著名人である和田秀樹氏は精神科医であるが,年間に何十冊もの無内容な本を書き,ウェブ上には真っ赤な嘘記事を呆れるほど書き殴って金儲けに奔走している,現代日本におけるデマゴーグの一人である.金儲けに文句はないが,嘘はいけない.
その和田秀樹氏の,文春オンライン《現役医師が明かす「手術を失敗しても大丈夫だな」と思われるかもしれない患者の“ある行動”》[掲載日 2023年6月30日 6:10] から下に引用する.
《高齢者だって立派な消費者。もっとお金を使おう!
少子高齢化の進展などから、年金問題で財政が破綻するといわれていますが、受け取った年金を高齢者が全部使ってくれれば、むしろ経済効果は高いのです。
2019年末の数字ですが、日本の年金受給権者は4040万人、年間の総支給額は52兆9607億円にもなります。この人たちがこのお金を余すところなく使ってくれたら、日本の経済はどれだけ回ることでしょうか。つまり、年金生活者であっても、立派な消費者ということなのです。
ところが現役から退き、働いていない年金生活者は、いわゆる消費者の対象から除外されています。たとえ現役を続けて労働していても、高齢であるということだけで、消費者から外されてしまっている現実もあります。
老後2000万円問題や将来の介護問題などで、不安になっているから高齢者の財布のひもが固く締まっているという点はあるでしょうし、実際に、年金まで貯金するので、老後貯金が増える人も少なくありません。確かに高齢者向けの魅力的な商品がないのも事実ですが、貯蓄したり、買いたいものを買わずに我慢したりして、お金を使うことに頭を使わないと脳の老化につながるので、ここはお金を有意義に使うことを考えてみたいと思います。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
上の引用文中の,
1.《日本の年金受給権者は4040万人、年間の総支給額は52兆9607億円にもなります。この人たちがこのお金を余すところなく使ってくれたら、日本の経済はどれだけ回ることでしょうか》
2.《高齢者の財布のひもが固く締まっている》
3.《年金まで貯金するので、老後貯金が増える人も少なくありません》
が和田氏得意の嘘である.
大雑把なこと言うと,嘘吐き男は,文章中に数字 (データ)をできるだけ書かないようにする.
データを書くと嘘がバレやすいし,データを駆使して嘘を書くにはかなりの知的能力が必要だからである.
では和田氏の知的能力がいかほどのものか,検討してみる.
まず,《日本の年金受給権者は4040万人》は正しい.
次に《年間の総支給額は52兆9607億円》はどうか.
厚生労働省《令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況》に示されているデータは以下の通り.
[公的年金受給者の年金総額の推移]
平成29年度 (2017年度) 55兆4,108億円
平成30年度 (2018年度) 55兆5,904億円
令和1 年度 (2019年度) 55兆6,262億円
令和2 年度 (2020年度) 56兆0,078億円
令和3 年度 (2021年度) 56兆0,674億円
和田氏が挙げている数字の根拠は不明だが,「2019年度」ではなく《2019年末》としているので,概ねそんなところであろう.
ということで,ここまでは誤りはない.が,問題はその次の《この人たちがこのお金を余すところなく使ってくれたら、日本の経済はどれだけ回ることでしょうか》《高齢者の財布のひもが固く締まっている》《年金まで貯金するので、老後貯金が増える人も少なくありません》だ.
ここで,総務省統計局《家計調査年報 (家計収支編) 2021年 (令和3年) 家計の概要》と同《2022年 (令和3年) 家計の概要》の《総世帯及び単身世帯の家計収支》から抜粋した数値を下に示す.
この家計調査は全国約9,000世帯を無作為抽出して行われ,調査方法の概略は《家計調査に関するQ&A (回答)》に説明がある.
