TBS NEWS DIG《コメの値段、なぜ高い? 背景に農家の苦境も 「コメを作れない」と廃業続出【サンデーモーニング】》[掲載日 2025年2月16日] から下に引用する.
《戦後、様々な変遷を遂げてきたコメを巡る制度。90年代以降、貿易自由化を求める外国の圧力に屈する形で、コメ市場を部分的に開放。長年続いた「減反政策」も2018年に撤廃されます。
減反で守ってきた中小の農家を淘汰し、大規模な農家が自由に生産できる体制を整え、コメの国際競争力を高めようとしたといいます。
ところが、コメの需要に合わせるように生産量も減少する中、コメ農家は危機的状況に陥ったのです。
東京大大学院(農業経済学)鈴木宣弘 特任教授
「自由化の流れの中で、30年間、(農家が取り引きする)米価が下がって、半分以下の値段。結果として農家の所得は下がって、『コメを作れない』と廃業する農家が続出するような状況まで来てしまった。もうあと5年ほったらかしたら日本の稲作は崩壊してくる」
兼業か専業か。あるいは規模の大小はあるものの、肥料や農具、燃料などの高騰でコストがかさみ、コメ作りによる年間平均所得はいまや9万7000円と10万円に満たない状況に。(農林水産省2024年12月公表)
さらに農林水産省の資料によると、農業従事者は約219万人(2004年)から約111万人(2024年)と20年かけて半減。平均年齢は69歳と高齢化も進んでいます。
日本の食卓に欠かせないはずのコメ。そのコメ作りの現場からは今...
コメ農家 伊藤秀雄さん
「『コメ作って飯が食えねえ』って言葉知ってる?私自身もおととしまで赤字、去年の決算も赤字。だからその背景に100万戸の農家がやめた。(国が)やめるように仕向けちゃった。国家としての責任」》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
上に《農業従事者は約219万人(2004年)から約111万人(2024年)と20年かけて半減。平均年齢は69歳と高齢化も進んでいます》と書かれているが,このまま農業人口の高齢化が進行すると,十年後には農業従事者の平均年齢は七十九歳になる.
男性の平均余命が約八十一歳で,日本の人口分布図を見ればわかるように,その辺りから急速に男性の農業従事者が減り始め,相対的に女性の比率が高くなり,農業従事者数は激減する.
この傾向は農業だけではなく,全産業でいわゆる人手不足が起きるのだが,減っていく労働人口を産業間または職種間で奪い合っても全く事態は改善しない.
高い賃金を払える先端産業が人手不足を乗り切ることができても,運輸業界や米農家が全滅したのでは,そもそもこの国が成り立たない.
また食糧安保政策として,どこかから労働人口を絞り出し,これを農水産業に新たに供給しなければならない.
そのためにどうするか.
戦後,戦地からの復員兵と引揚者によって農村人口は推定で700万人ないし1000万人増加したが,これを労働力として受け入れる農業は壊滅しており,農村における増加人口は,余剰人口であり非農業人口であった.(並木正吉「農家人口の戦後10年」)
これについて述べた山崎亮一「戦後日本農政と労働力移動」(酪農学園大学学術研究コレクション,33(2):161~169 (2009)) から下に引用する.
《Ⅱ 「国民所得倍増計画」と基本法農政
並木[7]が描写しているように,60年代前半までの農家から農外への労働力供給の主な形態は,当時,農村に滞留していた二三男女や,新規に学卒した者を中心とする,若年労働力の向都離村であった。
この時期に制定されたのが農業基本法(1961年)である。その前年の60年には「国民所得倍増計画」が,10年間の第2,3次産業の雇用労働力需要1,969万人に対する学卒供給1,703万人とし,266万人の不足を見通していた。さらにその不足分を,第1次産業からの移動243万人と,非1次産業の業主・家族従業員の転用23万人で充足するとしていた。つまり,第2,3次産業の労働力不足を,自営業,とくに農民層の分化・分解で補充しようとしていたのである。その翌年の農業基本法は,「国民所得倍増計画」が算出したこうした農村労働力の動員に対応するものであった。すなわち,「生産費および所得補償方式」による生産者米価の算定,土地基盤整備,農業機械化により農業構造の改善を行いながら,農民層の分化・分解を促進し,一部に「上層農」を育てつつもその対極に析出される労働力を第2,3次産業に吸引しようとするものであった》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った:ブログ筆者註;[7]は『農村は変わる』岩波文庫,1960年)
「国民所得倍増計画」は,池田勇人が打ち出した経済計画であり,これによって戦後日本は高度経済成長を準備した.
