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2024年12月12日 (木)

三井・ケマーズフロロプロダクツの悪事

 先日のNHKスペシャル《調査報道新世紀File8 追跡“PFAS汚染”》[初回放送日:2024年12月1日] でも報道していたが,いま全国各地でPFAS汚染が問題になっている.
 番組宣伝サイトから下に引用する.
 
自然界で分解されることがほとんどなく永遠の化学物質と呼ばれる有機フッ素化合物PFAS。去年WHO・世界保健機関が一部の物質について発がん性の評価を引き上げたが、そのPFASが日本各地の水道水から検出されているのだ。国が暫定的に定めた目標値を大きく超える地域もあり住民から不安の声が上がっている。汚染源を探る住民、PFASを製造してきた企業、国内外の研究者への独自取材から“PFAS汚染”の全貌に迫る。
 
 PFASは一群の化合物の総称かつ略称で,Wikipedia【ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物】に詳細があるが,以下に概略を引用する.
 
ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(ペルフルオロアルキルかごうぶつおよびポリフルオロアルキルかごうぶつ、英: per- and polyfluoroalkyl substances)は、アルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物の総称である。略称は、PFAS(ピーファス)、PFASs。
 PFASは、強力な化学結合である炭素 - フッ素結合(F - C)を持つため分解されにくく、2018年のワシントン・ポスト紙の論説を受けて「永遠の化学物質(英語:Forever Chemicals)」と呼ばれている。
 PFASのうち、ペルフルオロオクタン酸(PFOA) 、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの物質については、人体に蓄積し、毒性があり、環境汚染物質と知られている。なおすべてのPFASが人体に有害であるわけではない。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 問題になっているPFAS汚染の発生源は,同じくWikipedia【ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物】に述べられている.
  
環境汚染
 日本
 フッ素化合物による汚染や各種の地下水汚染については古くからの報告もあるが、フッ素化合物でも中のPFOSやPFOAによる汚染が日本の役所や学会で注目され始めたのは、アメリカでの規制が始まった2000年以降でありこの頃から論文の報告が多い。
 小高・益永(2006)は東京湾および幾つかの流入河川での調査の結果、河川によって濃度の差が大きいことを報告した。汚染度の高かった河川の一つ、多摩川については西野ら(2008)の報告によって上流部にある「飛行場」と「半導体工場」が主たる汚染源と推定している。この頃他の自治体でも調査が進み、各地で検査結果が公表されている。原因物質は撥水加工は広く使われることから飛行場や半導体工場に限らない北海道の例では製紙工場の排水からも比較的高濃度で検出されており、撥水加工した紙製品の影響ではないかと推定されている。
 PFAS汚染問題が日本で広く認知されるようになったのは在日イギリス人ジャーナリストのジョン・ミッチェル(John Mitchel)によるところが大きい。特派員として沖縄タイムスや東京新聞に記事を提供し、沖縄県や東京都における米軍基地周辺のPFAS汚染が明らかになった。それまでは米軍基地が汚染源だと強く疑われる場合でも、前述のように「飛行場」などと濁されていた。
 2007年に大阪府摂津市で、市内の水路や井戸などで高い値のPFASが相次いで検出されている。2016年には沖縄県が嘉手納基地周辺で水道水の水源にもなっている河川で高い濃度で検出されている。原因として、PFASを含む泡消火剤を利用してきたアメリカ軍基地が汚染源である可能性が高いと考えられている。
 2020年1月、東京都において2か所の浄水所の水道水で、100ng/L(PFOS・PFOAの合計値)の濃度が6年間検出され続けた。
 2023年、東京都多摩地域で一部住民を対象にした血液検査が行われた。650人の被検体の血中濃度(PFOS・PFOAの合計値)の平均値は14.6ng/Lで、国がおととし、全国の3地点で行った調査の平均値のおよそ2.4倍の血中濃度が検出された。また、国分寺市での結果では、平均で血中濃度が23.2ng/mLであり、基準値20ng/mLを超えたことが発覚した。
 2024年11月、各都道府県などが実施した河川や地下水などの水質調査で、国の暫定目標値(PFOS・PFOAの合計値)である50ng/Lを上回る場所が、全国で285地点あることを報じられた。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 上に引用した解説では米軍基地と半導体工場が汚染源であるとされているが,NHKスペシャル《調査報道新世紀File8 追跡“PFAS汚染”》は,実はPFASの製造者 (製造工場) も強く疑われることを示唆した.
 NHKスペシャルはPFASの製造者としてダイキンを取材していたが,私がかつて長年にわたって住んでいた旧清水市 (現静岡市清水区) に工場がある三井・ケマーズフロロプロダクツ (東京都港区虎ノ門4-1-17) も環境汚染企業の一つである.
 この会社のウェブサイトに掲載されている会社沿革の一部を下に引用する.以下に,社名の変遷を下線を付して示す.
 
