中国の食品を批判するのはいいが日本産だって /工事中
現代ビジネス《中国「小便ビール」が“衝撃”で、日本・中国・韓国の「大違い」が急浮上…! 「在日3世」の私が直面した「使い回し」「汚れた箸」「食べ残しがついた椅子」の”驚くべき現実”》[掲載日 2023年11月7日] を読んでしみじみと思い出すところがあった.
《「小便ビール」の衝撃!
先日、中国から驚くべきニュースが舞い込んだ。
日本、韓国でも人気の高い中国ビールの青島(チンタオ)の生産過程で、1人の従業員が原材料に「小便」をしているという映像だ。
中国といえば、韓国と「元祖」論争が繰り広げられているが、「キムチ」論争の最中では、薬味唐辛子を漬ける前段階の塩漬けをプールの様な穴の中で洗っている半裸の従業員が話題になったこともあった。
その時も大きな衝撃だったが、今回は流石の私も中国製加工食品を一切断とうと思わされる出来事だった。》
私は高校卒業まで群馬県に住んでいた.
今はどうか知らぬが,昔の群馬県の人は漬物好きが多くて,来客に渋茶を出してもてなす時のお茶請けは漬物が定番であった.
従って市内には漬物屋が商売繁盛していたし,漬物屋よりは少し規模の大きい漬物工場もあった.
小さな漬物屋なら材料の野菜を樽で漬けるが,工場規模でタクアンを漬けるとなるとそれでは間に合わないから,小さいプールというか,銭湯の浴槽を深くしたような穴に仕込むことになる.
干した大根を糠と共に漬けこむ作業は見るからに重労働であり,工場の横を通るときに汗まみれで働く《半裸の従業員》を見ることができた.
ま,さすがにタクアン用プールの中で小便はしていなかったと思うが,日本の食品会社の工場において,衛生観念がきちんとしたものになったのは,実はそれほど昔のことではない.現在の中国と大差なかったのである.
上の引用文中に中国ビールが登場するので,日本のビールについて記す.
私は昭和四十七年の五月に,アサヒビールの東京工場 (大森にあったが現在はない) を見学したことがある.
日本のビールはコストダウンを目的として大麦以外の雑原料を使用することが普通に行われているが,その雑原料の一つにトウモロコシの澱粉がある.
ビールに雑原料を使用することの善し悪しは別として,問題は原料の取扱に関する衛生観念だ.
アサヒビール東京工場 (当時) では,トウモロコシ澱粉の投入口は,驚いたことに地べたに開けた穴だったのである.
その穴には,道路の側溝に被せる鉄製の穴あき蓋 (グレーチング;その一例) が載せてあったが,ゴミも虫も入り放題でネズミに対しても無防備な状態だった.
その地べたに開いた原料投入口の上から,巨大な袋 (コンテナバッグ;フレコンバッグとも) に入れられたトウモロコシ澱粉をドドドッとぶち撒けると,作業員がシャベルを使って雪かきのようにして穴に放り込む.
そのあまりに非衛生的で土木工事的な作業にショックを受けた私は,その後暫くアサヒビールを飲むのをやめた.(他のビールメーカーも似たようなものだったはずだが,アサヒを飲まなかったのは作業を目撃したショックが大きかったせいである)
日本の農産物加工産業の衛生状態はその後少しは改善されたが,中国では,日本の昭和の衛生観念がいまだにそのままになっていることは確かである.
その最たるものが,二十年ほど前に世に知られた中国の恥部「地溝油」である.Wikipedia【地溝油】から下に引用する.
《地溝油とは、主に中国において闇市場で流通している再生食用油のこと。工場などの排水溝や下水溝に溜まったクリーム状 (あるいはスカム状) の油を濾過し、精製して食用油脂として使われる油。日本では下水油 (げすいあぶら) と紹介されることも多い。また、ドブ油 (どぶゆ) などとも言われる。
地溝油の収集、処理、再販売に特化した違法なサプライチェーンが、中国の規制当局によって発見された。中国の複数の高級レストランが、不法にリサイクルされた地溝油で調理していることが判明している。》
中国人は,自分が食べる物と他人が食べる物とをきっちりと区別する.
自分の食べ物は安全であることを望むが,他人が食べるものはどんなに非衛生的でも構わない.その中国式衛生観念の象徴が地溝油である.
