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2023年3月23日 (木)

何も調べずに書き飛ばす妄想ライター窪田順生

 私はこのブログに広告を掲載していない.ありがたいことに口に糊するだけの年金は頂戴しているので,その必要がない.
 ブログに書く記事の内容も,好き勝手である.締め切りもない.
 そういうわけで私はまことにストレス・フリーなのであるが,世の中には飯を食うために文章を書くライターという職業があり,そういう人々は,自分にはよくわからぬことでも,あるいは嘘でも,記事を書いてカネに換えなければならぬ.
 窪田順生もその一人だろう.お気の毒にと,心から同情する.
 その窪田順生の書いた ITmedia ビジネスオンライン《なぜ「さつまいもブーム」が起きているのか 背景に“エリートの皮算用”》[掲載日 2023年3月22日 09:00] から下に引用する.

そういう国民性を踏まえると、日本の食料自給率が今後も改善される見込みは少ない。「ヤバいよ、飢えちゃうよ」とうろたえながらも、特に対策を練ることもなく、国内の農業や漁業は衰退の一途をたどっていく。
 そんなときに台湾有事のような国際紛争が起きて、シーレーン(有事に際して確保すべき海上交通路のこと)が分断されようものなら、輸入食品に依存するこの国はあっという間に「飢えるニッポン」になる。
 そこに10年以内に発生する確率が30%だという南海トラフ巨大地震が重なれば最悪だ。食糧がないところで大量の被災者が出れば、多くの人が飢えに苦しむ恐れもある。
 そんな深刻な「食糧危機」のダメージを少しでも軽減しようと、日本政府はもちろん、さまざまな業界、さまざまな組織が水面下で動いている。
 つまり、もはや日本の食料自給率が劇的に回復することはないので、食糧不足に陥ることは避けられないとして、少しでも飢える人を減らしていこうというわけだ。
 
●さつまいもの生産量が増加

 そのようなアクションが全国で同時多発的に起きて「さつまいもブーム」を後押しをしているのではないか。
 それを象徴するのが、20年から始まった「さつまいも博」である。
 これは全国のさつまいも産地や専門店が一堂に会して、さつまいもの魅力を発信するイベントで、3回目の今年は「さいたまスーパーアリーナ」で開かれて大盛況。そのため、さらに規模を拡大した「夏のさつまいも博」が8月17日に新宿で開催されることが決定したという。
 このようなブームが起きれば、農家としてもビジネスチャンスということで以下のように続々と参入していく。特にありがたいのはコメ農家だ。
『干し芋加工にアツい視線、新潟県内の農家続々参入 甘くて栄養豊富な「昔ながらのおやつ」』(新潟日報 1月23日)
 茨城県が有名な「干し芋」は稲作と作業時期が被らないので、コメ農家にすれば冬場の「副業」としてはもってこいなのだ。
 実際、農林水産省が2023年2月に公表した調査結果によれば、22年のさつまいもの生産量は前年比6%増の71万700トンで、なんと6年ぶりに前年を上回ったという。つまり、近年のブームが、さつまいも生産力アップに結びついているのだ》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 まず驚くのは,小学生レベルの知識が窪田順生にはないということだ.
 サツマイモの栽培は,水はけがよく (=保水力が低いために稲作に適さない) 痩せた土地が適している.土は火山灰土や砂質壌土が理想的である. 一般的に肥沃な土壌で栽培すると地上部ばかりが茂って芋は痩せる.
 サツマイモの産地は鹿児島県,茨城県,千葉県,宮崎県の四県で全国生産量の八割を占める.
 鹿児島県と宮崎県には,保水力の低い火山灰地であるシラス台地が広がっていて,サツマイモの生産に適していることはそれこそ小学生の知識である.(鹿児島県本土の52%,宮崎県の16%がシラス台地である)
 茨城県と千葉県は同じく火山灰地である関東ローム層に適度に砂が混じった土質で,ここもサツマイモの栽培に適している.
 このようにサツマイモの産地が偏在していることは,サツマイモ栽培に適した土地が少ないことを意味している.
 窪田順生は新潟日報の記事《干し芋加工にアツい視線、新潟県内の農家続々参入 甘くて栄養豊富な「昔ながらのおやつ」》を引用しているが,《新潟県内の農家続々参入》は地方新聞の大げさな記事である.新潟県の海岸部にはわずかに砂地があり,そこで細々とサツマイモが栽培されているが生産量は少なく (全国生産量の0.4%),実際は新潟日報の記事にあるように《昔ながらのおやつ》レベルの話なのである.
 こういう新潟県の農業のささやかな記事を,日本の食糧問題を論じる文章中に引き合いに出す窪田順生は,頭がおかしいのではないか.
 次に,窪田は《茨城県が有名な「干し芋」は稲作と作業時期が被らないので、コメ農家にすれば冬場の「副業」としてはもってこいなのだ》と書いている.
 全国の「干し芋」生産量の九割が茨城県産であり,そのまた大部分が,ひたちなか市、東海村、那珂市の三市で生産されているが,茨城県のサツマイモ産地は鉾田市,行方市,ひたちなか市,茨城町,大洗町,鹿嶋市,那珂市,水戸市,小美玉市,東海村に広がっている.
 もし「干し芋」製造が《稲作と作業時期が被らないので、コメ農家にすれば冬場の「副業」としてはもってこいなのだ》とすれば,なぜひたちなか市、東海村、那珂市の三市以外の生産地,また他県のサツマイモ生産地では「干し芋」を作らないのか.このことに目をふさぐのなら,いっそ「干し芋」のことなんぞ書かないほうがいい.
 さらに続いて窪田は《22年のさつまいもの生産量は前年比6%増の71万700トンで、なんと6年ぶりに前年を上回ったという。つまり、近年のブームが、さつまいも生産力アップに結びついているのだ》と書いている.
 そこでサツマイモの生産量推移を見てみよう.
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 年次  全国生産量 (t)
 2011年  885,900
 2012年  875,900
 2013年  942,300
 2014年  886,500
 2015年  814,200
 2016年  860,700
 2017年  807,100
 2018年  796,500
 2019年  748,700
 2020年  687,600
 2021年  671,900
 2022年  710,700
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 これを農水省がどう評価しているかというと,以下の通りである.(出典《令和4年産かんしょの作付面積及び収穫量》[掲載日 2023年2月7日])
作付面積
 全国の作付面積は3万2,300haで、前年産並みとなった
 10a当たり収量
 全国の10a当たり収量は2,200kgで、前年産を6%上回った。これは、おおむね天候に恵まれ、いもの肥大が順調に進んだことや、鹿児島県、宮崎県において、サツマイモ基腐病の被害が、抵抗性品種への切替えや防除対策により減少したことによる
 
