弁護士JPニュース《「調剤ミス」原因で70代女性“意識不明”、数か月後に死亡 遺族が「スギ薬局」と薬剤師らを提訴》[掲載日 2024年8月28日] から下に引用する.
《2022年5月に70代の女性が死亡した原因は、前年10月に薬剤師が誤って処方した薬にあるとして、8月28日、亡くなった女性の長男・長女が薬剤師らと株式会社スギ薬局(愛知県)に損害賠償を請求する訴訟を提起した。
「禁忌」とされる糖尿病薬が薬包に含まれていた
提起と同日に都内で開かれた会見では、原告側の弁護士が事件の経緯を説明した。
事件当時、都内に在住していた田村マキさんは持病のため、かかりつけ病院の訪問診療を受けていた。また、診療の後、杉並区内にある薬局・ドラッグストア「スギ薬局」の店舗に処方箋をFAXで送付し、薬局内で処方した後に従業員が田村さんの家に薬を届ける、というやり取りが定期的に行われていた」。
2021年10月18日、薬剤師は糖尿病の患者のために処方した後に、田村さんの薬を処方。しかし、錠剤を薬包(半透明のビニール袋)に個包装する機械「分包機」には、前の患者の薬が残っていた。そのため、本来なら薬が2.5錠ずつ入った薬包が28包出てくるところ、そのうち7包に前の患者の薬が混ざり、4.5錠ずつ入った状態で分包機から出てきた。
通常、薬を分包した後には、分包を担当した者とは別の薬剤師が、薬の種類と数を処方箋と照らし合わせて間違いがないかどうかを確認する、「薬剤鑑査」の手続きが行われる。 しかし、処方箋が指定した2.5錠よりも多い数が入っている薬包があることが見逃され、 そのまま田村さんの家に届けられた。
11月15日、田村さんは意識不明となり、緊急搬送される。
同月16日、病院の薬剤師が搬送の際に田村さんの家から病院まで持ち出された薬包を鑑別したところ、田村さんの「お薬手帳」には糖尿病薬の記載がないにもかかわらず、2種類の糖尿病薬が1錠ずつ含まれている薬包があることを発見。病院の薬剤師がスギ薬局に電話で確認し、調剤に誤りがあったことが判明したという。
該当の糖尿病薬は、重篤かつ先鋭性の低血糖を起こす可能性があるため高齢者への処方が「禁忌」とされている、ハイリスク薬であった。
同月17日、スギ薬局の担当者が田村さんの長男に電話し、調剤過誤の事実を告げる。
その後、田村さんの意識が戻ることはなく、2022年5月2日、心不全により74歳で死亡した。
原告側によると、スギ薬局側は、問題となった処方について「薬剤鑑査の手続きは行われたが、そのうえで糖尿病薬が含まれていることが見落とされてしまった」と主張しているという。
これに対し、原告側は「薬剤鑑査が行われたのに、処方よりも多い数の錠剤が含まれているのを見逃すのはあり得ない。担当した薬剤師らは、薬剤鑑査の手続きを怠ったはずだ」と話す。また、「そもそも、『分包機に前の患者の薬が残っていないか』も確認すべきだが、それも怠った」と併せて主張している。
さらに、スギ薬局側は、田村さんが死亡した原因が調剤過誤にあることも認めていないという。一方で原告側は「意識不明になった直後に病院に搬送され、入院中に健康状態が悪化する別要因も存在しなかった」として、調剤過誤と死亡には因果関係があるとしている。
田村さんの長男によると、スギ薬局の代表者は、調剤過誤が原因で田村さんが健康を害したことは文書で認めたが、「母の死亡の原因が自社にある、と認めることは慎重に回避している印象を受けた」という。
加藤弁護士は「代理人間の交渉でも、スギ薬局側は、田村さんの死亡の責任を認めるかどうかの回答を曖昧にしている」と語った。
編集部の取材に対し株式会社スギ薬局は、今回の提訴について下記の通りコメントがあった。
「民事訴訟を通じて、遺族の方々には誠実な対応を続けていく所存です。また、亡くなられた田村さんのご冥福をお祈りいたします」(広報担当者)》
上に引用した記事ではこの事件の調剤薬局がどこの店舗か不明だが,時事通信その他によれば東京都杉並区のスギ薬局高井戸店である.
