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2023年11月29日 (水)

セイヒクアワダチソウ

 昔々,私がまだ若かった昭和の後半期,日本全国でセイタカアワダチソウの大繁殖がみられた.そして現在は,各地のセイタカアワダチソウ群落は勢いを失い,かつては人の背丈ほどになったセイタカアワダチソウは矮化して,あまり目立たなくなっている.
 その変化はゆっくりとしていたので,私たちはあまり気に留めていないが,おもしろいことである.また矮化したセイタカアワダチソウをセイヒクアワダチソウと名付けた人がいて,それもおもしろいと思った.
 
 さて外来植物であるセイタカアワダチソウが日本に侵入したのは古く,明治時代であるという.
 それが突然,戦後になって大繁殖した理由はわかっていない.
 これについてWikipedia【セイタカアワダチソウ】には次の記述がある.
 
昭和40年代の繁殖状況は、アレロパシー(後述)効果でススキ等その土地に繁殖していた植物を駆逐し、モグラやネズミが長年生息している領域で肥料となる成分(主として糞尿や死体由来の成分)が多量蓄積していた地下約50 cm の深さまで根を伸ばす生態であったので、そこにある養分を多量に取り込んだ結果背が高くなり、平屋の民家が押しつぶされそうに見えるほどの勢いがあった。
 
 上に引用した記述には,セイタカアワダチソウが《モグラやネズミが長年生息している領域で肥料となる成分(主として糞尿や死体由来の成分)が多量蓄積していた地下約50 cm の深さまで根を伸ばす生態であった》とあるが,この記述は愛知県教育サービスセンターという名称 (当時) の財団法人のサイトに掲載された無署名記事であり,論文でも科学記事でもない,突っ込みどころ満載の放談のようなものである.
 この無署名記事はウソばかり書いてあり,こういう記述を参考資料に採用してしまうWikipediaはまことに困ったものだが,それにしても「かつて日本中に大繁殖したセイタカアワダチソウの肥料となったのは,地下50cmの深さに大量に蓄積されてきたモグラやノネズミの糞尿や死骸であった」という主張は奇想天外である.
 もしそうだとすれば,セイタカアワダチソウ大繁殖の前に,モグラやノネズミの大繁殖があったはずで,それによる農業被害や生態系の破壊が大問題になったであろう.
 しかし戦後すぐの生まれである私は,寡聞にしてそんな事実を知らない.
 また愛知県教育サービスセンター (当該記事掲載当時の名称) は「セイタカアワダチソウは地表近くに根が無い  (註;実際にはある) ため,地下50cmあたりに蓄積したモグラ由来の肥料成分を消費し尽くしたあとは,繁殖力を失って矮化したのである」と主張している.(Wikipedia【セイタカアワダチソウ】もこの奇説を採用している)
 この主張には,セイタカアワダチソウの繁殖におけるアレロパシーのアの字も出てこない.まことに無学は悲しい.
 昭和のセイタカアワダチソウ大繁殖期を過ぎたあと,各地のセイタカアワダチソウに矮化現象が観察されるようになり,群落そのものも退勢を示した.これが現在,植物生態や生理の研究者のコンセンサスとなっている「セイタカアワダチソウの繁殖におけるアレロパシーの役割」である.
 セイタカアワダチソウは根から土壌中に,cis-DME (シス-デヒドロマトリカリエステル;methyl dec-2-en-4,6,8-triynoate) というカルボン酸エステルを放出する.
 これが他の植物に対して成長抑制作用を有するため,人間の手が入らない耕作放棄地 (昭和後半の減反政策が耕作放棄地を増やした) などでセイタカアワダチソウの大群落が形成される.
 ところが土壌中に cis-DME が蓄積されてくると,セイタカアワダチソウ自身にも成長抑制と発芽障害が発生する.いわば自家中毒のような状態となる.
 このことにより,かつて大繁殖したセイタカアワダチソウの,現在の退勢がもたらされたという.
 私は以前,セイタカアワダチソウ群落を長期間にわたって定点観察をしたことがあるが,群落の退勢と矮化には何年も要するという結果を得た.
 しかし,他の人の観察によると,たった一年で群落が退勢し矮化するという例があるそうだ.
 そこでセイタカアワダチソウの矮化についての資料を探すと,キク科の植物を矮化する種類のウイロイド (キク矮化病ウイロイド) に,セイタカアワダチソウも感染すると述べた資料が見つかった.(愛知県農業総合試験場《農業の新技術 No.102 2013「ウイロイドによって引き起こされるキク矮化病の蔓延防止マニュアル」》)
 ウイロイド (Viroid) は塩基数が200から400程度の短い環状一本鎖RNAであり,維管束植物に対して感染性を持つ.病原性ウイロイドに感染した植物は矮化など様々な病害を受ける.
 ただし,上に示した「蔓延防止マニュアル」は,セイタカアワダチソウからキク矮化病ウイロイドが検出されるが,実際に矮化が起こるかどうかは述べていない.
 文献によっては,キク矮化病ウイロイドに感染して顕著に矮化するのは栽培キクだけであると述べたものもあり,このあたりは研究者のコンセンサスが取れていないようだ.
 