 日本のサツマイモ生産は,たまに収量が前年を上回る (上表の2013年,2016年,2022年) ことがあるが,この十年のトレンドとしては作付け面積は減少して収量も減る状態が続いている.
 窪田は《近年のブームが、さつまいも生産力アップに結びついているのだ》と妄想を逞しくしているが,農水省は,消費者の一時的な気まぐれ「サツマイモのブーム」なんぞ一顧だにしていない.そうではなく,2022年の収量増は,主産地である鹿児島県と宮崎県における病害抵抗性品種への切替と防除対策によるものだと断定している.なぜなら,作付け面積が増えていない以上,2022年の収量増は一時的な現象であり,サツマイモの生産力が増強したのではないからである.これは,サツマイモ農業の実情を少し調べれば妥当な評価だと誰でも納得できる.
 では,いったい窪田はどこから《近年のブームが、さつまいも生産力アップに結びついているのだ》という妄想を引っ張り出してきたのか.
 窪田は記事中で,以下の (1) ~ (3) を述べている.
(1) 来るべき日本の食糧危機を,日本のエリート層 (政治家と官僚) は,サツマイモで乗り切ろうと決めた.
(2) しかし国民はサツマイモだらけの食生活に大きな不満を持つに違いなく,これが社会の混乱を招き《政府と敵対する国家や政治勢力を支持する「非国民」が増えてしまうかもしれない
(3) 《こういう「国家の威信」が揺るがされそうになると、政治家や官僚たちは何を考えるのかというと、イモだらけの食生活になっても、文句を言わないように国民を「教育」しようと考える。さつまいもはオシャレな食べ物であって、主食からオヤツまでなんでもいける万能食くらいに認識を変えてしまえば、来るべき食糧危機にも国民の不満を抑えて乗り切れるはずだ――。そういう日本のエリートたちの皮算用が近年の「さつまいもブーム」》の背景にある.(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
 
 これが窪田の脳内で描かれている素っ頓狂な陰謀論であるが,《さつまいもはオシャレな食べ物》と書くあたりが,陰謀論にしてはあまりにもチープなので,情けなくて涙が出る.
 サツマイモの耕作可能な土地が我が国にあとどれくらいあるか,あとどれくらい増産可能かを調べれば,サツマイモは来るべき食糧危機に対して大して役に立たない作物だと小学生でもすぐにわかる.窪田順生だっていい歳こいた大人なんだから,もうちょっと手の込んだ陰謀論を作れないものかと声を大にして言いたい.
 陰謀論好きの窪田はほっといて,まじめな話をすると,将来に予想される食糧危機に対して,政府と国民が考えるべきは,戦後の減反政策によって生じた調製水田 (水を張ることにより常に水稲の生産力が維持される状態に管理するが耕作はしない水田) や休耕地 (作物の栽培を一時的に休止している田畑),休耕地がそのまま継続して耕作放棄地 (以前耕作していた土地で,過去一年以上作物を作付けせず,またこの数年の間に再び作付けする意思を所有者が持っていない土地) になってしまった土地,荒廃農地 (長期の耕作放棄により通常の農作業では作物栽培が不可能となった土地) をどう活用して食糧増産に繋げていくか,という問題である.
 これは農業技術や農業政策だけで解決するものではなく,農村の後継者不在や集落の消滅,あるいは都市部からの移住者を表向きは歓迎するといいつつ実は「よそ者」を排除する農村文化まで関わる広範囲にわたる課題なのである.
 しかるに窪田順生の脳内お花畑では,政治家や官僚が食糧危機の解決策として「サツマイモのスイーツ」ブームを企んでいるらしい.開いた口がふさがらぬ.
 
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ウクライナに自由と光あれ
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(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)

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