1963年 4月 米国デュポン社と日東化学工業株式会社との折半出資により日東フロロケミカル株式会社として設立
1965年 3月 清水工場稼動、技術サービス研究所開設

1966年 5月 日東化学工業株式会社が所有全株式を三井石油化学工業株式会社(現 三井化学株式会社)に譲渡、

      これに伴い社名を三井フロロケミカル株式会社に変更
1979年 7月 清水工場コポリマープラント竣工
1984年 8月 三井・デュポンフロロケミカル株式会社に社名変更
1986年12月 清水工場コポリマープラント生産能力増強
1987年12月 千葉工場竣工
1988年 4月 研究開発センター(現テクニカルセンター)を開設
1990年 1月 株主が米国デュポン社からデュポン株式会社に変更
1992年10月 千葉工場にて特定フロンの代替品HFC-134a(スーヴァ™)プラント竣工
1994年10月 清水総合事務所を開設し、本社の主要機能を移転
1994年12月 特定フロン (ブログ筆者による下記の註参照) 生産停止
(中略)
2018年 7月 社名を三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社に変更
(以下略)
 
(当ブログの筆者による註
 特定フロンとは,モントリオール議定書で特にオゾン層破壊に影響が強いとされたフロン類を指す.当初は CFC-11,CFC-12,CFC-113,CFC-114,CFC-115 の5種類であったが,1992年に15種類に増やされた.CFC類それぞれについては特定フロンについて検索されたい.なおこれらはオゾン層破壊に影響が強いとされたフロン類であり,人体に対する毒性とは無関係である)
 
 私が静岡県に住んでいた頃,現在の「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は地元では「三井・デュポンフロロケミカル」を略して「三井フロケミ」あるいは単に「フロケミ」と呼ばれていた.
 この会社が環境汚染企業であることについて,地元の報道を引用する.
 NHK静岡放送局《静岡 PFAS続報 清水区三保に続き折戸・駒越でも目標値越える濃度検出》[掲載日 2023年12月18日] から下に引用する.
 
静岡市清水区の化学工場周辺の井戸水などから有機フッ素化合物の「PFAS」のうち有害性が指摘されている物質が高い濃度で検出された問題で、静岡市は、工場付近のポンプ場の排水を検査した結果、最大で国の暫定目標値の220倍にあたる濃度が検出されたと発表しました。工場のある地区の近隣地区の井戸水からも目標値を超える濃度が検出されたことがわかり、難波喬司市長は、当面これらの地区で井戸水を飲むのを控えるよう呼びかけました。
 
 三保雨水ポンプ場 目標値の220倍
 アメリカの化学メーカー「デュポン」社が出資する会社が静岡市清水区三保で運営していた化学工場では、フッ素樹脂を製造する過程で「PFAS」のうち発がん性などの影響が指摘されている「PFOA」が2013年まで使われていて、工場付近の水路や井戸水から高い濃度の「PFOA」が検出されたことから、市は調査範囲を広げるなどして水質検査を進めてきました。
 
(当ブログの筆者による註
「デュポン」社が出資する会社が静岡市清水区三保で運営していた化学工場》と過去形で書いているのは,あたかも別会社であるかのような誤解を与える.この工場は,過去に社名変更はあっただけで現在の「三井・ケマーズフロロプロダクツ」の清水工場であると同社のサイトの会社沿革に記載されている)
 
 静岡市 難波喬司市長
 12月12日、静岡市の難波市長が臨時の会見を開き、この水質検査の結果を公表しました。それによりますと、11月22日から28日にかけて、工場の付近にある「三保雨水ポンプ場」の排水を連日検査した結果、国の目標値の78倍から220倍の濃度が検出されたということです。
 市がポンプ場への流入経路となっている「雨水幹線(うすいかんせん)」を調査した結果、工場の西側で国の値の500倍の濃度が検出されたことから、工場内の高濃度の地下水が何らかの原因で雨水幹線に入り込んだことが考えられるということです。
 市は、現在工場を運営している「三井・ケマーズフロロプロダクツ」に対し、工場内の地下水が流入しないようにする対策を求めているということです。
 