 また農業環境技術研究所 (現農研機構農業環境変動研究センター) の研究者によると,元々セイタカアワダチソウは土壌の富栄養化を必要とするため,日本の土壌環境に適していないのだという.
 かつて日本中の荒れ地にセイタカアワダチソウが蔓延したのは,耕作によって人為的に富栄養化した土壌が耕作放棄されたからだというのである.
 その説を,農環研ニュース No.96 2012.10《セイタカアワダチソウの蔓延を防ぐ 土壌環境を考慮した新しい考え方》から下に引用する.
 
ここで少し考えていただきたいことがあります。そもそも、セイタカアワダチソウは日本の自然環境には適応しておらず、セイタカアワダチソウが蔓延しているのは私たち人間の活動により改変された土壌の上に限られることをすでに述べました。セイタカアワダチソウは、確かに侵略的な外来種であり、日本在来の植物を駆逐するなど、放ってはおけない存在です。しかし、蔓延する大きな要因を作っているのは私たち人間の活動で、この要因がなければ、蔓延することはほとんどないと言えるでしょう。
 私たちの身近な自然では、とくに戦後、化学肥料や大型機械の普及とともに、知らず知らずのうちに、土壌が富栄養化されるとともに土壌の酸性も弱められてきました。明治時代は蔓延が問題にならなかったセイタカアワダチソウが、戦後になって急速に蔓延するようになったのは、土壌環境の変化と同期しているようにも思えます。であるならば、私たちが取り組まなければならないのは、セイタカアワダチソウの直接的な防除ではなく、失われつつある土壌環境を保全することかもしれません。本来の土壌環境が戻れば、その結果として、セイタカアワダチソウはおとなしくなることでしょう。
 
おわりに
 イメージの悪いセイタカアワダチソウですが、よくよく考えてみると「土壌環境が変わってしまったよ、気をつけて!」と私たちにメッセージを伝えようとしているのかもしれません。セイタカアワダチソウに限らす、野外の植物たちはいろんなことを私たちに伝えてくれているようです。私たちの研究グループでは、とくに農耕地周辺の植物が伝えるメッセージを読み取るための研究を、今後もさらに続けていく予定です。
 
 なるほど,と納得してしまいそうであるが,しかしセイタカアワダチソウが蔓延したのは,富栄養化した耕作放棄地ばかりではなかったように私は記憶している.
 例えば住宅地の中の原っぱや,鉄道線路に沿った荒れ地などにも丈高く伸びたセイタカアワダチソウが見られたはず.
 あれはどういうことだったのだろう.
 こうしてあれこれの説を突き合わせると,セイタカアワダチソウの大繁殖と,その後の退勢と矮化には,まだまだわからないことがあるように思われる.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)







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