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2024年5月16日 (木)

一粒の麦地に落ちて死なば多くの実を結ぶべし /工事中

 プレジデントオンライン《カップラーメンを平気で食べ、家のドアは常に開け放たれている…いつの間にか100歳を超えた人の意外な食生活》[掲載日 2024年5月15日] から下に一部を引用する.
 
1825年、イギリスの数学者でありアクチュアリー(保険数理士)のベンジャミン・ゴンペルツ氏は、ヒトの寿命には上限があることを説きました。年々指数関数的に増加する死亡リスクとの関係からです。
 2016年には、遺伝学のヤン・ヴィジュ博士らのグループが、最長死亡年齢の解析結果から「125歳がヒトの寿命の限界だろう」と述べています。
 ちなみに、現在の最長寿記録は、1997年に他界したフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの122歳5カ月です。そうしたこともあり、私たちは125歳前後の寿命の壁を意識しがちですが、これらはあくまでも過去のデータに基づくものであることを忘れてはいけません。
 何しろ1900年の世界では、日本人の平均寿命が80歳に及ぶことなんて夢にも想像できなかったでしょうし、今後、生物学的な老化抑制によって寿命を選択できる世界になれば、誰もが80歳の平均寿命を「そんなに短命だったのか」と思うでしょうから。それほどまでに、大きな革新が過去をぬりかえていくのです。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 上に引用した記事の筆者は,早野元詞氏 (慶應義塾大学医学部整形外科学教室特任講師) である.
 早野氏は《現在の最長寿記録は、1997年に他界したフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの122歳5カ月です》と書いているが,雑学好きの諸兄は既にご承知の通り,この女性の年齢については存命中から疑いが持たれていた (Wikipedia【ジャンヌ・カルマン】参照).
 一般には本当のジャンヌは若くして亡くなっていて,1997年に他界したのはジャンヌではなく彼女の娘だとの説が濃厚だが,異論もあり確定していない.
 従って科学者としては,そのような人物の年齢については断定せず「現在の最長寿記録とされているのは」とすべきである.
 
 また早野氏は生命科学者だとのことであるが《今後、生物学的な老化抑制によって寿命を選択できる世界になれば、誰もが80歳の平均寿命を「そんなに短命だったのか」と思うでしょうから。それほどまでに、大きな革新が過去をぬりかえていくのです》と主張するならば,テロメア (Wikipedia【テロメア】参照) に関する現在の生命科学のコンセンサスについて触れないのはアンフェアである.
 氏が言う《生物学的な老化抑制》に関する《大きな革新》が,私たちの生命活動の根幹にある「細胞分裂」システムに人為的な手を加えることであるなら,それを明確に示すべきである.
 
 個体の寿命は有限であり,そのことこそが生命 (当該個体が属する種) の存続を永からしめているのだと考えられる.つまり敢えて個体の命は有限なのである.
 これを人間社会について敷延すれば,ヒト個々人の老化が不可避であり寿命が尽きて死ぬことにより,私たち人間の社会が若々しく存続を続けられるのだ.これを比喩的に新陳代謝と表現してもよい.
 従って早野氏が主張するように,人間の長寿について《大きな革新が過去をぬりかえていく》とすれば,それは逆に私たちの社会が老いさらばえていくことになる.
 これは今まさに進行しつつある高齢社会の現実が示している.
 
 昔から長寿は人々の願望であった.
 そこでその願望を商売に利用しようとする不届き者たちが現れた.
 ヨーロッパの片田舎,「自分の年齢がよくわからない高齢の人々」が暮らしている村の名を「長寿村」として世界中に広め,彼らが食べているヨーグルトこそが長寿の秘訣であると宣伝した連中がいた.
 だが村人らが年齢を詐称したというと言葉がきつい.村で昔から,生まれてから老いるまでずっと同じ暮らしを続けている彼らには,八十歳も百歳も大してかわらない.歳はいくつと訊かれた時につい話を盛ったといったところが真相だろう.
 
 ヨーグルト自体はおいしくて優れた加工食品であるから,ヨーグルトの喫食習慣が広まるのは結構なことであるが,それと長寿は別の話だ.
 かつて,ヨーグルトを多食していることで評判となった (というよりテレビCМを駆使して意図的に「評判を高めた」と私は記憶している) 「長寿村」が都市伝説に過ぎぬことが明らかになった今,言い出しっぺの某メーカーはヨーグルトで「長寿」を訴求することをやめている.
 その代わり,今の乳酸菌食品業界は「長寿」ではなく「健康」を前面に押し立てて消費者にアピールしている.
 一見すると節操がないようだが,しかし私たち高齢者が「長寿」ではなく「健康」を願っていることからすれば,乳酸菌食品業界は消費者ニーズを正しく捉えていると言っていい.最初からそうすればよかったのだ.
 