(当ブログの筆者による註
 雨水ポンプ場とは,主に雨水を,地下管路等を通じてポンプ場地下に流入させ,それをポンプで汲み上げて海へと排水する施設である.静岡市の管理する施設「三保雨水ポンプ場」は,「三井・ケマーズフロロプロダクツ」の主力工場である同社清水工場に道路を挟んで隣接し,「雨水幹線」すなわち雨水が流れる地下管路の一つは同社の敷地西側の地下を通過している;参考資料《令和6年6月5日市長定例記者会見資料3「MCFによる清水区三保地区のPFAS対策」について》)
 
 静岡市 難波喬司市長
 工場敷地内の地下水の濃度が極めて高く、それが周囲に拡散している状況が確認され、おそらく間違いないと思うので、会社側には対策をしっかりと取ってもらいたい。
 
 折戸地区と駒越地区でも検出
 また、12月12日の会見では、三保地区の近隣に位置する折戸地区と駒越地区で11月、井戸水を検査した結果、折戸地区では最大で国の値の7.2倍、駒越地区では最大で4.2倍の濃度が検出されたことも発表されました。難波市長は、三保地区と折戸地区、それに駒越地区では、当面、井戸水を飲むのを控えるよう呼びかけました。
 
(当ブログの筆者による註
「三井・ケマーズフロロプロダクツ」清水工場がPFAS汚染の汚染源であることは確実であり,同工場がある三保地区だけでなく《それが周囲に拡散している》ことをNHK静岡の記事は《折戸地区では最大で国の値の7.2倍、駒越地区では最大で4.2倍の濃度が検出された》と述べている)
 
 静岡市 難波喬司市長
 水道水を飲んでいるかぎりは健康への影響はないと思われるので、過度な心配はいただかなくてよいと思うが、そうは言いながらも不安はあると思うのでしっかりとした情報提供を行っていきたい。
 市は今後、三保半島で土壌調査を行うほか、工場の排水が流れ込む折戸湾で海水の検査も行う方針です。
 
 三井・ケマーズフロロプロダクツ 清水工場
 一方、静岡市の検査結果を受けて、「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は、地下水をくみ上げて活性炭を使った浄化装置で処理してから排出する対策を12月18日から始めるほか、敷地の境界の地下に遮水壁を設置するなどの中長期的な対策を検討しているということです。
 
(当ブログの筆者による註
 長年にわたりPFAS (中でも毒性の高いPFOA) を環境に垂れ流してきたことが発覚したためにPFAS環境汚染企業として最も有名になった「ダイキン工業・淀川製作所」(大阪府摂津市) は,同製作所によってPFAS汚染された地下水を除染するために,地下水を汲み上げて活性炭処理し,使用済み廃活性炭を岡山県吉備中央町の満栄工業に焼却処理を依頼した.しかしPFAS汚染された活性炭を焼却すれば含フッ素化合物が発生するわけで,そんな廃ガスを大気中に排出してよいのかについて慎重なアセスメントが必要になる.それをせずに満栄工業に焼却依頼したダイキンの無責任は甚だしいものがある.案の定,満栄工業はこの廃活性炭を焼却できずに野積みした.そしてこの野積みされた有毒廃活性炭から雨水と共にPFASが流出し,水道浄水場を汚染し,その汚染水道水を飲用した住民の血液からPFASが高濃度に検出されるに至った.資料;YAHOO!ニュース《自然豊かな町を襲った最悪レベルのPFAS汚染。活性炭が水道水を汚染した衝撃》[掲載日 2024年6月23日]
「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は,吉備中央町のPFAS汚染事例を当然知っているはずだが,にもかかわらず同社清水工場によって汚染された地下水を活性炭で処理するという.だが使用済み廃活性炭をどうするつもりなのか.焼却すれば大気中にフッ素化合物をばら撒くことになる.満栄工業の轍を踏まぬよう厳重に密閉容器に入れて地中に埋めるとすれば,福島第一原発のように,広大な廃棄物最終処分場を無意味に作り続けて行かねばならない.だが誰が見てもそんな経済的負担に,東電よりも遥かに小規模な民間企業に過ぎぬ「三井・ケマーズフロロプロダクツ」が耐えられるはずがない.つまり「三井・ケマーズフロロプロダクツ」が「地下水を汲み上げて活性炭で処理します」と言っているのは静岡市に対するポーズに過ぎない.使用済み活性炭の処理方法が存在しないから,これは絵に描いた餅なのである.
「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は《敷地の境界の地下に遮水壁を設置する》とも述べているが,福島第一原発では凍土工法による遮水壁を設置しようと試みるもいまだに完成の目途が立っていない.つまり地下水が「三井・ケマーズフロロプロダクツ」の工場敷地に流入するのを遮水壁で食い止めるという対策は,東電よりも遥かに小規模な民間企業に過ぎぬ「三井・ケマーズフロロプロダクツ」が採用することは不可能なのである)
 
