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2024年12月19日 (木)

料理研究家がそれではまずいと思うのである

 昨日のNHK《あさイチ》では鍋物の特集を放送した.料理講師のトップバッターは浜内千波先生だった.
 浜内先生の鍋の特徴は,鍋に入れる水あるいは出汁に「白菜漬」の漬け汁を加えることである.
 先生お気に入りの「白菜漬」は下の画像の商品である.
 昔のNHKは,食品等の商品が画面にアップされる時は絶対に,視聴者にブランドとか製造者名がわかってしまうようなことはしなかった.
 例えば缶コーヒーが画面に出てくる時は,缶の外側に「缶コーヒー」と印刷された紙をわざとらしく巻いて,商品名を隠したりした.
 それが最近はかなりゆるくなって,下の放送場面で浜内先生は,スーパー「ライフ」のPBだとわかるように「ライフ」のロゴマーク (四葉のクローバー;「白菜漬」の文字の左肩に印刷されている) を視聴者に見せつけていらっしゃる.
 
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(↓) 浜内「白菜漬けなんですね~ この中に漬かっている汁,これが大事」 
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(↓) 浜内「だから私はこれを大事に大事に“うまみのエキス”と呼んでいるんですよね~」
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(↓) ナレーション「漬け汁は,うまみ成分が凝縮されているので,あとは塩.味付けはこれだけでいいんです」
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 さて,それでは浜内先生激賞のライフPB「白菜漬」の漬け汁の正体を見てみよう.
 この白菜漬けはスーパー「ライフ」のPBだから,私は「ライフ」に行ってちゃんと放送に使用された商品を買ってきた.
 それを下の画像に示す.
 賞味期限切れ前日に購入したので,20%引き価格である.
 それはとてもよいのだが,ここで一つ大きな問題がある.
 
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 上の画像を見ると,パッケージの真ん中の商品名「白菜漬」の印刷にかぶせて円型枠に「50g 増量」と書かれている.
 さらにその下の四角枠に「250g+50g」と書いてある.
 これは「通常の内容量は250gだが,50g増量してある」という意味である.
 ところがパッケージ裏面には「内容量 300g」と表示されている.(下の画像)
 
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 パッケージ裏面の欄 (法定表示事項をまとめてある欄で「一括表示」という) に「内容量 300g」と書かれているということは,この商品の「通常の内容量は300gである」という意味である.
 おや,これは一体どういうことだ.
 表の面には「通常の内容量は250gだが,50g増量してある」と書かれているが,法定表示は「通常の内容量は300gである」となっている.
 これは表の面の「50g 増量 250g+50g」という印刷が,幼稚かつすぐバレる不当表示なのである.
「お得感」を示唆して消費者を騙そうと言うのだ.
「お得感」を出す正しい方法は,表の面には「50g 増量 250g+50g」と書かれているシールを貼り,裏面の一括表示に「内容量 250g」と印刷する.こうすれば合法である.
 この際,シール貼りではなく,パッケージに「50g 増量 250g+50g」と印刷してしまうと,裏面の一括表示に「内容量 250g」と印刷してあっても,「包材に印刷しちゃってるからには実は通常の内容量は300gだよね」と指摘されると反論が難しい.食品表示のこういった細かい注意点を,製造者 (株式会社アキモ) とPB販売者 (スーパー「ライフ」) は勉強しなければいけない.
 それはともかく,上に私が「一つ大きな問題がある」と書いたのは,浜内千波先生が不当表示の食品を公共の電波で宣伝したことである.
 浜内先生が自宅で不当表示食品を愛用しても何ら問題はないし,正しい表示の食品をNHKの画面に登場させてもいいと私は思うが,不当表示食品を放送電波に載せてはいけない.テレビに出るからには,料理研究家として守るべきことは守って頂きたい.
 
