恥ずかしい「おでんの正しいマナー」
シュフーズ《おでんを食べるときのNGマナー5選!実は〇〇するのはダメだった…!?》[掲載日 2023年12月16日] から下に引用する.
《おでんを食べる際に気をつけたいNGマナーを5つピックアップしました。
1.いきなり薬味を使う
好きな具を皿に取って、すぐに辛子などの薬味をつけるのは避けましょう。まずはおでんの具自体の風味や食感を味わうことが大切です。おでんに限らず、食事では素材そのものの味をまず楽しむことがマナーです。具やつゆの風味をしっかりと堪能した後で、薬味を加えて味を変えるのが良いでしょう。》
《おでんを食べる際に知っておきたい、正しいマナーは以下のようになります。
・薬味は少量ずつ具に直接つける
・練りからしなどの薬味をつゆに溶かさない
・一口サイズに箸でカットして食べる
・一つの具を食べ終えてから次の具に移る
・つゆをこぼさないよう注意する
おでんは、素材そのものの風味を味わいながら、薬味でさりげなく味の変化を楽しむことが大切です。つゆを汚さないようにし、食べ終わった後に皿が汚れすぎないように注意しましょう。
おでんの具は大きめのものが多いので、かぶりつかずに一口大に切り分けることがマナーです。多くの具が柔らかいので、箸を器用に使って上品に食べるようにしましょう。》
「おでん」といっても色々ある.「おでん」はテレビの食べ物番組で取り上げられることが多いから,日本各地で色々な「おでん」が食べられていることはよく知られている.
私の郷里は群馬県の前橋市だが,「おでん」は庶民家庭の料理ではなかった.作るのが面倒だからである.
当時,市内の居酒屋の献立にはあったかどうか知らないが,私の記憶にあるのは小学校の校門前で商っていた屋台である.
その屋台は,中年男が自転車の荷台に鍋を載せて生徒の下校時にやってきた.鍋の中は串に刺したコンニャクで,確か一本五円くらいで買い求めると,甘い味噌ダレを少し塗ってくれた.
この男は一年中「コンニャク味噌おでん」を売っていたわけではなく,ヒヨコ (オス) を売ることもあった.石に字を書くために用いる「ろう石」を売っていることもあった.
ヒヨコは別として,「コンニャク味噌おでん」とか「ろう石」は駄菓子屋の商品でもあったから,中年男は駄菓子屋関係の人だったかも知れない.つまり「コンニャク味噌おでん」は小学生くらいの子供が買い食いする食い物だったと思われる.
余談だが,この中年男の自転車を屋台といっていいかわからないけれど,同じスタイルのものを二十数年後に,遊びに行った香港の九龍で見かけた.フェリーの船着き場の近くで,自転車の荷台に鍋を載せ,串に刺したモツの煮込みを売っていたのである.
この自転車には小さな幟旗が取り付けられていて,「広東飯店」と書かれていた.日本語でなら「帝国ホテル」と書いてあるようなもんである.漢字のわからない観光客に対するコケオドシだ.
その幟旗を見ただけで既にアヤシそうだが,私がモツ煮込みを買ってまだ食べ終わらぬうちに,店主は突然自転車にまたがると飛ぶように逃げて行った.
なんだなんだなんだと驚いていると,制服警官二人が走ってやってきて,自転車はどっちの方に逃げたのかと英語で私に訊いた.私は自転車店の店主が逃走した方向を指さした.
モツ煮込みを売っていた「広東飯店」はどうやら非合法営業らしかった.
その非合法モツ煮込みを食べてしまった私は,下痢をするんじゃないかと大いに心配になったが,結果的には大丈夫であった.
閑話休題.
さて中学生の時のある日,私は同級生の高橋君と青木君と三人で,市内の県営敷島公園に遊びに行った.敷島公園は,かつて詩人萩原朔太郎が愛した公園である.まばらな松林の中に,朔太郎の詩碑がある.
その公園の中に茶店があり,店の中に貼られた短冊に「おでん一皿三本○○円」と書かれていた.
私たちはそれぞれ「おでん」を買い求めて食べ始めたが,そこに野良犬がやってきて,欲しそうな顔をしてクーンと鳴いた.
すると高橋君が温かい薩摩揚げにカラシを塗って,犬に与えて食べさせた.
