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2023年4月21日 (金)

「スギは増えていないのに花粉症は増えた」という川口友万の嘘八百について

 川口友万 (ともかず) という二流か三流のフリー・ライターがいる.理学部を出ているせいか科学系の記事を得意としているらしい.
 理学部卒なのに科学的精神は皆無で,資料を調べもせずに思い付きの嘘八百を吹いている.
 その川口が,スギ花粉症に関する嘘を現代ビジネス《じつは「スギ」は増えていなかった…それなのに、「花粉症」が増えている「意外なワケ」》[掲載日 2023年4月20日] に書いているので,下に引用して紹介する.(以下,スギ花粉症を花粉症の代表として説明する)
 嘘とは次の一節である.
 
花粉症で悩んでいる人の数は想像以上に多い。環境省によれば、2019年には人口の38.8%、ほぼ3人に1人がスギ花粉症と推定されるという。スギ花粉症以外のイネ科やブタクサ花粉症も増加しており、このままでは日本人が全員花粉症になってもおかしくない。
 なぜ花粉症患者が増えているのかは、まだわかっていない。それというのも、花粉症の原因となるスギ花粉は杉の木から出るが、杉の木の本数自体は増えていないからだ。
 70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にあるわけだ。
 花粉症はアレルギー反応だ。細菌やウイルス、寄生虫などの害となる異物=抗原が体内に入るとそれを排除しようと抗原抗体反応が働く。
 抗原を追い出すために、体の中では抗体がつくられる。それが免疫グロブリンE抗体というたんぱく質で、肥満細胞に働きかけ、細胞内に蓄えられているヒスタミンなどの化学物質を放出させる。化学物質は平滑筋を収縮させて異物を外に押し、血液で流して捨てられるように血管を拡張させる。抗原を抗体で追い出そうとする時に炎症が起き、皮膚がかゆくなったり蕁麻疹が出たりする。これがアレルギー反応だ。
 花粉症も仕組みは同じだ。花粉が抗原となり、鼻粘膜の肥満細胞からヒスタミンなどが放出される。ヒスタミンによって粘膜が炎症を起こし、鼻水やくしゃみ、涙などが出て、花粉を体外に押し出すのだ。
 この数十年の花粉症の増加から、日本人の免疫が以前よりも過剰に働くようになっていると考えられる。
 戦後しばらく日本人はスギ花粉でアレルギーを起こすことはなかった。高度経済成長期以降、花粉症が増えている。つまり、その頃から日本人の生活環境でアレルギー反応を敏感にした何かが、右肩上がりに増えているのだ。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 上に掲載した引用中の,
 
[A] 《なぜ花粉症患者が増えているのかは、まだわかっていない。それというのも、花粉症の原因となるスギ花粉は杉の木から出るが、杉の木の本数自体は増えていないからだ。
 70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にあるわけだ。
 
[B] 《戦後しばらく日本人はスギ花粉でアレルギーを起こすことはなかった。高度経済成長期以降、花粉症が増えている。つまり、その頃から日本人の生活環境でアレルギー反応を敏感にした何かが、右肩上がりに増えているのだ。
 
