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2025年1月28日 (火)

さよなら「湖北のおはなし」

 Merkmal《駅弁の魂は失われた? もはや「東京駅で買えるものばかり」 滋賀・老舗弁当屋の撤退が示す食文化の娯楽化とは?》[掲載日 2025年1月27] から下に引用する.
 
2025年1月、滋賀県米原市の老舗駅弁業者「井筒屋」が駅弁事業からの撤退を発表した。1889(明治22)年の創業以来、135年以上にわたり、東海道本線と北陸本線が交わる米原駅で駅弁を販売してきた井筒屋の決断は、大きな注目を集めた。
 8代目当主の宮川亜古代表取締役は、撤退の理由について公式サイトで
「昨今の食文化は娯楽化がもてはやされ、誤った日本食文化の拡散、さらには食の工業製品化が一層加速し、手拵えの文化も影を潜めつつあります」
と述べ、「そのような環境に井筒屋のDNAを受け継いだ駅弁を残すべきではないと判断致しました」と説明している。
 この決断に対して、『震災と鉄道』『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』などの著作がある鉄道史研究者の原武史氏はX(旧ツイッター)で
「井筒屋は近江牛とか醒ヶ井の鱒とか、地元産の食材にこだわっていた。東海道本線から北陸本線が分岐する米原でしか味わえない駅弁にこだわっていた。この挨拶文は、東京駅でも買える駅弁ばかりになってしまったいまの駅弁文化に対する、渾身の一撃になっていると思う」
とコメントしている。原氏の言葉からは、井筒屋の撤退が単なる経営判断を超えて、日本の駅弁文化の本質が浮かび上がってくる。
 
 今から六年前,クラブツーリズムのバスツアーで「琵琶湖周辺に祀られている観音像を鑑賞する」という旅行企画があった.
 東京駅で集合した私たち参加者はそのまま新幹線で米原駅に移動し,昼前に到着した米原駅を出てチャーターのバスに乗り換えて琵琶湖周辺を巡る旅に出発した.
 バス車中では,ツアー添乗員さんがあらかじめ手配していた井筒屋の駅弁「湖北のおはなし」を参加者に配り,彼女は「みなさん,お弁当はあの<湖北のおはなし>ですよ!」と満面の笑顔でドヤ顔をした.w
 この「湖北のおはなし」は,当時すでに知らぬ者ない米原駅の有名駅弁であり,デパートの「全国駅弁まつり」でも東京駅の「祭」でも売っていない数量限定の弁当だったからである.
 私はその時に初めて「湖北のおはなし」を口にしたのであるが,この弁当は見た目がいかにもおいしそうで,一言でいえば作り手の心がこもった弁当であった.
 この弁当が気に入った私は,翌年も滋賀と京都へ個人旅行をして,その時にも米原駅で井筒屋の「湖北のおはなし」を手に入れて賞味した.
 その「湖北のおはなし」がもうすぐ姿を消す.残念だ.
 
 井筒屋の対極にあるのが,神戸市の「淡路屋」だ.
 NHK《探検ファクトリー 100種類!駅弁工場 旅情感を高める味わいと工夫》[初回放送日:2025年1月11日] はその淡路屋を訪問取材して放送した.番組宣伝サイトから下に引用する.
 
漫才コンビ・中川家と、すっちーが魅力あふれるモノづくりの現場へ。今回は兵庫・神戸市。鉄道旅を彩る駅弁工場を探検!人気のご当地メニューに込められた工夫に迫る。
 
 伝統的な駅弁製造業者のイメージは,二,三種類の弁当を限られた駅で販売するというものだが,淡路屋は違う.
 なにしろ淡路屋の工場では百種類もの弁当を関西圏と関東圏で大量製造し販売しているのだ.
 そうなるともう《旅情感を高める》なんてことは言ってられない.
 作り手の思いを込めた美しい弁当なんてことも言ってられない.
 大量生産かつ高価格のコンビニ弁当みたいなものだから,すぐ飽きられる.
 だから新商品開発しなければならない.すると「駅」と「駅弁」の関係も希薄になる.
 そして《探検ファクトリー 100種類!駅弁工場 旅情感を高める味わいと工夫》に載っている写真のように,焼肉とか揚げ物の茶色いおかずをドカドカ詰め込むのである.(淡路屋 お弁当一覧)
 このような駅弁産業と同類に扱われたくない,というのが井筒屋が駅弁事業から撤退した理由である.(今後は仕出し弁当事業のみを行う)
 東京駅の「駅弁屋 祭」に行くと二百種類もの全国の「駅弁」が販売されているが,会社員が大阪出張の際に宮城県の「駅弁」を買って東海道新幹線に乗ることがヘンではなくなっている.
 それはおかしくないか,というのが井筒屋の考えだ.
 なるほどなあ,と私は納得である.
 それにしても「駅弁屋 祭」の「駅弁」だが,蓋を取ると中身は茶色いのばっかりである.
 そんな高いだけの茶色弁当を食うよりも,旅先で駅を出て普通の飲食店で食事を摂るのがよほどよろしい.
 
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