 自治会会長「早急に対策を」
 静岡市の検査結果について、清水区の三保地区連合自治会の櫻田芳宏会長に話を聞きました。
 
 清水区 三保地区連合自治会 櫻田芳宏会長
 予想よりも濃度が高い印象で、間違いなく工場からは影響がでていて、土壌に蓄積されているだろうと感じた。対策については早急にできるものと簡単にいかないものがあると思う。特に土壌の浄化は難しく長期戦になると思った。
 工場の周辺では高い濃度が検出されているので、自治会としてはそれを早急に下げる対策をお願いしていきたい。
 
 専門家「土壌に相当量のPFOA」
 また今回の調査結果と会社側が取り組む対策について、PFASの環境省専門家会議のメンバーでもある専門家は以下のように指摘しました。
 
 京都大学大学院 原田浩二准教授
 排水としてこのレベルの濃度が出ることはまれで、雨水は結局のところ工場の敷地を通ってくるので、いまだに表層の土壌に相当量のPFOAが残っていないとこのような高い値にはならない。
(会社側の)一番濃度の高いところの地下水をくみ上げる、もしくは遮水壁を設置するという対策は、周りに広がるのを抑えるという点では効果はあるかもしれない。ただし、それで十分なのかということについてはしっかりした評価が必要だ。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った.また引用文中に適宜,ブログ筆者が註を入れた)
 
 昭和から平成にかけて,日本中の工場や産業関係施設で,産業廃棄物が土中に廃棄埋蔵された.
「自分の土地に何を埋めようが我々の勝手だ」という理屈であった.
 自分の土地だろうがなんだろうが,環境汚染は周囲に拡散するのだという認識が産業界に希薄だったのである.
 日本中に報道されて国民が驚いたのは,東京都が築地市場を豊洲の東京ガス跡地に移転する際に発覚した土壌汚染だったが,これがその典型例であった.
 
 東京都が築地市場を豊洲地区へ移転すると決めたのは2001年だった.
 同年4月に東京都中央卸売市場審議会から豊洲を移転候補地とする答申を受けた後,同年7月に東京ガスと都が基本合意し,同年12月に移転を正式決定した.
 都が移転を決めた土地は東京ガスの豊洲ガス埠頭 (都市ガス製造工場) 跡地である.この土地は1950年代から70年代にかけた20年間,一日当たり200万立方メートルのガスを製造し,東京にガスを供給する基地となってきた.
 この間,東京ガスは,ガス製造に伴って発生する様々な毒性廃棄物を無害化処理することなく工場敷地に埋めてきた.
 結果的にこの跡地は毒まみれになったわけだが,ここに救世主が現れた.東京都である.
 東京都と東京ガスの合意事項では,有毒物汚染された工場跡地を東京ガスが除染することになったが,それは守られなかった.東京ガスがやった除染は形ばかりのもので,東京ガスによる「除染」のあとも有毒物分析値は高いままだった.
 そのため東京都はこの「死の土地」を1589億円で買い取ったものの,豊洲地区の再開発のためにはさらに除染を行う必要があったのである.
 止むなく実施された「追加」の除染は,東京ガスが178億円,東京都が849億円を負担した.
 つまり,東京ガスが汚染した土壌の除染費用は,「汚染者負担原則」に従って東京ガスが全額負担すべきところ,逆にその大半を都民が負担したのである.
 ちなみに,豊洲市場建設に関わった都庁幹部が東京ガスの役員に栄転した.
 この人事の背後の闇に触れることは,当ブログの記事の本題ではないので,関心ある向きはウェブを検索されたい.
 いずれにせよ,企業の「自分の土地に何を埋めようが我々の勝手だ」という理屈によって,東京ガスのみならず全国の工場で,有毒物が地中に埋められてきたのである.
 
 言うまでもなく静岡市清水区の「三井・ケマーズフロロプロダクツ」清水工場では,東京ガスの豊洲ガス埠頭と同じことが行われたのであるが,私は同社が地元で「三井フロケミ」と呼ばれていた時期に,その社員から廃棄物に関する断片的な話を聞いたことがある.
 清水区には巴川という河川が市内を流れているが,私が豊年製油清水工場に勤務していた昭和四十年代,川に沿って飲み屋が何軒か営業していた.
 そのうちの一軒を私は行きつけにしていたのだが,常連の一人に「三井フロケミ」の社員がいた.
 昭和五十年頃のある夜,私は,カウンターで隣り合わせになったその社員との雑談で,「三井フロケミ」では工場内に産廃を埋めているということを耳にした.
 それはまだ「ダイキン」や「三井フロケミ」などの有機フッ素化学企業が製造するPFASの毒性が不明だった時代のことではあるが,「三井フロケミ」社員の彼は漠然とした不安を感じているようだった.
「あんな産廃を穴掘って埋めていいんかなあ」と彼は言った.
 いいわけがなかった.
 昭和52年3月14日総理府厚生省令第1号「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」により,自社が所有する土地内の場所であっても,その場所を,当該省令の基準を満たす最終処分場として行政に届け出ることなく勝手に産廃を埋めてはいけないことになったからである.
 
