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2023年10月 9日 (月)

しずかちゃん

 アサジョ《【ブギウギ】鈴子の歌劇団合格に視聴者が沸くも、アメリカでは放送できない内容だった!》[掲載日 2023年10月6日 16:25] から下に引用する.
 
このご時世にマズいんじゃないの? そんな声も漏れ伝わっていたようだ。
……
花咲に不合格して落ち込んでいた鈴子。実家が銭湯とあって、広い湯船に浸かりながら涙を流す場面もありました。第3回にも鈴子が入浴する場面があり、肩まで見えていたもの。これらの入浴シーンに《アメリカでは放送できないのでは?》といぶかる声も少なくないのです」(テレビ誌ライター)
 日本と異なりアメリカでは、テレビドラマで艶っぽいシーンを放送することは禁じられている。とくに未成年者に関する制限は厳しく、12歳の少女が入浴しているシーンはもはや完全にアウトというのが常識だ
 鈴子の入浴シーンに関して、日本人にとっては「実家が銭湯」であることを示す記号であることは明らか。開店前や閉店後には経営者の家族が広い湯船を独占できるという裏事情も、説明なしに受け入れることができるだろう。
 しかし銭湯の存在しないアメリカ人にとっては、脈絡もなく少女の入浴シーンが挿入されていると受け止められかねず、大問題になる恐れもはらんだ描写だというのである。
「そういった海外事情を差し引いても、果たして鈴子の入浴シーンが必要なのかどうかは疑問の残るところ。3作前の『ちむどんどん』には川口春奈や上白石萌歌が自宅の内風呂に浸かるシーンがあり、必然性の薄い入浴シーンに《けしからん》《やってくれたな!》といった批判の声ももちあがっていたものです」
 
 NHK朝ドラ《ブギウギ》をずっと視聴している.
 前作《らんまん》の評判がよく,その流れで視聴者の期待が高まっていたのかも,と思われるが,《ブギウギ》の出だしが快調だ.
 最近あちこちの局のテレビ番組で「昭和レトロ」が取り上げられるので,その影響もあるかも知れない.
「昭和レトロ」ブームとはいえ,ヒロインのモデルである笠置シヅ子が歌手だった戦後すぐのことを記憶している高齢者は,もうほとんど死に絶えている.
 私は七十三才だが,私の知っている彼女は歌手ではなく女優である.昭和三十年代に「東京ブギウギ」は既に懐メロになっていた.
 年寄りでも忘れかけていた笠置シヅ子は「昭和レトロ」好きの若い人たちにとって,ヘンな言い方だが,新しい「昭和レトロ」なのだろう.
 
 さて,そんな《ブギウギ》について,いくらアサジョが三流,四流の下等メディア (徳間書店) とはいえ《入浴シーンに《アメリカでは放送できないのでは?》といぶかる声も少なくない》と書かれ,さらに《とくに未成年者に関する制限は厳しく、12歳の少女が入浴しているシーンはもはや完全にアウト》《銭湯の存在しないアメリカ人にとっては、脈絡もなく少女の入浴シーンが挿入されていると受け止められかねず、大問題になる恐れもはらんだ描写だ》とまで書いてあるので,私は驚いた.
 まず,このアサジョの記事を読んだ人は「朝ドラが米国でテレビ放送されている」と思い込むかも知れないが,これは嘘だ.
 朝ドラはNHKプラスなどで米国居住者も視聴できるが,そのためには日本人向けのメディアであるNHKプラスに能動的にアクセスしなければならない.テレビやネットで放送され,視聴者が受動的に視せられてしまうわけではないのだ.
 米国では無修正の性行為場面のある映像作品がネット配信されているが,それが日本で《大問題になる》ことはない.当たり前だ.日本の法律に違反して国内放送されているわけではないからである.それと同じだ.
 