JIJI.COM《スギ薬局で調剤された薬を服用した女性=当時(74)=が死亡したのは調剤ミスが原因だとして、遺族2人が28日、法人としてのスギ薬局(愛知県大府市)と薬剤師3人に計約3800万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
訴状によると、女性は2021年10月18日、持病の薬の処方箋を基に東京都杉並区にあるスギ薬局店舗に調剤を依頼。受け取った薬を服用していたが、翌月15日に意識を失って入院した。(以下略)》
一般に医薬品の錠剤 (正確には「経口固形製剤」という) は,1錠あたりの成分量が異なる数種類の製品が医薬品メーカーにより製造販売されている.
これは,患者の年齢や症状によって必要な一回あたりの投薬量が異なることに対応するためである.
上に引用した記事には書かれていないが,他のメディアによると,患者が低血糖で死亡した原因と推定される糖尿病薬はメトホルミンとグリメピリドである.
ここでは重篤な低血糖を引き起こすことが知られている糖尿病薬であるアマリールを例にして以下に説明する.
最近発売された糖尿病薬のアマリールは以下の通りのラインアップとなっている.(医薬品データベースから抜粋引用)
【医薬品情報】
総称名 アマリール
一般名 グリメピリド
薬効分類名 スルホニルウレア系経口血糖降下剤
【商品情報】
組成・性状
販売名 製造会社 薬価 規制区分
アマリール0.5mg錠 サノフィ 10.1円/錠 劇薬, 処方箋医薬品
アマリール1mg錠 サノフィ 11.0円/錠 劇薬, 処方箋医薬品
アマリール3mg錠 サノフィ 20.5円/錠 劇薬, 処方箋医薬品
【警告】
重篤かつ遷延性の低血糖を起こすことがある.
用法及び用量、使用上の注意に特に留意すること.
このアマリールについて,医師は「1日1回,アマリール0.5mg錠を1錠服用」と処方箋に書いたとする.
この処方箋を患者から受け取った調剤薬局が,患者の同意を得た上で,アマリール1mg錠を半分に割り (「分割」という),これをアマリール0.5mg錠の代替とすることがある.
厳密には,アマリール0.5mg錠の1錠と,二つに分割したアマリール1mg錠とでは,成分量は同じでも服用後の溶解速度が異なる.
つまりアマリール0.5mg錠の1錠と,半分に分割したアマリール1mg錠は同等ではないのである.
従ってこのやり方は,医師の処方とは異なることになるのだが,実際にはよく行われている.
この際,アマリールには1mg錠と3mg錠しか存在しない場合に,何らかの医師の判断で0.5mg錠相当の錠剤が必要な場合,1mg錠を調剤薬局が二つに分割して0.5mg錠相当品を作成することを「自家製剤」といい,特定の条件下ではこの作業に対して調剤報酬点数が加算される.
しかし上の例のアマリールの場合のように,そもそも0.5mg錠が存在する場合は,自家製剤に調剤点数の加算は行われない.
そでは報酬が加算されないのになぜ調剤薬局は錠剤を分割するのか.
実はこの「錠剤を分割する」という作業は,調剤薬局にとって報酬加算以外の他のメリットがあるのだ.
説明すると,製薬会社が設計した剤型のまま販売するならば,調剤薬局はアマリール0.5mg錠,アマリール1mg錠,アマリール3mg錠の三品目を在庫しなければいけないが,アマリール0.5mg錠はアマリール1mg錠を二分割することにすれば,在庫はアマリール1mg錠,アマリール3mg錠の二品目でいいことになる.
一般に,資金を商品在庫として固定化してしまうことは,資金繰りを圧迫する.必要以上の在庫を持たないようにするのが経営の基本だ.
すなわち上のアマリールの例のように,在庫各品目の数量 (常時変動する) ではなく,在庫の品目そのものを減らすことは調剤薬局の経営に大きなメリットとなる (在庫削減を確定できるから).
さらに,例示したアマリールの場合は先発薬しか存在しないので単純だが,ジェネリック医薬品がある場合はもっと合理化が可能だ.
すなわち調剤薬局に来た患者にまず薬剤師がジェネリックを勧める.ジェネリックへの変更を誘導するのは国策だ.国からの報酬がある.
というか近年は,患者の処方箋をジェネリックに変更させないとペナルティが課せられるようになっている.
どんなに品質管理が杜撰で品質事故を起こす可能性が高い低品質のジェネリック (実際に事故が起きている) でも,これを患者に勧めるのは違法ではないのだ.
薬剤師が執拗にジェネリックを勧める (ドラッグストアチェーンの中にある調剤コーナーはほんとにしつこい) のは患者側は不愉快だが,薬剤師としては国からのペナルティを受けたくないから仕方ない.
で,ジェネリックへの変更を患者が承諾したら,ジェネリックの品目の中で在庫削減を図る.