池田は翌年に所得倍増計画の基礎となる「農業基本法」を成立させ,遅れていた農業の近代化を推進した.
この法律によって《農民層の分化・分解を促進し,一部に「上層農」を育てつつもその対極に析出される労働力を第2,3次産業に吸引しよう》として,農村から都市への人口大移動が行われたのである.
しかし時は経ち,農村の人口は激減した.
そして今こそ「農業基本法」が目論んだことの正反対を行うべきなのだ.
すなわち都市から農村への余剰人口の大移動である.
だが,人手不足の波に襲われている都市部に余剰労働力などあるのだろうか.
実は,ある.
フードビジネス総合研究所《日本の飲食業基礎データ 日本の飲食店、67万店。働く人、440万人。~バブル期をピークに減り続ける我が国飲食店~》 から下に引用する.
《総務省「経済センサス・基礎調査」(平成21年)によれば、我が国における飲食店の数は 670,468(店)、働く人の数は 4,367,987(人)となっている((注:本社事務所等「管理・補助的経済活動を行う事業所」を除外した、弊社加工数値)。
ちなみに、ここからキャバレーやナイトクラブ等の夜間性・遊興系飲食店を除くと、約54万店・390万人である。》
郭凱鴻「外食産業再編期における大都市の飲食店立地特性変化―2000 年と2014年の大阪市を事例として」(立命館地理学 第31号(2019)53-68) によれば,1966年 (昭和四十一年) における飲食店数は33.6万軒で,一店舗あたりの従業員数は4.2人であった.
すなわち高度経済成長期の只中における飲食店従業員数は141万人,現在のわずか32%だったのである.
だとすれば,2009年 (平成二十一年) に437万人に達して以後,増加を続けている飲食店従業員人口を,農業に100万人程度移動することはさほど困難ではないと考えられる.
コロナ禍以降,鶏唐揚店,ラーメン店等々様々な飲食店の倒産が起きている.(帝国データバンク《2024年の「飲食店」倒産894件、過去最多を更新 業態別では「居酒屋」が最多》)
現在の中食や外食業界の一部では,新規参入と同じくらいの倒産撤退が常態となっている.
昔から経営を続けている企業や独立店舗は私たちの生活にとって価値あるものだが,雨後の筍のようにそこら中に店が乱立したかと思ったら波が引くように消えて行ったタピオカミルクティーとか,基本的な製パン技術もなく開店してすぐに倒産していった「高級」生食パン店ブームなどは,食品業界の仇花である.最近の「おにぎり屋」ブームなども同類だろう.
経済成長期ならば仇花が咲いてもほっとけばいいが,日本はこれから経済縮小の時代だ.私たちの生活にあってもなくても構わぬものは削ぎ落していくに限る.
中食や外食業界において本当に必要な,コアとなる企業や店舗を残して,あとはなくなればいい.
削ぎ落した部分は,農業の再建に注ぎ込むように政策誘導すべきだと私は思う.
政策誘導というのは,都市から農村への移住に,強力な優遇を行うことが一つ.
地方自治体が主体となって中小規模の稲作農家を統合する農業法人を設立することがもう一つ.
まだよいアイデアはあるだろうが,要するに都市からの移住者が稲作を始められるように行政がテコ入れするのだ.
都市部で非正規雇用の状態に苦しんでいる若者はたくさんいる (非正規雇用者総数は2000万人以上) はずだ.
そのような若者たちを農村に誘う政策を政府に求める国民は私だけではないと思う.
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