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2023年4月 7日 (金)

「オンライン問診だけでお薬が宅配される」時代が来る

 NHK《きょうの健康 ニュース「始まった電子処方箋 現状は?」》[初回放送日:2023年3月30日,再放送:2023年4月6日] から下に引用する.
 
1月26日に全国で運用の始まった電子処方箋。医療機関と薬局とがオンラインで情報をやりとりできるようになり、紙の処方箋がなくても薬を受け取れる仕組み。薬が重複して処方されていないか、のみ合わせの悪い薬が処方されていないか、自動的にチェックできるなどのメリットが。しかし導入した医療機関や薬局はまだ少なく、全国的に混乱がみられる。電子処方箋はどんなもので、現状どうなっているのか、などを解説。
 
 この番組では,医療情報システム開発センター理事長・山本隆一氏が,《1月26日に全国で運用の始まった》とされる電子処方箋のメリットを大々的に宣伝した.(山本氏は大阪医科大学医学部卒業ののち,研究畑を経験した医師で,政府の天下り官僚ではない)
 山本氏の主張は,(1) 医療機関と調剤薬局は,患者の過去の処方データを過去三年に遡って参照できる,(2) 患者本人も処方データのオンライン窓口にアクセス (マイナ保険証が必要) することで,過去の自分の処方データをパソコンやスマホで確認できるようになる,の二点である.
 
 まず (1) は,評論家の荻原博子さんら有識者が批判しているが,電子処方箋は過去三年しか遡れないという致命的欠陥がある.
 この「三年も遡れる」を山本理事長はメリットだとしているが,批判派は「三年しか遡れない」と反対している.
 同じ状態を政府はメリットだと言い,批判派はデメリットだと言っている.
 これまで厚労省は「かかりつけ医」のメリットを国民に啓蒙してきたが,電子処方箋が国によって医療機関に強制されると,全国の「かかりつけ医」は,スタンドアローンの院内システムで保管している患者の過去五年十年,高齢者なら二十年 (私のかかりつけ内科医は二十年の付き合いである) のデータを捨てて,たった三年のデータベースしか参照できなくなる.
 これは「かかりつけ医」の重要性を大きく低下させる政策転換だ.
 厚労省のサイトに掲載されている《「かかりつけ医」ってなに?》から下に引用する.
 
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かかりつけ医」をもつメリット
 1 日頃の状態をよく知っているかかりつけ医であれば、ちょっとした体調の変化にも気づきやすいため、病気の予防や早期発見、早期治療が可能になります。
 2 かかりつけ医がいれば、病気や症状、治療法などについて的確な診断やアドバイスをしてくれます。
 3 かかりつけ医は必要に応じて適切な医療機関を紹介してくれます。
 
 政府厚労省が現在推進しようとしている政策は,「かかりつけ医」でも最近流売のオンライン医療企業でも,同じ処方データを参照するという方向である.
 ならばクリニックに行かなくても医薬品が手に入るオンライン医療企業を利用しようとする国民が増えてくるに違いない.テレビでやたら宣伝しているオンライン医療企業の売り文句は《診療・処方・おくすりの配達までオンラインで即完了》だ.これが普及すると,日本の医療レベルは格段に低下するだろう.医療の基本は,医師が患者と対面で行うことだからである.
 考えるまでもない.問診だけで,検査も触診もなしに薬が処方されて患者の自宅に届けられるということは,事実上,調剤薬局が医師の代行をするということである.
 この危険な医療政策には,医師会が歯止めをかけてくれるだろうが,政府が強行すればどこまで抵抗できるか心許ない.
 マイナ保険証の義務化は,オンライン診療と医薬品の宅配化という危険な方向を推進するのであることを私たちは知っておく必要がある.
 
 次に (2) について,山本理事長の主張を聞いた司会の岩田まこ都アナは《これまではお薬手帳を見ないと自分で確認できなかったのが,電子処方箋になって,ネットで確認できるようになったということですよね》と述べた.
 だが,《これまではお薬手帳を見ないと自分で確認できなかったのが,電子処方箋になって,ネットで確認できるようになった》は,「これまではお薬手帳を見れば自分の過去に処方された薬を確認できたのに,電子手帳になるとネットにアクセスしないと確認できなくなる」と同じことを言い換えただけである.
 これは,言葉遊びしている見せかけだけの「電子処方箋のメリット」である.
 しかも,山本理事長自ら,番組放送中に述べたが,今後暫くは従来の「お薬手帳システム」と「電子処方箋システム」の併用時代が続く.
 医療機関と調剤薬局は,二つのシステムを同時に走らせなければいけなくなった.大変な負担である.
 しかるに実際には現在,電子処方箋を発行できる病院は全国にわずか六病院しかない.日本の医療はこれで大丈夫か.国民は,政府厚労省行政の「仕事しているフリ」の犠牲になっているように思われる.
 
 ヨーロッパで,既に処方箋のデジタル化を完了した諸国は,処方箋を紙でもらうか電子処方箋かを患者が選択する (日本の方式) のではなく,健康保険証をICカード化して政府が国民に配布したと,NHK《きょうの健康》は放送した.
 なぜ日本が欧州式の迅速な医療デジタル化を真似できないかというと,構想開始以来十年経ってもいまだに立ち上がらないマイナ保険証の使用を前提にしているからだ.これはボタンの掛け違いである.
 
 電子処方箋は「紙の処方箋+お薬手帳」と併用するのであればメリットはないと山本理事長は公共電波で明言した.
 すなわち,患者が処方薬をもらうために最終的には調剤薬局に出向く必要があるなら,電子処方箋は単に紙の処方箋がデジタルになるだけである.
 これでは患者に大したメリットはないが,しかし処方薬の宅配とワンセットにすると初めて患者に「時短」価値が生じる.
 だが,医療の質の観点からして,それでいいのか.
 このままでは,オンライン問診だけで医薬が宅配される時代が来る.睡眠薬なんぞは飲み放題になる.誤診と薬害は自己責任の時代がくる.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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