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2023年5月12日 (金)

JR西日本は身体障碍者等の安全に無関心である

 まいどなニュース《「優先エレベーター」を若者ら占有 満員で5回乗れなかった車いすの難病女性「譲ってもらえませんか?」…返ってきたのは舌打ちと心ない言葉》[掲載日 2023年5月12日] から下に引用する.
 
国指定難病を患い、電動車いすに乗るaya(@ponpon04ponpon)さんは、JR大阪駅直結のファッションビル「ルクア大阪」で優先エレベーターを待っていました。体が不自由な人が優先利用するエレベーターは、車いすやベビーカーのマークが大きく描かれ、「お身体の不自由な方におゆずりください」と書かれていましたが、若い客はお構いなしで優先エレベーターに乗り込みます。
 ayaさんは混み合う優先エレベーターを5回見送った後、勇気を振り絞って「歩ける方はエスカレーターを利用して譲ってもらえませんか?」と申し出ましたが、
「優先ってなんやねん」「みんな待っとるんじゃ」と心ない言葉で拒否されました。
 
 上の引用箇所に続いて,車いすユーザーのayaさんは次のように述べている.
 
「以前、似たようなツイートをした時に、『車いすの人が何回もエレベーターを見逃し、待っていることなんてわからない。自分から声に出して言えばいいじゃないか』というリプライが届きました。だから今回初めて声に出してみましたが、このような結果になりました。
 
 上に示した引用のように,以前,ayaさんを「黙っていたらわからない」「察してちゃんだ」と非難した健常者たちは,ayaさんが「エレベーターに乗りたい」と言葉で訴えたら,今度は《みんな待っとるんじゃ》と,ayaさんが車いすユーザー用の「優先エレベーター」に乗ることを妨害したのであった.
 
 ルクア大阪はJR西日本SC開発が運営している.
 JR西日本SC開発は,このビルに設置しているエレベーターのうちの一基を,高齢者・ベビーカーのユーザー・車いすユーザーの「優先エレベーター」だと言っているが,実態は上の記事にあるように全く違う.健常者優先である.(ちなみに,エレベーターのドアには妊婦の優先表示はないが,ドア前のポールには妊婦も優先だと表示されている.どっちなんだ?)
 そこで,まいどなニュース編集部は,次の二項目をJR西日本SC開発に質問した.
 
1:優先エレベーターを障害者たちが優先利用できない状況をどう思うか。
 2:障害者や体が不自由な方が優先してエレベーターを利用できるよう、改善策を検討するか。
 
 すると,JR西日本SC開発から次の回答があった.
 
JR西日本SC開発からは「エレベーターの扉全面に優先エレベーターである旨のご案内、またエレベーター内でのアナウンス放送などできる限りのご案内をさせていただいておりますが、ご指摘いただいた状況を踏まえ、すべてのお客様が心地よくご利用いただけるよう、今後とも努めて参ります」と回答がありました。
 
 よく練られた回答文である.
すべてのお客様が心地よくご利用いただけるよう、今後とも努めて参ります》は,「すべてのお客様が心地よくご利用いただけるようにします」ではないところがミソだ.以下,その練られ具合について記す.
 
 ルクア大阪の「優先エレベーター」とは,「障碍者等を優先するエレベーター」ではあるけれど「障碍者等専用のエレベーター」ではない.
 ルクア大阪を運営するJR西日本SC開発の基本ポリシーは《すべてのお客様が心地よくご利用いただける》ことだと回答文中で述べられているが,しかしこれは画餅である.
 なぜなら私たちの社会の現実として,障碍者等を優先することに反対する健常者が存在するからである.
 この事実は,JR九州の子会社である株式会社JR博多シティが管理・運営する商業施設「JR博多シティ」において実証済みである.
 以前はJR博多シティに「障碍者等を優先するエレベーター」があったのだが,実際にはこのエレベーターを障碍者等は利用することができなかった.
 なぜなら「障碍者等を優先するエレベーター」から,健常者が障碍者等を排除してしまうということが,JR博多シティで起きたからである.今のルクア大阪の事態と同じである.
 あちら立てればこちらが立たず.そこで株式会社JR博多シティは,紆余曲折ののちにエレベーターのうちの一基を「障碍者等専用のエレベーター」としたのである.
 
 しかしJR西日本SC開発は,その解決策を採用しようとしない.
 車いすユーザーに専用エレベーターを提供すれば,健常者が反発し「健常者を差別するな」と非難する.
 このように悲しいかな,車いすユーザーに専用エレベーターを提供することと,《すべてのお客様が心地よくご利用いただける》ことが両立できないのであれば,障碍者等よりも健常者を優先することにしたのである.
 理由を推察するに,「障碍者等専用のエレベーター」では利用者が非常に少なく,輸送効率が低いからだ.
 専用ではなく「障碍者等を優先するエレベーター」にすれば,実態として,数的に圧倒的に多い健常者が,障碍者等を排除するから,輸送効率が格段に高い.
 しかも「障碍者の利便性もちゃんと配慮してます」感を演出することができる.
 ルクア大阪では,障碍者等がエレベーターに乗ることができなくても,それはJR西日本SC開発の責任ではない,自分本位の健常者が悪いのだ,と責任転嫁できるわけだ.
 
 繰り返すが,まいどなニュース編集部からの質問に対するJR西日本SC開発の回答は,実によくできている.
 回答文中に《エレベーターの扉全面に優先エレベーターである旨のご案内、またエレベーター内でのアナウンス放送などできる限りのご案内 》を《今後とも努めて参ります》とあるのは,《今後とも》がミソだ.従来から実施している「エレベーターのドアに優先表示することとエレベーター内でのアナウンス」は《今後とも》続けるが,それ以上の新規な施策,すなわち障碍者等の専用エレベーター設置はしないという意味である.
 この回答文は,どんな風に突っ込まれても批判をかわすことができるという点で,人間性の点で問題があるが,日本語の文章としてはまことに巧みである.
 きっとJR西日本SC開発の広報には頭の良い社員がいるのだろう.
 
