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2024年4月 8日 (月)

お箸の国の人なのに (十九)

 まいどなニュース《「パパガチ勢の娘、パパの寝顔見ながら朝ラー食べてる」朝からパパを監視、その理由が可愛かった!》[掲載日 2024年3月29日] を見て驚いた.
 この《まいどなニュース》の記事は,SNSに「みるく@3y(@milk20201230)」さんが投稿した記事の転載だが,「パパガチ勢の娘ちゃん」とキャプションが付けられた画像を見ると,少女がいわゆるトレーニング箸でラーメンを食べている.
 ところが少女の箸の持ちかたが,トレーニング箸を用いているがために,完全に間違っているのである.(下の画像)
 
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 そこで,アマゾンに掲載されているトレーニング箸の商品説明を閲覧してみた.たくさん商品があるが,そのうちの《スケーター(Skater) 子供用 トレーニング箸 練習箸 14cm プラレール 対象年齢2~7才 右手用 つまみやすい四角い箸先 ADXT1-A》を下にスクリーンショットで引用する.
 
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 この商品の説明図を下に引用する.
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 上の商品説明図に描かれた箸の持ちかたは,完全に間違っている.
 どこが間違っているかと言うと,下図の赤楕円のところである.
 
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「伝統的に正しい箸の持ちかた」は,人差し指の先端部分 (名称が不明なので,その内部にある骨の名称で示すと「第二末節骨」) と,親指の先端 (同様に骨の名で示すと「第一末節骨」) とが接近していなければならない.
 だが,上のトレーニング箸の説明図では,親指の指先が人差し指の第二関節に接している.これが箸使いの間違いの元凶なのである.(ちなみに,手指の解剖図と骨の名称については解説サイトがいくつもあるが,ここでは《手の骨・筋肉・腱の名称》を推奨する.しかし関節の名称は一般的な「第一関節」「第二関節」を用いる.すなわち「第一関節」は,「第二関節」よりも指先に近い関節である)
 で,親指の指先を人差し指の第二関節あたりに置くと,箸の先端に指の力がうまく伝わらず,かつ繊細な動きをさせることができない.
 また間違った箸使いでは,天ぷらを揚げるときに用いる金属製の重い菜箸をちゃんと持つことすら困難だ.
 火を使用する調理や料理の盛り付けに用いる長い菜箸は,間違った箸の持ちかたではうまく操れない.揚げた天ぷらを鍋から持ち上げることができない.刺身をきれいに盛り付けることができない.これは実際にやってみればすぐわかる.
 
 現代の名工といわれ,先年亡くなったある料理人 (あの「ささやき女将」で有名になった船場吉兆なんぞとは別格の超有名料理店の主人) は,自分の店に入った新人に徹底的に箸の遣い方を仕込んだ.テレビ番組でその様子を観て感服したことがある.
 箸使いの訓練は,一合升に入れた小豆を,先が丸い塗り箸でもう一つの升に移すのだが,これを素早く,かつ小豆を滑って取り落とすことのないように行う.こうして箸使いが一人前になってから,ようやく料理の修行をさせてもらえるのだった.
 
 以前,某芸能人が「箸の持ちかたに正しいも間違いもない.自分の好きなように持てばいい」と述べたことがある.
 私見だが,今の日本人の大方は「伝統的に正しい箸の持ちかた」ができない.私が若かった時代は,親が我が子に箸使いを教育するのが世の習いであったから,大部分の大人はちゃんと箸を持てたのだが,今の人たちは私の見るところ八割が「伝統的に正しい箸の持ちかた」をできない.そこで某芸能人のように,そもそも「正しい箸の持ちかた」なんか存在しないと主張する者が現れたのである.
 ここで註釈すると,私がこの連載でいつも「伝統的に正しい箸の持ちかた」という回りくどい表現をする理由だが,昭和の昔は「正しい箸の持ちかた」という規範が存在したのであるが,平成の時代になるとその「正しい箸の持ちかた」ができない人たちが大部分になってしまったので,かつての「正しい箸の持ちかた」は「伝統的に正しい箸の持ちかた」に都落ちしたからである.
 本題に戻る.
「伝統的に正しい箸の持ちかた」をできない人たちは,自分の子に箸遣いを教えることができない.
 ちなみに,よく知られた話だが,随筆家の海老名香葉子さんは戦時中の同情すべき境遇のせいで箸遣いができなかった.そのため我が子 (のちの林家正蔵) に箸遣いを教えず,そのため長じて正蔵は噺家としての資質を問われることになり,間違った箸遣いの矯正に苦労した.
 そこで,箸遣いができない大人たちの子供のために登場したのがトレーニング箸であった.
 トレーニング箸を我が子に与えて使わせれば,きっとちゃんと箸遣いができるように育つだろうと親たちは期待したと思われる.
 しかるに!上の商品説明図で解説したように,トレーニング箸こそが,間違った箸遣いを世に広めた元凶なのである.
 まず第一に,親指と人差し指の位置関係がデタラメである.親指の指先は人差し指の指先と近接していなければいけない.そして親指の指先と人差し指の指先が接している箸は,中指の指先と接しているようにする.
 間違った箸の持ちかたの動画がYouTubeに掲載されているが,YouTube《お箸の持ち方 練習方法 株式会社兵左衛門》はほぼ合っている.点数なら95点くらいなのだが,残念なことに薬指がだめだ.この動画では,薬指が掌に近寄りすぎていたり,離れすぎていたりして,安定していない.でもまあ,この動画のように箸を持てれば充分に合格だ.
 さて,箸の持ちかたと筆記具の持ちかたは関係がある.
「伝統的に正しい箸の持ちかた」ができない人は,間違いなく字が下手である.金釘流というやつだ.
「箸の持ちかたに正しいも間違いもない.自分の好きなように持てばいい」と述べた某芸能人は,「字なんか読めればいい」と言うかも知れぬが,字が下手だと,冠婚葬祭で芳名録に自分の名を書く際にとても恥ずかしい思いをする.「恥ずかしくない」と言い張られれば仕方ないが.
 また,字の上手下手の他に一つ問題がある.
 鉛筆やボールペンは箸がきちんと持てなくても使える (金釘流の字なら書ける) のだが,万年筆は絶対に使えない.ペン先を壊してしまうからである.
「オレは一生,どこでもボールペンで字を書く」と言い張られればそれまでだが,常識として芳名録にボールペンで署名するやつはいない.
 そこそこの年齢になったら,万年筆を正しく使えるようになりたいものである.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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