日本はこのままずっと
NHK NEWS WEB《日米欧の中銀トップ 金融シンポジウムに参加 政策の違い鮮明に》[掲載日 2023年6月29日 04:32] から下に引用する.
《日銀の植田総裁やヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁など日米欧の中央銀行のトップがポルトガルで開かれた金融シンポジウムに参加しました。
欧米が利上げを継続する必要性を強調したのに対して日銀の植田総裁は当面、今の金融緩和を続ける考えを示し、欧米との姿勢の違いが鮮明になりました。
……
この中で、ラガルド総裁は「インフレが安定したことを示す証拠はまだ十分ではない」と述べたほか、パウエル議長も「予想よりも経済成長や雇用市場は強くインフレ率も高くなっている」と述べて、今後も利上げを継続する必要性を強調しました。
これに対して植田総裁は、日本の消費者物価指数は3%を超えているものの「基調的な物価上昇率は、目標としている2%をやや下回っている」と述べ、金融緩和を続ける方針を示し、欧米と日本との金融政策の方向性の違いが鮮明になりました。
一方で植田総裁は「来年には物価がいくぶん上昇すると予想しているが確信は持てない」としたうえで、「物価が上昇する合理的な確信が持てれば、政策変更の十分な理由になる」との考えを示しました。
……》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
これまで「日銀は,消費者物価指数2%を物価安定の目標としている」と国民は思ってきた.
日銀の公式サイト《2%の「物価安定の目標」》に以下の記述がある.
《日本銀行法では、日本銀行の金融政策の理念を「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」としています。
物価の安定が大切なのは、それがあらゆる経済活動や国民経済の基盤となるからです。
市場経済においては、個人や企業はモノやサービスの価格を手がかりにして、消費や投資を行うかどうかを決めています。物価が大きく変動すると、個々の価格をシグナルとして個人や企業が判断を行うことが難しくなり、効率的な資源配分が行われなくなります。また、物価の変動は所得配分にゆがみをもたらします。
こうした点を踏まえ、日本銀行は、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
(中略)
(2)オーバーシュート型コミットメント
日本銀行は、「オーバーシュート型コミットメント」で、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束しています。これによって、2%の「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高めることを狙いとしています。》
上の引用箇所を整理すると,日銀の現下の金融政策は以下の通り.
1. 《「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め》
2. 《生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する》
ここで総務省報道発表資料《2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年 (令和5年) 5月分》[公表日 令和5年6月23 日] を下に引用する.

上の表については解説が必要かも知れない.
まず,消費者物価指数とは何か.
日銀《日本銀行は、物価をみるときに、何を判断材料にしていますか?》から下に引用する.
《日本銀行の景気判断と見通しについて詳細に説明している「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の「背景説明」を例にして、景気の具体的な判断材料について見てみます。
「背景説明」の「2.物価の現状と見通し」のパートでは、物価に関する様々な統計について注目しています。物価とは、財(モノ)やサービスの価格を総体的に捉えたものですが、これは、経済の実態を映す「鏡」や「体温計」にもたとえられます。すなわち、ある財やサービスの価格は、基本的には、その財やサービスに対する需要と供給のバランスを反映するためです。またその一方で、こうした物価の変動自体が経済活動に大きな影響を及ぼします。
ただし、ひとくちに物価といっても、それが企業の間で行われる取引か、企業と個人の間の取引かにより、同じ財やサービスでもいくつもの価格が存在します。例えば、消費者が購入する財やサービスの物価としては「消費者物価指数<CPI>」があります。また、企業間で取引される財の物価としては「企業物価指数<CGPI>」があります。さらに、企業間で取引されるサービスの物価には「企業向けサービス価格指数<SPPI>」があります。 こうした物価指数に加えて、国内外の商品市況(原油、非鉄金属、農林水産物などの市場での取引価格等)などの様々な動向に注意を払いながら、総合的に物価の動きを分析しています。
日本銀行では、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束を示しました。そのため、特に「消費者物価指数<CPI>」の動向を注視しています。もっとも、消費者物価は、様々な要因の影響を受けて変動します。このため、金融政策の運営にあたっては、様々な一時的な撹乱要因の影響を取り除き、基調的な変動を的確に把握する必要があります。そこで、総務省統計局から公表されている「総合除く生鮮食品」、「総合除く生鮮食品・エネルギー」に加えて、日本銀行では、分析データ「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」として「上昇・下落品目比率」、「刈込平均値」、「最頻値」、「加重中央値」を毎月公表し、消費者物価の基調的な変動を分析しています。
また、分析をする際には、消費税率変更による物価への影響について取り除いた方が良い場合もあります。その場合は、消費税率引き上げの直接的な影響について取り除いたベースで分析を行います(詳しくは分析データ「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」の解説・関連資料を参照)。
なお、先行きの物価動向を考えるに当たっては、現存する生産設備や生産に従事可能な人口の動き等によって決まる潜在的な供給能力と、最終需要との関係を表わす「需給ギャップ(詳細は分析データ「需給ギャップと潜在成長率」を参照)」は重要な指標の一つです。また、家計や企業などの先行きの物価に対する予想物価上昇率の動向も重要です。この他にも、為替レートや海外商品市況の変化、賃金動向、企業の価格設定行動の変化などが物価に与える影響も十分考慮することが必要です。》
総務省統計局《消費者物価指数に関するQ&A (回答)》には次の説明がある.