 余談だが,現在頻繁にテレビで放送されている某乳酸菌食品の謳い文句は「免疫ケア」だ.
 少し以前は「免疫」なんて一般人には馴染みのない科学用語だったのだが,コロナ禍のおかげで子供でも知っている言葉になった (意味はほとんどの国民が理解していないと思われるが).
 この「免疫ケア」という造語の優れている点は「免疫増強」でないところだ.
 テレビCМでタレントが「免疫増強」と言った途端に薬事法違反に問われるが,好感度高い女優さんが「免疫ケア」と言ってるだけなら,「ケア」とは何のことだかよくわからないから,行政からのお咎めはない.
 この「免疫ケア」の解説をしている某企業のサイトを閲覧すると,私たちの免疫システムを維持するのに大切なのは「規則正しい生活」「適度な運動」「栄養バランスの良い食事」「休養 (十分な睡眠と心のゆとり)」だという.
 この某乳酸菌食品は,免疫システムを維持するために大切な四条件の,単なる補助に過ぎないらしい.
 それが「ケア」の中身らしいのだが,どれくらい「補助」してくれるのかは明らかでない.
 この食品は「毎日摂ることが大切だ」とも書かれているところをみると,一本飲んだくらいでは大したことはないのだろう.
 そりゃそうだ.「睡眠不足だとか食生活に問題があっても,これを飲めば免疫が維持される!」というほどの効果があるのなら,活性物質を明らかにすれば医薬品のシーズになり得るが,逆に有効性とのトレードオフである副作用が懸念される.
 しかしその某企業が消費者に対してアナウンスしている「毎日摂ることが大切だ」は,連用しても「免疫ケア」には副作用がないという意味なのであるから,副作用とのトレードオフである有効性もないというのが論理的な推測である.
 もう一つ,テレビ広告が多い乳酸菌食品がある.その商品の謳い文句は「強さ引き出す乳酸菌」だ.
 この商品も好感度女優さんを起用したテレビCМを採用していて,上に述べた「免疫ケア」乳酸菌食品と同じ 手口 手法である.
 私はキャッチコピーの「強さ引き出す」の意味がよくわからなかったので,商品サイトを閲覧してみた.
 すると「ここがすごい!」という四つの切り口が列挙されていた.
 
1.《「1073R-1乳酸菌」、通称「R-1乳酸菌」は、明治が保有する6000種類以上の乳酸菌ライブラリーから選び抜かれた乳酸菌のひとつです。  
  人々の健康・強さ※を支えたい…
  そんな思いから誕生した「強さひきだす乳酸菌」1073R-1乳酸菌が使用されているのが、「明治プロビオヨーグルトR-1」。
  商品名のR-1は1073R-1乳酸菌に由来しています。
  ※「強さ」とは健やかな生活を送りたいという前向きな想いを表しています。》 
 
 この一節に「強さ引き出す乳酸菌」の意味が書かれている.
 この会社は「強さ」とは《健やかな生活を送りたいという前向きな想い》のことだと主張しているのだ.
 辞書にはどう書かれているか.
 日本語のレファレンスたる日国は次のように解説している.
 
 精選版日本国語大辞典第二版
 つよ‐さ【強さ】
 〘 名詞 〙 ( 形容詞「つよい」の語幹に接尾語「さ」の付いたもの ) 強いこと。また、その度合。
 
 大辞林第三版は「強さ」ではなく「強い」を項目に立て,例文を示していて日国より少し詳しい.「強さ」は「強い」の名詞形である.
 
 大辞林第三版
 1. 力量や技量がすぐれている。「強い力士」
 2. 丈夫で物事に耐える力がすぐれている。抵抗力がある。「強い体」「アルコールに強い体質」
 3. 精神的に抵抗力がある。多少のことでは動じない。「強い心」「強い意思」
 4. (ある分野に対して) 知識や能力を十分に持っている。「スポーツに強い」
 5. 作用の度合いが大きい。程度がはげしい。「強い日ざし」
 6. ゆるみがない。かたい。
 7. 明瞭である。
 
 実は日国にも「強い」はあるが語義は大辞林と大差ない.
 さて,消費者が「強さ引き出す乳酸菌」食品を摂取するときにイメージする「強さ」とは大辞林にある《丈夫で物事に耐える力がすぐれている。抵抗力がある》である.それ以外にない.

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