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2023年4月 4日 (火)

珈琲道

 昨夜,レギュラー放送に復活したNHK《阿佐ヶ谷アパートメント》を観たら,大阪の八尾市にある喫茶店「ミュンヒ」が話題に取り上げられていた.
 この喫茶店のマスターは,ドリップのコーヒーを淹れるのに一時間かけるのだという.
 そのシーンを見ていて私は,五十年余も前の学生時代に,本郷通りの小路にあった喫茶店を思い出した.東大の正門より少し農学部寄りの辺りであった.
 その店のマスターはドリップに一時間かけるのだという話を友人から聞いて,ある日,私は店に入ってみた.
 テーブル席がいくつかと,五,六人は腰かけられるカウンターがあったが,客は私一人だった.
 この手の喫茶店では,モカ・マタリを注文しておけば間違いがないと耳学問していたので,私はそれを注文した.
 するとマスターは豆を秤り,挽き,紙製ではない布のフィルターを使用してドリップの作業を始めた.
 珈琲道というのか,求道者のような修行僧のような面持ちでマスターは,フィルターの中の豆の粉に湯をゆっくりと注ぎ続けた.
 店にはBGMはなく,新聞も週刊誌もマンガ本もなかったので,私はマスターの手元を見続ける以外にすることがなかった.
 やがて一時間後,最後の一滴が落ちた.マスターは受け器からスプーン一杯のコーヒーをすくい取り,シュッと音を立てて口に吸い込んでテイスティングを行った.
 ようやくコーヒーが飲める.そう思ったのに,マスターは「嗚呼だめだだめだ」と言って,折角淹れたコーヒーを流しにぶち撒けて捨ててしまった.
 そうして再びコーヒーの豆を秤り,挽き,(以下同文)
 私はまたマスターの作業を眺めることになった.
 なぜこの喫茶店に客がいないかを私は理解し,このマスターは珈琲道の修行が済んでから店を始めてほしいものだと思った.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)




 

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