マグミクス《【漫画】正解を教えて! 寿司の軍艦、牛タンのネギ、「こぼしがち」な食べ物に共感の声》[掲載日 2023年8月14日] から下に引用する.
《きれいに食べることが難しいと思う食べ物について描いたマンガ「食べるの失敗しがちな話」が、Instagramで300以上のいいねを集めて話題となっています。
……
ーー食べづらいものを食べるときは、どう挑みますか?
基本的に何も考えずに食べちゃいます。頭を使わずにおいしく完食することがモットーなので……。クロワッサンはいつも体中がパンくずだらけになりますが、気にせずかぶりついていますね(笑)。》
この文章に添えられたマンガ《きれいな食べ方模索中》には《信じられんくらいパンカスこぼす。人の2倍こぼしてると思う》とある.
その絵を見ると,作者はクロワッサンを食べる時に唇を閉じずに歯を剥き出しにしている.
そのような食べ方では《人の2倍こぼしてる》のは無理からぬところである.
さてクロワッサンに限らず,歯を剥き出して食べ物にかぶりつくのは行儀が悪い.
それはそうなのだが,上記のマンガ作者は女性なので,口紅が食べ物に付着するのが嫌で歯を剥き出しにするのかも知れない.
しかし,クロワッサンをかぶりついて食うのは,自分ちで一人または家族たちと食べる時の気楽なやり方なのであるから,口紅なんか拭い取ってしまって食べればよろしい.つまりクロワッサンの端をパクリと口に入れて唇を閉じ,唇の内側の前歯でクロワッサンを噛み取ればいいのである.これならパンクズは唇の外に出ることはなく,テーブルの上にパンクズをこぼすことはない.そして食事が終わってまたお化粧したければ再び紅を引けばいい.
自分の家ではなくレストランでは,パンにかぶりついてはいけない.パンはちぎって食べる.これは社会人の基本常識だ.
左手にパンを持ったままかぶりつき,右手に持ったままのスプーンでスープとかシチューを犬食いするような男は,顧客との食事の席には出入り禁止になること間違いなしだ.
あるいは女性なら,ようやくつかまえた彼氏との初めてのデートでおしゃれなレストランに誘われても,歯を剥き出してパンを食べたら二度目のデートはない.
だがしかし,男を騙し通して幸いにも結婚できた暁には,床に寝っころがって歯を剥き出してクロワッサンを齧り,床の上にパンクズをまき散らし.尻を掻きながら屁をこいたり鼻くそをほじっても全然構わない.だからそれまでは真の姿を悟られぬようにしなければいけない.
ところでレストランでは,コースのパンとしてクロワッサンが出てくることはあまりない.
普通はバゲットやカンパーニュなどを食べやすくカットしたもの,あるいは拳大の丸いフランスパン (通称プチパン Petit pain) がパン皿に供されるが,アメリカン・スタイルのカジュアルなレストランでは軟らかいロール・パンが出てくることもある.
運悪くクロワッサンが出てきた場合,パン皿の上で一口大にちぎると,皿の上が剥片状のパンクズだらけになるが,それでも堂々としていればいい.間違ってもマンガの作者のように「あ,しまった」(みっともない,もったいない,etc.) なんてことを考えてはいけない.
パンの食べかた問題はフランスでもあるらしく,自宅での食事の際に,パンクズの出ない食べかたを庶民は工夫してきた.
私が知る限り,映画の中でクロワッサンを食べるシーンがあるのは『昼下がりの情事』(1957年公開) だけではないかと思う.
余りにも有名な映画なのでWikipedia【昼下がりの情事】から粗筋の冒頭だけ紹介する.
《愛の都パリ。ここにはいろんな愛がある。そう、不倫の愛も。探偵シャヴァスはホテル・リッツでの不倫の現場の証拠写真をヴァンドーム広場の記念柱から夜通し撮影していた。
家に帰ると音楽院に通う一人娘のアリアーヌがチェロの練習をしている。早速写真の現像を始めると、アリアーヌがやってきて写真を見る。》
この粗筋には書かれていないが,父親のシャヴァス (モーリス・シュヴァリエ) が徹夜の探偵仕事から帰宅すると,娘のアリアーヌ (オードリー・ヘプバーン) が父に朝食を用意する.
その朝食がクロワッサンとコーヒー (カフェ・オ・レの可能性がある) なのである.
(下の画像) はシャヴァスがクロワッサンをカップの飲み物に浸そうとしているところ.
カップは,柄はついているが通常のコーヒー用カップより大きい.映画公開の当時も今も,朝からミルクを入れないコーヒーは胃に悪いと思われていることからすると,カップの中身はカフェ・オ・レかと思われる.ただし,廉価版DVDの字幕ではアリアーヌの台詞は「コーヒー」となっている.
(次の画像) シャヴァスはクロワッサンの端をちょっと飲み物に浸すと下の画像のように口に運んでいる.
クロワッサンの形が,そのような食べ方にちょうど具合がいい.丸いパンだと,ちぎってから飲み物に浸さないといけないし,そういうやりかただと手指が濡れたりする.
もちろんクロワッサンは,飲み物に浸して食べるのに都合がいいようにあの形に作られているわけではないけれど,たまたまとはいえおもしろい.
日清製粉グループのサイト《パン食系女子》に《フランスパンのおいしい食べ方講座》が掲載されていて,その中の《クロワッサンのたのしみ方 焼きたてはカフェオレと。残った時は……?》が,クロワッサンの食べかたのわかりやすい説明だ.
《フランスの朝食で、タルティーヌと並ぶ定番メニューはクロワッサンです。シンプルなバゲットとは違い、バターたっぷりのクロワッサンは、フランスでもちょっと高級品。なので、一般家庭では毎朝クロワッサンというわけではありません。ちょっと特別な、週末のおたのしみということが多いそうです。
そんなクロワッサンは、やっぱり焼きたて(正確には粗熱がとれた冷めたて)をいただきたいもの。サックサクの層の中にジュワーッとバターの香りが感じられるクロワッサンを、カフェオレに浸しながら食べるのがフランス流。せっかくサクサクなのにどうして?と、はじめは驚いたものですが、クロワッサンをそのまま頬張るとボロボロとこぼれやすいのです。カフェオレに浸して、しっとりさせると確かに食べやすい。 もちろん、全部浸すのではなく、サクサク感としっとり感を交互にたのしむのがおすすめです。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
ちなみに,私が所有している廉価版DVD『昼下がりの情事』では,上に紹介した朝食シーンの台詞がカットされてしまっている.
私が青年時代に観た劇場版『昼下がりの情事』では,アリアーヌの台詞はあと一言二言あったように思う.
リマスター版があるようなのだが,それだとノー・カットかも知れないけれど,『昼下がりの情事』は最初の劇場版を記憶に留めておくだけにしたいという気がする.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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