私の誤字センサー (28)
わんちゃんホンポ《意味が分からなさすぎて『石化』しちゃう子犬!?飼い主の『おて』に対して強い意思で虚無を貫く姿が話題に「まさかの反応」》[掲載日 2023年12月6日] から下にテキストとスクリーン・ショットで引用する.
《そっくり!仲良し兄弟
べえさんには、そっくりな兄弟の存在があります。それは「ぷてぃ」さん。飼い主さんが先代の愛犬「わいてぃー」さんを虹の橋のふもとへと見送った数年後、個人ボランティアの方から譲り受けた元保護犬兄弟なのだそう。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
「虹の橋」という言葉の誤用でよくあるのは,ペットが逝くことを「虹の橋を渡った」と書いてしまうこと.
「虹の橋」という言葉の元になった散文詩では,これは「ペツトは,死ぬと虹の橋のたもとで,飼い主がいつの日か来てくれるのを待っている」という意味で使われている.このことは,2023年11月28日掲載の《虹の橋》に書いた.
上に引用した記事の《虹の橋のふもと》は,それとは別の誤用.
《ふもと》は,漢字で書けば「麓」であり,山の裾 (山の下の方で,なだらかになっているところ) を意味する.
つまり,わんちゃんホンポの記者は「虹の橋のたもと (袂)」と言いたかったのだが,漢字の知識レベルが中学生以下なので,堂々と間違ったのである.
だが,中学校レベルの漢字を知らないのは,ネットメディアである「わんちゃんホンポ」の記者だけではない.
書籍出版社の社員でも,中学校の漢字テストで落第してしまう情けない人たちがいるのが実情である.
その例を挙げる.
下の画像は,株式会社ブイツーソリューション (英語社名は V2-solution) という出版社が刊行した恥さらし本「約束 ~虹の橋のふもとで またいつか~」の紹介記事を,同社のサイトから作成したスクリーンショットである.
株式会社ブイツーソリューション (愛知県名古屋市) は資本金1000万円で,中堅どころの出版社である.今にも潰れそうな零細出版社ではない.従って当然,自社出版物の質に責任を持たねばならない.企業の社会的責任というやつだ.
零細出版社はどうか知らぬが,そこそこの規模の出版社には校正担当者がいるのが普通だ.校正はスキルを要し,誰でもできるというわけではないからである.
さて株式会社ブイツーソリューションの「約束 ~虹の橋のふもとで またいつか~」が恥さらしなのは,驚くべきことに書籍の顔であるタイトル (書名) に《虹の橋のふもと》と突拍子もない言葉が書かれているからだ.
これは漢字の間違いではない.この書名をつけた無学者は「橋が地面と繋がっているところ」を「ふもと」(麓) だと思い込んでいるのだ.
言うまでもなく,「袂」が衣偏であることからわかるように,「橋の袂」は衣服になぞらえた比喩的用法である.
これに対し,「麓」は比喩ではなく,山がなだらかになっているところを具体的直接的に指し示す言葉である.
であるからして,例えば「山の袂」という比喩表現はあり得ても,「橋の麓」は日本語として存在し得ない表現である.
また例えばピラミッドの如き建築物があるとして,その地面との際 (きわ) を「ピラミッドの裾」と比喩的に形容することはあっても,「ピラミッドの麓」とは言わない.
このように,どんなものを「袂」といい,どんなものを「麓」と呼ぶかは慣用による.それが国語力なのである.
従ってもし,著者原稿に「約束 ~虹の橋のふもとで またいつか~」と書いてあったら,出版社の校正担当者は,著者に「書名の日本語が間違ってます」と指摘しなければいけない.
ところが株式会社ブイツーソリューションの校正担当者は国語力が中学生以下だったので,著者原稿の「約束 ~虹の橋のふもとで またいつか~」に,日本語の間違いがあることを理解できず,そのままにした.そして製本された恥さらし本が世に出た.
以上から推測できるのは,株式会社ブイツーソリューションの編集者の国語力は中学生以下だということである.
ちなみに,この本の著者は「ふくふくやま」というペット関係の雑貨を扱う業者である.
同社のサイトから《虹の橋》を下に引用する.
《虹の橋
原作者不詳
日本語訳:ふくふくやま
天国の少し手前に、「虹の橋」と呼ばれている場所があります。
この世界で生前、誰かと寄り添い、暮らしていた動物たちは、その命の灯が消えたとき、「虹の橋」のふもとへ行くのです。》
数は少ないが,ウェブ上に「虹の橋のふもと」という「ふもと」の誤用が存在する.
おそらくその誤用は「ふくふくやま」の書籍および会社公式サイトから始まっているものと考えられる.
言葉の誤用は普通,誰が最初にその誤用を始めたかは不明のことが多いのだが,「虹の橋のふもと」はまず間違いなく「ふくふくやま」が始めたと考えられる.誤用の珍しい例ではある.
ついでに一つ.
高齢者の中には,1962年公開の松竹映画「あの橋の畔で」をうっすらと記憶しておられるかたがいるかも知れない.
原作は菊田一夫,主演は桑野みゆき,園井啓介.野村芳太郎監督で,脚本は野村芳太郎と山田洋次,音楽は古関裕而であった.
このベタベタなメロドラマは,1972年にテレビドラマにリメイクされて,その時の主演は近藤正臣であった.
なぜこんなドラマのことを持ち出したかというと,原作の菊田一夫が強引に「畔」(あぜ,くろ,はん) を「たもと」と読ませたからである.「袂」の字面が気に入らなかったからだろう.「湖畔」を連想する「橋の畔」がロマンスに相応しいと思ったからか.
しかし幸いにしてこの当て字は流行らなかった.「畔」を「たもと」と読む当て字を知っているのは私のような高齢者だけだろう.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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