の二点について,それが事実の歪曲であることを以下に示す.
 まず [A] について.
 この引用部分にある誤りとは《70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にある》という認識であるが,それを議論する前に,花粉症患者数について,政府はデータを持っていないということを以下に示す.
 先日 (4/3) の参院決算委員会で,自民党の山田議員の質問に対して,唐突に岸田総理が花粉症対策を関係閣僚会議レベルで取り組んでいると答弁した.実は花粉症対策については,関係省庁会議 (課長級会議) が存在していたのだが,岸田総理は関係省庁会議を関係閣僚会議と言い間違えてしまったため急遽,花粉症対策が重要施策になってしまった.
 総理の言い間違いのせいとはいえ花粉症対策が脚光を浴びたのは,悪いことではないが,おかげでこれまで政府が花粉症対策に取り組んでこなかったことがあからさまになってしまった.
 なにしろ現状は,花粉症に関する科学的知見が極めて貧弱なのである.
 例えば,川口友万は《なぜ花粉症患者が増えているのかは、まだわかっていない》と述べているが,花粉症患者の数は,日本耳鼻咽喉科学会の資料を根拠にして,スギ以外の花粉症を含む花粉症全体の有病率は1998年が19.6%,2008年が29.8%,2019年には42.5%であるとして,10年ごとにほぼ10%増加しているとされている.
 ところがこの数字は,根拠に欠陥があるのだ.
 この患者数は,日本耳鼻咽喉科学会の会報に掲載された論文「鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年,2008年との比較):速報 ― 耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として ―」によるものだが,これを読むと,調査方法は単なるアンケートで,しかもアンケートの対象者は耳鼻科医とその家族であるというバイアスがかかっている.すなわち疫学調査を標榜しているにもかかわらず,アンケート対象者を無作為抽出していないのである.これではとても疫学調査と呼ぶわけにはいかない.
 この調査では,花粉症有病率が増加トレンドにあるということは多分言えるだろうが,バイアスありのアンケート調査では,有病率の絶対値は信用できない.
 花粉症による患者の生産性の低下を金額換算すると,一日当たり約2215億円 (2020年2月パナソニック発表;リリース資料) の経済損失であるという.パナソニックによる調査もアンケート調査ではあるが,方法が無作為抽出であるから,その点では調査の基本は守られている.そして得られた有病率 (花粉症であると回答した者3198人/回答総数6081人) は52.5%であるが,これは日本耳鼻咽喉科学会のアンケート (バイアスがかかった回答総数4749人) よりも有病率はかなり高い.
 これらの調査は無意味ではないが,政府が花粉症対策を立案するにあたっては,きちんとした疫学調査を実施して,花粉症患者数の推定値を明らかにするべきである.
 
 さて,[A] の誤り部分《70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にある》について解説する.
 そもそも花粉症は,ある日突然に罹患するものではない.まずヒト (の眼や鼻の粘膜など) が花粉に接触することから始まる.
 花粉は粘膜の水分を吸収して殻が破裂し,そのときにアレルゲンとなるタンパク質を放出する.
 これを異物と認識した私たちの免疫システムは,アレルゲンに対応したIgE抗体を作り出す.
 このIgE抗体は粘膜の肥満細胞等に結合し,粘膜が花粉に接触する度に増えて行く.このIgEに再び粘膜に侵入したアレルゲンが結合すると,IgEが結合した肥満細胞等からヒスタミンやロイコトリエン等の化学伝達物質が放出される.
 花粉症の発症メカニズムは詳らかでないが,肥満細胞等に結合したIgE量があるレベルに達すると「感作が成立した」と表現される.
 花粉症は通常の生体反応であって病気ではないが,仮に病気に喩えれば「感作の成立」は「罹患」に相当するステップである.
「感作の成立」からさらにIgEの増加が進行すると,化学伝達物質の量が増えて眼や鼻に涙やくしゃみ等の防衛反応が起きると共に炎症が起きる.この症状を自覚した段階が,病気に喩えれば「発症」である.
 このことのあまり専門的に過ぎぬ程度の解説が環境省「花粉症環境保健マニュアル2022 2022年3月改訂版」にもあるので下に引用する.
 
