経済オンチもここまでくるとほとんどバカ
スポニチアネックス《橋下徹氏 マック、きょうから値上げに「これでちゃんと賃金に回ればいいんだけどね」》[掲載日 2023年1月16日 10:50] から下に引用する.
《元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏(53)が16日、フジテレビの情報番組「めざまし8(エイト)」(月~金曜前8・00)に出演。日本マクドナルドが同日から、ハンバーガーやマックフライポテトなど約8割の商品の店頭価格を10~150円値上げしたことに言及した。
ハンバーガーは150円から170円に、チーズバーガーは180円から200円になった。バーガー類単品やバリューセット、ひるまック、ドリンク類の値上げ幅は10~50円。マックフライポテトはサイズに応じて30~40円、チキンマックナゲット15ピースは120円、ポテナゲ特大は150円引き上げた。値上がり理由に、原材料価格や物流費などの上昇、円安の影響を理由に挙げている。
番組では、海外のマクドナルドのハンバーガーの価格を比較。日本の170円に対し、英国139円、米国175円、ブラジル223円、韓国227円、スイス400円というデータを示した。橋下氏は「これでちゃんと賃金に回ればいいんだけどね」と言い、「あとは物価が、これは今はマクドナルドだけになってますけど、物価が上がるってことは、預貯金がほっといたら目減りしていくわけなんですよ。そうしたら皆さんどうしますかねえ。貯金してたら、どんどん減っていくんだったら、モノ買った方がいいじゃないかっていうことになって消費を促すっていうのが物価上昇の今、日本の狙っている経済のやり方だから、単純に物価が上がることで全部マイナスってことではないんですよね」と自身の見解を述べた。》
A. 橋下徹の発言《これでちゃんと賃金に回ればいいんだけどね》について
日本マクドナルドは値上げの理由として,上の引用にある通り《原材料価格や物流費の上昇、円安の影響》を挙げている.
《物流費の上昇》はロシアによるウクライナ侵略に起因する原油価格の上昇による.
《原材料価格の上昇》も主としてウクライナ産小麦の高騰に基づく.油脂や牛肉の価格上昇も,突き詰めれば小麦価格の高騰に起因する.
《円安の影響》は為替差損の他に,物流費と原材料費のコスト増にも影響している.(ただし現在は円安傾向は落ち着いており,この三月以降に値上げを予定している外食産業では円安を理由に挙げていない)
この食品値上げ理由の三点セット (物流費上昇,原材料価格上昇,円安) は,値上げによって得られた利益が,コスト増加の穴埋めに使われることを意味している.つまり日本マクドナルドの手には原則的に残らない.従ってこれは賃上げの原資にはならない.《ちゃんと賃金に回》るはずがないのである.
ではあるが,私の知る限り,製品の値上げには普通は多少の「便乗利益」が盛り込まれる.しかしあからさまにこれをやると決算時に必ずバレるので大っぴらに賃上げ原資にはできない.従ってこれも《賃金に回》らない.内部留保されるに違いない.
橋下は《これでちゃんと賃金に回ればいいんだけどね》と寝言を述べたが,産業界の実際に関する無知も甚だしい.
B. 物価が上がる ⇒ 預貯金がほっといたら目減りしていく ⇒ 貯金してたら、どんどん減っていくんだったら、モノ買った方がいい ⇒ 消費を促す という橋下徹の屁理屈について
橋下徹の経済オンチもここまでくるとほとんどバカである.よくまあテレビで恥ずかしげもなく「物価があがると消費が促される」などと世迷言を垂れて平気なものだと呆れるので,その理由を以下に述べる.
まず,日本人の貯蓄性向から見てみよう.
その前に,以下に掲げるグラフの横軸に関係する事柄を挙げておく.
[政権]
第一次安倍内閣 平成18年 (2006年) 9月26日~平成19年 (2007年) 9月26日
第二次安倍内閣 平成24年 (2012年) 12月26日~平成26年 (2014年) 9月3日
第二次安倍内閣 (改造) 平成26年 (2014年) 9月3日~平成26年 (2014年) 12月24日
[政策]
平成十一年 (1999年) 二月,日銀がゼロ金利政策を開始.
