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2023年6月20日 (火)

ニホンミツバチは仲間のために身を挺してスズメバチと闘う

 NHK《ヒューマンエイジ 人間の時代 第2集 戦争 なぜ殺し合うのか》[初回放送日: 2023年6月18日] を視聴した.
 番宣サイトには次の紹介文が書かれている.
 
歴史上記録に残る戦争や紛争を調べ上げると、その数1万回以上。総死者数は1億5千万人にものぼる。今もやまない戦火。なぜ人間はこれほど戦争にとりつかれたような生き物になってしまったのか。最新研究から、人間の「仲間と助け合う本能」が、同時に戦争への衝動を生む皮肉なメカニズムが見えてきた。それを乗り越えて、平和な世界へ向かうことはできるのか。俳優・鈴木亮平が多様な分野の第一線の専門家と共に探求していく。
 
 スタジオではホストの鈴木亮平と人類学者の山極壽一先生が《人間の「仲間と助け合う本能」が、同時に戦争への衝動を生む皮肉なメカニズム》についてトークした.
 
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山極《700万年の進化の間,ほとんど人間は弱い立場で暮らしてきたわけだよね.その時に共感力が高まったおかげで,仲間たちに尽くすという人間らしい気持ちが生まれたわけだよね.
鈴木《自分たちの集団を守ろうという気持ちは他の生き物でも同じですかね?
山極《いや,人間以外の動物はね,自分は犠牲を払っても集団の利益のために戦うなんてことは一切しない.自分が問題なんですよね
人間は集団のために協力をして,そのために命まで投げだすほどの献身ぶりを示すようになったわけだよね.》(発言をそのまま文章に起こしたので山極先生の口癖「よね」が鬱陶しいが乞御容赦:発言引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 鈴木は《他の生き物でも同じですか》と問いかけたのに対して山極先生は《人間以外の動物は》と問題をずらして答えた.つまり《生き物》を《動物》に言い換えたのである.そこで少し解説が必要になってしまった.
 Wikipedia 《動物》には,動物の現代的な定義が下のように示されている. 
 
動物は、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類といった脊椎動物はもちろん、貝類、昆虫、サナダムシ、カイメンなど、幅広い種類の生物を含んだ系統群である。
 
 小学生くらいの知識レベルでは,日常語として「動物」を「脊椎動物」の意味に用いることがあるが,山極先生は科学者であるから,「動物」を「脊椎動物の他に貝類や昆虫を含む幅広い生物群」に意味で述べたものとする.
 また山極先生は「献身」という文学的な表現を動物の行動に関して用いている.いくらテレビ番組とはいえ困ったものだと思うが,私がこれを添削するのはおこがましいので,そのままとする.
 さて《人間以外の動物はね,自分は犠牲を払っても集団の利益のために戦うなんてことは一切しない》のであろうか.
一切しない》を誤りであると否定するには,反証を一つ挙げればいい.
 そこで,ハチの研究で知られる玉川大学 (大学院) の公式サイトから,研究成果の紹介を下に引用する.(出典URL)
 
ニホンミツバチの対オオスズメバチ蒸し殺し戦法は「諸刃の剣」だった
-天敵熱殺の代償に蜂球参加ミツバチの余命が短縮!それに対応する驚きの戦略も!!-
 2018.07.18
 
 体重100㎎にも満たない小さなニホンミツバチが、3000㎎以上の捕食者オオスズメバチからどのように巣を守るのか?オオスズメバチの体臭成分を感知して、その襲撃に備え、針の立たない巨大なモンスターに多数の働き蜂がとりついて蜂球に封じ込めチームプレーで“熱殺”する現象の発見は、多くの研究者の注目を集めてきました。この蜂球形成の過程で、最初にオオスズメバチに飛びついた中心部のミツバチは天敵の大顎によって噛み殺されてしまい、その数は20匹以上に及ぶこともあります。しかし、犠牲を払いながらも蜂球により天敵を熱殺することで、巣内の何万匹ものミツバチの命が守られます。この蜂球による防衛戦略は、捕食者と被食者の共進化の良例と言えるのです。
ところで、48℃にも至ることもある蜂球に30分間以上も参加した働き蜂には、生き延びたとは言っても何の影響もないのでしょうか?また、頻繁に襲来する天敵を迎え撃つミツバチは、どのように決まるのでしょうか?次から次へと新たな疑問が湧き出てきます。
……
 ニホンミツバチの蜂球による防衛行動に秘められていた「なぞ」が、また一つ明らかにされました。
 
