Hint-Pot《刺身の「つま」 食べるのはマナー違反? 添えられているのが理に適っている理由とは》[掲載日 2024年8月15日] から下に引用する.
《食べる? 残す? どちらが正解?
刺身のつまは、単なる飾りではありません。生ものを安全に食べる昔からの知恵として、食中毒や消化不良を防ぐ作用も期待されているので、刺身と一緒に食べるほうが好ましいといえます。
つまには主に、千切りの大根や大葉、穂ジソ、小菊、海藻などが使われます。彩りで見た目を良くして、刺身を引き立てる役割もあります。
外食先でつまを残したから失礼だということはありませんし、食べたから下品だということもありません。どちらがマナー違反なのか基準はありませんが、食品ロスなどの観点からも残す理由はないでしょう。高級なお店では、こだわりのつまを添えていることもあるので、ぜひ残さずに食べてもらいたいです。
(中略)
主な刺身のつまの栄養や特徴
それでは、刺身のつまに用いられる主な食品の栄養について解説しましょう。
○大根
辛味成分のアリルイソチオシアネートには殺菌作用があり、菌の繁殖を防ぎます。アミラーゼやプロアミラーゼなどの消化酵素も含むため、消化を助けてくれるでしょう。
○大葉
香り成分ぺリルアルデヒドに、殺菌作用や防腐効果があります。刺身のつまとしては、切らずに葉の形のまま使われることが多いですが、この香り成分は刻むとより香り高くなり、効果も高くなるといわれています。
○海藻類
刺身で食べる魚介類には食物繊維が含まれていません。そのため、食物繊維が豊富な海藻類を一緒に食べると良いでしょう。
○ショウガ
辛味成分のジンゲロールには、殺菌作用があるといわれています。また、魚の臭みを抑えてくれる効果も。
○ワサビ
辛味成分のアリルイソチオシアネートは、とくに強い抗菌作用が期待されており食中毒予防に。また、独特の辛味が魚の臭みを感じにくくしてくれます。
前述した通り、刺身のつまの役割は、盛りつけを豪華に見せる飾りだけではありません。栄養の観点からも、食中毒や消化不良を防ぐ、刺身の鮮度を保つ、口直しなど、さまざまな役割が期待されて現代に至っていることがわかりますね。
和漢歩実(わかん・ゆみ)》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
上に引用した文章の筆者である和漢歩実氏は,自分のブログ等に記載している経歴には栄養士と書いているが管理栄養士の資格は有していない.ということは,おそらく栄養学,食品科学,食品衛生学等の,管理栄養士養成課程での基礎教育を受けていない.
和漢氏のようにきちんとした基礎教育を受けずに上に引用したような作文を書くと,理解を伴わない耳学問の羅列になってしまう.
上に引用した和漢氏の作文はいかにも耳学問の羅列であり,大根,大葉,ショウガ,ワサビの成分化学に関する論文なんか読んだこともないだろうことが明らかだ.
もし論文を読んでいれば,ワサビなどの微生物に対する作用に関する知見には,実験方法に起因する制約があることがわかるはずである.
それに触れていない和漢氏の作文は,実際的な知識がないことを示している.
例えば上記引用文中の《辛味成分のアリルイソチオシアネートには殺菌作用があり、菌の繁殖を防ぎます》だが,和漢氏はアリルイソチオシアネート (AIT;Wikipedia【アリルイソチオシアネート】) が水に微溶性の揮発性物質であるという基礎的なことを知らないからこんなことを書く.彼女の無知について以下に簡単に説明する.
AITは水にあまり溶けないので,その抗菌性はガス状の時に発揮される.
そのことについて一色賢司氏 (農水省食品総研,当時) は総説《アリルイソチオシアネートによる食品の健全性確保》[食品と微生物,10(1),1-6,1993] の中で次のように記している.
《INOUYE et al. は,数種の植物揮発性成分のうちAITの活性が最も高く,しかも抗菌スペ クトルが最も広かったことと,揮発性成分が培地への添加よりもガス状態の接触により細菌の生育を強く阻害することを報告している.
カビに対する抗菌活性についても,表2のように同様の結果が得られている.
著者らは,パラフィンを用いて密封したシャーレを用いることにより種々の微生物の生育に及ぼすAIT蒸気の影響を検討し,微量のAIT蒸気により微生物の生育が抑制されることを明らかにした.
(中略)
AIT蒸気を食品保存に利用する上で問題となるのは,AIT特有の強い刺激臭があり使用する食品によっては香りの劣化をおこすことである.今後,臭いの除去法,マスキング法などを検討することによりこの問題を解決する必要がある.また,AITが水に溶けにくいうえ,食品の表面殺菌的効果に特徴を持つことから,AIT蒸気を実際に食品保存に利用する場合,食品内部の初発菌数を少なくし,食品の表面積を大きくするなどの方法によって高い効果を上げることが重要になるものと考えられる.AIT蒸気を各種の多くの食品の保存に利用できるよう,さらに具体的な使用法の開発が望まれる.特に,高濃度のAIT蒸気には強い殺菌力が認められることや,低濃度のAIT蒸気でも菌数が少ない場合には殺菌的な作用を示すことなどを利用した有効利用法の開発が期待される.》
一色氏は論文《Note : Preliminary Examination of Allyl Isothiocyanate Vapor for Food Preservation》[Biosci. Biotech. Biochem., 56 (9), 1476-1477, 1992]において,カラシ菜の種子から粗AITを抽出して抗菌性試験に供した.
その実験方法を簡単に紹介する.
カラシ菜種子を圧搾して油分を除き,残渣にミロシナーゼを加えて分解した後に水蒸気蒸留して粗AITを得た.
この粗AITをガラス製シャーレのフタの中心に塗布した.
シャーレに寒天培地を作成し,種々の菌を植菌した.
この寒天培地シャーレに,粗AITを塗布したフタをかぶせ,パラフィンで密封した.
このような密封条件下で,ようやく気体のアリルイソチオシアネートは抗菌性を発揮したのである.
従って一色氏の論文は,皿の上で刺身にツマとして添えられた大根のアリルイソチオシアネートは,密封されていないために全く抗菌性を示さないということを示している.
つまり刺身に添えられた大根のツマは,見た目をおいしそうにするための飾りなのである.
また和漢氏が書いている大葉の《香り成分ぺリルアルデヒド》も,刺身に添えてある状態では全く抗菌性はない.これも差し色の飾りである.
では研究者たちが,植物に含まれる抗菌性成分を探索していることは無意味か.
そんなことはない.
大根やワサビに含まれるアリルイソチオシアネートは,樹脂フィルムから気体のアリルイソチオシアネートが徐放される「ワサオーロシート」として三菱ケミカル株式会社によって実用化され,弁当の中に入れるなどでお馴染みである.(三菱ケミカル《ワサオーロとは?》)
このワサオーロが良い例であるが,植物のある成分が抗菌性を示すことが発見されても,それを実用化するには色々な技術が必要である.
大根や大葉やワサビに抗菌性成分が含まれているとしても,それを刺身に添えただけでは何の抗菌効果も示さないのだ.
研究者がどのようにして研究結果を実用に結び付けているか,それを考えようともしない和漢氏のような連中が《刺身のつまは、単なる飾りではありません。生ものを安全に食べる昔からの知恵として、食中毒や消化不良を防ぐ作用も期待されているので、刺身と一緒に食べるほうが好ましいといえます》と嘘を書き殴って原稿料を得ている.何の知識もないくせにあるフリをしてカネを稼ぐのはまことに見苦しい.
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