平成十三年 (2001年),ITバブル崩壊を機にゼロ金利政策が復活.
平成十八年 (2006年),景気回復を理由に再び解除.
平成二十年 (2008年),12月の世界金融危機と米国のゼロ金利導入を機にゼロ金利政策が復活.
以上を踏まえて,消費者物価の推移を下に示す.出典は「毎月勤労統計調査 令和3年分結果速報の解説」である.
上図によると,平成二十年 (2008年;ゼロ金利政策が復活した年) に一時的な物価上昇が見られたが,概ね平成十八 (2006年) 年から二十五年 (2013年) までは物価は安定していた.
平成二十六年 (2014年) に消費者物価指数は3上昇し,翌二十七年に1上昇,その後はジワジワと上昇を続けているが,令和四年に食品を中心に値上げラッシュが始まり,現在も値上げの勢いは止まっていない.
次に国民の消費性向と貯蓄性向を見る.
昔は国民全体に占める高齢者の比率が低かったから,内閣府「国民経済計算」に示される「家計貯蓄率」が,国民の貯蓄性向を示す資料だった.しかし現在は高齢者が増えたために,それではだめになった.
1) 高齢者層は,基本的には年金以外の収入が無いと見做される.調査データによると,厚生年金を受給している平均的な高齢者世帯でも毎月の支出が収入を上回る赤字であり,貯蓄を取り崩して生活している.すなわち社会の高齢化は,国民の貯蓄性向を押し下げる要因である.
少し前に金融庁が,勤労世代に投資行動を促すことを目的として意図的に「毎月の赤字の結果として,老後資金は二千万円が必要である」とする試算資料を作成したが,これは高齢者層の大きな動揺と,公的年金制度の崩壊であると国民に理解されたため,政府は正式な受け取りを拒否して事態を収拾した.知名度の高い経済ジャーナリストたちは金融庁試算を否定したが,しかし現在も銀行や生保はこの試算を肯定している.
2) これに対して勤労世帯は,貯蓄と消費を行う国民階層である.
この1と2の二階層に国民が二極化したため,従来のように内閣府「国民経済計算」を根拠にして,単純に国民の消費と貯蓄の行動を議論できなくなった.
そこで,ジャーナリストの不破雷蔵氏は,高齢者世帯と勤労世帯を分離して分析を行った.(YAHOO!ニュース《貯蓄率減少は本当なのか否か、家計の貯蓄率を複数視点で確認する(2021年公開版)》[掲載日 2021年4月18日 9:09])
不破氏の分析によると,詳しくは彼の論考を読んで頂くとして,高齢者世帯は貯蓄を取り崩しているが.勤労者世帯は貯蓄に励んでおり,それを単純合計すると貯蓄率が減少しているように見えるという.
不破氏の分析を裏付ける別のデータを見てみよう.
上図は総務省統計局の《家計調査報告 (貯蓄・負債編) -2021年 (令和3年) 平均結果- (二人以上の世帯)》の付帯資料《長期時系列 (二人以上の世帯の貯蓄の推移)》から引用した.
既述の「毎月勤労統計調査 令和3年分」によると平成二十七年 (2015年) 以降に消費者物価は緩やかに上昇している.
上に示した《家計調査報告》のグラフの,2015年以降の貯蓄現在高推移は,わずかに増減はあるが,ほぼ横ばいである.
同じく2015年以降の年間収入も横ばいである.
しかるに貯蓄年収比は1975年以降ずっと上昇トレンドにある.貯蓄現在高も年間収入も横ばいで,かつ消費者物価が上昇しているにもかかわらず,日本国民の貯蓄志向は衰えを見せていない.
毎月の家計が赤字続きで貯蓄したくてもできない高齢者世帯を含むデータでも貯蓄年収比が上昇しているところを見ると,収入がある勤労世帯の貯蓄性向は極めて高いといえる.
