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2023年6月23日 (金)

介護施設に入るための費用 /工事中

 私たち高齢者の生活について,高額所得者たちが 書き殴った 執筆した雑文を読んでいると「上流階級の人は世の中の実際を知らぬなあ」と思って腹の立つことが多い.
 例えば PRESIDENT Online に《「老後2000万円問題」は単なる作り話にすぎない…お金のプロが"年金だけ"で暮らしてみた結果 現代日本における最大の物語「老後不安」》[掲載日 2023年3月23日 8:00] と題した記事が掲載されている.筆者は経済コラムニストの大江英樹氏である.
 大江氏はこの記事の中で「老後資金が〇〇〇〇万円必要だ」というのは単なる作り話だと主張している.
 そして老後資金なぞなくても年金だけで生活していけるということを証明するために実験してみたと言う.下にそのサワリを引用する.
 
年金だけで夫婦2人暮らしをやっていけるか実験した結果
 私は現在71歳ですが、65歳から受け取れる公的年金は、70歳になるまで一銭も受け取ってきませんでした。ですが、実際に公的年金だけでも生活できるということを、自分自身で証明してやろうと思い、ある社会実験を行ないました。
 どうしたかというと、私は自分が経営する会社から、自分の給料をもらうようにしています。つまり自分で自分に給料を払っているわけですが、その金額を月額24万円に設定したのです。これは、「もし自分が年金を受け取っていたとしたら」という金額が、およそ23万円ぐらいだったので、その金額に合わせたわけですが、夫婦2人でまったく問題なく、赤字にもならずにこれまでずっと生活できています。したがって、誰もが「2000万円足りない」というわけではないのです。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
「お金のプロ」にしては随分と杜撰な「社会実験」だこと.w
 大江氏は日本語の基礎知識がないと思われるので,まずそれを指摘せねばならぬ.
 文中に《社会実験》とあるが,語彙力が中学生以下である.いい大人が「社会実験」の意味を知らないとは.w
 Wikipedia【社会実験】に次の通り解説が書かれている.
 
社会実験とは、新たな制度や技術などの施策を導入する際、場所と期間を限定して試行することで、有効性を検証したり問題を把握し、時にはその施策の本格導入を見送るかを判断する材料とするもの。実証実験とも呼ばれる。地域住民との意見交換ならびに周知と合意形成も兼ねている。
 
 日本大百科全書 (ニッポニカ) の「社会実験」解説 (抜粋) は以下の通り.
 
国や地方自治体、地域の組織などが、社会的に大きな影響を与える可能性のある新たな制度や技術などの施策を導入する前に、実際に試行し、評価すること。道路や交通、生活環境などの分野において実施されることが多く、現状の課題や将来像を明確化したうえで、期間や場所を限定して行われる。実験では導入費用や効果、改善点や中止箇所などについて、利用者や関係者、地域住民の意見などに基づいた評価・分析が行われ、本格実施、見直し、中止を判断する重要な材料となる。PDCAサイクルを代表する手法の一つである。
 
 大江氏がやったことは,「私の一ヶ月の生活費が24万円で足りるかどうか実際にやってみた」という程度のことだ.家計簿レベルのこんなチマチマしたことは「社会実験」と何の関係もない.
 もしかしたら大江氏は「実験」と「社会実験」の区別ができていないのか.
「社会実験」は大規模なものが多いが,平成十五年に滋賀県庁が職員を対象に実施した「サマータイム制度の実証研究」は小規模ながら「社会実験」の好例であった.
 このような「社会実験」の実例に対して,大江氏の「私の一ヶ月の生活費が24万円で足りるかどうか実際にやってみた」は比較にもならない.恥ずかしい限りである.そんなことでは高校受験にも落ちるぞ.
 
 さて大江氏の頭の悪さは横に置いて,話は「年金だけで暮らせるか」ということだ.
 大江氏が《私は自分が経営する会社から、自分の給料をもらうようにしています。つまり自分で自分に給料を払っているわけですが、その金額を月額24万円に設定したのです。これは、「もし自分が年金を受け取っていたとしたら」という金額が、およそ23万円ぐらいだったので、その金額に合わせた》と書いているのは,次に示す総務省「家計調査年報 (家計収支編) 2021年《総世帯及び単身世帯の家計収支》」がソースである.(ペテン師は自分の主張の根拠を示さないのが常である.困ったものだ)
 
20230623c2
 
 実収入グラフ中の「その他 20,057円」は,企業年金や株や保険の配当とかの収入であろうが,これは統計における「平均値」というもののトリックであり,多くの高齢者国民は収入は年金に頼っている.多額の金融資産を保有してその果実を受け取っている一部の人たちと,そうでない人たちの平均を計算すると,一世帯当たり約20,000円の「その他」が計上されるということだ.
 従って高齢者家計について一般的な議論をするには,年金給付額=23,6576円-20,057円=216,519円が収入であるとするのがよい.
 そして,ここが肝心な点だが,年金給付が216,519円あっても,ここから非消費支出=30664円を支出せねばならないのである.
 非消費支出とは,所得税,復興特別所得税,個人住民税,国民健康保険料,介護保険料等である.
 定年退職者が年金生活に入ってから愕然とするのは,この非消費支出の多さである.
 年金以外に収入が無い一般高齢者世帯は,年金給付額216,519円から非消費支出30664円を差し引いた185,855円が可処分所得である.
 大江氏の説がインチキなのは,「自分がやっている会社からの給料=240,000円」は書いてあるが,非消費支出額に言及していない点だ.
 まさかとは思うが,240,000円を可処分所得にして生活しているのではあるまいな.(なんとなく書きぶりからすると,その可能性が感じられるw)
 もう一つ指摘する.大江氏は収入が多いせいか年金給付を停止されているのだが,そのため PRESIDENT Online の記事においては《「もし自分が年金を受け取っていたとしたら」という金額が、およそ23万円ぐらい》だと推定した金額を用いている.(この推定額は年金事務所に行けば教えてもらえる)
 そこで大江氏の推定年金給付額が一般論として妥当な金額であるか,調べてみる.
 たくさんの資料がウェブ上に掲載されているが,ここでは二つの資料を参照する.
 一つは,LIMO | くらしとお金の経済メディア《【厚生年金】月15万円もらえるはずが「予想外の振込額」にガッカリ。その理由は?》[掲載日 2023年月日 ] である.
 この資料の《2.1【厚生年金】男女別の平均年金月額》に,グラフ「厚生年金保険 (第1号)/男女別・年金月額階級別受給権者数」が載っている.出典は厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」である.
 著作権の関係でそのグラフは引用できないので,引用に相当しない程度に縮小したサムネイルを下に掲載する.
 
20230628b2
 
 このグラフ上,高齢者男性の厚生年金月額の最多ゾーンは17万円以上~18万円未満であり,月額は16万3,380円である. 
 政府統計上,現在の標準的な世帯は「夫は会社員で妻は専業主婦」とされているが,現在の高齢者世帯についていえば,「妻」は若い頃は有職だったが結婚して専業主婦になったという女性が多いと考えられる.(現在の現役世代女性はほとんど有職である)
 そのため現在の高齢者世帯の年金収入は政府統計よりも少し多いはずである.
 
 
 一方,大江氏は《私は自分が経営する会社から、自分の給料をもらうようにしています。つまり自分で自分に給料を払っているわけですが、その金額を月額24万円に設定した》と書いているように,年金に見立てた収入月額は24万円である.
 



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