錠剤を分割する自家製剤をするのだ.
わかりやすく整理すると,通常の在庫すべき品目が以下のようであったとする.
先発品0.5mg錠
先発品1mg錠
先発品3mg錠
ジェネリック0.5mg錠
ジェネリック1mg錠
ジェネリック3mg錠
上のリストの先発品三品目が処方箋に書かれていた場合,薬剤師はジェネリックが安価であることを縷々説明して患者を説得する.
説得に根負けした患者に「そんなに言うならジェネリックでもいいです」と言わせたら大成功で,その結果,次の三品目に在庫削減できることになる.
説得に応ずることなく頑として処方箋通りに先発品を求める患者にはどうしたらいいか.
普通の調剤薬局は先発品を販売してくれるが,そうでない薬局に私は遭遇したことがある.
JR藤沢駅北口の「さいか屋」デパートの近くにあるドラッグストアの調剤コーナーの薬剤師に処方箋を出したら「ジェネリックに変更しますねー」と言った.
私が「処方箋通りに全部先発品でお願いします」と言うと,この薬剤師は「うちはジェネリックしか扱っていないので,先発品が欲しかったら他の薬局に行ってください」と不機嫌な顔で答えた.
この野郎っ,と思ったが,先発品は在庫せずジェネリックだけ販売するという営業方針は別に違法でも何でもないので,患者は別の薬局にいくしかない.
というわけで,ジャネリックのみ扱う方針の調剤薬局は,以下のようにジェネリック三品目だけ在庫すればよいので,大幅に在庫を削減できる.
ジェネリック0.5mg錠
ジェネリック1mg錠
ジェネリック3mg錠
次に調剤薬局は,ジェネリック0.5mg錠を在庫せず,ジェネリック1mg錠を二つの割って自家製剤することにする.
するとラインアップは以下の二品目だ.
ジェネリック1mg錠
ジェネリック3mg錠
良心的な調剤薬局なら六品目を在庫するところだが,患者の希望よりも利益を重視する経営方針ならば,なんと二品目でやっていけるのである.
調剤薬局の経済合理性追求は,このように理屈では簡単だが,かつては実際には簡単でなかった.
なぜなら,錠剤を分割する作業は手作業でもできるが,これは煩わしいことだったからである.
ある程度の習熟を要するし,失敗すれば損失となるし,医療事故の原因にもなり得る.
しかし現在では錠剤分割作業を容易にする「薬剤自動分割分包機 (分包機)」という装置がある.
これは,薬の飲み間違いを防止する為,病院で処方された処方箋をもとに「服用一回分ごとに複数種類の錠剤や散薬を一つの袋に分包する作業 (一包化作業)」を行う機械である.
この機械は,一包化作業で最も大変なPTPシートから錠剤を取り出し,必要ならば錠剤を分割する作業を自動化している.
ちなみに,モーター内蔵で自動的に一包化作業を行う機械を分包機といい,手動卓上型の簡易な装置を分包器と呼ぶ.
このブログ記事の冒頭に掲載した弁護士JPニュース《「調剤ミス」原因で70代女性“意識不明”、数か月後に死亡 遺族が「スギ薬局」と薬剤師らを提訴》に《錠剤を薬包(半透明のビニール袋)に個包装する機械「分包機」》と書かれているのが,それである.
文中に《本来なら薬が2.5錠ずつ入った薬包が28包出てくるところ》とあるのがそれで,0.5錠は錠剤を半分に分割して作成したものである.
薬剤自動分割分包機は非常に優れた省力装置である.これは疑いない.
だが問題点がある.
一つは,薬剤自動分割分包機は「フール・プルーフ (Fool Proof)」ではないということだ.
フール・プルーフの機械装置とは,バカが操作すると停止する設計になっている.
究極のフール・プルーフ機械装置は,バカが操作しても構わぬように設計されている.
昔の遊園地には「おサルの電車」という乗り物遊具があって,小さな機関車の運転席にニホンザルが座っているのだが,このサルは座っているだけで何もしない.
それでも電車は線路の上をグルグルと回り,停止位置に来るとちゃんと停止した.(下の画像)
(Wikipedia《おサル電車》から引用;パブリックドメイン)
余談だが,自民党総裁選挙で小泉進次郎が有力視されている.
小泉純一郎の不肖の息子である進次郎は,英語ができないのにアメリカ留学しちゃうわ日本語は有名な「小泉構文」「ポエム」で意味不明だわで,普通よりもバカであることが明らかなのであるが,それでも自民党総裁になれるという.
頭のデキが悪いのは何をやらせてもだめだが,政治家がバカでは国民が困る.