まことにおぞましいが,それならば日本はどうかというと,昔の日本だって似たようなものだったのである.
その象徴が農薬であった.
レイチェル・カーソンの著書『沈黙の春』(1962年;邦訳は1964年) が出版される以前の日本の農業は農薬漬けだった.
Wikipedia【沈黙の春】に《カーソンのこの著作は、あまり知られていなかった農薬の残留性や生物濃縮がもたらす生態系への影響を公にし、社会的に大きな影響を与えた》とあるが,日本では『沈黙の春』以後,農家は自家消費用作物と出荷用の作物を区別して生産するようになった.
農家は,自家消費する作物はできるだけ農薬を使わぬように生産するが,出荷する作物は相変わらず農薬漬けで生産するというダブルスタンダードであった.
その当時のある日,青森県のあるリンゴ農家の婦人が,蒼ざめた顔で医師のところへ駆けつけてきた.
医師が診察すると,彼女は「間違って出荷用のリンゴを食べてしまったのですが大丈夫でしょうか」と訴えた.
これは当時流布したジョークだが,実話であるとも言われた.
日本人もまた,中国人と同様に,自分の食べ物は安全であることを望むが,他人が食べるものはどんなに有害であっても平気だったのである.
驚いたことに消費者も,そのような農業の在り方に正面から異議を唱えることはしなかった.
むしろ農作物が農薬まみれであることを当然のこととして,昭和期の消費者は,野菜や一部の果物は洗剤で洗ってから食べた.今では台所用洗剤は食器を洗うのが用途であるが,昭和期の家庭用洗剤のベストセラー「ライポンF」は,Wikipedia【ライポンF】に《ライポンF (ライポンエフ)は、ライオン油脂 (現・ライオン) が開発した、世界で初めての野菜果物・食器洗い専用の台所用非液体洗剤》と書かれている.(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
日本の家庭で,野菜や果物を洗剤洗いせずに食べるようになったのは,ようやく昭和の終わり頃であった.
すなわち,生産者自身の食べ物も,消費者が食べる物も等しく安全であらねばならないとする衛生観念が我が国に現れたのはそれほど昔のことではないのである.
であるから,日本の農産物は今はもう安全かというと,心許ないと言わざるを得ない.
[最近の例]
・食品検査・研究機構《日本産リンゴ、台湾向け輸出で残留農薬検出》[掲載日 2022年12月30日]
・フォーカス台湾《日本産ブドウ、水際検査で不合格 残留農薬の規定に違反/台湾》[掲載日 2023年10月12日 12:46]
上記の記事のように輸出先の検査に不合格になった場合はマス・メディアが報道するが,国内流通する国産農産物の残留農薬はあまり実態が調査報道されない.(行政のサイトにアクセスすれば違反事例の資料は見つかるが,それは氷山の一角だと言われている)
冒頭に紹介した現代ビジネス誌の記事の筆者は大の日本贔屓であるが,贔屓の引き倒しのように思われる.
《それにしても、中国ではこういった不衛生ニュースが定期的に出てくる。
韓国ではそのような中国レベルの話は聞かないが、日本との違いは住んでいてよく実感する。たとえば、韓国では食事の際におかずが多く出ることが有名だが、そのおかずを使い回している店があった。一度、カンナムでカミさんがチゲを頼んだが、そのチゲは他の席に持って行かれた。そのお客がそのチゲを食べ始めているにもかかわらず、「間違った」と取り上げて、そのチゲを何気ない顔でカミさんの前に置いていったこともあった。
一部始終を見ていた私はあまりの出来事に爆笑してしまったが、カミさんは烈火の如く怒っていたことを思い出す。
私が直面した「使い回し」の現場
ちなみに、カンナムはソウルの中でも都会な商業地区であるが、そんな都会ですら起っている不衛生な使い回しが地方であっても不思議ではないと想像してしまう。仮に日本でこういった使い回しが発覚すれば客足が遠のくだろうが、韓国では「またか」「そうだよな」と大目に見るケースがほとんどだと思う。
たまに「あそこの店行ってみようと思うけど」と聞くと、「うまいけど、あそこは使い回してるから気をつけて」と、そんな情報が出回っていても繁盛しているのが韓国だ。》
昔,とある温泉旅館に特殊な技能を持つ中居さんがいた.昭和の終わり頃のことだ.
瓶ビールの王冠を普通に栓抜きで取ると,王冠は折れ曲がる.
