イチゴをめぐる嘘
「イチゴのヘタの取り方が悪いと栄養分が大きく損なわれる」という話がSNS上で話題になっている.
例によって,騒いでいる連中は何の根拠もなく引用もなくカラ騒ぎの独断をしているのだが,そういう有象無象はほっといて,職業倫理として栄養に関するデマを流布してはいけない管理栄養士の発言を集めてみると,管理栄養士がデマの火元であった.w
まず,この話に火を着けたのは誰かを調べてみると,管理栄養士の柴田聡美という人物である.
ウェブ上にこの人のプロフィールの記載はなく,一冊も著書がない謎の女性であるが,ウェザーニュースというメディアは頻繁に記事を載せている.
ウェザーニュース《いちごはヘタを取るタイミングで栄養分が変わる!?》[掲載日 2019年1月31日 07:02] から下に引用する.
《甘いイチゴが出回る季節になりました。イチゴを食べるときにヘタを取るのは当たり前ですが、ヘタの取り方やタイミングでイチゴの栄養分が大きく変わるそうです。管理栄養士の柴田聡美先生が教えてくれました。
イチゴの栄養分はヘタ付近にある
「イチゴのビタミンCは100gあたり62mgでレモン果汁より多いので、ビタミンCを摂るにはイチゴがオススメです。イチゴのビタミンCはヘタ周りの白い部分に多く含まれています。酸っぱくてちょっと嫌がられますが、栄養面から言えばヘタ周りこそ食べていただきたい部分です」(柴田先生)》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
ウェザーニュース《いちごはヘタの取り方を間違えると、栄養が大幅ダウン?》[掲載日 2021年1月15日 05:37] から下に引用する.
ウェザーニュースは,同じ柴田聡美ネタを何度も繰り返して使いまわしをしているふざけたメディアだが,ネタの使いまわしを整理すると,下の記事は2019年の記事とは別稿として書かれたものである.
《1月15日は「いちごの日」。店頭には真っ赤でみずみずしい、いちごが目立っています。
いちごを食べる際、ヘタを取りますが、このヘタの取り方によっていちごが持つ栄養分が大きく左右されるそうです。詳しい話を、管理栄養士の柴田聡美さんに伺いました。
……
いちごは、風邪予防などに効果があるとされているビタミンCが果物の中でもトップクラスだそうです。
「いちごにはミカンの約4倍のビタミンCが含まれています。1粒20gほどのいちごであれば、8粒食べれば1日分のビタミンCが摂れると言われるほどです。
この栄養分ですが、いちごはヘタがついている茎から栄養が送られてきて実が大きくなります。送られた栄養はヘタの真下から周辺にまず集中し、そこから全体に回っていくわけです。だから、いちごで一番栄養がある場所はヘタの真下と周辺ということになるのです」(柴田さん)》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
《いちごで一番栄養がある場所はヘタの真下と周辺ということになる》と柴田聡美は主張しているが,根拠は示していない.
次は藤倉詩織さんという管理栄養士.
トクバイニュース《洗う前にヘタを取っちゃダメ!いちごの栄養を上手に摂るコツ》[掲載日 2021年12月17日]
《甘酸っぱい風味とさわやかな香り、コロンとしたかわいい見た目が人気を集めるいちご。見た目や味わいだけでなく、ビタミンCをはじめ健康や美容に役立つ栄養成分が含まれているのも魅力です。そこで今回はいちごに含まれる栄養素と期待できる効果、さらに栄養を損なわずに食べるコツを管理栄養士が解説します。
……
ビタミンCなどの栄養はヘタの真下の部分とその周辺にも含まれます。過剰に廃棄しないためにも、ヘタは包丁で切り落とすより手で取り除くのがおすすめです。ヘタの根元をつまむように持ち、やさしくひねり取るようにしましょう。
※参照:東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 監修,2017年「その調理、9割の栄養捨ててます!」世界文化社》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
最後は小田原短期大学食物栄養学科准教授の平井千里先生.
All About《イチゴの「ヘタを取るのは栄養を捨てるようなもの」は本当? ウワサの真相を栄養士に聞くと…》[掲載日 2023年3月30日 20:45] から下に引用する.