【研究成果のポイント】
 ニホンミツバチが天敵のオオスズメバチを撃退するために形成する「熱殺蜂球」は、それに参加したミツバチの余命をも著しく短縮させてしまうことが明らかとなりました。
 ひとたび短命化したミツバチには、以降の蜂球形成に際して、より危険な蜂球の中心部に参加する傾向が見られました。
 熱殺蜂球形成にはミツバチ側に発熱を防衛に利用する以上、避けられない余命短縮というコストが存在すること、一方でそのコストを軽減するための戦略も兼ね備えていることを示唆しました。この現象は、集団で外敵と対抗する行動の進化を考える上で重要な視点を与えるものです。
 
 ニホンミツバチの巣にスズメバチが侵入すると,ニホンミツバチの働き蜂たちは敵を取り囲んで密集し「熱殺蜂球」を作る.
 さらに羽根を震わせ,摩擦熱で蜂球の中を高温状態にする.
 ニホンミツバチは約49℃まで耐えられるのに対して,スズメバチが耐えられるのは約45℃までであるため,ミツバチが耐えられるぎりぎりの46℃から48℃ほどの高温を作ってスズメバチを蒸し殺すのである.
 この防衛行動でニホンミツバチは,中心部の個体がスズメバチに噛み殺されるほか,熱殺蜂球に参加した個体の余命が短縮されるというコストを払う.
 さらに,余命が短くなった個体は,次にスズメバチが巣に侵入した際には,積極的に危険な熱殺蜂球の中心部に参加する.
 これがニホンミツバチが巣を防衛する際の行動とコスト低減戦略であるが,プログラミングされたこの行動を山極先生式の 非科学的 文学的表現を用いれば《集団のために協力をして,そのために命まで投げだすほどの献身》ということになる.
 この例ひとつだけで山際先生の主張《人間以外の動物はね,自分は犠牲を払っても集団の利益のために戦うなんてことは一切しない》は否定されるのだが,他にも例がある.
 以下に示す例も山極説に対する反証だが,NHKのアーカイブにあるはずだがウェブ上に公開された資料ではないので,参考までに書いておくにとどめる.
 先日,NHKの自然科学ドキュメンタリー番組を視聴していたら,アフリカのサバンナで,ライオンに襲われた草食動物の群れのシーンを放送した.
 ライオンが群れの中の一頭に狙いをつけて襲撃すると,群れのメンバーたちは一旦は逃走するのだが,すぐに駆け戻ってきて,集団でライオンに反撃し,襲われた仲間を救出した.我が身の危険を顧みず仲間のために戦ったのである
 もう一つ.これはNHK《ダーウィンが来た》だったと思うが,アジアゾウの群れを観察した映像が放送された.
 ゾウは一般にメスと子で群れを作ると思われてきたが,最近,アジアゾウの群れでオスが混じっている例が発見された.
 そして,その群れに肉食獣が襲い掛かると,オスはメスと子を庇いつつ一人敢然と敵と戦ったのである.
 これまた自分のことよりも集団の無事安全を優先した行動だ.
 私がたまたま視聴したテレビの映像だけでも,敵から自分たちの群れを防衛するために,自分が倒されるのを顧みず戦う個体の例はいくつもある.
 従って,山極先生は《人間以外の動物はね,自分は犠牲を払っても集団の利益のために戦うなんてことは一切しない.自分が問題なんですよね》と言うが,そうとは言い切れぬように思う.

 山極先生が「テレビの視聴者なんてテキトーなことを喋ってもフムフムと納得するよね」とか思っていなければ幸いである.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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