 さて,不当表示のこととは別に,もう一つ問題がある.
 問題点の指摘の前に,白菜の漬け方を簡単に紹介しておく.
 私の郷里は群馬県だが,小学校の低学年の頃 (昭和三十年代) に父親から沢庵と白菜漬けの作り方を教えられた.
 当時の北関東と甲信越は極めて寒かった.冬の朝は氷点下であった.農村の溜池が凍った.
 こういう土地は漬物に適している.信州の野沢菜漬は特に有名だ.
 群馬には特産の漬物はなかったが,それでも冬が来れば庶民の家庭の多くは白菜と沢庵を漬けた.
 家族の人数にもよるが,一斗樽か二斗樽を漬け物用の樽にした.
 四つ割りにした白菜を一日,天日干しする.
 干した白菜の,葉の内外に塩を擦り込みながら,樽の縁よりずっと高くまで詰め込んで,蓋をしてかなり重い石を載せる.
 一昼夜経つと白菜は嵩 (みかけ体積) がぐんと減り,漬け物樽の八分目くらいになる.これが下漬け.
 そうしたら白菜を取り出し,手でざっと搾る.搾り汁と下漬けに使った塩水は捨ててしまう.
 次に,樽の内側を焼酎を使って布拭きする.
 この樽に,下漬けが済んだ白菜に,塩,粗く刻んだ昆布,赤唐辛子,柚子の皮をまぶしながら漬け込むのである.これが本漬け.
 とにかく寒い土地柄だから乳酸発酵はゆっくり進むのだが,酸っぱくなってしまったら塩抜きして食べる.
 白菜がなくなったら,二度目の仕込みをする.下漬けは同じ作業だが,二度目の本漬けには,一度目の本漬けでできた汁を使う.塩気が足りなければ足す.
 こうして毎食毎食白菜漬けをおかずにして配給米を炊いたご飯を食べ続け,年を越して冬の終わり頃になったら,白菜漬けのシーズンも終わりである.
 以上が伝統食品「白菜漬け」の伝統的な作りかたである.(大体同じ漬けかたをしているウェブ資料;NHK《みんなのきょうの料理 白菜漬け》)
 要点は,伝統的な白菜漬けは,下漬けと本漬けの二度漬けをすることと,白菜にはうま味が少ないので本漬けに昆布を使う事.
 では翻って,スーパー「ライフ」PBの「白菜漬」の裏面表示を再度見てみる.
 
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 原材料名欄に「調味料 (アミノ酸)」とあるのは,グルタミン酸ナトリウムまたはその製剤である.
 同じく「pH調整剤」と「酸味料」は腐敗を防止するための食品添加物だ.
 それだけである.昆布も赤唐辛子も使われていない.
 この原材料表示と,漬け物メーカーのウェブサイトに掲載されている白菜漬けの製法を参照すると,スーパー「ライフ」の「白菜漬」は,1. 塩漬けした四つ割りの白菜をポリ袋に入れ,2. これに調味液 (2%くらいの食塩水溶液に,グルタミン酸ナトリウム,pH調整剤,酸味料を添加した液) を注入し,3. 真空包装機で密封して製造したものである.
 すなわち,浜内先生は食塩水溶液にグルタミン酸ナトリウム,pH調整剤,酸味料を添加して作った調味液を《私はこれを大事に大事に“うまみのエキス”と呼んでいるんですよね~》とおっしゃっているが,大変な誤解である.
 それは《うまみのエキス》ではなく「腐敗防止用食品添加物入りのグルタミン酸ナトリウム溶液」に過ぎない.
 グルタミン酸ナトリウムもpH調整剤も酸味料も,特に毒性のあるものではないが,しかしこの種の食品添加物入り調味液の味に慣れてしまうと,伝統的な漬物の味が物足りないと思うようになる.そして昆布出汁とグルタミン酸ナトリウム水溶液の識別ができなくなる.
 いわゆるバカ舌になるのだ.
 バカ舌の特徴は,まず第一に,食材本来の味よりも,強い塩味を好むようになることである.そして「薄味」をおいしいと思わなくなる.
 
(↓) 浜内家では,小鉢に取り分けた水炊き (鶏むね肉と野菜) に,小さい匙二杯も食塩をブチ込んで食べる.
明かに食塩の過剰摂取である.この水炊きを食べ終えるだけで一日の食塩推奨摂取量の半分くらいは摂ってしまいそうだ.
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 バカ舌の特徴その二は,何を食べても「甘い」としか評価できないことだ.テレビのグルメ番組に出てくるタレントや女性局アナがやたらと「あまーい,あまーい」と言うが,それは彼らがバカ舌だからである.味覚未発達の幼児は甘味を喜ぶが,グルメ番組に出演する彼ら彼女らの味覚は退化しているのである.
 
(↓) 食塩をブチ込んだ濃い塩味を「甘い」という.
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(↓) 「甘い」という味の評価に同意しない夫君に「甘いよね」と強要する.w 
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 ここでバカ舌とは別の話.
 先日逝去なさった服部幸應先生は食育に熱心だった.
 食育の目的の一つに,伝統的な食文化を後世に伝えるということがある.
 それについて農水省《食事マナーと食育レシピ「食事マナーも食育のひとつです」》に次の記述がある.
 
大人でも守れていない人が多いといわれる食事マナーに、箸の使い方があげられます。箸をきれいに持てないと、見た目の印象が悪いだけでなく、魚をきれいに食べられないことが魚嫌いにつながったり、犬食いや迎え舌の習慣が身についてしまったりするおそれがあります。正しく持てるようになるだけで、こうしたリスクを避けることができるので、ぜひ、正しい食事のマナーを身につけて、その意義を子どもにも伝えていきましょう。
 
 服部先生だけでなく,およそ料理研究家というものは《正しい食事のマナーを身につけて、その意義を》後世に伝える責務を負っている.
 従って料理研究家は,正しく美しい箸遣いをテレビ放送で率先垂範せねばならないと思うのである.
 
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(↑) 親指が箸と直行するこの持ちかたでは,箸の先で芥子粒や山椒の実などの小さなものをつまむことができない.
 
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