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(抜粋) 65歳以上の夫婦のみの無職世帯 (夫婦高齢者無職世帯)
及び65歳以上の単身無職世帯の家計収支 (月平均額)
2021年 2022年
実収入 236,576 246,237
社会保障給付 216,519 220,418
可処分所得 205,911 214,426
消費支出 224,436 236,696
食糧 65,789 67,776
住居 16,498 15,578
光熱・水道 19,496 22,611
家具・家事用品 10,434 10,371
被服及び履物 5,041 5,003
保健医療 16,163 15,681
交通・ 通信 25,232 28,878
教育 2 3
教養娯楽 19,239 21,365
その他の消費支出 46,542 49,430
諸雑費 18,807 19,818
交際費 20,729 22,711
仕送り金 1,349 1,334
非消費支出 30,664 31,812
直接税 12,109 12,854
社会保険料 18,529 18,945
黒字 [可処分所得-消費支出] -18,525 -22,270
金融資産増 1,660 5,830
平均消費性向 (%) 109.0 110.4
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表中の「実収入」は全ての世帯員の収入を合算した世帯当たりの平均収入を表す.夫婦共に年金を受給している世帯の家計収支平均を見ると「社会保障給付」 (公的年金) 以外に約20,000円 (2021年) 約26,000円 (2022年) の収入がある.
この「実収入」から「非消費支出」(直接税+社会保険料) を差し引いたものが「可処分所得」である.
上表にあるように「可処分所得-消費支出」がマイナスであると,家計は赤字である.つまり2021年調査では年金受給している高齢者世帯は毎月約19,000円 (2021年),約22,000円 (2022年) の赤字になっている.金融資産の増加は1,660円と5,830円で,ほとんどない.
「平均消費性向」とは可処分所得に対する消費支出の割合を意味し,上表では109% (2021年),110.4% (2022年) である.
可処分所得を消費支出が上回っていることは,年金受給している高齢者世帯は収入を使い切っていることを示している.
さて高齢者を誹謗する都市伝説の一つに「年寄りたちが年金をたっぷり貰って貯め込んでいる」というものがある.
富裕階層に属する精神科医の和田秀樹もその一人で,「年寄りたちが年金をたっぷり貰って貯め込んでいる」とあちこちの雑誌に書きまくっている.
しかし事実は,上に示した総務省統計局による家計調査結果の通り,高齢者世帯の家計収支平均は赤字であり,貯蓄を取り崩して生活しているのである.高齢者たちは《財布のひもが固く締まっている》ように生活したくてもできないのだ.
つまり,和田秀樹の主張《この人たちがこのお金を余すところなく使ってくれたら、日本の経済はどれだけ回ることでしょうか》と《財布のひもが固く締まっている》は,私たち高齢者庶民に対するデマであり,悪意の誹謗である.高齢者たちは実際には二ヶ月ごとに給付される年金を次の給付日までに使い果たしており,これ以上《日本の経済》を回したくても回せないのが事実なのだ.
和田は《年金まで貯金するので、老後貯金が増える人も少なくありません》と書いているが,「根拠を示せ」と言われたら自分の銀行通帳を示すしかないだろう.貯蓄を増やしている高齢者がいるとすれば,和田秀樹らの富裕層だからである.
ちなみに総務省統計局の家計調査データの《世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況》から貯蓄残高推移を下に抜粋する.
[世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高]
2017年 2337万円
2018年 2233万円
2019年 2218万円
2020年 2292万円
2021年 2342万円
2022年 2359万円
上記の推移によれば五年間で貯蓄は22万円しか増えておらず,しかも2018年,2019年,2020年は2017年の貯蓄残高を下回っている.
この2021年と2022年の貯蓄増加は,新型コロナの流行により高齢者の外出が抑制されて消費活動が減った結果だとみられる.
しかし昨年から始まった電気料金と食品の値上げは次回以降の家計調査データに反映されて,貯蓄残高は2017年水準に後退するだろう.
上に《嘘吐き男は,文章中に数字 (データ)をできるだけ書かないようにする.データを書くと嘘がバレやすいし,データを駆使して嘘を書くにはかなりの知的能力が必要だからである》と私は書いた.
和田秀樹の書く文章には数字がほとんどないのだが,総務省の家計調査結果は国民生活に関する基礎データであり,和田が書く種類の評論においては必ず言及されねばならないはずである.
しかし和田程度の知力では,家計調査データを示しつつ整合性のある嘘をつくことができない.
そこで文春オンラインの記事で和田は《年金受給権者は4040万人、年間の総支給額は52兆9607億円》とだけ書いて,あとはデータなしで作文した.実に情けないペテン師である.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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