《「イチゴはヘタの周りが一番栄養価が高いから、ヘタを切り落としてはいけない」という説が話題になっているようです。
イチゴに期待されている栄養素として、ビタミンCが挙げられると思います。確かに、ヘタの周りほど酸っぱさが強いと感じることが多いため、ビタミンCが多いと思っている人も多いのかもしれません。
しかし、それは完全な勘違い。
1973年の古い論文ではありますが、イチゴの栄養素の分析では「総C、 還元型Cは果頂部に近いほど多く含まれ基部に最も少なかった。また組織別では皮部にとくに著しく、ついで果肉部に多く含まれ芯部は最も少なかった」と報告されています。果頂部とは、葉がついている部分から最も遠い部分ですので、実際には逆なのです。
イチゴのヘタの周辺がおいしいと感じる人は食べればよいですし、硬さや酸味が気になるのであれば食べずに切り落としても栄養的な損もない、といったところでしょう。》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
平井先生が引用している《1973年の古い論文》とは,“北川雪恵「果菜類の生育とビタミンCの分布 (II) トマト, ピーマン, イチゴ」栄養と食糧1973年26巻2号 p.139-143”である.
論文抄録を下に引用する.文字を着色強調した部分が,平井先生が引用したイチゴの栄養に関する分析結果である.
《抄録
前報に続いて果菜類のトマト, ピーマン (ナス科), イチゴ (バラ科) を用いて生育時期別, 上下部位別, 組織別のV. C量の変化について観察した。
1) トマトの果実の生育に伴うV. C量 (mg%) の変化は総C, 還元型Cでは生育につれて増加し, いわゆる収穫期に最高になるが, 完熟期には逆に減少した。 細かく上下部位別の差異を果肉部でみると, 全期間を通じて基部に最も多く, 先端部がこれにつぎ, 中部が最も少なかった。 また組織別では全期を通じて胎座・種子部が果肉部より多く, とくに種子を含むゼリー状部に多かった。
なお, 酸化型Cについては未熟期ほど多く, 生育につれて減少したが, 部位別, 組織別には総Cとほぼ同様の傾向がみられた。
2) ピーマンの果実の生育に伴うV. C量 (mg%) の変化は総C, 還元型Cでは生育につれて漸増し, とくに完熟期に著しい。 上下部位別の差異を果肉部についてみると, 幼果期には中部に多いが, 収穫期以後は果頂部に最も多かった。 組織別にみると, 全期間を通じて果肉部にとくに多く種子部, 胎座部には少なかった。 また果肉部, 胎座部は完熟期に著しく増加するが, 種子部では反対に減少した。
なお, 酸化型Cについては幼果期に多く, 収穫期にやや減少するが過熟期になると再び増加した。また果肉部よりは種子と胎座部に多かった。
3) 可食適期のイチゴの場合を上下部位別にみると総C, 還元型Cは果頂部に近いほど多く含まれ基部に最も少なかった。また組織別では皮部にとくに著しく, ついで果肉部に多く含まれ芯部は最も少なかった。
酸化型Cについても総Cの場合と同様の傾向が認められた。》
この論文は,謎の管理栄養士である柴田聡美の唱える説が嘘であることを,五十年も前に既に実験的に明確にしていた.
これでほぼ柴田聡美の負けは明らかだが,さらに,フリーランス管理栄養士の藤倉詩織さん (栄養学の研究歴なし) は「イチゴの基部にも栄養はあるので捨てないのがよい」として紹介している資料『その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社,2017年) も調べてみる必要はあるだろう.古本が送料込みで五百円なので注文した.
謎の管理栄養士柴田聡美のデマがSNSで拡散しているのを知った平井先生は苦々しく思っただろうが,大学の教員という立場では,柴田聡美の実名を挙げて批判するわけにもいかないのだろう.先生に代わって私が,デマの火元は柴田聡美だと晒しておく.
ちなみに,平井先生は,栄養学教育の名門である女子栄養大学の出身である.女子栄養大学といえば,先日放送されたドラマ,テレビ朝日《キッチン革命》のヒロイン香美綾子のモデルである香川綾先生が創立した大学である.
私の行動範囲 (JR藤沢駅周辺) にある青果店やスーパーを巡回して歩くと,大きくなりすぎた「とちおとめ」とか「とちあいか」が一パック三百九十八円で売られている.高いやつの半額だ.私はそんなので充分おいしいと思う.
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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