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2023年10月17日 (火)

サケの遡上に異変が

 IBC岩手放送《「サケが帰ってこない・・・」 川での捕獲は不漁だった去年の12% ふ化事業は深刻な状況に 岩手》[掲載日 2023年10月17日] から下に引用する.
 
例年、9月末から10月はじめにかけて盛岡市の中津川などで見られはじめるサケの遡上に異変です。ふ化場では採卵のためのサケを獲ることができていません。江幡アナウンサーの取材です。
「盛岡市を流れる簗川沿いにあるサケのふ化場です。例年ですとこの時期にはサケの卵で一杯になっている水槽は、空です」
 北上川の一部やその支流の簗川で獲れたサケのふ化事業を行っている盛岡河川漁協。例年135匹を目標に雌ザケを捕獲・採卵していますが、今年はまだ1匹も獲れていません。
 12日、盛岡市愛宕町の文化橋付近の中津川で、産卵のため川底を掘るサケとみられる魚が撮影されましたが・・・。
「マスですね。ここの赤い線と(背中の)点々、サクラマスですね」
 同じように川でふ化し、一旦海に出てから生まれた川を遡上するサケとサクラマスは見かけがよく似ています。
 婚姻色と呼ばれる縞模様がサクラマスがピンク色なのに対し、サケは色が濃く赤っぽいということで、撮影された魚はサクラマスだったとみられます。
 では、サケの遡上はどうなっているのでしょうか。
 一般社団法人・県さけ・ます増殖協会によりますと、10月10日までに岩手県沿岸から河川を遡上し捕獲されたサケは561匹と、不漁だった去年の同時期の12%、2019年から2022年の平均と比べると4%に過ぎず、採卵も進んでいません。
 海水温の上昇などが理由にとりざたされていますが、藤村組合長はなす術がないと言います
 
 上の記事は,盛岡市を流れる北上川水系の梁川で,今年はサケ (Oncorhynchus keta;シロザケ) の遡上が非常に少ないと述べている.
 この現象に関して,重要な示唆が北海道大学の研究者から報告された.同大学のサイトに掲載されたその紹介記事を下に引用する.
 
放流しても魚は増えない~放流は河川の魚類群集に長期的な悪影響をもたらすことを解明~(地球環境科学研究院 助教 先崎理之)
 2023年2月9日
 北海道大学 
 北海道立総合研究機構

ポイント
●理論・実証分析の双方から、河川における放流が魚類群集に与える影響を検証。
●放流は種内・種間競争の激化を促し、多くの場合で群集構成種を長期的に減らすことを解明。
●魚類資源の回復には、河川等の生息環境の改善等の別の抜本的対策が求められることを示唆。
 
概要
 北海道大学大学院地球環境科学研究院の先崎理之助教は、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校の照井 慧助教、北海道立総合研究機構の卜部浩一研究主幹、国立極地研究所(当時)の西沢文吾氏と共同で、魚のふ化放流は多くの場合で放流対象種を増やす効果はなく、その種を含む生物群集を減らすことを明らかにしました。
 飼育下で繁殖させた在来種を野外に放す試みは、野外個体群の増強を目的として様々な動植物で行われています。特に、漁業対象種のふ化放流は、国内外に広く普及しています。一方、こうした放流では自然界には生じえない規模の大量の稚魚を放つため、生態系のバランスを損ね、放流対象種を含む魚類群集全体に長期的な悪影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。
 そこで研究チームは、シミュレーションによる理論分析と全道の保護水面河川における過去21年の魚類群集データによる実証分析を行い、放流が河川の魚類群集に与える影響を検証しました。実証分析で対象とした保護水面河川には、放流が行われていない河川とサクラマスの放流が様々な規模で行われている河川が含まれます。これらの分析の結果、放流は種内・種間競争の激化を促すことで、放流対象種の自然繁殖を抑制し、さらに他種を排除する作用を持つため、長期的に魚類群集全体の種数や密度を低下させることが明らかになりました。本研究結果は、持続可能な魚類の資源管理や生物多様性保全に対する放流の効果は限定的であり、生息環境の復元などの別の抜本的対策が求められることを示しています。
 なお、本研究成果は、2023年2月7日(水)公開のProceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されました。
 論文名:Intentional release of native species undermines ecological stability(在来種の意図的放流は生態系の安定性を損ねる)
 URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2218044120
 
