デジタル分野の労働者
大学の定員に関しては「地域大学振興法」という十年間の時限措置があり,東京二十三区にある大学は原則として定員を増やすことができず,学部や学科の新設もできない.
これは東京への学生流入を抑制することで地方における就学機会を増加させ,地方大学や地域経済を活性化することを目的としている.
しかし地方大学は依然として定員割れの状態にあり,都内の大学は定員を越す学生が入学していると言う.
地方私大は淘汰が進んでいると西日本新聞《地方私大の閉校相次ぐ 自治体が誘致、計画の甘さ浮き彫りに…進む淘汰》[掲載日 2019年5月15日 06:00) は伝えているが,ただし都市部でも大学の閉校は珍しくはない.(青山学院女子短期大学は2022年3月31日に閉校.恵泉女子学園大学は令和五年度で募集終了.etc)
このことについて書かれている週刊現代《小池百合子もブチ切れた…!ナゾの「デジタル系学部の定員規制緩和」がもたらすニッポンのヤバすぎる未来》[掲載日 2023年3月22日] から下に引用する.
《小池都知事も反発
そもそも大学の立地だけを基準として定員を抑制する規制は基本的に海外でも例がなく、地方活性化策としての有効性が疑われる。また地方創生の目的のひとつである出生率上昇も達成されておらず、むしろ6年連続の低下となっている現状がある。
このような状況の中、政府は突然、方向転換を始めた。'24年度にも「東京23区の大学定員規制」を一部緩和し、「デジタル系の学部・学科」の定員増は規制の対象外とする方針を決めたのだ。
この支離滅裂かつ場当たり的な政府の方針に噛みついたのが、東京都の小池百合子知事だ。政府の方針に対し、2月中旬、小池知事は「不十分な内容と言わざるをえない」「地方創生を名目として、場所だけを理由に大学に制限を課すもの」とコメントし、「熾烈な国際競争が繰り広げられる中、今なすべきことは、東京であれ地方であれ、世界中から学生が集まる魅力的な大学を育てること」という旨の強い発言をした。
規制緩和がデジタル系の学部・学科のみで、それ以外の学部も対象にならないのは筆者も理解できない。例えば、国際経済における競争力を高めるには、計量経済学や金融工学という学問を強化することも必要だろう。また高度なデータ分析ならば、経済学部や理学部・工学部なども扱っている。にもかかわらず、デジタル系の学部・学科のみを対象とするのは、あまりに不可解だ。》
都内の大学の定員見直しについて,いい悪いの論評を私はしないが,実効性のない「地域大学振興法」を骨抜きにし,《デジタル系の学部・学科》を拡充するという施策が,安倍内閣以来の政府方針に沿っていることは事実である.というか,そもそも「地域大学振興法」には無理があったのだ.
そのため方向転換が行われることになったのだが,中途半端であると小池都知事が反対し,週刊現代の匿名ライターも反対意見を記事にしたわけだ.
問題は,この匿名ライターが《例えば、国際経済における競争力を高めるには、計量経済学や金融工学という学問を強化することも必要だろう》と書いていることだ.
私が大学生だった頃から日本では,《学問を強化すること》は大学院で行うこととし,学部は産業労働者を育成するのを目的とするようになり始めたのである.
つまり現在の政府は,東京二十三区の大学におけるデジタル系学部学科の定員見直し (増加) に関しては,学問の強化なんぞこれぽっちも考えてはいない.大量のデジタル分野労働者を産業界に送りこむことを意図しているのである.
政府だけではない.NHKの討論番組をよく観ている視聴者には周知のことだが,経済界からの出席者として新浪剛史氏 (サントリーホールディングス社長) がしきりとデジタル分野労働者を産業界に供給しろと述べてきた.
政府や経済界は,デジタル分野の産業を牽引する人材の育成に言及しないのは当然で,そのような人材は政治的取り組みをせずとも自然発生的に産業界に供給されるからである.
《デジタル系の学部・学科》の定員を二倍に増やそうが半分に減らそうが,優秀な人材の数は変わらない.《デジタル系の学部・学科》の定員増減によって影響されるのは,クリエイティブな人材ではなく産業界によって使い捨てにされる労働者なのである.
そして政財界が意識的に取り組もうとしているのは,まさにこのデジタル系の労働者 (それも非正規労働者) を大量に育成することなのだ.
こう考えると,従前からの政府のいわゆる「働き方改革」と整合性が取れていることがわかる.
そういう産業政策に異議を申し立てるのはよいが,それに対するに《学問を強化すること》を持ち出すのはいかにも的外れである.私が学生だった頃だって学部卒業者に《学問を強化すること》を期待するのはピント外れだったからである.
すなわち現状の日本において,大学定員を増やすことは,非正規労働者の増加政策と軌を一にしているのだという視点から論じる必要がある.仮にもメディアに文章を載せるライターならば,非正規労働者問題との関係で大学定員を論じて欲しいものだ.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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