珈琲道
昨夜,レギュラー放送に復活したNHK《阿佐ヶ谷アパートメント》を観たら,大阪の八尾市にある喫茶店「ミュンヒ」が話題に取り上げられていた.
この喫茶店のマスターは,ドリップのコーヒーを淹れるのに一時間かけるのだという.
そのシーンを見ていて私は,五十年余も前の学生時代に,本郷通りの小路にあった喫茶店を思い出した.東大の正門より少し農学部寄りの辺りであった.
その店のマスターはドリップに一時間かけるのだという話を友人から聞いて,ある日,私は店に入ってみた.
テーブル席がいくつかと,五,六人は腰かけられるカウンターがあったが,客は私一人だった.
この手の喫茶店では,モカ・マタリを注文しておけば間違いがないと耳学問していたので,私はそれを注文した.
するとマスターは豆を秤り,挽き,紙製ではない布のフィルターを使用してドリップの作業を始めた.
珈琲道というのか,求道者のような修行僧のような面持ちでマスターは,フィルターの中の豆の粉に湯をゆっくりと注ぎ続けた.
店にはBGMはなく,新聞も週刊誌もマンガ本もなかったので,私はマスターの手元を見続ける以外にすることがなかった.
やがて一時間後,最後の一滴が落ちた.マスターは受け器からスプーン一杯のコーヒーをすくい取り,シュッと音を立てて口に吸い込んでテイスティングを行った.
ようやくコーヒーが飲める.そう思ったのに,マスターは「嗚呼だめだだめだ」と言って,折角淹れたコーヒーを流しにぶち撒けて捨ててしまった.
そうして再びコーヒーの豆を秤り,挽き,(以下同文)
私はまたマスターの作業を眺めることになった.
なぜこの喫茶店に客がいないかを私は理解し,このマスターは珈琲道の修行が済んでから店を始めてほしいものだと思った.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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