 上記の省令以前は,自社所有地に産廃を埋めることを明確に規制する法的根拠がなかった.
 そのため静岡県内にある某農薬会社は,土地を購入してはその土地に産廃を埋めることをやっていた.私はそのことを直接に社員から聞いた.
 ある時,その某社が所有していた土地が売りに出て,購入した人が土地を使用するために工事を行うと,そこから農薬が発見されたということがあって新聞記事になった.
 静岡市民は「あの会社が埋めたんじゃないか」と噂したが,警察沙汰にはならなかった.
 県内では有名な企業でもそんなことを平気でしていた時代だった.
 当時私が勤務していたのは豊年製油清水工場という事業所だったが,ここもご多分に漏れず産廃を工場内に埋めていた.
 この事業所には尿素樹脂接着剤を合成製造する工場があったのだが,製品の樹脂が貯蔵タンクや反応釜の中でゲル状に固化して不良品になってしまう事故が起きた時,現場作業員が総出で穴を掘り,トン単位の不良品を穴に埋めてしまった.私も穴掘りの手伝いに駆り出されたので今も覚えている.
 
 閑話休題.
 今にして思うのだが,工場に穴を掘って毒性の高い危険な産廃を埋めてしまうような酷い会社は,その廃棄作業を行う作業員が毒に暴露されてしまうこととか,さらには汚染された工場で働く従業員の安全に無関心なのである.
 実際,「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は社名が「三井・デュポンフロロケミカル」だった2008年から2010年までの間に一部の従業員の血液検査を実施し,その結果,高濃度のPFAS (PFOA) が検出されたと当時の内部文書に記載されていると報道されている.
「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は今年の二月に,血液検査を希望する元社員を対象にして血液検査を行った.
 NHKが把握しただけで二名の元社員の血中PFAS (PFOA) が異常な高値を示した.
「三井・ケマーズフロロプロダクツ」はNHKの取材に対して,血液検査結果は個人情報に関わるとして取材を拒否したという.(以上の記述の出典はNHK静岡放送局《静岡 続報「PFAS」問題 血液検査で元従業員から20倍超検出》)
 私は元会社員だから,「三井・ケマーズフロロプロダクツ」の幹部たちが考えることは手に取るように想像できる.
 彼らは今,「会社を守る」ことしか思考の範囲にないと思われる.
 元社員たちの血液検査をすることは会社の不利益になる (メディアの追及を受ける) から,もうやらないだろう.
 二月の検査の結果は内部文書として秘匿するだろう.「個人情報に関わることは開示しない」という文言は最強だ.
 元社員だろうが現社員だろうが,会社のためなら犠牲にして一顧だにしない.
「会社を守る」ためなら何でもするのが,経営者であり会社幹部というものなのである.
 
 いまや「三井・ケマーズフロロプロダクツ」の清水工場は,工場敷地そのものがPFAS汚染され,汚染の発生源になっている.
 工場と周辺の土地の境界地下に遮水壁を作ってPFAS汚染が拡大しないようにすることは,成功の可能性が非常に低い.
 福島第一原発の例をみれば明らかだ.
 地下水を汲み上げて活性炭で浄化することは,工場敷地内にPFASの根本的な発生源である産廃が埋められている限り,ダイキンがやったように,使用済み活性炭と言う新たな汚染源を生み出すだけである.
 しかし「工場敷地内に埋められているPFASの根本的な発生源である産廃」を除去すれば,使用済み活性炭の発生量を大きく減らすことはできるはずだ.
 それには,昔のことを知っている元社員たちに協力を求めて,産廃をどこに埋めたかを調べることが不可欠だが,「三井・ケマーズフロロプロダクツ」はそれをしないだろうという気がする.
 PFASを工場敷地内に埋めたことはないと「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は言い張るだろう.
 それが環境汚染をする会社というものなのだ.東京ガスが豊洲の工場跡地で過去にやってきた犯罪は,誰が実行したのかと問われることのないままに豊洲市場は建設された.このことは環境汚染企業が「会社を守る」方法の手本となったのである.
 
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