤農水相は、先物市場のコメの取引が増えているとした上で、「流通が正常化に向かえば、価格も落ち着くということが期待される」などと強調しました。
さらに江藤農水相は、卸売業者から大手スーパーに対し販売を申し出る動きなどがあることを明らかにし、「様々な手続きの迅速化を図りたい」と述べました。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
《流通が正常化に向かえば、価格も落ち着くということが期待される》の《価格も落ち着く》は「価格高騰が止まる」という意味であり,米の末端価格が下がるということではない.
すなわち,昨年産米 (2024年産米) は5kgで4000円ほどに高止まりする.
一部のメディアが「備蓄米放出で,末端の精米価格は二割くらい下がるのではないか」と希望的観測を述べていたが,江藤農水相みずから価格低下を否定した格好である.
それもその筈で,江藤農相は備蓄米放出を決めた直後に「流通を正常化するのが目的である」と言明していたからである.
読売新聞オンライン《備蓄米放出、3月下旬以降店頭に…江藤農相「流通がスタックしている状況を改善したい」》[掲載日 2025年2月14日4] から下に引用する.
《政府はこれまで凶作や災害時に限定して備蓄米を放出してきたが、24年夏以降の米価の高騰を受け、今年1月末に運用指針を見直した。流通の円滑化を目的としたものは初めてとなる。江藤氏は会見で、「流通がスタック(停滞)している状況を何としても改善したい」と述べた。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
末端精米価格が 4000円/5kg を割り込むと,2025年産米 (玄米) の価格が昨年よりも安くなってしまうが,農水省としては,稲作農家保護のためにそれだけは絶対に避けたいのである.
農水省は,ホンネを言えば,5000円/5kgまで暴騰してもウハウハなのだが,それでは石破政権がつぶれるから,4000円/5kg で手を打つだろうと思われる.
実は,玄米生産量に対して,放出される予定の備蓄米量21万トンは微々たる量であるから,これは為替相場における「口先介入」程度のことである.
つまり政権を揺るがすようなマネーゲームは許さんぞ,という農水省の決意を示したものだ.
確かにその政府のメッセージは業界に届いたようだ.
私は,スーパーの店頭における東洋水産の包装米飯「マルちゃん あったか ごはん」の価格を継続的に観測しているのだが,昨年産米の高騰が始まる前は特売価格約80円/個だったのに,スーパー店頭から精米が消えた頃には特売価格は約130円/個まで値上がりした.
しかし政府が備蓄米放出を決めた直後に,特売価格は90円/個に下がった.
あからさますぎて笑ってしまうが,このことは包装米飯業界が《流通がスタック(停滞)している状況》に一枚噛んでいたことを示すものだ.
もちろん東洋水産などが投機的に精米を買いだめたわけではないだろう.
商品の安定生産のために原料在庫を「積み増し」たに過ぎない.
だが,外食業界,中食業界,加工米飯業界等の精米需要家が少しずつ原料在庫の「積み増し」をした結果,たちまちスーパー店頭から精米が払底してしまったのである.
幾つかの民放テレビ番組 (例えば日テレ「バンキシャ」など) が,《流通がスタック(停滞)している状況》の黒幕は「IT業界」「鉄鋼商社」「中国人」「アジア系」「ホームセンター」「土木業者」だと報道した.
だが放送を視聴した限り,そのような証言は,卸売業者や小売業者が流している噂話程度のものだ.
農業経済の専門家は,精米価格高騰の原因は異業種の暗躍ではなく,そもそも米の収穫量 (≒玄米生産量) が精米需要を下回っているのだと主張している.
翻って考えてみたら,米の収穫量は実は根拠ある統計数値ではなく,作付け面積と作柄から求めた単なる推計値なのであった.
また「消えた21万トン」の根拠はJAなどの主要集荷業者が集めた玄米の量なのであるが,[2023年産度に主要集荷業者が集めた玄米が237万トン]-[2024年産度に主要集荷業者が集めた玄米が216万トン]=21万トン,という計算が根拠だ.
だが,この数字は,JAグループなど大手の集荷業者 (90%以上がJA系業者) が「集荷競争に負けた」という意味しかない.
2024年産米619万トンの過半は,生産者から直接,すなわち主要集荷業者を経由せずに,精米小売店やスーパーや消費者に既に届けられた (あるいはこれから届けられる) のである.
このように,総玄米量の35% (=100x216/619) しか大手の集荷業者は取り扱っていないのが事実である.
なぜなら,大手の集荷業者経由では,生産者はほとんど利益を手にできないからだ.時給換算すると10円だという説もある.
そのため農家は,大手の集荷業者経由とは過去の付き合いで仕方なく収穫の35%を販売しているが,これが精米流通のマイナー・ルートであることは歴然としている.
そのマイナーなルートにおいて,わずか21万トンがスタックしていようとしていまいと,大した意味はないのだ.
「消えた21万トン」は,米流通の35%しか実態を把握できない農水省の言い訳であると,農業経済学者は見ている.もしかすると「消えた21万トン」は嘘である可能性もある.
昨年産玄米量が一昨年のそれと同量であったというのが「消えた21万トン」の理屈だが,実はその根拠がないのである.
上に述べたように,米の収穫量は推計値である.
実は酷暑等の原因で,昨年は前年に対して,数十万トンも減産していたという説があるのだ.これが米不足の真の原因だという.
「消えた21万トン」と大騒ぎしている農水省は,流通量の65%を調査し把握する当事者能力を失っていると専門家は言う.

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