私ら年寄りはタイパタイパと言う人たちについていけない
文春砲が「橋本環奈のパワハラ」に炸裂したあと,独自取材をしないメディア (スポーツ&芸能ゴシップ紙誌) が尻馬に載って橋本環奈と朝ドラ《おむすび》への攻撃を続けている.
遂には「文春砲第二弾を期待する」旨の記事まで現れる始末だ.仮にもジャーナリストなら第二弾は自分で撃てよと言いたい.
で,この連中の《おむすび》批判の一つに「ストーリーの進行が遅すぎるので視聴者の朝ドラ離れが起きている」がある.
そこで私が思ったのは,このような批判を書いているライターたちは,きっと映画を倍速視聴しているんだろうなということ.
つまり彼らの批判は「《おむすび》はタイムパフォーマンスが悪いから視聴者の朝ドラ離れが起きている」という意味だ.
もっとも,視聴者の朝ドラ離れといっても,視聴率がほんの少し低いだけだが.
テレビドラマや映画にタイムパフォーマンスを要求する人々とは,話の途中は要らないから手っ取り早く結末を示せという若い連中だ.
だから倍速視聴する.
娯楽映像どころか,金沢大学の金間大介教授によると,学生たちの多くは配信される講義も倍速視聴しているという.
しかし世の中には,タイムパフォーマンスの悪さがむしろ必要なこともある.
私たちにとって大切な事柄は時間によって醸成されるものだということを知るには,彼らは若すぎるのだろう.
閑話休題
若者がタイパタイパとさわいでいるのは欧米も同じだろうか.
この夏,公開が遅れていたアマゾンの prime video《ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪 シーズン2》が配信された.
テレビドラマ (日本では例えば《相棒》や《科捜研の女》など) の場合,形式的には連続しているドラマの一年分の放送をまとめて「シーズン」と呼んでいるのだが,オンライン映画の《力の指輪》は,全体で一本の映画の,その年に配信されるエピソードをまとめて「シーズン」としている.
このシステムの「シーズン」は,劇場公開映画の「エピソード」に相当している.
つまりオンライン配信映画《ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪》の全シーズンをまとめると,おそらく劇場映画《ホビット》と劇場映画《ロード・オブ・ザ・リング》をまとめたものよりも長尺の作品になるだろう.
これは撮影開始から完成まで四十年かかった《スター・ウォーズ》の本編と外伝を合わせたくらいの長さになる.
かくも悠久の年代記を長年月かけて映像化した作品を前にしては,もはやタイパという小賢しい言葉には意味がない.
大学のオンライン配信講義を倍速視聴する学生たちとか,「物語の進行が遅すぎるので視聴者の朝ドラ離れが起きている」などと書いてる芸能ライターは,《スター・ウォーズ》や《ホビット》《ロード・オブ・ザ・リング》《ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪》などを鑑賞する気力も能力もないだろう.
これらの作品が欧米では高い評価を受けているのをみると,日本の若い人たちはガラパゴス化しているのだろうと思う.
ところで,《スター・ウォーズ》のような年代記映画作品は特別だが「物語の進行スピード」に意味がない映画もある.
例えば小津安二郎の作品群は,倍速視聴したら何が何やら全くわからない映画ばかりだ.
倍速どころか,何度も繰り返し,見つめるようにして鑑賞することで,しみじみと胸にしみる作品であることが了解されるのである.
さらには,ミステリーというジャンルは小説にしても映像作品にしても,物語の途中をダイジェストすることが不可能である.
私ら古い人間はそう思うが,「ストーリーの進行が遅いドラマは駄作だ」と考える若者も芸能ライターも日本にはたくさんいるわけで,これは欧米の文化的影響を受けていないという意味で新しい日本人なのかも知れない.
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