江戸時代の駿河国庵原郡蒲原宿に雪は積もった
昨夜放送されたNHK《歴史探偵 江戸の大ヒットメーカー 歌川広重》[初回放送日 2024年6月26日] から下に引用する.
《浮世絵史上最大のヒットシリーズとされる「東海道五十三次」を描いた歌川広重。東海道を旅して人気の秘密を調べると、天才エンターテイナー・広重のマジックが見えてきた!》
この番組では,広重の有名な浮世絵「蒲原夜之雪」について,私より年下の元蒲原町文化財保護審議会委員の小西亮衛という男が登場して《あり得ない風景だ》だと断言した.
この男は七十歳過ぎだというが,《蒲原は温暖な土地で,二度ぐらいしか経験ない.雪が降った経験》とも言った.
探偵役の秋鹿真人アナが《でも降るとなったらどかっと降る?》と言うと,この男は《いや本当に積もらない程度》と断じた.
嘘ついてんじゃねえよ.
旧清水市 (現静岡市清水区) 生まれの私の友人に確かめたが,戦後の昭和三十年以降に二度,蒲原町 (旧静岡県庵原郡蒲原町/現静岡市清水区) 周辺で降雪があったのは確かである.
しかしそのうちの三十年代の降雪は積雪したと記憶しているとのことだ.
私は昭和四十七年に旧清水市に転勤したので三十年代のことは知らないが,昭和四十年代に一度,蒲原に隣接する旧清水市で積雪しない程度の降雪があったことをこの目で見て知っている.
戦後の気象記録を調べる手立てが私にはないが,小西亮衛という男の「蒲原は温暖で雪は積もらない」から「蒲原夜之雪」は《あり得ない風景だ》は嘘である.
まして江戸時代の蒲原宿あたりにおける降雪について,戦後生まれの小西亮衛が何を小癪な蘊蓄を垂れているのか.
未熟者め.
この「広重の蒲原夜之雪はフィクションである」という説について,私は以前,下の記事《蒲原夜之雪》をこのブログに書いた.
再掲する.再掲にあたり,一部文章に着色と下線の強調を行った.
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蒲原夜之雪
2016年7月26日 (火)
テレビ番組の話が続く.
前に何度かこのブログに書いたが,私は現役会社員時代は,ほとんどテレビ番組を観なかった.仕事が忙しかったし,テレビなんてくだらないと思っていた.
ところが仕事から引退してみたら,テレビを観る時間が毎日たっぷりある.
一日に二時間から酷い時は三時間も録画して,その翌日にCMを飛ばして観ているが,そんな私のお気に入り番組はテレビ東京のものが多い.
番組タイトルを挙げると「YOUは何しに日本へ?」「世界!ニッポン行きたい人応援団」「和風総本家」の三つだ.
三番組とも娯楽番組としては同じジャンルといえるかも知れないが,他局のくだらぬドラマなんかよりも,観ていて余程楽しい.
中でも,私がこの番組を観るようになってから以降の「和風総本家」はハードディスクに保存してあり,一度観たあとにまた観ることもある.良心的な番組だと思う.海外の番組のように「和風総本家シーズン○○」などと題してBDボックスを発売してくれないかと思うくらいだ.
それはさておき,昨日放送された「YOUは何しに日本へ?」のこと.
以前の放送から,京都から東京まで広重の浮世絵画集を手にして東海道五十三次を歩いて旅している外国人女性を密着取材 (撮影スタッフがいくつかの区間を同行) してきたが,昨日の放送でこのシリーズが終った.
今回のスタートは駿河の由比蒲原付近からであったが,周知のように広重の「東海道五拾三次」の中でも有名な「蒲原夜之雪」に描かれた蒲原宿は雪の降る情景である.
旅人とスタッフが「蒲原夜之雪」に描かれた場所はどこであろうかと探して,通りがかりのおばさんに訊ねたら,この辺りは雪なんて降らないから別の所じゃないですかとか言うし,撮影しているところに近くに住む老婦人がやってきて,「蒲原夜之雪」は越後の蒲原を描いたものだなどという.(広重の絵にはちゃんと東海道と書いてあるにもかかわらず!)
それで旅人とテレビ局スタッフは「蒲原夜之雪」は実際にはあり得ない風景を広重が遊び心で描いたものだということをすっかり信じてしまった.
まことにおせっかいな嘘つき女共である.
駿河湾の奥に位置する静岡県中部は今でこそ暖かくて降雪がないが,それでも気象条件によっては希に積雪することがあるのである.
現在の静岡市清水区,昔の蒲原宿の辺りに住む知人の経験談によれば,戦後の昭和に二度積雪があったそうだ.そのうちの一度は私も記憶している.
ましてや遠い昔の江戸時代である.蒲原に雪が降っても何もおかしくない.
実際これもテレビ東京の大和田獏が出演した旅番組 (いつの放送だったかよく覚えていないが,たぶん今年だと思う) で,蒲原の旧家の土蔵を調べたら,江戸期に蒲原宿で大雪が降ったと言う記録を記した古文書が出てきて番組で紹介していた.蒲原に雪が降るのはあり得ないことではないのである.
駿河は昔から雪の少ない地方ではあるが,広重の「蒲原夜之雪」は滅多にない雪降る蒲原の情景を画家の想像力で描いたものだと理解するのが,「蒲原夜之雪」は越後の蒲原だなんて突拍子もないことを言うよりもよっぽどまともである.
繰り返すが,迷惑な嘘つき女どもがいたものである.嘘を吐く小癪なその唇を右斜め上四十五度方向につねりあげてやりたい.
せっかく海外から東海道五十三次を歩き通す旅をしにきてくれた外国人女性なのに,広重の浮世絵が事実と異なるものだとがっかりさせてしまってかわいそうだった.
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番組中では浮世絵研究家の大和文華館館長・浅野秀剛氏と秋鹿アナとで以下のやり取りがあった.
浅野《雪降らないところだからこそ雪降らせてもいいんじゃないか.だから逆に価値がある》
秋鹿《雪の蒲原なんて誰も見たことがないレアな景色だからおもしろい,という考え方ですか》
浅野《そうです》
この会話によれば,浅野氏は,江戸時代の蒲原宿でも,現代と同じく降雪が希だという思い込んでいる.明らかに日本の気候史について勉強していない.
日本ではまだ学問分野として確立していないが,欧州では歴史気候学という学術分野がある.(資料;東京都立大学名誉教授・三上岳彦《歴史気候学のすすめ》)
日本では,これまでに古文書の記録などで知られているところでは,江戸時代の日本は寒冷な小氷期 (小氷河時代) であった.
幕末は温暖期であったが,明治時代の寒冷期を経て,以後は地球温暖化期に突入したという.
これは地球温暖化に関して知っておくべき基礎知識だ.
よくぞまあNHKは,そんな知識もない元蒲原町文化財保護審議会委員だとかの馬の骨を引っ張り出してきたものだ.
浅野秀剛氏も地球温暖化について勉強不足.浮世絵研究だけしてりゃいいってものじゃない.
こんな番組内容では「歴史探偵」の名が廃るぞ.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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