排水管にカップ麺のスープを流してはいけない
ESSE-online《排水口の汚れや悪臭の原因になる「意外な場所」。簡単なコツできれいをキープ》[掲載日 2023年11月16日] から下に引用する.
《キッチンのシンク下には排水トラップがあります。住宅設備の排水管は複雑になっていて、外からの悪臭や害虫の侵入を防ぐために水を溜めておくトラップが備えられています。
ここに汚れた水が溜まったままだと、排水管に汚れがすぐ蓄積してしまったり、悪臭の原因になったりするのだとか。たとえば、夜にカップ麺のスープを流し、そのまま寝てしまうと冬は一晩でその油分が固まって超危険なのだそう。
そこで、トラップに溜まる水をきれいに保つことが重要になってくるそうです。水回りの中でも、油汚れ、食材カス、洗剤などキッチンは最も汚れた排水が流れる場所。それぞれの成分に合う洗剤を考えるより、夜寝る前に桶に溜めたお湯を一気に流すだけで格段に違うとアドバイスを受けました。お湯のほうが効果的だけれど、水でもいいとのことです。》
上記の記事を書いたのは高田舞子さんというかた.
このかたは肩書を「ライフオーガナイザー」という.この言葉の意味は不明であるが,それもそのはず,「ライフオーガナイザー」は一般社団法人ライフオーガナイザー協会が勝手に作った造語で,もちろん英語ではない.それどころか日本語としても一般に認知されていない.
例えば「家事アドバイザー」とかは,仕事の内容が想像できるから,肩書として優れている.テレビにも「家事アドバイザー」さんが登場して,私たちの家事における困りごとを解決してくれたりするので,「家事アドバイザー」が職業として成立していることを知っている.(家事代行サービスの一つ)
これに対してあやしげな「ライフオーガナイザー」がどんな仕事なのかあれこれよく調べてみたら,うちの中の片付けをするらしい.
ということは,こんまり先生のパチモンか.
そういうあやしげな資格の「ライフオーガナイザー」である高田舞子さんの文章が《なったりするのだとか》《なのだそう》《そうです》《とのことです》などと伝聞ばかりなのは,自分に知識のないことを書いてギャラを稼ごうとしているからだ.
こういう人は「誰がそう言ってるん?」と発言の根拠を訊くと「みんながそう言ってます」と答えるのが常である.彼ら彼女らは,オカネになる資格というのは,自分の学問知識や経験に基づくものだと知るべきである.
さて本題.私は食品会社の研究所にいた時,消費者から家庭の排水管の詰まりについて相談を受けたことがある.
その人の家の詰まった排水管 (*) を業者が取り外してみたところ,内部にベットリと粘質物が付着し,まるでアテローム性動脈硬化を起こして狭窄した血管のようであった.(*具体的には,キッチンのシンクから水封トラップを通過して屋外の廃水桝に至る経路)
で,相談というのは「内部の粘質物は油脂ではないかと思うので調べて欲しい」ということだった.
試料の油脂が何に由来するかは,加水分解して生じた脂肪酸を調べるとわかるのだが,相談者から持ち込まれた試料を分析したところ,やはり予想どおり油脂であった.詳しくいうと植物油の中でも融点の高い種類の油脂 (パーム油や水素添加植物油脂) と,豚や牛に由来する動物性脂肪 (これも高融点である;しかし魚油や,動物性脂肪でも例外的に食用鶏の脂肪は融点が低い) の混合物だった.
これらの高い融点の油脂・脂肪は可能な限り,キッチンのシンクで排水管に流さぬようにしなければいけない.
《夜寝る前に桶に溜めたお湯を一気に流》したりすると,シンクからの排水トラップを通過して,そのあとの排水管や排水桝 (資料),さらにそのあとの公共下水管で温度が下がることにより固化して環境汚染する.従って「ライフオーガナイザー」の高田舞子さんがどう言おうと,これは決してやってはいけない.
では洗剤を使って油汚れを排水管に流すのはどうか.
食器などの油汚れを洗剤で洗浄すると,洗剤の界面活性作用で乳化されるので,これを下水に流しても問題ないように思われがちだが,実は違う.
試験管の中とは異なって,自然界では安定な乳化状態を保つのは難しい.いずれ必ず乳化が破壊されて油分が分離する.
分離した油分は他の物質と混じってヘドロのように難溶化して環境汚染を引き起こす.