花粉が体内に入ってもすぐに花粉症になるわけではありませんし、アレルギーの素因を持っていない人は花粉症にはなりません。身体の中に花粉が入ると、アレルギー素因を持っている人はその花粉 (抗原) に対応するための抗体を作ります。この抗体はIgE抗体と呼ばれるもので、花粉によって異なった抗体が作られます。この状態を感作が成立したと言います。感作が成立してもすぐに全ての人が発症するわけではなく、人によって期間が違いますが数年から数十年花粉を浴びるとやがて抗体が十分な量になり、花粉が身体の中に入ってくると何かのきっかけで、くしゃみや鼻水、目のかゆみや涙目などの花粉症の症状が出現するようになります。これが花粉症の発症です。近年は飛散する花粉量の増加や体質の変化により、感作までの期間、発症するまでの期間が短くなり、小さな子供でも花粉症にかかるようになりました。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 アレルギー素因を持っている人 (いわゆるアレルギー体質の人) でも,人によって感作の成立から発症までの期間が大幅に異なる (数年のこともあれば数十年のこともある) のはなぜか,また発症後も人によって症状の様子と程度が大幅に異なる (眼は無症状だが鼻炎が激しいという人もいるしその逆の人もいるとか,また症状が軽い人もいるし重い人もいる) のはなぜか,など不明点が多くて花粉症は捉えどころがない.
 捉えどころがない花粉症ではあるが,はっきりしていることが一つある.
 それは,花粉症の要因は「花粉」であって「木 (スギ花粉症の場合はスギの木)」ではないということである.
 しつこいようだが理学部卒でありながら科学的合理的思考のできない川口友万は「スギの木は増えていないのに花粉症患者が増えたのは不思議である」という突拍子もない疑問を抱いた.(実は戦後,スギの木は植林によって少しずつ増えてきた;1970年にスギ林面積は約350万haだったが,2000年には450万haにまで増加したのが事実だが,ここでは詳述しない)
 川口は,スギ花粉の量とスギの木の本数に何か関係があるという幼稚な誤解をしているのである.
 川口は知らないようだが,スギ人工林から放出されるスギ花粉の量に関係があるのは,その人工林のスギの本数ではなく,スギの木に生る雄花の数である.これは常識だ.
 その根拠を下に示す.
 林野庁が概ね五年ごとに公表している「森林資源の現況」調査の「森林面積・蓄積の推移」を下に引用する.最新データは平成二十九年 (2017年) 三月三十一日現在である.
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 日本の森林は,戦中の物資不足のなかで過度の森林伐採が行われて荒廃したが,戦後の経済成長が始まると住宅資材供給のためにさらに伐採が進行した.しかし薪炭用の広葉樹の需要が大きく減少したことから,天然林の広葉樹を伐採し,建築用のスギとヒノキを植林した.
 この林業政策は昭和五十年代半ばまで続き,それ以後は人工林面積は横ばいで推移している.上掲の二図のうち上のグラフ「森林面積の推移」がそれを示している.
 植林した樹種は用途の多いスギが中心で,ヒノキがそれに次いだ.昭和五十六年以降は伐採されるスギ・ヒノキと植林されるスギ・ヒノキが均衡し,人工林面積は横ばいになっているのである.
 ちなみに平成二十九年時点における人工林樹種構成は,林野庁の発表資料によるとスギが44%,ヒノキが25%,カラマツが10%,マツ類 (アカマツ,クロマツ,リュウキュウマツ) が8%,トドマツが8%,広葉樹が3%となっている.(Wikipedia【花粉症】には,林野庁の資料を出典として「99%が針葉樹」と書いてあるが,これは嘘)
  
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林野庁「平成30年度森林・林業白書第1部第2章第1節 森林の適正な整備・保全の推進 (1)」から引用
 
 林野庁によれば,スギは,地方によって成長速度が異なるが,南日本では樹齢40年~50年で伐採に適した時期となる.
 木材関係業者によっては「50年~60年」「60年~70年」とする異なる意見があるが,これは用途によりけりで,見解の相違だ.
 上のグラフ「人工林の齢級構成の変化 (2017年3月現在)」を見ると,昭和後期に植林されたスギ人工林が利用に適切な樹齢を過ぎてしまっている.
 