しかしその中居さんが栓抜きすると,王冠は折れ曲がることがなかった.
つまり,この王冠は再使用できるのである.再使用可能な王冠を作ることがその中居さんの特殊技能であった.
大人数で宴会をすると,中身が入ったままのビール瓶がたくさん生じる.
旅館の従業員たちが調理場に飲み残し瓶を下げてきたら,飲み残しを一本の瓶に集めて,歪んでいない王冠をスポンと被せる.
こういう再生?ビールは,まだ酔いが回っていない宴会に出すことはできないが,みんな酔っぱらって座が乱れた宴会で幹事が「瓶びーる,ついかー」とか言い始めた頃に宴会場に出せば,酔っ払いたちは「まだ栓を抜いていない新品」だと思ってしまうという次第だ.
上の例は特殊だが,もっと一般的な使い回しも昔からあった.
私が大学生の時のアルバイトで,ホテルの宴会 (結婚披露宴など) のウェイターがあった.
宴会場の前半分には主賓や大切な招待客がいるが,後半分の席の客は有人知人などの有象無象だから酒類は使い回しでいいと,ホテル社員はバイトたちに指導したのを今も覚えている.
喫茶店やレストランの食材で使い回しされるものといえば,刺身のツマとパセリと缶詰のチェリーが有名だった.これもバイト学生時代に得た知識.
今はそんな安価なものを使い回しすることはないだろう.めんどくさいからね.
言い換えれば,今でも高価なものは使い回しする価値があるということである.
図らずも私たちがそれを知ったのは「船場吉兆の不祥事」によってだった.
Wikipedia【船場吉兆】から下に引用する.
《客の食べ残しの再提供
4店舗全店で客が残した料理をいったん回収し、別の客に提供していた。
「天ぷら」は揚げ直して出すこともあり「アユの塩焼き」は焼き直し「アユのおどり揚げ」は二度揚げしていた。わさびは、形が崩れて下げられてきたものをわさび醤油として出し直し、刺し身は盛り直していた。刺し身のツマはパート従業員が洗い、造り場(調理場)に導入していた。料亭経営を取り仕切っていた当時の湯木正徳前社長の指示で2007年11月の営業休止前まで常態化していたとされる。 従業員はこれらの使い回しの料理について「下座の客に出すことが多かったように思う」と話している。使い回しが発覚した後に湯木佐知子社長は「食べ残し」と呼ばず「手付かずのお料理」と呼ぶようにマスコミに要望した。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
《2008年5月、「客の食べ残した料理の使い回し」を10年以上も前から行っていたことが発覚して以降、予約のキャンセルが相次ぎ、客が発覚前の半分、末期には3分の1程度に減少。資金繰りに窮し、グループ内外の支援を受けることもできなかったことから、2008年5月28日、大阪市保健所に飲食店の廃業届を提出し、経営破綻。大阪地裁に民事再生手続の廃止を申し立てた。6月23日、破産手続開始決定。》
もうあれから十五年になるのかと感慨深いが,「ささやき女将」の強烈な印象はなかなか忘れがたいものがあり,そのせいで船場吉兆の事件は最近のことのような気がする.
しかしまあ,名店というものは昔ながらのやり方を頑固に守るものだなあと感心したのは《刺し身のツマ》を《洗》って再使用することと《使い回しの料理》は《下座の客に出す》ことである.私がまだバイト学生だった昭和時代の悪しき習慣そのままである.
ここで船場吉兆に成り代わって言い訳をすると,昭和の中頃には「刺身のツマとか,洋食のパセリとか,パーラーのクリームソーダにあしらわれている缶詰チェリーは,食べ終わった時に食器の見た目が浅ましくないように取り繕う飾りだから,食べてはいけない」ということが,まだ一般に流布していたのである.刺身のツマやパセリを食ってしまうのは田舎者といわれた時代だった.
しかし船場吉兆の経営者が愚かだったのは,平成十二年 (2000年) に発生した雪印集団食中毒事件と,BSE問題,さらに続々と発覚した牛肉偽装事件,「白い恋人」賞味期限偽装事件,「赤福餅」消費期限偽装事件等により,消費者国民の意識がいわゆる「安全安心」を強く求めるように変化したことに気づかず,世の中をナメてかかり,昭和の商道徳と衛生観念を改めなかったことである.
