« 日本はこのままずっと | トップページ | 世代論は血液型性格分類みたいなもんだ »

2023年7月17日 (月)

小鹿物語

 NHK《小さな旅「花の山 見つめて ~滋賀県 伊吹山~」》を視聴した.
 私は知らなかったが,滋賀の伊吹山は激しいシカの食害を受けているという.
《小さな旅》の番宣サイトには次のように書かれている.
 
滋賀と岐阜の境にある伊吹山。標高1377メートル、山頂付近の植物群落が国の天然記念物に指定される「花の山」。このところシカの食害で減っていた山頂の花も、ボランティアの努力でよみがえり始めている。山の恵みは麓の集落にも。人気の古民家レストランでは、野草の天ぷらや和え物が。一度は途絶えかけた在来種の「伊吹そば」も地域をあげて復活させた。足元の豊かさを未来につなごうと、山を見つめて暮らす人たちに出会う。
 
 番宣には《シカの食害で減っていた山頂の花も、ボランティアの努力でよみがえり始めている》とあるが,映像を観る限り悲惨な荒廃である.
 かつては山頂に咲き乱れていたお花畑は姿を消し,今はハゲ山となっている.シカが侵入しないようにボランティアの皆さんが設置した防獣ワイヤーメッシュのフェンスの内側で,わずかな植物が生えている,といった状況なのだ.
《小さな旅》で放送された映像と近いのは,番宣サイトの文言ではなく,MBSNEWS《「泣けるほど寂しい」希少植物食い荒らす『シカ』で国の天然記念物がピンチ!地元が悲鳴...群れで防護柵破り被害続く》[掲載日 2022年6月7日 14:30] だ.
 テレビ等で報道されることの多い害獣の代表はニホンジカ,ニホンザル,イノシシ,クマ (ヒグマ,ツキノワグマ) だろう.
 サル,イノシシ,クマは近年,農村や都市住宅地に出没して人間を襲ったり農業被害を起こしたりするので害獣として国民のコンセンサスが取れていると思うが,厄介なのはニホンジカである.
 ニホンジカは農業被害を与えるだけでなく,強力な生態系破壊者である.
 彼らは,強い繁殖力と,有毒植物以外は何でも,希少植物だろうが何だろうか昼夜を問わず食い続け,食いつくすと移動して生息域を拡大するという性質により,伊吹山の例のように,山を一つハゲ山にしてしまうこともできる.
 しかも,奈良のように都市部に棲む個体もいて,それらは野生の害獣でありながら「神鹿」として保護の対象になっている.
 奈良公園のシカは,繁殖期になると観光客から隔離されて繁殖を促進されているが,そうやってどんどん増えたシカ (NHK《奈良公園の鹿 およそ1200頭確認 去年より増える》[掲載日 202年7月19日 17:52]) は,公園外に出て行って農業に多大な被害を与えている.
 いわば一種の公害と化しているのである.
 だが,地域によってはシカは見た目がよいために観光資源だったりして,保護すべしと主張する声が高い.観光業と農業の対立だ.
 環境省は資料《いま、獲らなければならない理由》の中で,《狩猟者の数は、約52万人 (1975年度) から約21万人 (2017年度) まで、約6割減少しています。また狩猟者の高齢化が進み、2017年度では60歳以上の方が6割を超えています》と述べているが,このまではシカの駆除は困難になると思われる.
 実際,伊吹山の例のように,希少植物をシカから守ろうとする人々は防戦一方の戦いを強いられている.
 このシカによる生態系破壊の現状をどうしたらいいのか,私にはよくわからぬ.
 
 今年の初めに,SNSに子ジカの死を悼む投稿があった.《「奈良公園の子鹿には絶対にさわらないで!」なぜ?5カ月しか生きられなかったこつぶちゃんが伝えようとしたこと》[掲載日 20023年2月9日] から下に引用する.
 
川地さんはこつぶちゃんを忘れないために、1月21日と22日と28日にこんなツイートをしました。
「こつぶちゃんが虹の橋を渡ってから1週間が経ちました。この間、多くの方が子鹿には触ってはいけない事を広く伝えて下さいました。有難うございました。もう飛火野にこつぶちゃんの姿はありませんがこつぶちゃんが心に残してくれたことを大切に奈良公園で暮らす鹿たちを見守れればと思っています」(1月21日)
……》
 
 川地さんという投稿者は,子ジカを《こつぶちゃん》と愛称で呼び,「虹の橋」を渡ったと語り,さらに次のようにインタビューに答えている.
 
弱ってる子鹿はなかなか保護してもらえず、その理由として母鹿が近くにいる場合は親子を一緒に保護するのは難しく、子鹿だけを保護して親子を離ればなれにすることもデメリットが大きいと考えられてるからだと思います。こつぶちゃんのように育児放棄されて子鹿だけになって弱ってる場合もなかなか保護してもらえません。こつぶちゃんの場合も、何度か愛護会さんに見にきてもらってますが保護されず、保護されたのは生まれてすぐの時と亡くなる前日に獣医師さんに直接現場で見てもらったときだけでした。保護する際に鹿にストレスがかかって余計に悪化させてしまう恐れがあることや鹿にとっては公園内を動き回れるほうが体によく、鹿苑(鹿の保護施設)に閉じ込めてしまうことのほうがストレスになりよくないと言われました。私自身は弱ってる場合は獣医師の判断で保護するなり現場で何らかの処置をしてほしいと思っています
 
 シカは本来,野生動物 (しかも害獣) として扱われるが,奈良公園のシカは中途半端に餌付けされているために,地域ネコのようなものとして誤解されやすい.
 川地さんも,死にそうな「こつぶちゃん」に獣医師の手当てを望んでいるところをみると,愛玩動物視しているようだ.
 野生動物に対する姿勢としてそれは間違いなのだけれど,しかし川地さんの心情は私にはよくわかる.
 ずっと前のことだが,陋屋の玄関前に怪我をした野鳥が落ちていた.県の担当部署に連絡したら,そのままにしてくれと言われ,結局見殺しにした.悔しくて,今でも忘れられない.
 そのことがあるので,私は川地さんを批判したくない.
 
 私が小学校の二年生だったか三年生だったかの時,父親が古本屋で『小鹿物語』(マージョリー・キナン・ローリングス,1938年) を買ってきてくれた.(あらすじは Wikipedia【小鹿物語】)
 これはシカによる農業被害を描いて,児童読者には切なくショッキングなストーリーであり,忘れがたい.ネットニュースなどでシカの話題がでると,私は『小鹿物語』を思い出すのである.
 『小鹿物語』の対極に,ディズニー・アニメの『バンビ』がある.(あらすじは Wikipedia【バンビ】)
 まことに薄っぺらい話で,子供の教育に悪い.
 Wikipedia【バンビ】によると,《2018年、アメリカ合衆国ミズーリ州ローレンス郡の裁判官は、シカの密猟者に対し禁錮1年の判決とともに、アニメ映画「バンビ」を月に一度、鑑賞するよう指示した》という.
 こんな駄作を毎月観なければいけないと指示した裁判官のセンスを疑う.きっと彼の脳内はお花畑である.
 
*********************************************
ウクライナに自由と光あれ
Pics2693_20220307154501
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


|

« 日本はこのままずっと | トップページ | 世代論は血液型性格分類みたいなもんだ »

新・雑事雑感」カテゴリの記事