スシローはどれくらいの損害賠償請求をするだろうか
回転寿司のスシローで醤油容器を舐めるなどの不潔な行為を行って動画をアップした愚か者の高校生について,複数の有名人やメディアがスシローの株価の下落を根拠にして「億単位の巨額な賠償金を払わせて懲罰を行え」とする旨の主張を行ってきた.
これは常軌を逸した主張であり,法治国家の言論とは思えぬ無法ぶりである.
私はそれらの異常な主張に対して,株価の一時的な下落は損害賠償の対象にならぬとこのブログで述べた.(《含み損は損害賠償請求の対象にならない》[掲載日 2023年2月2日])
上場会社の株価は,その会社の企業価値を反映はするが企業価値そのものではない.これは当たり前のことである.会社員の基礎知識だ.
すなわち株価変動は,当該企業の価値を材料にして売買されることで生じる,いわば架空の価値変動である.
真の企業価値=事業価値+事業外の価値 (非事業用資産) である (下記註) が,これが全く増減していなくても株価が上下することは周知のことだ.
(註)
* 事業価値;企業の事業活動から生み出される価値を指し,資産や負債のほか,その事業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの合計である.この資産にはブランド価値や事業ノウハウなどの無形資産・知的財産などを含む.
* 事業外の価値;現預金や遊休不動産,投資目的の有価証券などである.
上記の註に「ブランド価値」を挙げたが,スシローのブランド価値が減損したはずであるということを根拠にして「百数十億円の損害賠償を払わせろ」論をメディアは主張している.
しかし裁判所は「減損したはずである」という計算不能な額の賠償請求を認めない.認めた例はない.このことを複数の弁護士が解説してきたが,動画をアップした高校生に懲罰を加えたい一心の無法メディアは聞く耳を持たない.
だがようやくまともな記事が現れた.マネーポストWEB《スシロー迷惑動画で損害賠償どうなる? かつてバイトテロで閉店したそば店の「200万円で和解」が基準か》[掲載日 2023年2月10日 07:00] から下に二ヶ所を引用する.
(1)
《スシロー側は、少年側を相手取って「刑事、民事の両面から厳正に対処」するとしている。中には株価下落分の「160億円」もの多額の損害賠償が請求されるのではないかという報道もあった。フラクタル法律事務所の田村勇人弁護士が解説する。
「結論から言えば、億単位の多額の損害賠償が命じられることは考えにくいでしょう。株価はさまざまな要因の影響を受けて値動きするわけですが、迷惑行為“のみ”で下落したという因果関係を証明することは難しいからです。また、株価は常に上がったり下がったりしています。一時的な下落を、“損害”とすることにも疑問符がつきます」》
上記の着色部分は,私が既に述べたことと同じである.裁判所は,株価の下落分を損害として絶対に認めない.
では,スシローが賠償請求するとすると,それはどのようなものになるか.
(2)
《民事での損害賠償額は、どのくらいの規模が考えられるのか。
「しょうゆボトルや湯飲みといった備品の交換・消毒費用、監視カメラの設置、風評被害やブランドの毀損による売上減少の逸失利益、株主やメディア対応の人件費等、実際にかかった金額から賠償額を算出します。今回のケースでは、数百万円から高くて1000万円程度でしょうか。ただ、同様の迷惑行為が今後起きないよう、社会的な抑止力のために、もっと高額の請求をする可能性も考えられます」(田村氏)
2007年、都内のそば店で、アルバイト従業員が大型の食器洗浄機に体を入れている写真をSNSに投稿。この“バイトテロ”で、その後閉店を余儀なくされる騒動があった。
「店側は1385万円の損害賠償を求め、最終的には200万円を支払うことで和解が成立しました。このケースがひとつの“基準”になるかもしれません」(全国紙社会部記者)》
上記引用文中で田村勇人弁護士は《売上減少の逸失利益》を賠償額に含めることができるとしているが,他の弁護士はこれを否定している.
その理由は「客観性のある計算ができない」からである.
例えば交通事故等で死亡または後遺症が残った場合の損害賠償における逸失利益については,計算パラメーターが固定的であるため妥当な計算方法があるが,企業の売上減の場合は計算パラメーターが経時的な変動をするため非常に困難である.
例えばスシローの場合は,スシロー自身の不法行為によって昨年来の売上減が続いている上に,その他にコロナ禍の影響がある.
その他にも他社との競争的要因もあり,なおかつそれらは経時的に変動する.
このような種々の事案に基づく売上の減少額と,件の動画によって生じた売上減を分離して計算することは複雑すぎてほぼ不可能である.仮に適当なモデルを作成して計算したとしても,それは客観性のない推定値に過ぎない.裁判所はそのような客観性のない請求を決して認めない.
もちろんスシロー側の顧問弁護士とてそんなことは百も承知であり,スシロー側が百億円を超える損害賠償請求を望んでも阻止するに違いない.理由は企業のリスクマネジメント的に大きなリスクを負うからである.
以下,仮定の話をする.
スシロー側が加害者の少年に百億円の損害賠償を請求したとする.少年に支払い能力はないから親がその責を負う.
裁判所はそのような過酷な請求を認めないが,精神的圧力は尋常ではなく,そのため,もし少年と親が一家心中に追い込まれたとする.
すると,これまで少年に「巨額の賠償をさせて痛い目にあわせろ」と放言していた辛坊治郎などの連中が一斉に掌を返してスシロー非難に回るに違いない.件の少年を叩きまくっていたメディアは今度はスシローを必ずや叩きまくり始める.なんとなればその豹変こそが彼らの商売だからである.
そんなことになったら,ただでさえ違法企業イメージのあるスシローはもう終わりである.外食産業界から退場せざるを得ない.
従って,スシロー側の弁護士は,会社存続に係るリスクを回避するため,損害賠償請求ではなく,加害者側が支払える額の慰謝料を要求して和解決着を求めるだろう.それが今回の事件の妥当な落としどころである.(ただし刑事事件としての罰金はまた別の話である)
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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