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2023年9月20日 (水)

食中毒事件の反省をしない「銀座天一」は初期対応を間違った

 Smart FLASH《「銀座 天一」漂白剤入り水で食中毒「苦しむ妻に店員は『ここで吐くと迷惑です』と…」被害者が告発》[掲載日 2023年9月16日 06:00] が,高級店の増長した接客を報道している.
 この事件について銀座天一はネット上で厳しく批判されているが,事件後に書かれた次のプレジデントオンラインの記事がものすごい.
 プレジデントオンライン《Googleマップで「味は普通だが、接客に難あり」と辛口コメントをせっせと投稿する人に共通すること》[掲載日 2023年9月19日 10:00] から下に引用する.
 
ネット上で、スコットランドのあるパブに掲示された張り紙が話題になったことがあります。そこにはこんなことが書かれていました。
「お前が受けるサービスの質は、お前の態度と俺の気分次第だ」
 これは、日本における飲食店側のへりくだり過ぎる接客にむしろ違和感を覚えているのであろう、今どきの多くの人々からの快哉かいさいを呼びました。
 ただしこれは、欧米のお店に張られているか、あるいは日本のお店に張られているかで、伝わり方に微妙なニュアンスの違いはあるのではないかと思います。スコットランドのそれは、(誰もがついつい素になってしまう酒場という場においても)普段通りの社会的態度を要求する、言わば常識の再確認なのでしょう。
 しかし少なくともこの張り紙が多くの人々の共感を得たくらいには、日本の飲食店においては、お店側が極端なまでに一方的なコミュニケーション・コストを背負っているのは確かだと思います。
 お客様は神様だと言わんばかりにふんぞりかえるお客さんとひたすら下手に出るしかないお店の人、という構図は、それが度々批判の対象となる程度には世に蔓延しています》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
「銀座天一」は,漂白剤を誤飲させられた客が身体の異常を訴えているのに,厨房の社員もフロアスタッフもこれを無視した.客とのコミュニケーションを一方的なまでに拒絶した.そしてあまつさえ食中毒発生の隠蔽を謀った.
 しかるにこの事実に対して,三日後に掲載されたプレジデントオンラインの記事は《日本の飲食店においては、お店側が極端なまでに一方的なコミュニケーション・コストを背負っているのは確かだと思います》と,正反対のことを主張している.
 プレジデントオンラインは,「銀座天一」で発生した食中毒事件のほとぼりが冷めてからこの記事を掲載するならばともかく,わずか三日後にこの記事を掲載するという,消費者大衆に対する悪意がすごい.
 
 プレジデントオンラインの悪意もすごいが,もっとすごいのは「銀座天一」の「再発防止策」だ.
弊社「天一 銀座三越レストラン店」における化学物質による食中毒事故発生に関するお知らせとお詫び【続報】》から下に引用する.
 
当該店舗は2023年9月8日 (金) 付で、所轄の中央区保健所より営業停止の行政指導を受けました。その後、中央区保健所のご指導にもとづき、再発防止策をたてるとともに、必要な改善を以下の通り実施致しましたので、ご報告させていただきます。
・漂白作業は営業終了後に行うこととし、漂白作業の場所を決めるとともに、作業中であることを一目でわかるようにしました。
・漂白剤をはじめ、厨房内で取り扱っている薬剤類の取扱い方法や保管方法などのルールを定め、消毒マニュアルを新たに策定致しました。
・飲料水用ピッチャーと天つゆ用ピッチャーを誰がみても明らかなように形状を変更し、置き場所についても固定を致しました。
・HACCP の考え方を取り入れた衛生管理を見直し、必要な記録項目を追加致しました。
・衛生管理全般について定期的な従業員教育計画を立て、全店で実施致します。
・株式会社天一の全従業員へ、改善策について周知徹底を致しました。
 
 一目瞭然だが,この「再発防止策」には,食品衛生的な対策しか書かれていない.
 客が食中毒症状を訴えているのに,従業員がこれを完全に無視し,あまつさえ漂白剤入りの水を捨てて食中毒の証拠隠滅を謀ったことに関する品質保証的対策は全く無視されている.
 なぜだろう.かつて食品企業で品質保証の責任者であった私は理解に苦しむ.
 保健所は食品衛生の指導はするが,品質保証の指導はしない.品質保証は営業者自らの責任で行うべき事柄であるからだ.
 これが理解できていないようでは,小手先の対策で《飲料水用ピッチャーと天つゆ用ピッチャーを誰がみても明らかなように形状を変更》したところで「仏作って魂入れず」になるだろう.(容器の形状変更は本質的な対策ではない.消毒のつもりで飲料水用ピッチャーに漂白剤を入れ,その中身を客に供するという事例は後を絶たないのである)
 そしてさらにすごいのは,この落第点の「再発防止策」を受け入れて営業再開させた三越だ.
 顧客の健康被害よりも「銀座天一」のご機嫌が重大事なんだろう.
 
[追記]
 この食中毒事件は,食品衛生とは別の方面に問題化しつつある.(中央日報《韓国人客に「漂白剤入りの水」出し、吐き出したら「迷惑」…銀座の有名飲食店で嫌韓議論》[掲載日 2023年9月19日 7:16])
 上の本文に私は《客が食中毒症状を訴えているのに,従業員がこれを完全に無視し,あまつさえ漂白剤入りの水を捨てて食中毒の証拠隠滅を謀ったことに関する品質保証的対策は全く無視されている.なぜだろう.かつて食品企業で品質保証の責任者であった私は理解に苦しむ》と書いたが,危惧した通り被害者は店側の行為を明確な「嫌韓」と受け取った.三越と天一は,初期対応を誤ったようだ.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)

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