野良犬はハグハグと咀嚼したが,すぐカラシが口中を刺激したと見えて,キャイーンと悲鳴を上げて遠くへ逃げて行った.
しかしこのエピソードは,ひでえことをするなあ高橋君,という話ではない.
昭和三十年代の群馬県に,練り物を醤油味の出汁で煮込んだ「おでん」があったという話である.その「おでん」は,各地方に色々な「おでん (煮込みおでん)」がある中で「東京風のおでん」と呼ばれているものと同じだった.(参考資料;紀文アカデミー《全国おでんマップ》)
だから,昔から群馬県にも「東京風のおでん」があったことはあったのだが,しかし私の「おでん」の記憶は主に「コンニャク味噌おでん」が占めている.
そこで調べてみると,農水省のサイトに《うちの郷土料理 こんにゃくのみそおでん 埼玉県》というコンテンツがあった.(下の画像は同コンテンツからダウンロードできる)
「こんにゃくのみそおでん」は私が上に書いた「コンニャク味噌おでん」と同じものだ.実物は下の画像そのまんまであり,ご覧の通り,とてもとても郷土料理というほどの食べ物ではない.
農水省のサイトの記事を読むと,あたかも「コンニャク味噌おでん」が埼玉県の郷土料理 (このコンテンツの説明には,コンニャクが特産品である埼玉県寄居町風布地区,秩父地域の伝承料理だと書かれている) であるかのようだ.
しかしこれは嘘である.コンニャクが特産品であるのは,埼玉県ではなく群馬県の下仁田だからである.
生産量で示せば,コンニャクの全国生産量の85%を群馬県が占め,次に栃木 6%,埼玉 2%,茨城 1.5%,福島 1.3%である.
埼玉,茨城,福島の三県はまとめて「その他 4.8%」でよいくらいだ.
農産物統計上で無視できるくらいの僅かな生産量しかない埼玉県が,群馬県を差し置いて「コンニャク味噌おでん」は埼玉の郷土料理だと主張しても,片腹痛いだけで何の説得力もない.
僅かなコンニャクしか作っていない埼玉県がコンニャクは特産品だと騙り,湯で温めたコンニャクに甘味噌を塗っただけの食い物を伝承郷土料理だと偽っても,秋田の殿様知事に「貧乏くさい」と馬鹿にされるだけである.埼玉にはこんなものしかないのかと栃木県民にも笑われるだろう.
高校生時代には「おでん」に関する特別な想い出はない.かつて県立前橋高校の正門前にテーブル席が一つしかない小さな焼きそば屋があり,その店では「コンニャク味噌おでん」も売っていたという記憶がかすかにあるだけである.
しかし大学に入って上京すると,東京では「おでん」は身近な食べ物であった.安い飲み屋では,「おでん」は秋冬の定番酒肴であるからだ.
大学生時代に私が好んだ「おでん」は,東京高円寺にあった銭湯のすぐ前で商売をしていたリヤカー屋台の店である.
今放送中の朝ドラに出てくる屋台のおでん屋に似ている.
私は銭湯からあがったあと,時々この屋台で食べたものだ.
東京には「東京風のおでん」の有名店があるが,元々「おでん」なんてものは庶民の日常の食い物である.
間違っても会席料理には登場しない.
江戸前鮨のように,寿司ネタの注文する順番をああだこうだと小うるさいことは言わない.
だから東京のガイドブックに掲載されている有名店の「おでん」でも,食べたいものを好きな順に食べればよい.
必要なことは,他の客を不愉快にさせないことだけである.
ところが,実際には「おでん」の食べる順番とか通っぽいルールを語る酢豆腐野郎がいるのである.
この記事の冒頭に紹介した《おでんを食べるときのNGマナー5選!実は〇〇するのはダメだった…!?》がそれだ.
《おでんを食べる際に気をつけたいNGマナーを5つピックアップしました。
1.いきなり薬味を使う
好きな具を皿に取って、すぐに辛子などの薬味をつけるのは避けましょう。まずはおでんの具自体の風味や食感を味わうことが大切です。おでんに限らず、食事では素材そのものの味をまず楽しむことがマナーです。具やつゆの風味をしっかりと堪能した後で、薬味を加えて味を変えるのが良いでしょう。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
私は今の静岡市にある会社に長く勤務していたので,いわゆる「静岡おでん」が好きである.