 同じことが「人工林の齢級構成の変化 (2017年3月現在)」の上に掲載したグラフ「森林蓄積の状況」に示されている.「森林蓄積」とは,農水省による用語の定義は「地域森林計画及び国有林の地域別の森林計画対象の森林における当該計画樹立時の立木の材積」であり,森林資源を樹木の概算体積で表した値である.
 この「森林蓄積」は,人工林面積がピークに達した昭和五十六年 (1981年) 以降も増え続け,この年に1054百万立方メートルだった人工林の森林蓄積が平成二十九年 (2017年) には約三倍に増えている.
 これは人工林の森林蓄積が,伐採して利用するのに適した時期が来ても立木のままに置かれているということである.理由は,伐採・製材しても安価な外国産材との競争に勝てないからだ.
 
 問題は,この未利用森林の中に,管理が放棄された人工林が増えたことである.理由は,日本の林業が経済的に成立しないことと後継者不在のために衰退したことだ.
 昔々,東大農学部の学生だった私は,単位数稼ぎのために林学の講義を履修した (昭和四十五年だったか六年であったかは忘れた) のだが,その当時既に日本の林業は悲観的な状況にあった.
 受講終了試験の代わりのレポートに「戦後,スギの植林が続けられているが,いずれ未利用資源化するであろう」と書いた記憶がある.
 その後の五十年のあいだ,スギの未利用資源化を回避する林業政策は行われず,現在の状態になった.
 専門家ではない一介の学生の予測通りになったわけで,当時から今に至るまで如何に政府が林業に無関心であったかがわかるというものだが,それはさておき花粉症のことだ.
 管理が放棄されたスギはどうなったか.
 スギは植えてから十数年経つと雄花 (スギは雌雄同株) ができはじめ,本格的に花粉が生産されるのは樹齢三十年程度からとされている.
 すなわち,戦後に盛んに植栽されるようになったスギは,昭和の終わり頃に花粉を大量に生産し始めたのである.
 上に掲載したグラフ「森林蓄積の状況」を下に再掲する.これは戦後,スギが作る花粉が経年的に著明に増大してきたことを示しているのである.
 
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 花粉量の経年増加に拍車をかけたのが,林業の衰退であった.このことを次に述べる.
 スギでもヒノキでも,苗を植えたあとは手入れ (下刈,除伐,枝打,間伐) が必要である.(参考資料;出雲地区森林組合「植栽・下刈・除伐・枝打・間伐」)
 作業の中でも重要なのは枝打ちである.(Wikipedia【枝打ち】を参照)
 樹木の枝の部分は,製材して板や角材にした際に節として現れる.この節が生じないように,あるいは生じたとしても樹皮を幹に巻き込んだために節が抜け落ちることを回避することを目的として,あらかじめ下層の枝を切り落とすことを枝打ちという.
 この作業を怠ると,スギは多数の枝が繁茂して,スギ林は鬱蒼たる密林と化す.
 
[手入れされたスギ人工林]
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(パブリック・ドメイン画像,From Wikimedia Commons,File:Cryptomeria japonica.jpg)
 
[管理放棄されたスギ人工林]
JIJI.COM《風に乗って飛散するスギ花粉【時事通信社】
 スギの枝が盛大に茂るということは,枝に着く雄花の数が増えて結果として花粉も盛大に飛散するということだ.
 この画像は,その様子を示している.
 
 少し詳述し過ぎたかも知れない.ここまで述べたことの結論は,川口友万の主張すなわち《70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にあるわけだ》はデマであるということだ.
 なんとなれば昭和五十六年以降,スギ人工林の面積はほとんど変わらなかったが,しかしスギの雄花の数すなわち飛散花粉量は一貫して右肩上がりに増加してきたからである.
 それを明解に示しているのは林野庁が公表している「森林資源の現況」調査の「森林面積・蓄積の推移」(下図) である.
 すなわちスギ人工林における森林蓄積の増大は,スギ雄花数の増大をもたらしたからである.
 