だから私たちは,可能な限りキッチンのシンク排水管に食器などの油汚れ (特に高融点の油脂・脂肪) を流してはいけない.
ではどうしたらいいかというと,昔からの「生活の知恵」だが,皿や鍋などの油汚れは,まず新聞紙 (昔は新聞を家庭で定期購読していたので,古新聞の利用には困らなかった) か,あるいはトイレットペーパーなどでよく拭き取って,それから洗剤洗いするのがよい.
こうすると,家庭から排水処理場までの経路の汚染が減るのと,排水処理場の負荷が減少する.
一方,家庭で食器などの油汚れを紙などで拭き取ってこれを「燃えるゴミ」に出して焼却すると,大気中のCO2が増加するわけだが,この増加分は種々の手段でリカバリ可能だ.
しかし高融点の油脂・脂肪による排水経路汚染は往々にしてマンション等の集合住宅にダメージを与える.
その例を挙げる.
今から五十年近く前のこと.私が若い頃に住んでいた社宅は五階建てのアパートで,築三十年ほどだったが,排水管の内部に長年にわたって不溶物が付着蓄積しており,排水管内径が狭くなって台所や浴室からの排水が流れにくくなっていた.
社宅所有者である会社側の依頼で,建築物メンテナンス業者が調査したところ,不溶物除去には物理的方法 (特殊なブラシと高圧洗浄で排水管内部を清掃する) と化学的方法 (不溶物を分解する薬剤と界面活性剤を併用する) があるが,いずれも実施できないとのことだった.
安普請の建築物は築何十年も経つと,排水管が経年劣化し,物理的方法でも化学的方法でも,薄くなった管に穴があいてしまうかも知れないという.
その事態を回避するには,各戸を隔てる壁を取り壊して排水管自体を新しいものに交換するのが良いが,それはかなりの工事になる.
既にその社宅住んでいる人たちは工事中は退去しなければいけないという問題もある.
一般のオフィスビルならば,建屋の上下を走る排水管は多くないから,そのような工事あまり行われないが,集合住宅には上下の排水管が多数あるのだ.
結局,件の社宅は多額の費用をかけて修繕する価値がないとして取り壊された.
社宅なら修繕費用は会社持ちだが,分譲マンション等は入居者が排水管の汚染に無頓着だとマンションの資産価値を下げてしまう.
その意味でも,食器や鍋などの油汚れは,自宅のキッチンシンクでブロックすることが大切だ.
ところで食器や鍋などの油汚れは紙などでよく拭き取ってから洗剤洗いするのがお勧めだが,うっかりそのまま捨ててしまうのがカップ麺のスープだ.
カップ麺の製品によっては,低融点の油で麺を揚げていることもあるが,高い融点の油で揚げている製品が多い.
そういう製品は,食べ終わったあと放置しておくと,カップの内側に白い油脂がベットリと付着するのですぐわかる.
この油脂はキッチンの排水口に流してはいけない.容器から除去し,燃やすゴミとして捨てる.
容器は,自治体によって扱いが異なるが,プラスチック容器包装あるいは燃やすゴミとすることが多いだろう.
このようにカップ麺の白い油脂は除去が容易だが,生ラーメンの添付スープに含まれているラードや植物油は,厄介だ.
しかし生ラーメンを食べ終わったあと,丼の中のスープ表面に浮いている油分は,ラップでスープ表面を覆って放置しておくと,ラップに吸着されるので,除去できる.
シチューなど肉と野菜を煮込む料理では,沸騰し始めるとアクが浮いてくるのでこれを取り除かねばならないが,このアクを掬ってそのままシンクに流して捨てると,排水管を詰める原因になる.
私は,紙コップにアクを掬い入れ,そこに不要の紙を入れて紙に液体を吸わせる.そうしてから生ゴミと一緒にして捨てている.
テレビCМを見ていて腹が立つのは,環境配慮の無い台所洗剤だ.
下の画像は,YouTube《西島秀俊、“こども隊員”永尾柚乃と息ぴったり 「ジョイ」新CM/キュートな“変顔”に爆笑するインタビューも》の冒頭シーンのスクリーン・ショットだ.
汚れを紙で拭き取ってから洗え,バカヤロー!
「こんな酷い皿の汚れでも,そのまま排水管に流してもいいですよ」とP&G社は主張しているのだ.
正気の沙汰とは思えぬ.
企業には社会的責任というものがある.P&G社のように社会的責任を果たさぬ会社の製品は使わぬようにしたいものだ.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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