《A-5 消費者物価の基調をみるためにどのような指標が用いられていますか。
消費者物価の基調をみるために、「生鮮食品を除く総合」指数や「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数が用いられることがあります。「生鮮食品」は天候要因で値動きが激しいこと、「エネルギー」(ガソリン、電気代等)は海外要因で変動する原油価格の影響を直接受けることから、これらの一時的な要因や外部要因を除くことが消費者物価の基調を把握する上で有用とされています。このほか、アメリカ等諸外国で重視されている指標と同様のものとして「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」指数が用いられることがあります。
なお、「生鮮食品を除く総合」指数は「コア」指数と呼ばれる場合があります。また、このほかにも、「コアコア」指数と言われている指標などがありますが、生鮮食品のほかにエネルギーなどを除く様々な指標に対して様々な名称が用いられているようですので、それらの指標を利用する際は、定義等を御確認ください。》
私たち一般国民が物価の上昇を強く体感するのは,日々購入する生鮮食料品の値上げであるし,電気・ガス料金やガソリン代であるわけだが,日銀は《一時的な撹乱要因の影響を取り除き、基調的な変動を的確に把握する》ために,それらの価格上昇は金融政策に反映させないという.
さて上に掲載した「表1」にあるように,消費者物価の「総合」は一年以上前からずっと対前年比2.4%以上 (最高4.3%) を続けている.
国民が「コロナ禍の前より野菜も肉も高くなったなあ」と感じている通りの数字である.
私のような無学者は「“一時的な撹乱要因”が一年間ずーっと続けば,それはもう一時的ではないよ」と思うが,日銀はそうは考えない.
日銀は昔からそうやってきているので,これはもう国民が異を唱えても仕方ないことであり,はあそうですか,と受け入れるしかない.
で,物価上昇の指数から生鮮食料品を排除しても,指数は昨年五月以降ずっと対前年比2%以上を続けている.
これまで日銀が明言してきた《生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する》という政策に従えば,《マネタリーベースの拡大方針》を変更せねばならない.
しかし現状はそれを許さない.ここで利上げすれば景気後退を招き,国民生活はダメージを受ける.
そこで消費者物価指数「総合」から,生鮮食品に加えてさらにエネルギーも排除する.
すると,昨年五月から九月までは対前年比1%以下となるが,しかし十月以降は目標の2%を越え続けて,しかも今年五月には4.3%に達してしまった.
どう計算しても現状はインフレである.そしてインフレなのに,実質賃金は低下を続けていて改善の気配がない.
今年の四月に政府と経済界は一斉に賃上げを唱えた.賃上げの効果が出てくるのは七月以降の実質賃金で判断されるが,これがもし対前年比でマイナスであると,日本はスタグフレーションへの移行が懸念される危険な状態である.
このような状況下に,実質賃金の低下を防ぐために金利を上げれば,むしろ消費は冷え込む.
つまり日銀は,現状に対して打つ手がないのである.
だが安倍内閣時代に政府から押し付けられた《生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する》という金融政策は生きている.
この文言を字義通りに解釈すれば,インフレ抑制の方向に舵を切らねばならないが,そんなことはできない.景気は後退するだろうからだ.
八方塞がりである.
しかし,インフレ目標は超過したのだから金融緩和政策を終了せよとの声に対して,とりあえず金融緩和政策続行のための言い訳が必要だ.
そこで植田総裁の日銀がひねくり出したのが《「来年には物価がいくぶん上昇すると予想しているが確信は持てない」としたうえで、「物価が上昇する合理的な確信が持てれば、政策変更の十分な理由になる」》である.
数値目標に代えて,「確信」という定性的表現を用いることにしたのだ.
これなら,物価上昇や実質賃金がどうなろうと,日銀が「確信が持てない」とすれば金融緩和を継続することが可能だ.
「金融緩和を継続する」というと何か施策があるかのようだが,実は何もしないということである.
金融緩和が始められて以来,日本はジリジリと国力の低下を続けてきたわけだが,しかしこの責任が日銀にあるかというと,そうではない.
Finasee《賃金、GDP…世界各国との比較データで浮き彫りになる、日本の“衝撃的なマズさ”》[掲載日 2023年7月6日 11:20] を見てみると,今や日本は実質GDP伸び率 (1996-2021年) が,あのギリシャの後塵を拝するどころか,プエルトリコとどっこいどっこいなのである.
こうなった原因をバブル崩壊後の金融政策に求める人がいるが,私は違うと思う.
そもそも一国の経済が衰退する原因は,産業の衰退である.衰退した産業に対して,金融政策ができることはあまりない.
老い衰えた老人の枕もとで「頑張れ!」と激励するようなものである.
それを承知の植田総裁が述べた《物価が上昇する合理的な確信》は,おそらく日本の産業が再生した暁に得られるものだろう.
そして産業の再生は政府がやるべきことであって,日銀の仕事ではないのである.
しかるに現政府の関心は,産業育成ではなく課税強化にある.
国の税収が過去最高の七十兆円を超える中,政府税調は会社員の退職金増税を計画している.
勤続二十年を超える会社員の退職金に対する優遇措置を廃止して,労働市場を流動化させるのが目的だというのだが,これが実現すると,二十年から三十年の研鑽を積んでようやく一人前になる職人芸的モノヅクリ技術を志す若者はいなくなるだろう.
先端技術とその産業で日本は世界に置いていかれたが,日本のお家芸だった職人芸的工業技術も,政府は税収が欲しくて滅ぼそうというのだ.
現政府の下では,実質賃金は低下を続け,日本の勤労者はこのままずっと窮乏化していくだろう.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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