経済統計の読みかたを知らない「お金のプロ」
PRESIDENT Online《「50歳、貯金ゼロ」でも9割の人は老後を心配する必要はない…お金のプロがそう断言するこれだけの根拠》[掲載日 2023年5月26日 13:00] から下にスクリーン・ショットで引用する.
上記の文章を執筆したのは大江英樹で,肩書は経済コラムニストである.PRESIDENT Online 誌に載っている経歴は以下の通り.
《大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。》
上記の引用箇所に次の記述がある.
《厚生労働省が毎年実施している「国民生活基礎調査」というものがあります。この中の貯蓄に関する項目は3年ごとの大規模調査で調査されているため、現時点で最も新しい資料は2019年版です。その中に1世帯あたりの平均貯蓄額と借入額を年代別に示した図があります(図表1)。この図は実に面白くて、色んなことを示唆しています。》
この箇所で (図表1) としている表は,著作権の制約があるためここに引用できない.(色を変えているだけだが w)
この (図表1) は元の「国民生活基礎調査」(2019年版) では図12である.そこで下に図12を引用する.
一つの世帯家計が,どれくらいの金額を貯蓄に回せるかに関するファクターは多い.
名目賃金,実質賃金,所得税,社会保険料などはわかりやすいが,見えにくいのが貯蓄の垂直移動である.
私よりも一世代上 (現在,八十代の人たち) の共済年金は異常な大盤振る舞いがなされて,その結果共済年金財政は破綻したのであるが,厚生年金も私の世代よりも遥かに高額だった.
しかし,戦中生まれ高齢者が受け取った,彼らの生活費を遥かに上回る年金は,彼らの子と孫に移動した.
ところが戦後すぐ生まれの私の世代の年金は上の世代に比較して激減し,今は収支ほとんどバランスしていて,団塊二世の家庭の経済援助には回っていない.
その団塊二世の世代は,昔より社会保険料負担が大きくなっている.
このように,あれやこれや,その時々の経済政策の逆進性によって,国民の家計における貯蓄可能な額は戦後右肩下がりになっている.
概念的に関数で示せば,(貯蓄) = f (家計の余裕) であるが,上掲の図12は戦後日本の経済政策の結果論を示している.
図12に示された七十代の世代の貯蓄額の高さは,バブル経済の影響が大である.賃金はどんどん上がり,住宅ローンの家計負担は小さく,おカネを郵便局の定額貯金に入れておけば,何もしなくても十年で二倍に増えた.
図12を見ると,六十歳以上の世代においては,貯蓄増加政策は成功したといっていいが,しかしその政策を支えた条件 (産業の国際競争力など) は既にない.
要するに図12は結果論であって,将来予測には使えない.なんとなればこれから日本の国力は低下の一途を辿るからである.
大江の主張《50代に入ると貯蓄が増加する》は,貯蓄に関係する諸ファクターが過去も将来も固定されていなければ成り立たない.
すなわち,図12における (50~59歳) 世代の現状は,(30~39歳) の世代の,二十年後の将来像ではないのである.
記事のタイトルに,大江英樹は《お金のプロ》だとある.
しかし大江は,政府統計の基本的な読みかたを知らない.
それでよくもまあ図々しく《お金のプロ》を名乗ったものである.無知はまことに恥ずかしい.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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