20230424a2
 
 理学部卒でありながら,大学で科学的思考の方法論を学ばなかった川口友万は,スギ人工林面積が増えなければスギ雄花の数も増えないはずだと思い込み,そこから
[A]《70年代から杉の面積はほとんど変わらない。しかし花粉症患者は右肩上がりで増加している。つまり花粉症患者が増えている理由は、杉ではなく人間側にあるわけだ。
 
という妄想を作り出した.
 そして
 
[B]《戦後しばらく日本人はスギ花粉でアレルギーを起こすことはなかった。高度経済成長期以降、花粉症が増えている。つまり、その頃から日本人の生活環境でアレルギー反応を敏感にした何かが、右肩上がりに増えているのだ。
 
 と言い出した.
 高度経済成長以降,花粉症が増えた要因で最も大きいのは,上に述べてきたように,スギ人工林が手入れせずに放棄され,枝が繁茂し,その結果,雄花数が激増したことである.
 それに次ぐ要因として研究者に疑われてきたのは大気汚染である.
 花粉症の抗原である花粉のタンパク質が,大気汚染物質によって修飾を受けることについての実証的研究があり,大気汚染説は有力な仮説である.そこで現在も大気汚染観測体制の整備が進められている.
 その他にもいくつか黄砂などの環境因子の影響が疑われており,Wikipedia【花粉症】に列挙されている.
 それらの仮説に比較すると,根拠に乏しいのがヒトのアレルギー素因が増大しているとする説だ.
 川口の説もそれと同じで,仮説以下の説に過ぎない.
 アホくさいので詳しい批判は省略するが,川口は現代ビジネス誌に載せた妄想記事の後半で支離滅裂な推論を重ね,遂に到達した結論は「花粉症は食生活の欧米化が原因だ」「小麦が悪い」《米を食べることで、免疫が働いてコロナにかかりにくい! 他にも米を食べると脳の灰白質が増え、IQが高くなる》w,「日本人にはお米が合っている」「お米を食べよう」である.しかし米の消費拡大に努力を重ねている農水省でも「米を食べるとコロナにかかりにくい」なんてデマは迷惑に違いない.
 世間的には,理学部卒は優秀であると思われている.然るに川口友万は理学部卒でありながら無知無学無教養で世に恥を晒している.
 母校の評判に泥を塗っている川口は,後輩たちに詫びるべきである.
 
 昭和四十六年の秋,農学部生の私は「林学演習」という講義を受けた.その前に「林学」の講義を履修していたので,その関連である.
 演習という講義名の通り,これはフィールドで行われた.場所は東大の千葉演習林である.現在のJR安房天津駅から山奥に入ったところにある.
 その演習では,履修する学生たちは合宿施設で寝泊りした.林道の測量とか,まだそれほど高くないスギの木に登っての枝打ち作業も実際にやった.「林学」の講義は退屈だったが,演習は面白かった.
 演習林では林学科の研究者たちが色々な研究をしていたが,その中で今でも覚えているのがある.
 当時,まだスギ花粉症は社会問題化しておらず,スギの植林が政策的に推進されていたので,スギの苗木を効率的に生産する必要があった.
 そこで演習林では,スギの苗木からスギの種子を採る方法の開発が行われていた.
 学生たちは,プランターに植えられた小さな苗木が雄花と雌花を着け,一丁前に種子ができる様子を見学した.いわばスギの木のミニチュアであるが,こうすると品種改良に要する時間を大きく削減できるわけだ.
 あれから半世紀を経て現在は,花粉を作らない優良なスギ品種の開発が花粉症対策の重要課題であるから,昔と研究の方向が完全に逆である.苗木なのに花粉を作るミニチュアのスギ品種はその後どうなったのだろう.
 演習の最後に,私たち学生は演習林でスギを記念植樹した.もし伐採されていなければ樹齢五十年の木に育っているはずだ.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)


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