御崎馬
先月の初め (5/2),宮崎県都井岬に棲息する野生馬 (御崎馬,岬馬) の一頭が重傷を負ったことが報道された.
翌日の宮崎日日新聞《岬馬、車にはねられる 左後ろ脚を骨折》[掲載日 2023年5月3日] から下に引用する.
《宮崎県串間市都井岬で、国天然記念物の岬馬1頭が県道で車にはねられ、脚の骨を折るけがをしていたことが2日、分かった。はねた車はその場から走り去っている。野生馬を管理する都井御崎牧組合はゴールデンウイーク中で観光客が増えることから、事故が再び起きないよう警備態勢を強化する。》
都井岬の野生馬はNHKテレビで何度か取り上げられたことがあるのでよく知られている.
宮崎日日新聞の記事には《野生馬を管理する都井御崎牧組合》とあり,都井御崎牧組合が発行した資料には次の記述がある.
《ごあいさつ
南九州の最東南端、都井岬へようこそおいでくださいました。青く澄みき1た空、心地よい潮風、そぞろ歩きにせせらぎの音と虫の声‥‥‥ 眼下には怒涛うずまく黒潮……
現在の日本には忘れられつつある「自然の美」がここにはあります。これが私たちの誇としております「都井岬」でございます。
「都井岬」には、丘に林に谷に群れ遊ぶ「御崎馬」が棲息し、私共の組合が管理しております。今日では病傷・事故、飼料不足などで、戦前の半数に減っています。このままでは滅亡の一途をたどることになります。
このため私たち組合員は、「御崎馬」の保護と管理に懸命の努力をしているのですが、多額の費用を必要としますので、当地にお出でいただきました皆様方にも馬の生活を理解していただき、より以上に可愛いがっていただきますと共に、滅亡を救うためにも、保護管理にご協力下さいますよう切にお願いいたします。
宮崎県串間市大宇都井都井御崎牧組合長》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
Wikipedia【御崎馬】には,御崎牧組合に都井岬馬保護対策協議会と都井岬馬保護対策協力会が協力して,野生馬の保護を行っているとある.
このような体制で保護されている御崎馬だが,都井岬の環境で野生馬が生き延びるのはなかなか厳しいようで,頭数は増えていない.
よく知られているように,ある生物の個体数が増加するには,最低限必要な個体数というものが存在する.
この個体数を下回ると,遺伝子の多様性が減少し,いずれは絶滅に至る.生物は,過酷な環境変化や感染症などに対して遺伝子の多様性で抵抗しているからである.
そして増加に必要な個体数をいったん下回ると,それから先は何をどうしようと減少を食い止めることはできないというのが生物絶滅の経験則だ.
日本産トキがいい例である.
御崎馬は百頭余で推移しているというが,例えば秋田犬が国内2,500頭でも絶滅が危惧されているという例を考えると,かなり心許ない.
御崎馬の保護団体は,寄生虫の駆除や健康診断は行っているが,現在は病気や事故について積極的な介入 (治療) はしない方針 (必要な資金がないからという理由もあるらしい) だという情報がSNSで拡散している.
そのせいかどうかわからないが,冒頭に紹介した新聞記事の,クルマに撥ねられて脚を骨折した一頭について,最初の報道では「そのまま静観する」とされた.
その判断を下した宮崎大学農学部の獣医師の見解は「隔離して保護すると,むしろそれがストレスとなって容体が悪化する」だった.
その報道を読んで私は「その獣医は大丈夫かいな?」と思った.
馬の脚骨折についてウェブを検索すると,私が調べた限り「放置して状態がよくなることはない」とすべての獣医師は述べている.
というのは,脚を一本骨折すると,残りの三本の脚にかかる荷重が増えて炎症を起こし,やがて立っていることが困難となって死に至るからだという.
それが証拠に以前は,レース中に転倒した競走馬や,例の動物虐待観光神事「上げ馬」(三重県桑名市) に出場させられた馬は,骨折すると多くが安楽死させられた.回復の望みが薄いからであった.
しかし最近は骨折の治療法が進展し,骨折即安楽死ではないようだ.治療が第一選択肢だとのこと.
やはり案の定,「放置する」との報道の数日後には,当該の馬は安全な場所に退避されて,骨折の治療を受けたと報道された.(NHK《車にはねられた岬車にはねられた岬馬 獣医師らがチームで骨折した足を治療》[掲載日 2023年5月8日 11:31])
そりゃそうだろう.まずはよかった.
しかし,民間の人たちによる保護活動に頼ってばかりいて,国としてそれでいいのか?という気がする.
環境省という役所は,レッドリストを作成したり戦略を立てたりする(「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略」) のは好きだが,それで事足れりと悦に入ってるのではないか.
日本在来馬に関する国の政策は「保護よりも活用に補助金を出す」方針なのだという.
しかし在来馬は既に経済的価値を失っている.そのため在来馬を保護している飼養者は「経済的な活用をすれば補助金を出す」と言われても困る.
結局在来馬の保護は国の手でなく飼養者の負担で行われることになるのだが,それに矛盾を感じて飼養を止める者もいる.(安藤直子「天然記念物の活用における価値の変化」東北福祉大学研究紀要第35巻)
在来馬は国の遺伝資源であるとされ,また国や自治体が指定する天然記念物とされるが,実際にその保護に携わるのは地域の飼養者であり,ボランティア精神が保護活動を支えている.確かにこれはおかしい.
「口は出すがカネは出さない」では,いずれ在来馬の絶滅は避けがたく,このままでは環境省の存在意義が問われるに違いない.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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