長野市の公園廃止事件の隠れた本質
いくつものメディアが現下の話題としている,例の長野市の青木島公園 (行政上は遊園地である) 廃止問題 (NHK首都圏ナビ《長野市の公園が閉鎖に 1軒の住民「子どもの声が騒がしい」と訴え》[掲載日 2022年12月9日]) について,とうとう関東ローカルの扱いを変更し全国放送の《おはよう日本》で取り上げるまでになった.
この《おはよう日本》の論調は「公園ができる前の段階から現在の廃止決定に至るまで,ずっと長野市が住民との意思疎通を怠ってきたことが問題の根底にある」というもので,いわば長野市当局が招いた事態だとかなりはっきりとNHKの見解を述べた.
この問題について長野市公園緑地課の平澤智課長は《児童向けの施設が複数隣接し、比較的規模も大きいため、騒音が出やすい特殊な公園だ。よりよい方策について話し合いを続けたが、解決策を見いだせなかった。残念だが、苦しい判断で閉鎖を決断した》とNHKの取材に答えたが,NHKの調べでは,廃止の方向が出てからわずか数回の「話し合い」が持たれただけであるという.それでいいのか,というのがNHKの見解だ.私も同感である.
しかも長野市長は,遊園地廃止決定を変えることはないと断言している.この硬直的な行政の姿勢には私たち他県人でも少々首を傾げざるを得ない.長野市にクレームをつけ続けた当の高齢者住民自身が「公園の廃止を望むと言っているわけではない」とメディアの取材に答えているのである.(これについては後述する) ならば,別のよりよい解決法が出てくるまで努力すべきであった.
この事態に,長野市議会では「廃止ありき,だったのではないか」として公園の存続を求める質問が出たが,おそらくそうなのであろう.こんな十八年ももめる公園はメンドクサイから廃止しよう,が市長の意志だったと思われる.
で,それはそれとして,長野市長って昨年11月に,スキーの荻原健司氏になっていたのだね.知らなかった.
荻原市長は,議会では《子育て支援に力を入れる一方住民の声に耳を傾けるのが行政の役割だ》と述べて,一人の高齢者住民の《声に耳を傾けるのが行政の役割だ》と断言した.そんなことで次期市長選は大丈夫かと心配になる.知らんけど.
話は横に逸れるが,長野市は昔から Suica など交通系ICカードが使えないことを諸兄は御存知か.
市とバス会社は,市民と観光客の不便なんぞどこ吹く風といわんばかりに,全国で使える交通系ICカードを長野市域の公共交通から排除し,汎用性がない上に長野市域限定のバスカードでしかない KURURU を運営してきた.
JR長野駅前のバスセンターには「交通系ICカードは使えません」とデカデカと書かれている看板が立っている.普通の公共交通機関の経営感覚ではない.交通系ICカードだけ持って長野市にやってきた観光客はどうすりゃいいんだ.
しかし遂に KURURU は命運尽きて三年後に廃止され,ようやく交通系ICカードが導入されることになった.こういう長野市という土地の保守性と今般の遊園地廃止問題は通底しているかも知れない.強引な想像かな.知らんけど.ヾ(--;)
話を元に戻す.
噺家の桂春蝶が,zakzak《「子供の遊ぶ声がうるさい」大学教授の苦情で公園が閉鎖…怒りを超えて「世も末」 「この国の宝」に寛容になれない神経がわからない》[掲載日 2022年12月13日 06:30] を書いている.
長野市の青木島公園廃止に関して何人ものネット上の有名人たちが所感を述べているが,上に紹介した桂春蝶の連載コラムはその一つで,この問題をよくまとめている.以下に引用する.
《コロナ禍では「外出を控えてます」と言っていた高齢者の方々がいま、全国旅行支援(全国旅行割)でいろいろ動き回っていますね。新幹線の駅周辺でも、旗を持ったツアコンの人に付いてく、おじいちゃん、おばあちゃんをよく見ます。
「いのち、いのち…」と言っていたけど、コロナが収まって、旅行が安くなれば、ここまで活動的になることに、「ふ~ん、そうなんだ…」くらいの気持ちを私が持ったのは事実です。
それから、コロナワクチンについて、国の全額負担が見直されるというニュースがあり、ある番組が街角インタビューをしていました。
あるおじいさんは「(自己負担が)2000円以上なら高いから打たない」と言ってました。私は内心、「あなたの命は2000円なんですか…」とも思いましたが、失礼になるのでこれまで黙っていました。
しかし、今回の公園閉鎖報道で、私の感情は噴火しました。
子供って「日本の未来」「この国の宝」じゃないですか。大学教授さんも、子供の遊ぶ声くらいは我慢したらどうなんですか。自分も子供の頃があったでしょう。コロナ禍では、多くの国民が「高齢者の命」を思って我慢してきたんですよ。「子供が公園で遊ぶくらいいいでしょ」って思う、私の感情は間違っていますかね?》
《私の感情は間違っていますかね?》と問われれば,間違っていると答えざるを得ない.