そして残念なことに,この船場吉兆事件を契機にして,日本の農業や食品産業のモラルが向上したかというと,そんなことはなかった.
一例としてWikipedia【食品偽装問題】から,船場吉兆事件以降の主だった問題を列記してみる.
《・船場吉兆(2007年) - 産地偽装や賞味期限偽装に加え、食べ残しの再提供など他の問題も発覚した。
・事故米不正転売事件(2008年9月) - 三笠フーズ(大阪市)・浅井(名古屋市)・太田産業(愛知県宝飯郡小坂井町[注釈 1])による事故米食用偽装転売
・大和屋商店による食肉偽装販売(2011年) - 肉の提供を受けた焼肉酒家えびすの不適切な処理もあり、ユッケ集団食中毒事件に発展した。
・浪花酒造による大吟醸酒原材料偽装(2013年2月)
・馬肉混入問題(2013年) - イギリスやアイルランドで牛肉を使用していると謳った食品に馬肉が混入していることが発覚した。
・食材偽装問題(2013年) - 2013年に大手ホテル・百貨店レストラン等のメニュー表示における、産地や食材の種類に関する虚偽表示・偽装表示が相次いで発覚した。
・木曽路による松阪牛メニュー偽装(2014年)
・産業廃棄物処理業者による不正転売事件(2016年) - 産業廃棄物処理業者から賞味期限切れ食品を購入した食品卸売業による転売も行われていた。
・神戸サカヱ屋食肉偽装事件(2019年) - 11月、精肉卸店の神戸サカヱ屋が「和牛」と偽って交雑種の牛肉を販売していたとして、肉を仕入れていた神戸の焼肉店経営会社が不正競争防止法違反の疑いで同社を刑事告発した。兵庫県は2020年2月5日までに同容疑と、さらにブランド豚肉「ひょうご雪姫ポーク」でもブランドを偽っていたとして、食肉計約6トンの偽装販売を認定したことを明らかにした(牛肉では0.5トンの不正を確認)。同社は業界団体から改善指導を受けた2019年4月以降も牛肉の偽装を続けていた。
・アサリ産地偽装問題(2022年)》
以上は氷山の一角である.米と鰻は偽装が常態化していると言われる.(報道例:日経《三瀧商事を家宅捜索、コメ産地偽装の疑い 三重県警》[掲載日 2013年10月24日 11:28],Diamond online《「JAのコメ」に産地偽装の疑い、魚沼産に中国産混入》[掲載日 2017.2.13 5:00])
このように我が国の食糧生産業,食品製造業,外食産業における商道徳は地に落ちたままであるが,近年は経営レベルの不正に加えて,非正規雇用従業員や顧客・消費者による悪質行為 (バカッター,バイトテロ,外食テロなど) が問題になっている.
奇しくも最初のバカッター事件 (下記註;Wikipedia【バイトテロ】からの引用) が発生した2007年 (平成19年) 11月30日は,食べ残しの再提供が発覚した船場吉兆が営業休止に追い込まれた直後であった.
(註;Wikipedia【バイトテロ】からの引用)
《当時はまだ「バイトテロ」の名はなかったものの「バイトテロ」に当たる行為は、2007年 (平成19年) 11月30日、日本の動画配信関連サービス「ニコニコ動画」に『【𠮷野家で】メガ牛丼に対抗して、テラ豚丼をやってみた【フリーダム】』という動画が投稿されたテラ豚丼事件がインターネットを介した初のバイトテロ事例とされる。》
私たちの食生活に係る道徳について過去を振り返れば,まさに船場吉兆事件が時代の変曲点であった.
それまでの日本の「食」に係る不祥事や犯罪は「食」を提供する農業者,食品会社,飲食店の道義的堕落によるものであったのに,2007年以降はその堕落が「消費者&飲食店客」にまで広がったのである.
最初に悪意ある「消費者&飲食店客」による迷惑行為が発覚したのは回転寿司店だった.そして他の業種 (うどん屋,牛丼店)
彼らは器物損壊行為や業務妨害を動画に撮影してネットに掲載したが,その動機は「仲間うちでウケたい」「SNSに投稿するネタが欲しい」などであり,「他人に迷惑をかけたい」ではなかった.ハラスメントではなかったのである.
あるラーメン店では,カウンターに備えてあったティッシュを,客がまき散らして逃げた.
またあるラーメン店では爪楊枝を数百本も丼の中にぶち撒けて逃げた.
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