 だがしかし,ここで思考実験を一つしてみよう.
 ある日,ルクア大阪の上層階で,男が刃物を振り回して凶行に及び放火したとする.
 来館客は,階段,エスカレーター,エレベーターに殺到して我先に避難する.
 この時,運悪くルクア大阪に来ていた車いすユーザーが,「優先エレベーター」に乗ろうとしたのだが,健常者たちは車いすユーザーを乗せてくれない.
 車いすユーザーが,混み合う優先エレベーターを五回も見送った後,勇気を振り絞って「歩ける方はエスカレーターを利用して,私を乗せてもらえませんか?」と訴えたら,健常者たちに「優先ってなんやねん」「みんな待っとるんじゃ」と拒否される.
 そして,置き去りにされた車いすユーザーの後に炎が迫る……
 このような事態が,ルクア大阪で起きる可能性があるのだ.
 その事態に備えて,ベビーカーのユーザーや車いすのユーザーの安全をどう確保するのか,JR西日本SC開発は防災安全計画を作成して社会に対して公表する義務がある.
 しかし同社の企業サイトには何の言及もない.残念である.
 
 さて,以下は余談.
 大阪はホンネ剥き出しの社会であると言われる,しかし個々の大阪人はそれほどでもない.私の知っている大阪人は普通の常識人たちである.
 だが,例えば大阪市内の交通事情を見ると,他の地方の者は軽くカルチャーショックを受けるのも事実だ.
 歩行者の多数派は,交差点の横断歩道信号なんか全無視である.信号が赤でも平気で渡る.
 マナーや公衆道徳や,酷い場合は法律も,タテマエだとして無視する.
 JR西日本が,乗客市民の安全対策 (タテマエ) よりも,目先の利益を優先 (ホンネ) してきたことは福知山線脱線事故で国民の知る処となった.
 そういえば事故後にJR西日本の企業体質はどう変わったのだろうかと,公式サイトを覗いてみたら,《個人投資家の皆様へ 会社について知る 安全の取り組みは?》に,以下のように書かれていた.
 
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被害に遭われた方々に誠心誠意と受け止めていただけるような取り組み》《安全性向上に向けた取り組み》《変革の推進》の三つが「経営の3本柱」だというのだが,日本語が崩壊している.w
 まず《被害に遭われた方々に誠心誠意と受け止めていただけるような取り組み》が意味不明だ.
「誠心誠意」の語義は,デジタル大辞泉によれば《うそいつわりなく、真心をもって事に当たること。副詞的にも用いる。「誠心誠意努力いたします」》であり,また広辞苑には《ごまかしのないまじめな心。多く、副詞的に使う。「―努める」》とあり,その他の中型国語辞典も大同小異である.
 いわゆる四文字熟語である「誠心誠意」は名詞句だが,広辞苑の解説のように多くの場合は副詞的に用いる.
 だが《被害に遭われた方々に誠心誠意と受け止めていただけるような取り組み》は副詞的用例ではなく,名詞として用いている.
 ならば,「被害に遭われた方々に,私たちの誠心誠意を受け止めていただけるような取り組み」とするのがまともな大人の日本語である.
 たぶん上の「経営の3本柱」の説明を書いたJR西日本の社員は「誠心誠意受け止める」という副詞的用法に引きずられて《誠心誠意と受け止めて》と書いてしまったと思われる.
 次の《安全性向上に向けた取り組み》も意味不明.「に向けた」は方向を示す言葉だから,《安全性向上に向けた取り組み》は「安全性向上のための取り組み」ではない.従ってこれでは漠然としていて,具体的に何を取り組もうとしているのかがわからない.余計な言い回しをやめて,簡潔に「安全性向上の取り組み」とすればいいではないか.
 次の《変革の推進》も具体性に欠ける.何を変革しようというのかがわからない.
 結局,「経営の3本柱」の内容がよくわからないので,「JR西日本」「経営の3本柱」を検索語としてウェブを検索してみた.
 すると下に示すコンテンツが最上位にヒットした.
 
20230513b2
 
 これによると,《JR西日本グループがめざす姿》というコンテンツには,「経営の3本柱」として《被害に遭われた方々への真摯な対応》《安全性向上の取り組み》《変革の推進》が述べられているらしい.
 この「3本柱」は,既に引用した《被害に遭われた方々に誠心誠意と受け止めていただけるような取り組み》《安全性向上に向けた取り組み》《変革の推進》に比較すると遥かに日本語としてちゃんとしている.これは期待が持てる.
 ということで私は《JR西日本グループがめざす姿》をクリックした.
 すると驚いたことに,ブラウザに表示されたのは《私たちの志》と題したコンテンツだった.(下のスクリーン・ショット)
 
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 これは,《JR西日本グループがめざす姿》という内容のファイルと,《私たちの志》という内容のファイルを,同一のファイル名 (パス) にして上書きしたのだろう.
 その結果,《JR西日本グループがめざす姿》は検索結果には残っているが,リンク先のコンテンツは《私たちの志》で置き換えられて (更新されて) いる.こうすると更新前の内容を同社社外の市民は知ることができなくなる.
被害に遭われた方々への真摯な対応》《安全性向上の取り組み》《変革の推進》の詳しい説明を知りたかったのだが,残念である.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)

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