高齢者向け住宅政策
テレビの情報番組で,経済問題の専門家として加谷珪一氏を招く番組はあまりない.
テレビ朝日の《中居正広のキャスターな会》くらいだろうか.
私はこの番組に加谷氏がゲストで出る時は必ず視聴するようにしている.
この《中居正広のキャスターな会》には加谷氏の他に堤伸輔氏がほとんどレギュラーのように登場してレクチャーしてくれるので,とても参考になる.
中居正広は余計な私見を述べずに淡々と台本をトレースし,放送はアシスタントの島本アナとゲスト専門家が進行するというスタイルで,これがとてもよい.
さて私はこのブログで,高齢者の住宅問題について何度も書いてきた.
私自身は戸建て住宅を持家にしているので,高齢者の住宅難民問題の直接の当事者ではない.
しかしそう遠くない時期に,いわゆる団塊の世代のうちで賃貸住宅に住んでいる人々が,この問題に直面することになる.
そのことについて加谷珪一氏が現代ビジネス誌に寄稿しているので,加谷氏の指摘を下に抜粋引用する.(現代ビジネス《全日本人が絶望…老後「フツーの人々」が家を追い出され「高齢者住宅難民」が大量発生するという現実》[掲載日 2023年7月19日])
《将来の年金減額がほぼ確実であることに加え、日本でも インフレが本格化していることから、高齢者の住宅難民リスクが高まっている。この問題は社会システム全体と密接に関わっており、解決は容易ではない。できるだけ早い対応が必要である。
……
一方、日本の賃貸住宅に関する法律(借地借家法)は、戦前に出来たものであり、出征する兵士の家族や復員兵らの住居を確保するため、圧倒的に借主に有利な内容となっていた。
このため、住宅の所有者は特別な理由がない限り、賃借人を追い出すことができない仕組みになっている。戦中あるいは戦後の混乱期にはこの規定もそれなりに効果を発揮したが、高度成長を経て、今の時代になっても同じ法的枠組みが続く。
所有者からすると、ひとたび家を借りた人はよほどのことがない限り退去させられないため、家賃滞納などのトラブルが少ない賃借人(具体的には大企業の正社員など)ばかり入居させようとする。結果として高齢者やひとり親、フリーランスなど、社会的弱者あるいは収入が不安定な人が家を借りにくいという社会が出来上がってしまった。
……
(ブログ筆者註;マンション価格の高騰と年金減額およびインフレによって) 大都市圏の中間層が、持ち家を持てないということになると、一生賃貸という国民は増えてくるだろう。だが先ほど説明したように、平均的な年収のサラリーマンでは月額10万円程度しか年金をもらえないので、家を借りたくても借りられない状況に陥る。
仮に高齢になっても就労を続け、何らかの収入を得たとしても、もともと高齢者が住宅を借りにくい市場であることは変わらず、大量の高齢者住宅難民が発生することは想像に難くない。
……
これ (ブログ筆者註;高齢者の住宅難民問題) は社会全体の制度設計に関わる問題であり、単純に高齢者の入居をサポートすれば良いという話ではない。人口減少と高齢化、そしてインフレが進む社会は、従来とは住宅環境が180度変わることを念頭に、住宅政策をゼロから設計しなおすぐらいの覚悟が必要だろう。》
加谷氏は,高齢者に対する貸し渋りを防ぐために,賃貸住居入居者と不動産所有者 (大家) 双方に行政の支援が必要だとしている.
しかしそれだけでは不足で,加谷氏は《社会全体の制度設計に関わる問題であり、単純に高齢者の入居をサポートすれば良いという話ではない。人口減少と高齢化、そしてインフレが進む社会は、従来とは住宅環境が180度変わることを念頭に、住宅政策をゼロから設計しなおすぐらいの覚悟が必要だろう》と述べているわけだ.
夫婦二人の高齢者世帯は,片方が亡くなれば必ず単身の高齢者世帯になる.
残ったほうが,自立して生活できるくらいの健康状態であれば,契約条件にもよるけれど,賃貸住宅を追い出されることはあまり心配しなくてもよい.
問題は,配偶者の死によって夫婦二人世帯から単身世帯になると,公的年金の収入が二人分から一人分に,大幅に減ることだ.
その結果,収入が公的年金のみの場合は,家賃支出が収入に対して過大となる.
そこで,夫婦二人で暮らしていた賃貸住宅は広すぎるからワンルームに引っ越そう,そうして家賃負担を減らそう,と考えたとする.
しかし「高齢者への貸し渋り」が,この「借り換え」というアイデアの前に立ちふさがるのだ.
結局,賃貸住宅に住む独居高齢者は,一人暮らしには広すぎる住宅で,食費を減らすなど生活の質を落として生きていかざるを得ない.
上に述べた「高齢者への貸し渋り」問題とは別に,加谷氏はこの論考で触れていないが,《住宅政策をゼロから設計しなおす》際に必須の観点は「高齢独居者は,大なり小なり要介護者である」ということである.
ただ単に「高齢者への貸し渋り」を規制して高齢者向け賃貸住宅を数的に確保するだけでなく,特養,介護サービス付き老人ホーム,グループホームなど,高齢者介護の観点から《住宅政策をゼロから設計しなおす》ことが必要ではないか.
現状では,国土交通省,厚生労働省,経済産業省などが既にそれぞれの高齢時代の住宅政策を示しているが,コロナ禍とウクライナ戦争に起因する社会条件と経済環境の激変に対応していない.またそれらには省庁縦割りの気味もある.
いわゆる団塊世代の健康寿命がもうすぐ尽きようとしている今,加谷珪一氏には総合的な高齢時代の住宅政策についての論考を期待したい.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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