都合の悪いことは言わないFP (7/6に追記あり)
All About《70代以降はいくらお金を使っている?年代別にみる高齢世帯の支出額》[掲載日 2024年6月9日] から下に引用する.
《歳を重ねるほどお金がかかるのはホント?
歳を重ねるほど、お金を使うことが増えると考えている方は、多いと思います。だから、リタイアするまでにお金を貯めなければと必死になったり、老後資金が足りないのではないかと不安になったりするのではないでしょうか。
しかし、実際のところ60歳代以降は、歳を重ねるほどお金を使わなくなるというのが現状です。次の表は、総務省が毎年発表している家計調査報告の2023年に公表された高齢無職世帯(2人世帯以上)の1カ月の家計収支のデータになります。》
(註;引用した元記事には,この位置に図が挿入されている.図は冒頭にリンクを示した元記事を見て頂きたい)
《オレンジ部分が実支出、緑部分が実収入です。65歳から69歳の支出額は33万6752円、70歳から74歳は30万3054円、75歳以上になると26万4367円となり、徐々に減少していることがわかります。65歳から75歳までで見てみると、大体7万円近く支出が減るのです。
60歳以降はやりたいことを我慢せずにやる
データを見てみると、年齢が上がるにつれて、お金を使わなくなることが認識いただけたと思います。ですので、もし今「歳をとったらお金が必要だから、やりたいことを我慢しよう」と考えているのであれば、先送りせずにやることをおすすめします。
歳を重ねると、お金はあってもやりたいことができなくなってしまう可能性もありますから。60歳ぐらいになったら、お金を貯めることばかりではなく、お金をどう使って老後をより充実したものにするかも考えてみてください。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
上に引用した記事の筆者は深野康彦である.
記事の末尾に紹介文があるので,それも引用する.
《マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など》
各位御承知のように,FPとはファイナンシャル・プランナーのことである.
さて引用した記事中に挿入されている図 (註) の出典は総務省統計局「家計調査報告令和5年 (2023年) 平均結果の概要」である.
高齢無職の二人世帯 (65歳以上) の1ヶ月の家計の収支額が5歳刻みで示されている.
これによれば,実支出と実収入は下表の通りである.
実支出 実収入 (単位は円)
75歳以上 264367 239727 (赤字:24640)
70~74歳 303054 267508 (同上:35546)
65~69歳 336752 296122 (同上:40630)
深野康彦は《65歳から69歳の支出額は33万6752円、70歳から74歳は30万3054円、75歳以上になると26万4367円となり、徐々に減少していることがわかります。65歳から75歳までで見てみると、大体7万円近く支出が減るのです》と述べているが,高齢者世帯の家計収支では,支出が減ると同時に収入も5万6千円減っていることには (敢えて) 触れない.
このデータは表に明記されているから深野が隠蔽しているわけではないが,しかし嘘つきの常套手段だ.嘘つきは,きちんと書かれていることでも都合が悪ければ無視するのだ.w
事実は深野康彦の主張とは全くの逆で,高齢者世帯は,収入が減ったから一所懸命に節約して,支出を減らしたのである.
繰り返すが,支出が減ったのではない.減らしたのだ.
誰だって,無い袖は振れないから,収入が減ったら支出を減らすのが当たり前だ.
上表に示されているのは「収入が減ったので節約を心がけたが,家計の赤字は解消していない」という高齢者世帯の現状なのである.
家計が赤字ということは,貯蓄を切り崩して生活していることを示している.
老いた年金生活者にとってそれがどんなに心細いことか,あたかも鬼のごとく深野康彦は知らぬふりをする.
そして《「歳をとったらお金が必要だから、やりたいことを我慢しよう」と考えているのであれば、先送りせずにやることをおすすめします》と高齢者たちの耳元でささやく.
こういう深野たちFPの言うことを信じて《歳を重ねると、お金はあってもやりたいことができなくなってしまう可能性》があるから《やりたいことを我慢》せずに老後資金を消費した人たちを待っているのは「老後破産」だ.
試みに「老後破産」をウェブ検索してみる.
すると生保などのFPたちが,老後破産対策を色々と指導している.
歳を取ると《大体7万円近く支出が減る》から,その分のお金を使ってしまいましょうと言っていたFPたちが,老後破産しそうな老人夫婦に「老後破産対策に,リースバックが役立ちますよー」と,再び甘く耳元でささやく.
御承知の向きが多かろうが,リースバック (註1) とは,自宅を売却して現金化することにより老後資金を確保し,その売却した家に売却後も住み続けることを売り文句とするサービスである.