三代目桂春蝶は1975年生まれの四十七歳.政治的な発言が多く,立場は右派的である.
それはいいとして,zakzakに掲載された春蝶の連載記事を一読すると,私よりも若い人たちの感情としては正論のようではある.
しかし青木島公園廃止問題を世代間の軋轢として捉え,高齢者を批判することに堕しているところが,春蝶の無知を示している.
春蝶は多忙でテレビ報道をちゃんと観ていないかも知れないが,青木島公園で子供が遊ぶことを長野市が禁止し,公園に子供の声が絶えたあとも,件の老人はクレームを付け続けていたのである.これが問題を理解するキーだ.
テレビ報道によれば,これまで件の老人が苦情を申し立ててきた対象は青木島公園だけではないのであった.
青木島公園には,隣接して「長野市放課後子どもプラン施設児童センター」と長野市立青木島保育園および長野市立青木島小学校がある.
「放課後子ども総合プラン」については同事業の公式サイトに《子どもたちの安全で安心な居場所を確保し、遊びや交流、体験活動を通して、子どもたちの健やかな育ちと保護者の仕事・子育ての両立を支援する事業です》とある.
子育て支援の児童施設と聞けば,私たちの記憶に新しいのは東京都にもあった類似事例である.
東京都港区南青山に2017年,児童相談所などの複合施設「港区子ども家庭総合支援センター」が建設されようとした時,住民の反対運動が起きた.反対理由は「地価が下がるから」であった.
然り.子育て支援施設はいわゆる「迷惑施設」であり,住環境を悪化させるとして地価低下の要因なのだ.
件の老人は,児童センターに児童を送迎する親の乗用車の排気音を問題にしていたという.しかし子供の声や車の排気音は我慢できても,地価の低落は我慢するしないの問題ではない.おカネの問題なのである.
「迷惑施設」すなわち今回の長野市の事例と同じ保育園および子育て支援施設,それから障碍者施設,特別養護老人ホーム,葬儀場,ごみ処理関係施設などの建設には,住民の反対が付いて回る.保育園と近隣住民とのトラブルはよくある話だ.
つまり長野市の青木島公園廃止問題は,全国で起きている「迷惑施設」反対トラブルの一つなのである.
それ故,春蝶の「子どもはこの国の宝だから,子どもたちが公園で遊ぶ騒音を高齢者は我慢してくれ」という意見は,頓珍漢な勘違いなのである.
件の老人が困っていたのは騒音問題ではなく,実は保育園と児童センターの存在によって自宅の資産価値が低下したことだったのである.
要は,児童センターと保育園によって自宅の資産価値を失った老人に,どのようにして補償をするかということだ.
今回の長野市の件は児童センターと保育園が件の老人の苦情対象になったが,彼は,自宅に隣接するのが特養でも葬儀場でも苦情を申し立てたに違いない.やがて自分がお世話になるかも知れない特養や葬儀場でも「隣にあると便利」というわけにはいかない.
老人は「迷惑施設」による自宅資産価値の低下を我慢できない.老人にとって保有不動産の価値は老後を生きて行く支えだからである.
こう考えてくれば,青木島公園廃止問題がこじれる前に行政がすべきだったことは,件の老人の自宅の資産価値を補償することだったことがわかる.
保育園も子育て支援施設も「迷惑施設」に分類される公共施設である.従って長野市は,保育園などから離れた地区に代替地と住宅資金を用意して,件の老人の土地との等価交換を提案すればよかったのだ.空いた老人の土地には「迷惑施設」ではない行政施設を作ればよい.
だとすれば,今からでも公園廃止という事態の打開は可能だ.高齢者の心理をわかろうとしない荻原市長が,強硬に「公園廃止決定は変更しない」と頑張るのは如何なものかと思うのである.繰り返すが,当の老人が「公園の廃止を望むと言っているわけではない」と言っている.その気持ちを汲み取るべきである.
ちなみに,保育園や子育て支援施設に関する住民トラブルは,苦情を申し立てる側の住民は高齢者に限らない.
トラブルの原因は地価の低落だから,近隣住民の年齢に無関係なのは当然である.
これについて参考になる資料を紹介しておく.→ 東洋経済ONLINE《「公園閉鎖問題」苦情住民だけが悪いと言えない訳 「騒音トラブル」に潜むいくつもの重要な問題点》[掲載日 2022年12月12日 13:30;著者は八戸工業大学名誉教授橋本典久氏]
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ウクライナに自由と光あれ
(国旗画像は著作権者来夢来人さんの御好意により
ウクライナ国旗のフリー素材から拝借した)
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