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2022年12月 4日 (日)

泡沫ベーカリー /工事中

 よく言われることだが,私たちの味覚は保守的だ.幼少時に「おいしい!」と思った食べ物はずっと忘れない.
 テレビ番組で酷評されたロイヤルホストのホットケーキが最近のいい例だ.これを他店の料理人が貶したことに対して視聴者からの強い反発が起きて,遂にはその料理人の一人が謝罪する破目になった.(東洋経済ONLINE《ロイホのパンケーキ酷評演出は何がマズかったか TBS「ジョブチューン」巡る炎上騒動を生んだ図式》[掲載日 2022年12月1日 17:18])
 だから,奇をてらった「だけ」の食べ物は,一時は店の前に客が列を為しても,すぐに客離れが起きる.甚だしいのは,映像をネットに投稿するだけが目的で店に行き,人気の「映える」食べ物の写真を撮ったらそれで終わりという風潮だ.
 食パンは「映える」食べ物ではないが,数年前に流行った「高級食パン」「生食パン」のブームは,明らかに無理やり感が満載だった.
 元々はホテルマンでパンの作り方は知らないという男が「プロデューサー」となって,全国あちこちに,珍妙な店名のパン屋が開店した (東洋経済ONLINE《300万円でパン屋をプロデュースする男の正体 変わったネーミング、店舗ごとに変えるレシピ》[掲載日 2021年9月24日 10:00]) が,ただ単に価格が高いだけの羊頭狗肉パンだったので,たちまち消費者に忘れ去られた.
 私の行動範囲のJR藤沢駅の北側にもそのテの店ができたが,人気が出ることなく,そのうちにつぶれて姿を消した.パンの作り方も知らぬ者が「プロデュース」したパン屋を消費者が受け入れるはずもなかったのである.
 どうでもいいことかも知らないが,一店舗あたり三百万円の「プロデュース」料 × 数百店舗という巨額の手にした男は,いまどういう気分なんだろう.してやったりワハハ世の中ちょろいぜ,というところか.
 
 パン職人ではない者が「パンではなくパン屋を“プロデュース」するという発想は,上記の珍店名のパン屋だけのものではない.テレビで芸能人あたりがもてはやした「乃が美」も,同じであった.
 パン職人を目指す若い人は多いだろう.ずっと前のことだが,私の家の近くにやってくる移動販売のパン屋がいた.自分の店の開業資金を貯めるために移動販売で頑張っているのだという.
 私はパンが好きなので,彼のクルマがやってくると必ず買っていた.何年か経ったら来なくなったのできっと開業できたのだろうと,少し嬉しく思った.
 そのパン屋のようにパンを作りたい人が志すパン屋の対極にあるのが「乃が美」であった.
 ここで「あった」というのは,事業が傾きつつあるからだ.

 文春オンライン《「このままでは自己破産するしか…」高級食パン「乃が美」運営会社にフランチャイズ店オーナー有志が“要望書”を提出》[掲載日 2022年12月2日 11:10] から下に引用する.
 
『高級「生」食パン』と銘打った高級食パンの専門店を全国に展開する「乃が美」。経営難に陥った同社のフランチャイズチェーン(FC)店舗の複数のオーナーが有志の会を結成し、本社にロイヤリティ引き下げを申し入れるなど声をあげていることが「 週刊文春 」の取材でわかった。
FCオーナー「このままでは自己破産するしかない」
 乃が美といえば、有名人御用達の高級食パンで知られる。
「元雨上がり決死隊の宮迫博之や俳優の哀川翔、お笑いコンビ・かまいたちの山内健司、SPEEDの上原多香子らが乃が美のパンがお気に入りだと公言しています」(フードライター)
 
2013年に前社長の阪上雄司氏、現社長の森野博之氏らによって創業した乃が美。「トーストしなくても耳まで口溶けが良い」という食感が人気を集め、大ヒット。2018年には全国100店舗を突破し、売上は100億円を超えた。
 
その後、社長を務めていた阪上氏が3月31日付で退任。食パンの開発者ら創業メンバーも次々と退社。“乃が美の創業の味”を知るメンバーは去り、会社には現社長の森野氏とファンド出身者らが残る形となった。
 
 文春記事の冒頭に掲載されている「乃が美」の食パンの画像が酷い.「乃が美」の公式サイトに載っている画像を転載したものである.よくこんな商品写真を恥ずかしげもなく載せるものだ.
 何が酷いか.この食パンの上面が,普通の食パンと比較すると,ペッコリと大きくへこんでいることだ.
 町の小さなパン屋の職人,店舗を幾つも構えている人気の中堅ベーカリーの職人,大手の製パン会社の技術者らが目指している「おいしい「食パン」の正反対の焼き上がりである.
 普通の製法の食パンと「乃が美」の「生」食パンの違いは,まず第一に密度が異なること.「乃が美」の食パンは,手で持っただけで明らかにわかるくらい,ずっしりと重い.
 

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