「静岡おでん」は《つゆの風味をしっかりと堪能》できない.なぜなら「つゆ」は皿に盛りつけたりしないのだ.
静岡市在住の人のブログ《静岡おでんの食べ方を紹介します☆【おでん青葉】》に《静岡おでんは、おでんの具材のみでの提供になります。おでん汁は、付いていないです》と書いてある通りだ.
しかも《すぐに辛子などの薬味をつけるのは避け》ないで,最初っからおでん種に「だし粉」という薬味を付ける.
この「だし粉」は「いわし粉」ともいい,乾燥して粉砕したイワシの魚粉にアオサなどを配合した食品である.全国的に有名な「富士宮焼きそば」にも振りかけて食べられているので,どんなものか知っている人は多かろう.
単に「付ける」というのではなく「べっとりと万遍なく付ける」のが地元静岡の人々の普通の食べ方である.
いわし粉の通販ページ《カネジョウ だし粉》に「静岡おでん」の食べ方が掲載されているので下に紹介する.
《地元では、静岡おでんはこう食べる。
・のり入りいわし粉をお皿に入れ、薄く広げます。
・おでんの具をのり入りいわし粉の上にのせ、べったりとつけます。
・おでんの具の表にもまんべんなくのり入りいわし粉をまぶします。
・おでんの具全体にびっしりとのり入りいわ粉がついたら出来上がりです。
これであなたも生粋の静岡県人に仲間入り。》
「静岡おでん」の食べ方について,静岡の人々は《素材そのものの味をまず楽しむ》などと訳知り顔なことは言わない.
静岡県東部の名産品「黒はんぺん」だろうがコンニャクだろうが肉団子だろうがモツだろうが,煮込みに煮込んだやつを鍋から取り出したらただちに静岡名産「だし粉」を「べったりと」「まんべんなく」「びっしりと」付けまくり,おでん種も薬味 (だし粉のほかに,一味唐辛子,七味唐辛子,練り辛子,青海苔など何でもあり) も一緒くたの混然一体となったものを賞味するのである.
《おでんを食べる際に知っておきたい、正しいマナーは以下のようになります。
・薬味は少量ずつ具に直接つける
・練りからしなどの薬味をつゆに溶かさない
・一口サイズに箸でカットして食べる
・一つの具を食べ終えてから次の具に移る
・つゆをこぼさないよう注意する
おでんは、素材そのものの風味を味わいながら、薬味でさりげなく味の変化を楽しむことが大切です。つゆを汚さないようにし、食べ終わった後に皿が汚れすぎないように注意しましょう。
おでんの具は大きめのものが多いので、かぶりつかずに一口大に切り分けることがマナーです。多くの具が柔らかいので、箸を器用に使って上品に食べるようにしましょう。》
上に書かれている講釈のうち《薬味は少量ずつ具に直接つける》は「蕎麦の薬味のわさびは,蕎麦猪口のつゆにとかさず,蕎麦に直接塗って食べなければいけない」とか「刺身の薬味のわさびは,小皿の醤油にとかさず,刺身に直接塗って食べなければいけない」という能書きから引っ張り出したものと思われるが,「静岡おでん」はそもそも薬味まみれにして食うのである.
上に《練りからしなどの薬味をつゆに溶かさない》と書いてあるが,静岡おでんの一皿にはおでん種だけが盛り付けられている.
また《一口サイズに箸でカットして食べる》とも書いてあるが,コンニャクも箸でカットして食えと言うのか.たわけ.
《つゆをこぼさないよう注意する》は正しいマナーというより幼児に対するしつけだ.w
この事情は「静岡おでん」に限らない.北関東のコンニャク味噌おでんにはそもそも「つゆ」がない.おでん種のコンニャクはお湯で温めるだけなのだ.
上の《おでんを食べる際に知っておきたい、正しいマナー》を執筆したライターは「東京風のおでん」しか知らない.全国各地に色々な食べ方をする様々な「おでん」があることを想像したこともないのだろう.
食べ物についての知識も実際に食べた経験もないのに,ウェブ上の記事にもっともらしい食事マナーを書いて恥をかく日本人のなんと多いことか.でもチコちゃんは知っています.単に「食べ方」に過ぎないことをマナーと呼ぶのは恥ずかしいことなのだ.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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