ここで明確になっているのは,橋下徹が言う《物価が上がるってことは、預貯金がほっといたら目減りしていくわけなんですよ。そうしたら皆さんどうしますかねえ。貯金してたら、どんどん減っていくんだったら、モノ買った方がいいじゃないかっていうことになって消費を促すっていうのが物価上昇の今、日本の狙っている経済のやり方》は真っ赤な嘘であるということである.
預貯金が目減りするのは覚悟の上で,しかしそれでも貯蓄する,目減りを上回る額の貯蓄をせざるを得ない,というのが日本国民の置かれている状況なのだ.
日本国民はなぜそれほどまでに貯蓄をするのか.
言い古されたことだが,日本国民の貯蓄の原動力は将来不安なのである.
「これから先,預貯金が目減りするならモノを買う」のはバカである.それはバブル崩壊前の話だ.
「将来の社会保障 (とりわけ年金制度) の不安が大きくなっている今,預貯金を取り崩してモノを買っていたら将来は悲惨なことになる.だから苦しくても消費せずに貯蓄に励もう」を総務省統計局の《家計調査報告 (貯蓄・負債編) -2021年 (令和3年) 平均結果- (二人以上の世帯)》の付帯資料は示しているのである.
もちろんそのような状況を政府は承知している.統計データを読みもせず,政府の意図を理解していないのは橋下徹くらいなものだ.
さて物価が上昇する局面には二つのタイプがあり,一つは消費者の消費行動が活発になったために物価が上昇する (需要と供給の関係において,需要が上回ると価格は上昇する) 状態で,「デマンド・プル・インフレーション」という.この場合は需要の増加に従って生産量も増加する.またコストは増えていないので利益が増える.その結果,景気の好循環が生じることが期待できる.そこで「デマンド・プル・インフレーション」は「よいインフレ」と呼ばれる.
これに対してある企業の製造販売コストが上昇したために値上げする状態を「コスト・プッシュ・インフレーション」という.需要が増えたわけではないから生産量は増えず,当然,利益も増えない.それどころか物価上昇が消費者の購買意欲を抑制するので,景気の悪化を招く.そのため「コスト・プッシュ・インフレーション」を「悪いインフレ」と呼ぶ.
この説明で明らかなように,現在の日本では「コスト・プッシュ・インフレーション」が始まりつつある.
この状態を放置すれば,必ずや景気は悪化する.
対策として政府は (弥縫策であるが),経済界に賃上げを要請した.
経済界も,日本経済が瀬戸際に立っていることは重々承知であり,賃上げ要請に積極的な協力姿勢を示した.経団連は「賃上げは企業の社会的責務である」とまで述べた.そこまで日本経済は追い込まれているのである.とすれば,橋下徹の言う《貯金してたら、どんどん減っていくんだったら、モノ買った方がいいじゃないかっていうことになって消費を促す》がいかに愚かで時代錯誤な認識であるかが明らかである.現在の日本経済は,物価上昇は消費を促さないのである.
「たとえ預貯金が目減りしても消費せず,将来の家計破綻に備えて貯蓄する」という国民の思考を,どうやって景気好循環の方向に持って行くか.果たして賃上げというカンフル剤は効くか.日本は正念場である.
コロナ禍の初期の令和二年 (2020年) に政府は各世帯に十万円の特別定額給付金を支給したが,これは消費に回らず,2020年度の可処分所得は前年度に比べて実質4.0%増えたが,却って消費支出は4.7%減ってしまった.また所得に対する貯蓄の増加の割合を示す平均貯蓄率は35.2%と対前年度で3.2ポイント上昇した.
これを見ると,賃上げが即効的に消費を刺激するかどうか危うい.「それほど貯蓄に励まなくても,どうやら老後は大丈夫のようだ」「子どもを産んでもちゃんと育てられるようだ」という「デマンド・プル」状況になるには数年かかるのではないかと思われる.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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