頭のデキについては,入試難関大学を出ていればいいというものではないが,じゃあどんな大学でもいいかというとそうではない.遊んでいても入れる大学ではまともな教育が受けられないからである.
それが証拠に,父親の後継者として期待されていた小泉進次郎は,関東学院大学を出たあと,世の中を舐めきって意気揚々とアメリカに大学院留学したが,英語ができないのがバレて,父親の威光で例外的好待遇を得て特別語学講習を受け,ようやく修士課程を受講させてもらえた.(Wikipedia【小泉進次郎】)
こういう人物でも総裁になれるということは,自民党は究極のフール・プルーフのシステムなのであるらしい.
総裁選で小泉進次郎を激賞している人たちは「小泉進次郎はブレーンがしっかりしているから大丈夫」と言うが,仮に自民党総裁になって日本国総理大臣になった場合,ブレーンが同席しない諸外国首脳との交渉を「小泉構文」と「ポエム」で乗り切れると思っているのだろか.
ちなみに今回の総裁選に出馬予定している各氏の学歴は以下の通り.
茂木敏充 東京大学経済学部卒 ハーバード大学大学院修了
林芳正 東京大学法学部卒 ハーバード大学大学院修了
石破茂 慶應義塾大学法学部卒
上川陽子 東京大学教養学部卒 ハーバード大学大学院修了
加藤勝信 東京大学経済学部卒
小林鷹之 東京大学法学部卒 ハーバード大学大学院修了
河野太郎 ジョージタウン大学国際学部卒
野田聖子 上智大学外国語学部卒 (ミシガン州のハイスクール卒の帰国子女)
以上の各氏は日本語,英語の能力抜群の方々である.
ついでに書くと高市早苗氏は神戸大学経営学部卒,泡沫候補の青山繁晴氏は早稲田大学政経学部卒で,言語能力不明.
余談が過ぎた.問題の杉並区のスギ薬局高井戸店の件に戻る.
通常,調剤薬局では,薬剤師の一人Aが,処方箋に従って医薬品保管棚から所定の数量の錠剤 (散薬の場合もある) をトレーに取り出す (ピックアップ).
次にトレーの上の医薬品について,別の薬剤師Bが医薬品名称と数量が間違っていないか,処方箋と照らし合わせて確認する.(専門用語は「調剤薬監査」という)
つまり薬剤師Aの作業が正しく行われたかを,薬剤師Bが確認作業を行うわけである.
さらに,このあと薬剤自動分割分包機で一包化作業が行われた場合,薬剤自動分割分包機が正しく作動したかを薬剤師Cが確認する.
さて,スギ薬局高井戸店による調剤事故で死亡した患者の遺族に提訴された薬剤師は二人である.実際には薬剤師三人が提訴されているが,そのうちの一人は管理者なので,実質的に調剤作業を行ったのは二人の薬剤師である.
ということは,薬剤自動分割分包機を使用した場合の調剤作業の確認には三人 (薬剤師A,B,C) が必要なのであるが,スギ薬局高井戸店では三人作業を二人 (薬剤師A,B) で行っていたことがわかる.
人手不足のためだろうが,自分が行った作業の結果を,自分が点検確認することは非常に難しい.実質的に無点検に等しくなる.これは工場などの作業では常識だ.
これは,自分が書いた文章中の誤字脱字は,書いた後で点検しても発見しにくいことに似ている.
スギ薬局高井戸店の調剤ミス訴訟が,決着まで争われるか示談になるかはわからないが,裁判では誰がどのように調剤薬監査をしたかが明らかにされるはずだ.
薬剤自動分割分包機を使用した場合の調剤薬監査は,本来は三人の薬剤師によって「薬剤師Aによるピックアップ→薬剤師Bによる調剤薬監査→(薬剤自動分割分包機) →薬剤師Cによる調剤薬監査」のフローで行われないといけない.
上に述べたように「自分が行った作業の結果を,自分が点検確認することは非常に難しい」からである.
人手不足のため止むを得ず,三人を要する監査を二人で行う場合は「薬剤師A→薬剤師B→薬剤師A」とする.
これなら,自分がやったことを自分で点検すると言う間違いは回避できているからだ.(ただしこの形は,薬剤師Bに比べて薬剤師Aに大きな負担がかかる)
ここで私の推測だが,スギ薬局高井戸店では通常,「薬剤師Aによるピックアップ→薬剤師Bによる調剤薬監査→(薬剤自動分割分包機) →薬剤師Cによる調剤薬監査」というフローの調剤薬監査をしていたのではないか.
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