日枝氏の権力の源泉は株主からの信任である
スポニチアネックス《八代弁護士 フジ会見の港社長ら4人と日枝相談役に言及「今でも顔色をうかがっている」》[掲載日 2025年1月29日] から下に引用する.
《弁護士の八代英輝氏(60)が、27日、TOKYO MX「堀潤 Live Junction」(月~金曜後6・00)に出演。中居正広氏(52)の女性トラブルで社員の関与が報じられているフジテレビが同日にあらためて開いた記者会見について言及した。
会見には嘉納修治会長、遠藤龍之介副会長、港社長、28日付で社長に就任する清水賢治専務のほか、親会社のフジ・メディア・ホールディングス金光修社長も出席したが、影響力を持つと言われる元社長、元会長で取締役相談役の日枝久氏は出席しなかった。会見開始前には、27日付で港社長、嘉納会長が辞任すると発表された。
会見に出席した面々について、八代氏は「ここにいる方々はみんなフジサンケイグループというコングロマリットの代表である。いわば、サークルの代表である日枝さんに持ち上げられてきた人ばっかりなんですよね。ですから今でも顔色をうかがっている」と現状を指摘。
報じられている騒動は、フジテレビだけでなく、フジサンケイグループ、フジ・メディア・ホールディングスの問題であるとし、さらに「日枝さんが作ってきた企業風土の問題でもあるわけです」と述べた。そして「ですから、現経営陣が退陣するという時には日枝さんの任命責任も当然問われてくるべきだと思うんですね」と自身の見解を示した。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
八代弁護士は《ここにいる方々はみんなフジサンケイグループというコングロマリットの代表である。いわば、サークルの代表である日枝さんに持ち上げられてきた人ばっかりなんですよね。ですから今でも顔色をうかがっている》と述べているが,なぜ《顔色をうかがっている》のかを説明しなければ何も言っていないのと同じだ.
なぜ皆が日枝氏の顔色をうかがうか.
フジサンケイグループ代表の日枝久氏は,傘下の七十九社,四法人,三美術館に関して,実質的に最高位の人事権を有していることは常識ではなかろうか.
フジサンケイグループにおける持株会社であるフジ・メディア・ホールディングスの株式の大部分を日枝氏は掌握 (株主の信任率は八割超だという) している.
すなわち日枝氏は,形式的には代表権を持たない取締役であるにもかかわらず,グループの役員全員に対する実質的人事権を持っている.
つまり「取締役に引き立ててもらった恩義があるから日枝氏の顔色をうかがって行動する」とかの牧歌的な話ではなく,子会社フジテレビの代表役員なんぞ,株主の大部分を掌握している日枝氏の意向により簡単に辞任させられてしまうのである.港前社長と嘉納前会長の辞任はそういうことなのだ.
企業における権力者の「権力」とは,発行株式をどれだけ掌握しているか,つまり株主総会において株主の委任状をどれだけ集められるかである.
日枝氏は発行株式の八割を掌握しているから,ほとんどオーナーのようなものである.グループ企業の取締役たちは,日枝氏にとってはただの使用人のようなものだ..
だから,もしもフジ・メディア・ホールディングスの取締役の誰かが日枝氏に向かって「社員説明会に出席してください」などとエラソーなことを言ったらその場で退任させられる.会社における権力構造とはそういうものだ.八代氏はそういう解説をしなければいけない.
しかし,フジ・メディア・ホールディングス傘下企業の代表取締役クラスでは日枝氏の首に鈴をつけることは不可能だが,労働組合ならなんとかなるかも知れない.
もしスト権を確立できれば (スト権確立の可能性は低いと私は思うが),スト権を武器に日枝氏との団交に持ち込めるかも知れない.そう言っている評論家がいるが,団交が可能になる可能性は非常に低いと私は思う.
スト権投票が行われれば,管理職によって組合員の切り崩しが必ず行われる.
そして切り崩しに抵抗してスト権投票で賛成投票すれば,必ず会社側から人事的報復を受ける.
それを覚悟のうえで賛成投票することは,我も我もと労働組合に入ったニワカ組合員には無理だ.急ごしらえの労働組合のスト権投票は必ず否決される.これは私たち高齢者の世代が経験した戦後昭和の労働組合運動の悲しい事実だ.
フジテレビの社員は一般の会社員よりもはるかに高給取りであろう.
それを失ってまで会社の改革のために戦う必要はないとニワカ組合員は思うだろう.そして労使対立が激化すればニワカ組合員はたちまち雲散霧消する.
したがって組合執行部のとるべき戦術は,日枝氏退任を要求するスト権に訴えずに,社内のコンプライアンスに関わる漸進的改革を粘り強く経営者と交渉することである.
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