住み慣れた自宅で生活しながら,まとまった資金を調達することが可能だというのである.
言い方を変えれば,年老いた夫婦が長年「住み慣れた自宅」が,人手に渡って賃貸住宅になってしまうのだ.
テレビで頻繁に宣伝が打たれているこのシステム (リースバックの他にいくつか名称がある) の大きな問題は,老後破産を回避するために自宅を売却して得た「まとまった資金」が,結局は家賃として消えてしまうことだ.
そしてこの家賃負担が高齢者の生活が立ち行かなくなる原因なのである.
現在の私たち高齢者のほとんどは持家であるが,それは賃貸に住み続けると,日本の現状では老後の生活設計が行き詰るからである.
現行の厚生年金制度では,家賃の支払いを賄えるほどの給付が得られないことが昔から明白だったから,私たちの世代は必死に持家のローンに耐えてきたのである.
それ故,深野たちFPの言うことを信じてリースバックに手を出してはいけない.
それは高齢者が貧窮化する最初のステップだ.
ここで詳細は述べないが,「リースバック×トラブル」でウェブを検索して頂きたい.
テレビCМでは「住み慣れた愛着ある自宅をいつでも買い戻せる」と宣伝しているが,買い戻せるほどの資力があれば,そもそもリースバックなんかしない.結局は家族との思い出が詰まった自宅を追い出されてしまうのだ.
リースバックと似ているものにリバースモーゲージ (註2) がある.
これは高齢者にとってあからさまに阿漕で苛烈な借金であり,かつ「老後破産寸前」の臭いがプンプンするから,よほど不勉強でなければ,さすがにこれに手を出す高齢者は少ないだろう.不勉強な高齢者の最晩年に待ち構えている借金地獄だからである.
言い換えると,リバースモーゲージの借金臭を隠蔽したものがリースバックである.
(註1) Wikipedia【リースバック】から抜粋
《リースバック (英語: Leaseback) とは、セール・アンド・リースバック (英語: sale-and-leaseback) とも呼ばれ、現在所有している物品 (主に固定資産など) に相当するものを他に売って、そこからリースするという金融取引をいう。……(中略)……リースバックを行なう際の当事者の理由は、これにより金融上、会計上、税務上の利点があるからである。大きな利点は二つあり、「まとまった現金を得ることが出来ること」、「維持管理などの手間を省くことが出来る」ことである。……(中略)……リースバックの中でも、不動産を対象としたものを「不動産リースバック」と呼ぶ。不動産リースバックには、持ち家をリースバック業者に売却して、資金を調達しながら、リースバック業者から以前の持ち家を賃貸することで、住み続けるサービスもある。》
(註2) Wikipedia【リバースモーゲージ】から抜粋
《リバースモーゲージ (Reverse mortgage) とは、自宅を担保にした融資制度の一種。自宅を所有しているが現金収入が少ないという高齢者世帯が、住居を手放すことなく収入を確保するための手段。……(中略)……通常のモーゲージ(=抵当・担保)ローンでは年月と共に借入残高が減っていくが、この制度では逆に増えていくのでリバースモーゲージと呼ばれる。……(中略)……公的年金などでは生活費を賄えない高齢無職者(または低所得者)の生活費の原資として利用されることが多い。》
厚生年金だけが収入の一般的高齢者が心得るべき安心安全な老後生活の要諦は,年金給付額から諸税と健康保険料を引いた手取り収入以下に支出を抑えることに尽きる.
支出を抑えて,老後資金 (註3) を絶対に減らさないようにしなければいけない.
某極悪精神科医やFPがいくら「リタイア前にやりたかったことを,お金を使ってどんどんやりましう」と言っても口車に乗ってはいけない.
彼らは「やりたいことをするためには少額投資が勧められます.失敗してもリースバックをすれば老後資金は大丈夫です」などという.
彼らの手口は,ジャーナリストの荻原博子氏が説くように,まことに油断がならない.
(註3) 最晩年に必要となる介護費用 (介護施設入居費を含む) と末期医療費が真の老後資金だ.
[追記]
FPという非道の輩は,老後資金の相談に乗る形で高齢者を老後破産に追いやる.
例えばその手口は,THE GOLD ONLINE《社宅暮らしで貯金に励んだ60代夫婦、定年退職を機に“念願のマイホーム”を購入!年金月24万円で老後を満喫していたが…3年後、68歳夫「家なんて買わなければよかった!」と後悔したワケ【FPの助言】》[掲載日 2024年7月5日] を読めばわかる.わざわざ【FPの助言】と書いてあるところが悪党なりに堂々としている.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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