 上の論文を,現代ビジネス誌が紹介している.詳しくは上記の論文を読んで頂くとして,概要について現代ビジネス誌の記事を一部引用する.(現代ビジネス《じつはサケやほかの魚を「放流」しても、数が増えないどころか「減ることさえある」という「衝撃的な事実」》[掲載日 2023年4月12日])
 
「人間が管理下(捕獲・保護・飼育など)に置いている水生動物を、水系の自然環境(川、湖沼、海など)に解き放つこと」――これは、Wikipediaに記された放流の説明である。
 水産資源の維持や増強、ときには絶滅に瀕した種の保全を目的に、放流は世界各地で行われている。2018年にまとめられた統計によると、水産有用種に限っても180種以上が放流されている。
 中でも、日本は世界でもっとも多くの種を放流しており、「放流大国」といっても差し支えないだろう。この中にはシロサケ、サクラマス、ウナギ、マダイ、アユなどが含まれ、身近な食材の多くが放流事業と関わっていることがわかる。
 日本の孵化放流事業の歴史は1876年の茨城県那珂川に始まるが、いまでは全国的な広がりをみせている。漁業のみならず環境教育の一環として行われることも多い。
 しかし、放流で本当に魚は増えるのだろうか?「放せば増える」という直感が仇をなしたのか、実は放流の効果をしっかりと評価した例は驚くほど少ない。そして2000年代以降、遺伝学や生態学の研究分野から、その直感に反する検証結果が次々と報告される
 2007年、放流事業の根幹を揺るがす成果がScience誌に発表された。北米・オレゴン州で行われたその研究は、遺伝情報からニジマスの親子関係を網羅的に調べ、自然河川で放流魚が残した子供の数をはかった。その結果、放流魚はほとんど子供を残せていないことがわかった。
 問題は放流魚の育ち方にある。放流魚が育つ人工飼育環境は、自然の川からかけ離れている。放流魚は、そうした特殊な環境のもとで飼育されるが、その過程で「特殊環境におけるエリート」が選抜されてしまったのだ。このエリートたちは外ではうまく生きられなかった、というのが事の顛末である
 この研究を皮切りに放流を見直す気運が高まるが、今なお放流は世界で広く行われている。大量の稚魚を放すことで得られる「数」の効果は大きく、放流なくして漁業は成り立たないと信じられているからだ。
 しかし、2023年、その「数」の効果すら怪しいことが明らかになる。
 北海道の保護水面(漁業、釣りともに禁止されている川)では、サクラマス資源の保護・増殖のために様々な規模で放流が行われている。本当に放流に効果があるならば、放流数の多い川ほどサクラマスは多いはずである。
 実際はその逆であった。1999〜2019年に行われた資源量調査のデータを分析したところ、放流数が多いほどサクラマスは減る傾向にあったのだ³。
 それどころか、同じ場所にすむ他の魚種の密度も低くなり、中には淘汰されていなくなるものも見られた
奇しくも同年、ドイツの湖において放流の効果を検証した大規模実験の結果が発表される。この研究では、7ヘクタールほどの湖を「水槽」に見立て、放流する湖・しない湖を実験的に設けた。
 6年間にわたって魚の個体数の動向を追ったが、実験に用いられた5魚種すべてにおいて、放流によって増えたという証拠は得られず、種によってはむしろ減ったという。
 放流しても魚は増えない。直感に反する結果のようだが、生態系の仕組みを考えるとなんら不思議ではない。
 生物には生活のための住処や食べ物(資源)が必要であるが、それらには限りがある。そのため、生物同士で資源をめぐる競争が起きる。言い換えると、生態系は無限に生物を受け入れられるわけでなく、支えられる数が決まっている。生態学では、この「支えられる生物の数」を環境収容力と呼ぶ。
 この環境収容力を大きく上回る数を放流したら、一体どうなるだろうか?
 当然、過剰に放流すると生物同士の争いは激しくなり、厳しい生存環境に追い込まれることが予想される。あまりにも競争が激しいため、子供を残す前に死んでしまう個体もいるだろう。こうした状況を考えると、放流によって次世代の子供の数が減ってしまうことは、十分に起こりうるのだ
 この現実的なシナリオを想定したシミュレーション(コンピュータの中で行う実験)では、予想された通り、放流によって次世代の集団サイズは小さくなることがわかった。
 
 岩手市の梁川でシロザケの遡上が激減したという事実は「大量の放流が環境収容力を上回った結果,生存競争にサクラマスは生き残ったが,シロザケは集団サイズが小さくなってしまった」という可能性を示している可能性がある.
 北上川水系を遡上するシロザケの現状に関しては研究者が追跡するだろうが,心配である.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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