 というわけで,以上はアサジョがいかに嘘つきかという話であるが,しかしここで唐突に,もしアサジョの言うように少女の入浴シーンが《完全にアウト》だとすると,しずかちゃんの入浴シーンはどうなんだ?と私は思った.
「ドラえもん」には英語版があって,米国で配信されているからである.
 そこで資料を検索したら,Newsweek日本版《『ドラえもん』のアメリカ進出に30年かかった理由とは?》[掲載日 2014年5月22日 11:15] がヒットした.この記事の筆者は冷泉彰彦氏である.下に引用する.引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者 (私) が行った.
 
日本の人気漫画・アニメの『ドラえもん』は、1980年代からアジアやヨーロッパで人気となり、90年代の初頭からは、これにイスラム圏や中南米も含めたほぼ全世界で出版・放映されています。ですが、アメリカは例外でした。報道によれば1985年に一旦テッド・ターナー(CNNの創業者)が放映権を取得したそうですが、結局のところ放映はされませんでした。
 それからほぼ30年を経た今年、遂に『ドラえもん』は北米に上陸することになりました。ディズニーが版権を取得し、「Disney XD」というケーブル・チャンネルで8月から全国放映をするという発表がされています。
 この間、アメリカで放映がされなかった理由は比較的簡単です。アメリカでは子供向けのTV番組や出版物に関しては、極めて保守的な考え方があるからです。特に思春期前の子供たちを対象としたものはそうで、その社会の「善悪の価値観」から外れたものは「この年齢では与えない」ということになっています。
 
では、『ドラえもん』はどこが引っ掛かったのかというと、かなり多くの点で「アウト」でした。まず「のび太」という主人公が子供たちの「ロール・モデル」にならないという点があります。何よりも「自信なげで怠惰」というキャラクターが失格ですし、また「のび太が困った時にはドラえもんの特殊能力に依存する」というパターンも自立心を養う上でダメというわけです。
 これに加えて、「お母さんの叱り方」が表面的で愛情不足「ジャイアンなどのいじめ的行動」への全否定ができていない「しずかちゃん」の描き方にジェンダー上のステレオタイプがある、という具合ですが、全体的には「1つの理念に貫かれた空間」が成立していないということが最大の理由だと思います。アメリカ社会が「小学生レベルの子供に示したい」価値観から外れてしまっていたわけです。
 
 今でこそ「ドラえもん」は英語版が米国で出版・放送されているが,米国の子供たちが「ドラえもん」を知ってから,実はまだ十年経っていない.(実は私は,もっと前からだと思っていて,2014年だったとは冷泉氏の上の記事で初めて知った)
 で,米国で「ドラえもん」が受け入れられなかった理由は何か.冷泉氏の解説を以下に箇条書きにしてみる.
 
(1)《「のび太」という主人公が子供たちの「ロール・モデル」にならない
  * 自信なげで怠惰
  * 困ったときにドラえもんに依存するという自立心のなさ
(2)《「お母さんの叱り方」が表面的で愛情不足
(3)《「ジャイアンなどのいじめ的行動」への全否定ができていない
(4)《「しずかちゃん」の描き方にジェンダー上のステレオタイプがある
 
などをまとめて全体的に「ドラえもん」は《アメリカ社会が「小学生レベルの子供に示したい」価値観から外れてしまっていた》というのが冷泉氏の見解である.
 この分析に続いて冷泉氏は《アメリカ社会が「小学生レベルの子供に示したい」価値観》が変化したために,ようやく「ドラえもん」が受け入れられたとしている.私はこの見解に納得した.
 さて,冷泉氏の分析の《「しずかちゃん」の描き方にジェンダー上のステレオタイプがある》はどういうことか.
 これは「しずかちゃん」が,控えめでしとやかで優しい性格であることを指している.「控えめでしとやかな女性」は《ジェンダー上のステレオタイプ》なのである.
 それはそれとして,しずかちゃんの入浴にドラえもんとのび太が乱入するというお約束のシーン (「のび太クンのエッチ!」) を米国人が問題視したかということについて種々検索したが,何も見つからなかった.
 アサジョが言うところの《未成年者に関する制限は厳しく、12歳の少女が入浴しているシーンはもはや完全にアウトというのが常識》はどこから引っ張り出したのだろう.
 もしかすると米国版「ドラえもん」からそのシーンは削除されているのだろうか.調べたがよくわからない.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)



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